ミニレビュー

HDMI ARCをガチで高音質化、Technicsネットワークアンプ「SU-GX70」を体験

「SU-GX70」

パナソニックは21日、6月下旬に発売するTechnicsブランドのHDMI ARC対応ネットワークオーディオアンプ「SU-GX70」(220,000円)のマスコミ向け説明・試聴会を開催した。なお、一般向けには6月24日、25日に東京国際フォーラムで開催するOTOTEN 2023のTechnicsブースにも出展する。

カラーはシルバーとブラック

詳細は既報の通りだが、SU-GX70最大の特徴は、Technicsとして初めてHDMI ARC機能を搭載。音楽ソースだけでなく、テレビと接続して映像ソースの音声も高音質で楽しめる事。AVアンプとは異なり、2chアンプだが、ピュアオーディオグレードのサウンドでテレビ内蔵スピーカーからのステップアップができる。

さらに、ネットワークプレーヤーとして、Amazon Music、Spotify Connect、Deezerなどのストリーミングサービスに対応。Wi-Fiも内蔵し、Bluetooth/AirPlay 2もサポート。PCと接続してUSB DACとしても使えるほか、Phono(MM)入力も備え、レコードプレーヤーとも接続できる。

2chアンプだが、HDMI端子を備えている

HDMI ARCを高音質化

最大の特徴であるHDMI ARC対応だが、HDMI自体は映像と音声を両方伝送するための規格であり、ピュアオーディオとして音声信号のみを高音質に伝送しようとした場合には難点も多い。

一方で、パナソニックはHDMI用のLSIを手掛けていたり、HDMI規格を知り尽くしたライセンサーでもあり、さらにパナソニックのBDレコーダー/プレーヤー開発で培った独自の高音質技術も持っている。そうした強みが、SU-GX70に活かされている。

具体的には、SU-GX70がARC音声信号をテレビから受け取る際に、HDMIの規格上、SU-GX70からテレビへと映像信号を伝送する必要がある。その際に、映像信号のデータ転送レートをなるべく下げるため、映像の解像度を低く、真っ暗な画面を伝送する事で、ノイズを抑え、音への影響を低減するというテクニックがある。

しかし、真っ黒の映像はデータ的に「0と1の値が、時間的にパタパタと変化していて、これがノイズになる。そこで、信号がオール0になる映像を、480p YCbCrで伝送している」(テクニクスブランド事業推進室 商品開発部の奥田忠義CTO)とのこと。

また、通常の機器ではARC音声信号をHDMI LSIに入力するが、SU-GX70はそれをバイパスし、DIR(デジタルオーディオインターフェースレシーバー)に直接入力する事で、ジッターを低減している。

テクニクスブランド事業推進室 商品開発部の奥田忠義CTO

ノイズ対策はこれだけではない。前述の通り、SU-GX70は様々な入力ソースをサポートしているが、それらを使わない時もある。そこで、選択されたソース以外の入力や信号処理回路の動作を自動的にOFFにする「Optimally Activated Circuit System」を採用。

さらに、ネットワーク再生回路、HDMI回路の電源を個別にシャットオフし、デバイス・アンテナからのノイズも排除し、各回路の電源余裕度を向上させる「Pure Amplification Mode」も搭載。使い方に合わせて設定メニューから電源をOFFにしたい回路を個別に選択できる。

ネットワーク再生回路、HDMI回路の電源を個別にシャットオフし、デバイス・アンテナからのノイズも排除

上位モデルで培った独自技術を大量投入

アンプ部には、Technicsのフルデジタルアンプ「JENO Engine」を採用。HDMI ARCで伝送したテレビの音も、より豊かな音質で再現できるという。アンプ部の定格出力は40W+40W(8Ω)、80W+80W(4Ω)。推奨負荷インピーダンスは4Ω~16Ω。

フルデジタルアンプ「JENO Engine」

また、組み合わせるスピーカーに合わせて、最適なアンプ駆動を実現する「LAPC」(Load Adaptive Phase Calibration)も搭載。スピーカーのインピーダンスは⼀定ではなく周波数ごとに変化するため、スピーカーを接続した状態でアンプ出力の周波数振幅位相を測定する事で、デジタル信号処理により理想的なインパルス応答に補正する“スピーカー負荷適応アルゴリズム”となっている。

設置場所や室内の音響特性に合わせ、最適な音質に調整する「Space Tune」も搭載。プリセットから選択するだけでなく、スマートフォン/タブレット専用アプリ「Technics Audio Center」(無料)を使用し、より精密な周波数特性の測定・補正をする「Measured」も用意。iOS機器で利用できる。

外形寸法は430×368×98mm(幅×奥行き×高さ)と薄型だが、プリアンプ用電源とパワーアンプ専用電源で構成した「Twin Power Supply Circuit System」を採用。リファレンスクラスの「SU-R1000」などに採用している電解コンデンサーをパワーアンプ専用電源、およびパワーアンプ部に搭載。パワーアンプ部の出力とスピーカー端子の接続では、極太の14番線を使用し非磁性体の真鍮ビスで締結を行なうなど、上位モデルのノウハウも使われている。

デジタル入力だけでなく、アナログ入力の音質にもこだわっており、SU-R1000をベースとして再設計した左右対称レイアウトのディスクリート構成を採用。部品も同品質のものを採用してチューニングされている。

リモコンも付属する
スピーカーターミナル部分

音を聴いてみる

SU-GX70とスピーカーの「SB-G90M2」を接続。ディスクプレーヤーとしてSL-G700M2も使い、短時間だが試聴した。楽曲は、DSDでニュー・フィルハーモニア管弦楽団の「Albeniz Suite Espanola No. 1, Op. 47/アストゥリアス」、CDで「哀愁のヨーロッパ/渡辺香津美」、アナログレコードで「If You Love Me/Melody Gardot」。

いずれの入力でも、JENO EngineやLAPCといった独自技術を活かした、非常にクリアかつ精緻で、情報量の多いサウンドだ。それでいて、しっかりとした駆動力も備えており、薄型筐体かつ20万円台とは思えないドッシリとした安定感を備えている。

また、昨年発売されたプレヤーのSL-G700M2でも感じた事だが、中低域の肉厚さなど、胸にグッと迫るエモーショナルな描写力をSU-GX70も備えており、精緻なだけでなく「美味しい」サウンドにもなっている。映画やゲームなどを楽しむ際も、満足感の高いサウンドが味わえるだろう。

HDMI ARCの音質チェックとして、エリック・クラプトンの映像作品「The Lady In The Balcony: Lockdown Sessions」から「Layla」を再生したが、こちらも圧巻。HDMI ARCと思えないほどクリアで、アコースティックギターの弦が細かく震える様子や、息づかいなど、微細な音まで聴き取れる。AVピュアオーディオのサウンドクオリティで映像を楽しむ、AVアンプとはまた違った魅力が感じられた。

Technicsが目指す“リビングオーディオの新たな世界”

テクニクスブランド事業推進室 国内営業課の上松泰直氏は、日本国内で、アナログレコードの生産額が33年ぶりに40億円を超えたほか、音楽ストリーミングサービスの登録者数がグローバルで4億人を突破するなど成長を続けている事、さらにAmazon Prime VideoやYouTube Premiumなど、音楽・映像の両方に対応するストリーミングサービスが増加している事を紹介。

その上で上松氏は、「音楽だけでなく、映像コンテンツも高音質で楽しみたい、そしてテレビと組み合わせて1台で楽しみたいという人も増えるだろう。そうしたニーズに応え、音楽ストリーミング・アナログレコードからテレビサウンドまで、あらゆるソースを高音質でシームレスに楽しめる製品、Technicsが目指す“リビングオーディオの新たな世界”を提案するモデル」として、SU-GX70を紹介した。

テクニクスブランド事業推進室 国内営業課の上松泰直氏
山崎健太郎