ミニレビュー

ウォークマンとハイレゾ出力ドックで、シンプルなPCレスオーディオ環境を作る

 1月に、ハイレゾ対応ウォークマンの新しい最上位モデル「NW-ZX2」が発表され、ついに2月14日より発売となる。そして同日に発売されるのが、ウォークマン用のハイレゾ出力対応クレードル「BCR-NWH10」だ。USB DACなどへ、ウォークマンの音声をデジタル出力しながら充電も行なえ、ウォークマンを家でも使いたいユーザーには待望の製品と言える。これを手持ちのDACと組み合わせて使えるかが以前から気になっていたので、早速試してみた。

ハイレゾウォークマンをフルに活かせるドックがついに

 最初に説明したように、BCR-NWH10はハイレゾ対応ウォークマンから、音声をUSB DACなどの機器にハイレゾのまま出力(デジタル出力)できるのが特徴。アクセサリなので、単体ではなくウォークマンと合わせての発表だったが、ウォークマンのユーザーとしてBCR-NWH10が発表された時は「やっと登場した!」という気持ちだった。筆者はAシリーズの「NW-A16」と、'13年モデル「NW-F887」を所有しているが、他にも待ち望んでいた人は少なくなかったと思う。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は15,000円前後。

 できることはいたってシンプルで、USB DACなどオーディオ機器との接続によるデジタル出力とウォークマンへ給電、そしてパソコンからウォークマンへの楽曲転送などUSBマスストレージ接続。USB端子はオーディオ用(USB-A)とPC用(マイクロUSB)の2つがあり、背面のスイッチで切り替えて使用する。

BCR-NWH10
ウォークマン「NW-ZX2」、USB DAC/アンプの「UDA-1」との組み合わせ
背面

 NWH10という型番は、ソニーのUSB DAC/アンプ「UDA-1」に合わせて'13年に発売されたケーブル「WMC-NWH10」と共通している。このケーブルもハイレゾウォークマンからデジタル出力できる製品として発売された。筆者はこれが登場した時も、「やっと待っていたものが出た」と思った。というのも、iPhone/iPodでは早くからスピーカーなどの周辺機器がデジタル接続に対応していたのに、ウォークマンではできず、ソニーに対応を望んでいたからだ。コンポなどとアナログ接続できるドックや、ドック搭載スピーカーは前からあったが、せっかくなら家のオーディオ機器が持つDAC/アンプを活かして聴くために、デジタル接続で楽しみたいと思っていた。

 ハイレゾ出力ケーブルであるWMC-NWH10の登場でウォークマンからのデジタル出力が可能になり、これでUSB DACと連携して、外でも家でもウォークマンをフル活用できるようになった。ただ、それでも筆者の環境では2つの気になる点があった。

 1つ目は、ソニー以外の製品と接続して使おうとしたのが原因。筆者が使ったのはティアックのUSB DAC/アンプ「UD-301」だが、単にWMC-NWH10を介してUSB接続してもウォークマンを認識しなかった。それも当然で、ソニーがデジタル接続を公式にサポートしていたのは「UDA-1」などソニー製品のみ。これについては、強引ではあるがウォークマンとUD-301の間に給電対応のUSBハブを介することで認識され、デジタル出力は可能になった。

UDA-1と、既発売のハイレゾ出力対応ケーブルWMC-NWH10で接続した例
UD-301接続時は、間に給電対応USBハブを介する必要があった。ケーブルの多さはちょっと煩わしい

 もう1つの問題は、デジタル接続時のウォークマンのバッテリの減るスピードが尋常ではないこと。ウォークマンNW-A16/17のヘルプガイドを見ると、WMC-NWH10を使って他のオーディオ機器と接続した場合は「約60~80%電池持続時間が短くなる」と記載されている。筆者の環境では、持続時間の半分ほどで充電が切れてしまったため、使いづらさを感じていた。

 デジタル接続できるようになったことはうれしいので、今度はウォークマンへの給電も同時にできれば……と思っていたところ、予想より早くクレードルの「BCR-NWH10」が登場。待ち望まれていたことはソニーも認識していたのだろう。ただ、公式サポートしているのは、やはりソニー製品のUDA-1、SRS-X9、MAP-S1(2015年1月15日時点)なので、実際に手持ちのUD-301で使えるかは、接続してみないと分からない。

手に持ったところ

 BCR-NWH10を手にしてみると、クレードルにしてはずっしりとした重量。電源部にはオーディオ機器に適したコンデンサーとして知られるOS-CONを搭載している。サイズを測ると約8.3×8.3×7.9cm(幅×奥行き×高さ)という立方体に近い形状。ウォークマン用クレードルとしてはけっこう背が高いが、重量のためか安定感があり、シンプルなデザインながら、金属を使った外装により、決して安っぽくはない印象だ。

 天面ドック部のスペースは前後の幅に余裕があり、接続するウォークマンに合わせて付属のスペーサーを付けることで調整する。ウォークマンAなどスリムなモデルを装着すると、周りのスペースが広くて少し不安もあったが、接続するWM-PORT部はよく見ると完全な固定ではなく少し可動するようになっているようで、着脱時に多少前後に動かす程度ならあまり気にしなくてよさそうだ。

3サイズのスペーサーが付属
WM-PORTの後ろにスペーサーを装着
NW-A16接続時
少し前方に倒しても、コネクタ部が動くので問題はなさそうだ

 側面を見ると、正面向かって左側だけにスリットがある。これはウォークマンのヘッドフォン端子も使えるようにするために設けられたもので、クレードルに装着したまま、直接ウォークマンにヘッドフォン/イヤフォンをつないで聴くこともできる。なお、クレードル自体にアナログ音声出力端子は備えていないので、コンポなどとアナログ接続したい場合は、ウォークマンのヘッドフォン出力端子を使えばよさそうだ。なお、ウォークマンのヘッドフォン端子から音を出す場合は、背面の切り替えスイッチを「PC」側にする必要がある。

側面
上から見たところ
ウォークマンのヘッドフォン端子も使える
パソコンとUSB接続して、楽曲転送にも利用可能
付属品など

家のUSB DACを使ってウォークマンを外でも中でも高音質に

 まずは、公式に対応しているソニー製USB DAC/アンプの「UDA-1」とUSB接続して、ウォークマンの「NW-ZX2」や「NW-A16」、「NW-F887」と組み合わせてみた。当然ながら、問題なくデジタル出力でき、UDA-1を見ると、ファイルがハイレゾだと、「176.4/192kHz」などファイル仕様と同じインジケータが点灯する。

ウォークマンで再生したファイルがハイレゾのままで出力できていることが、UDA-1のインジケータで分かる
DSDは、やはりウォークマンでPCM変換後に出力しているようだ

 ウォークマンのNW-ZX2やF887などは本体でDSDファイルを再生する場合、PCM 176.4kHzへ変換するが、もしクレードル経由だとDSDのまま出力できたら……などと少し期待してみたが、やはりPCM変換後に出力しているようだ。このあたりは、ケーブルのWMC-NWH10を使ったときと同じ動作。

 特徴であるウォークマンへの給電も、デジタル出力しながらちゃんとできている。クレードルなので当たり前ではあるが、ケーブルで直接つなぐのと違って、帰宅時に毎日置くウォークマンの“定位置”として使えるのはうれしい。家でウォークマンをいつも置く場所としておけば、長距離移動など、いざというときに充電し忘れていた、なんていうことは防げそうだ。

 次は、いよいよ手持ちのUD-301につないでみた。大丈夫だろうとは思っていたが、問題なくハイレゾを含め再生が行なえ、充電もできた。これで、現在愛用しているUD-301に接続したAKGのヘッドフォン「K812」や、GENELECのアクティブモニタースピーカー「8010A」を使い、PCレスのコンパクトなハイレゾオーディオ環境ができた。

コンパクトなPCレスのデスクトップオーディオに

 ウォークマンはNW-A16やZX2でmicroSDカードに対応したこともあり、F887やZX1などに比べて多くの楽曲を持ち歩けるようになり、小さな楽曲サーバーとしても、ある程度使えるようになってきた。あるいは、ウォークマンの買い替えで使わなくなった従来機種を家用として使うことなどもできそうだ。なお、ZX1やF880シリーズをこのクレードルと接続するためには、2月5日に提供開始された対応ファームウェアへアップデートするよう案内されている。試しにF887をバージョンアップ前(Ver.1.23)に接続してみたところ問題なく使えたが、せっかく対応ファームウェアとして提供されているので、アップデートしておいたほうがいいだろう。

NW-F887とUDA-1の組み合わせ
NW-A16とUD-301の組み合わせ

 デジタル接続の音質についても確認してみると、やはりウォークマン単体のヘッドフォン出力とは違う。山中千尋「Somethin' Blue」(96kHz/24bit)をウォークマンのNW-A16からデジタル接続で聴くと、ピアノ、管楽器、弦楽器の6人構成(セクステット)それぞれのパートが畳みかけてくる勢いがすごい。歌うように軽快ながら、ソロパートでしっとり聴かせるトランペットとサックス、それらを下支えするベースの重厚さが存分に味わえる。

 ハイレゾではなくCD音源に変えてみても、FAKiEによるカバー曲「The Stranger」や「(They Long To Be)Close To You」は、ギターとボーカルのシンプルなアコースティック構成ながら、2人の音が勢いをもって押し寄せ絡み合い生まれる調和と、K812の音場表現力が相まって、広い空間の中でもぼやけることなく緻密に音が描かれ、その中に浸ることができた。

 直後にウォークマンA16のヘッドフォン端子へつなぎ変えてみると、まず感じるのはエネルギーが落ちてしまうこと。ボリュームが足りないだけでなく、デジタル接続時は感じていた音の厚み、特に低域がやや平坦になり、小さな部屋に移動したようなこじんまりしたサウンドに収まってしまった。とはいえ、据え置きとポータブルのDACやアンプ性能を単純に比較すると、こうした違いは仕方ないし、外で聴くにはA16のコンパクトさが気に入っている。このドックにより、外では気軽に、家ではよりリッチな環境でハイレゾを楽しめるという使い分けが簡単にできるようになったと思っている。

 プレーヤーをウォークマンNW-ZX2に変えてみると、ヘッドフォン出力はA16に比べ強力なため、デジタル/アナログ接続の違いは小さくなる。ただ、せっかく据え置きオーディオ機器を使える環境があるなら、それをデジタル接続でフルに活かすほうがいいだろう。特に、家ではウォークマンで直接ドライブするのは厳しいようなハイインピーダンスのヘッドフォンを使っていたり、スピーカーで聴きたいのであれば、据え置きオーディオ機器が持つDACの処理能力やアンプの駆動力などを活かせるので、恩恵は大きい。ハイエンドのヘッドフォンでなく、ソニーのMDR-1Rなどで聴き比べても、わずかな違いにはなるが、やはりBCR-NWH10を介したデジタル接続の方が高音質だと感じた。

 前述したように、BCR-NWH10の電源部にはオーディオ向けコンデンサーのOS-CONが使われている。ケーブルのWMC-NWH10で接続した時と比べて劇的に音が違うとまでは感じなかったが、BCR-NWH10の製品サイトに記載されている「高速デジタル信号を忠実に伝送する」という意味では安心できるし、電源を軽視しないのはオーディオ機器として見ても好感が持てる。

 BCR-NWH10は、全てのUSB DACとのデジタル接続をサポートしているわけでは無いが、筆者の環境ではソニー以外の製品でも使えた。実売15,000円前後という価格はクレードルとして安くはないものの、少なくともUDA-1などソニーのオーディオ機器とは連携できる拡張性を考えると、「とりあえずはハイレゾウォークマンの充電台として、後々は外部オーディオ機器との接続も」という考えで使い始めても良さそうだ。

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中林暁