レビュー

“アナログで山内サウンド”の衝撃。デノン復活のハイエンドターンテーブル「DP-3000NE」

DP-3000NE

一昔前は“ブーム”と呼ばれたアナログレコード。しかし、日本レコード協会の生産実績を見ると、2013年に26万枚から、10年後の2022年に213万枚と大幅に拡大。もはやブームを超え、音楽を楽しむ1つのスタイルとして定着した。気軽に楽しめる音楽配信が拡大する一方で、それとは違う魅力を求めている人も増えているのだろう。

読者の中にも「最近レコードプレーヤー買ったが面白くてハマってしまい、もっとステップアップしたい」とか「昔のプレーヤーを持っているが最新機種を試してみたい」という人も多いだろう。そこに、非常におもしろいアナログターンテーブルが登場した。デノンの「DP-3000NE」というモデルだ。

注目の理由は3つある。1つは「あのデノンから久しぶりに登場したハイエンドターンテーブル」、2つ目は「サウンドマネージャ・山内慎一氏が開発初期から携わった初の高級ターンテーブル」、最後の3つ目は「今までのアナログレコードのイメージを覆す音質」だ。

DP-3000NE

すべては業務用アナログプレーヤーから始まった

コンシューマー向けのオーディオでお馴染みのデノンだが、実はもともとガチの業務用オーディオ機器メーカーだ。創業は1910年(明治43年)と古く、日本蓄音器商会(日本コロムビアの前身)として発足。蓄音機やレコードを手掛け、1939年(昭和14年)に業務用オーディオ機器を製作する日本電気音響と合併。“デノン”ブランドとして国産初の円盤式録音再生機をNHKに納入している。

その後も放送用のディスク再生装置を手掛け、NHKを含めて全国放送局に99.9%以上の納入占拠率を誇るまでになる。放送局の場合、音楽が途中で止まってしまったら大問題。それゆえ、アナログプレーヤーに求められる最大のポイントは“信頼性”。そんな世界で“超定番プレーヤー”になるだけの技術を磨いたというわけだ。

そして1970年に、アナログカートリッジ「DL103」で民生市場に参入。矢継ぎ早に放送局のダイレクトドライブサーボターンテーブルを民生用にアレンジした「DP5000」というアナログプレーヤーも発売。そんな信頼性の高い製品は、コンシューマーでもあっという間に人気になる。

右下の写真がDP5000

ただ、高価な製品だったため、より多くの人に使ってもらうために、1973年、約40%のコストダウンを実現した「DP3700」というモデルを発売。これが爆発的ヒットとなり、50年後の現在まで続くデノンブランドのオーディオコンポの礎になったというわけだ。

そんなデノンが、久しぶりに投入する最上位のアナログターンテーブルが「DP-3000NE」(10月上旬発売/385,000円/カートリッジ別売)だ。

DP-3000NE

サウンドマネージャ・山内慎一氏が開発初期から携わる

DP-3000NEのハードウェア的な特徴は、伝統というか、お家芸とも言えるダイレクト・ドライブを採用している事。もともとデノンがダイレクト・ドライブ方式を採用したのは前述の通り、放送局からの厳しい要求に対応するためだ。

前述の通り“信頼性”が求められ、具体的には長時間安定動作すること、操作ミスをしても壊れないこと、製品間のバラツキが少ないこと、メンテナンスが容易なことなどが要望としてあり、ダイレクト・ドライブは、これらをクリアできる方式でもあった。

それだけでなく、「回転ムラなく正確に回転させる」、「振動が無い」、「クイックスタートできる」、「全回転数で負荷による速度変化がない」、「操作性の面で使いやすい」といった要望もあり、それらを実現する最適解としてダイレクト・ドライブが選ばれ、今回のDP-3000NEでも採用されているわけだ。

ただ、当然だがDP-3000NEでは、メカ的に最新のものに進化している。重要なモーターは、3相16極のDCブラシレスモーターを採用。33回転時、起動から1秒以内に既定の回転速度に達するという高性能なものだ。回転数は33 1/3、45、78回転に対応する。

特に進化しているのが回転制御技術技術で、空間ベクトル・パルス幅変調(SV-PWM)方式を採用。非接触の光学式センサーを使って、プラッターの回転速度を常時検出し、その値をマイコンにフィードバックして規定の速度から外れないように制御する。駆動回路が煩雑になったり、ソフトウェアの開発が必要という大変さはあるものの、低速で動作するモーターを高精度に制御するには適した技術だ。

回転するプラッターは直径305mm。素材はアルミダイキャストだが、面白いのは裏側。見ると、3mm厚のステンレス板を銅メッキねじで固定している。

これは、異なる金属を組み合わせて共振を抑える狙い。開発当初はゴムを組み合わせたそうだが、音が鈍くなるので変更。鉄や亜鉛、ステンレスが候補に絞られ、エンジニアは亜鉛を推奨したそうだが、サウンドマネージャの山内氏がステンレスに決定。ただし、決まってからも厚みやサイズ、固定方法を試行錯誤し、音を追求。山内氏が追求する「Vivid & Spaciousサウンド」を実現する上で、最も大きなファクターの1つになったという。この結果、重量はプラッターだけで約2.8kgもあるが、この重さも安定した回転に寄与している。

プラッターは直径305mm
裏面に、3mm厚のステンレス板を銅メッキねじで固定している

ターンテーブルの音質には、トーンアームも大きく関係してくるが、DP-3000NEではこれも新設計。ディーアンドエムホールディングスの白河工場にある過去の膨大な設計図を見直し、OB設計者にもアドバイスをもらいながら新たに設計したそうだ。

スタティックバランスS字型トーンアーム

スタティックバランスS字型トーンアームになっており、有効長、オーバーハング、オフセット角などの要素を煮詰め、物理的な正確性を徹底的に追求。「機械的精度の高さ」、「操作が容易な調整機構」だけでなく、「シンプルかつ美しい造形」にもこだわって開発したそうだ。

アームパイプはアルミニウム製。S字のカーブの形状も、トラッキングエラーを最小化するために追求した形状だという。また、パイプに触れるとわかるのだが、板バネを使った接手を使って、アームパイプがフローティングしている。周波数特性におけるピークとディップを解消するための工夫だ。

カウンターウェイトは16gまでのカートリッジに対応するが、付属のサブウェイトを追加すると、最大26gまでのカートリッジが使える。さらに便利なのは、新開発のアーム高さ調整機構。使用するカートリッジの高さやマットの厚みに合わせて、アームを最適な高さへと約8mm調整できる。実際に高さを変えてみたが、動きは重厚かつスムーズ、そして狙った高さでビシッと停止する精密さがあり、操作している高級なマニュアルフォーカスレンズを触っているような気分になる。

レコード面までの高さを32mmとした。これは、トーンアームリフターを使わないユーザーが、自分の指で操作した時に「心地良い」と感じる高さにこだわった末だという

なお、ヘッドシェルのコネクターはユニバーサルタイプなので、前述の名機「DL-103」も含め、様々なカートリッジを取り付けできる。付属のアルミ製オリジナルヘッドシェルは、デノンのMCカートリッジにマッチするのは当然だが、市販のMM、MCカートリッジにも使用可能だ。

個人的に「これはいいな」と感心したのは、インシュレーターだ。アルミニウム、樹脂、フェルトを組み合わせているほか、スプリングとラバークッションも備えているのだが、クルクルと回すことで4つのインシュレーターの高さを細かく調整できるのだ。これにより、設置した場所が水平でなかったとしても、水準器などと組み合わせて、水平に追い込む事ができる。もちろん、究極的にはラックなどを設置場所を完璧に水平にするのが理想だが、そこまで追求しない、ラフな設置でも良い音を追求できるようにしているのが、使いやすさにもこだわるデノンらしいと感じる。

Vivid & Spaciousなアナログサウンド

実際に音を聴いてみよう。

その前に、実機を前にするとデザインの特徴も伝わってくる。ターンテーブルはクラシカルなものや、モダンなものなど、様々なデザインがあるが、DP-3000NEはその“いいとこ取り”といった印象。

筐体は木目が印象的なダーク・エボニー(黒檀)仕上げの高密度MDFを使っており、この部分だけを見ると落ち着いた印象だが、プラッターやトーンアームのシルバーがモダンな雰囲気も漂わせており、年配の人も、若い人も、どちらも気に入りそうだ。高級オーディオ機器にありがちなマニアックな雰囲気が良い意味で無いため、リビングなどに設置しても、家族から受け入れられやすいとも感じる。

ではレコードを再生しよう。最初は英ノッティンガムで結成されたロンドン・グラマーのアルバム「Hey Now」から。組み合わせる機器はアンプがデノンの「PMA-A110」、スピーカーがB&W「801 D4」だ。

エレクトリック・ピアノの幻想的な響きが、スピーカーから一気に部屋全体に広がり、体を包み込む。そして空中にボーカルが定位し、伸びやかに歌い、その響きもまた部屋の中……どころか、まるで壁が消滅したかのように広大に広がっていく。目を閉じると宇宙空間に放り出されたような感覚は、山内氏が追求している「Vivid & Spaciousサウンド」そのものだ。

いきなりアナログとは思えないサウンドで驚いたのだが、2曲目の「スクリッティ・ポリッティ/The Word Girl」を聴きながら、落ち着いて、細部に注目すると、空間表現や力強く飛び出す音像以外の部分もわかってくる。

まず1つ1つの音が非常にクリアでコントラストが深い。アナログレコードは、イマイチな環境で再生するとノイズが多く、モコモコした音になりがちだが、そうした弱点がまったく感じられない。ズバッと切り込むような鋭さ、シャープさがあり、楽器とボーカル、音像と音像との分離も明瞭。古いアルバムが、最新技術でリマスターされたような、ハイレゾ音楽ファイルを聴いているかのような感覚すらある。

特に驚くのは低域の解像度だ。アナログレコードの中低域は、肉厚でエネルギーがあり、ボリュームを上げて聴くと得も言われぬ快感に包まれるものだが、逆に言うと、野太くて、細かな音がダンゴ状にくっついた低域になってしまう事も多い。

しかしDP-3000NEは、分解能の高さが低域までキッチリ貫かれており、ベースがどんな音で構成されているか、輪郭がどうなっているのかもシャープに見通せる。これは驚きだ。

そして特筆すべきは、“それでもアナログな良さ”を感じるところだ。

今まで書いてきた、広大な音場、一切の制約を離れて伸びやかに歌う音像、高域から低域に至るまでクリアでシャープな描写……といった特徴は、山内氏が手掛けた、デジタルのオーディオ機器でCDやハイレゾ音源を聴いた時にも感じる要素だ。

ただ、DP-3000NEのサウンドはそれらとまったく同じ音ではない。鋭く、鮮烈で、高解像度なのだが、高域の中にアナログらしい、しなやかさが確かに感じられ、低域にもアナログらしいガッツのある音圧、芯の太さが見える。これらはある意味で、音楽の最も美味しい部分と言ってもいいだろう。

「アース・ウィンド&ファイアー/ブギーワンダーランド」を聴いていると、メチャクチャ気持ちが良い。試聴を忘れて思わず体が動いてしまう。広大に広がる音場、そこにビシッと定位するコーラスといった基本的な再生能力の高さと、ビートの張り出す気持ちよさ、人の声のナチュラルさ、ホッとさせる質感といった要素が見事に同居している。まさに「Vivid & Spaciousなアナログサウンド」だ。

それにしても、DP-3000NEは山内氏が初めて手掛けたハイエンド・アナログターンテーブル。にも関わらず、今までのターンテーブルでは聴いたことがない、Vivid & Spaciousなサウンドをいきなり実現できているのは驚きだ。何か秘密があるのかと聞いてみると、「ここ1年ほど自宅でもアナログばかり聴いていましたが、家のターンテーブルも趣味で昔から色々と手を入れ続けていました。そこでの経験がDP-3000NEでも活きています。ずっとやりたいと思っていたんですよ、ターンテーブル」と笑う山内氏。

サウンドマスター・山内慎一氏

そのこだわりは、細かなパーツやケーブルにまで及んでいる。例えば、モーターを駆動するための電力を供給する電源回路。オーディオでよく使われるリニア電源回路ではなく、スイッチモード電源(SMPS)を採用している。リニアトランスは振動するため、その振動が針先に伝わる可能性がある。そこで、そもそもリニアトランスを使わない電源にしているわけだ。

さらに、電源用モーターとモーター用デジタルライン、ゲートドライバーのコンデンサーも、山内氏が徹底した試聴を繰り返して選択した、オーディオ用の高音質コンデンサーを採用したとのこと。

こだわりは、内部配線のワイヤリングまで及んでおり、あえてフリーワイヤーで、しかもそれを“5回転ねじり”しているという。チャンネルごとに、スポンジで固定するか、フリーワイヤーにするか、など、様々なパターンを試した末に、“フリーワイヤーで5回転ねじり”にたどり着いたというから、こだわりがハンパない。そのこだわりは、付属するアースケーブルの線径にもおよんでいる。

こうした細かな工夫の積み重ねでVivid & Spaciousなサウンドに仕上げていく手法は、ターンテーブルであっても変わらないというのは、なんとも面白いものだ。

“懐かしさ”を超えた、レコードの新たな魅力

DP-3000NEの音を端的にまとめるなら「懐かしくも新しいサウンド」になるだろう。

アナログレコードの音に、“懐かしさ”や“ゆるさ”みたいなものを求めている人がDP-3000NEを聴くと、「レコードにはこんな音が入っていたのか」と、おそらく驚くはずだ。

逆に、そうした“懐かしさ”を超えたところにある、レコードの新たな魅力に気付かせてくれるようなプレーヤーだ。

385,000円という価格を聞くと、入門クラスのターンテーブルからステップアップしたい人や、これからレコード再生に挑戦してみようという人には、ちょっと高く感じるだろう。ただ、他社のハイエンドアナログターンテーブルはもっと高価なものが多く、ぶっちゃけトーンアームだけで20万円とか、30万円したりもする。

そうしたハイエンドなプレーヤーと肩を並べつつ、独自の魅力も備えて40万円を切っており、個人的には良い価格だと感じる。アナログレコードの可能性を感じたい人は、一度聴いてみて欲しい。

(協力:デノン)

山崎健太郎