レビュー

机を買ったので“ガチでデスクトップオーディオ”やってみた。JBLスピーカーで音楽もアニメも

筆者の新デスクトップオーディオ環境

アクシデントも、見方を変えればチャンスとして活かせることもある。筆者に訪れた“アクシデントからのチャンス”は、リビングの掃除中に起こった。PCやプリンターを設置していたパソコンデスクのキャスターが突然ポキッと根元から折れた。デスクが傾き、キーボードの入力をするだけで画面が揺れて仕事にならない。問い合わせても保守パーツや修理対応もなく、諦めて新しいデスクを買うことに。毎日の仕事に欠かせない、当たり前のようにそこにあったデスクの故障。真っ青になった。

壊れてしまった以前のデスク

しかし、冷静になって考えた。これまでのデスクの不満点を解消するチャンスではと。ネット通販で探しに探した結果、選んだのはODKのキーボードスライダー付きデスクだ。これまでよりも20cm幅が広い120cmの大型天板、モニターを置く台がメインの天板より高い位置にあって目線を合わせることができる立体構造となっている。

結論から先に言うと、ご覧のようなオーディオ環境が完成した。USB-DACにFiiO「K3ES」、アンプはフォステクス「AP20d」、スピーカーはJBL「Control 1 PRO」だ。

ラインアウトが可能な超小型USB-DACは、DSD 11.2MHz、PCM 384kHz/32bitまでの幅広いフォーマットに対応。ヘッドフォン出力のほか、3.5mmラインアウトを搭載しており、このサイズ感では珍しい仕様となっている。

USB-DACを接続するアンプには、小型パワーアンプでお馴染みフォステクスのクラスDアンプを。スピーカーにはJBLのControlシリーズより、モニター向けのパッシブスピーカーControl 1 PROをセレクトした。

デスクトップオーディオ環境がこのように落ち着くまでの経緯を振り返ってみたい。

まずは“机”と“ノートPC用アーム選び”から

これまではデスクの幅が狭く、置く場所が確保出来ないため、USB-DACとアクティブスピーカーが一体となったクリエイティブの「Pebble V3」を愛用していた。Pebble V3は、周波数バランスがよく解像度の高いスピーカーで、持ち運びも手軽。宅内外を問わず、愛用していた。

そもそも、作業しながらの“ながら聴き”ができないタイプの筆者にとって、デスクトップオーディオはそれほど使う機会が多くない。音響エンジニアとしてのモニター用途も防音スタジオで作業する関係で、リビングで使う機会は限られていた。たまに映像編集で使う程度だ。結局、デスクトップオーディオは本格的に構築するに至らなかった。

しかしながら、“オーディオマニアとしての性(サガ)”は別だ。正直、Pebble V3の出音に不満がないわけではない。サイズ面もあって、中低域の量感不足や、スケール感の狭さが気になるところだった。上に向かって仰角が付いているものの、映像コンテンツを見ているときは画面と音の不一致を感じていた。

そこにパソコンデスクの破損。デスクトップオーディオ本格構築のチャンスかも!とムクムク野望が湧き上がってきたのだ。

新しいデスクが届いて、さっそく組み立てた。ビンテージカラーの見栄えもいい感じ。

新しいデスクが届いた

組み立て式のデスクは、実際に組み立ててブツを乗せてみないと分からないことも多い。使っているディスプレイを、キーボードの真ん前に設置して、右隣に従来と同じくノートパソコンを置いてみたら、奥行きが足りなくて不安定になってしまった。

ノートPCを設置する奥行きが足りない

ノートパソコンには、SlackやDiscordを表示しているため、視線に合うように斜めに角度をつけている。これではスピーカーを置くなんて無理な話だ。となると、パソコンは“浮かせる”しかない。

パソコンアーム。モニターアームは割と一般的だが、ノートパソコンを設置できるアームは、ちゃんと調べたことがなかった。値段も数千円から3万円以上と幅広く、ディスプレイも設置できる2アーム構造など、様々な種類があった。強度や安定感、設置の安全性なども鑑みて、サンワサプライの「CR-LANPC2N」をセレクト。本機はホワイトだが、シルバーカラーは、色違いのモデルとしてサンワサプライの直販サイトで扱っているらしい。型名は「100-NPC004」だ。

CR-LANPC2Nは、可動部位も多く、適当な位置に浮かすことができそう。組み立てはサクッと完了。USB-Cケーブルをガイドに収納してスマートに見せることができた。

サンワサプライの「CR-LANPC2N」でノートPCを“浮かせた”

ちなみにパソコンは、7月に「G-Tune i5570SA1」から「DAIV Z6」に買い換えていた。ともにマウスコンピュータのBTOモデルだ。4年ぶりの買い換えということで、CPUはIntel Core i7の第8世代8750Hから第13世代13700Hに。GPUは、RTX2060からRTX4060に。メモリは、16GBから32GBへ。ストレージは、NVMe Gen4×4接続のM.2 SSDで、Gen3接続から飛躍的にリード/ライトパフォーマンスが向上した。

重量が約1.6kgと、これまで使っていたモデルから大幅に薄く軽くなって、放熱が心配だったが、今のところ処理能力が低下するなど問題は発生していない。お店の方には、同じCPU/GPUのG-Tuneが分厚く重いのは、連続して高負荷の処理をすることを前提とした放熱機構を搭載しているからだと教えてもらった。

パソコンをアームに設置して、DELLのメインモニターと繋いでみる。DELLのUSB-Cハブのポートは、USB-PDに対応していて90Wまで電力を供給できる。つくづく便利な時代になったものだが、10Gbpsの高速通信と、USBハブ機能と、DisplayPort 1.4による画面出力、さらにはPC側への電力供給まですべてケーブル一本で完結するのだ。おかげでときどき嗜む動画編集や、稀にプレイする3Dゲーム以外では、ACアダプター(180W MAX)を接続しなくても、充電残量が低下することはない。ACアダプターを接続することで、CPUやGPUは最大限の性能を発揮できるとみられる。

ビビっとキタ、デスクトップオーディオ機器はコレ!

デスクトップオーディオを構成する各機器をザックリ紹介していこう。

FiiOのK3ESは、USBバスパワーで動作する小型のUSB-DAC兼ヘッドフォンアンプだ。ESS社のモバイル用フラッグシップDACチップ「ES9038Q2M」を採用し、3.5mmステレオミニヘッドフォン端子とバランス駆動に対応した2.5mmヘッドフォン端子を搭載。USB Audio Class 1.0への切替えもできるため、PlayStation 5やNintendo Switchでも活用できそうだ。

FiiOのK3ES

筆者が導入を決めたのは、3.5mmステレオのラインアウトを搭載している点だった。もともとPebble V3へ3.5mmで直結できるDACを探していて、フォーマットの対応も384kHz/32bitにDSD256と幅広く、パソコンデスクが故障する直前に購入していた。

続いてスピーカーだ。

パソコンデスクを選ぶ際、予算や設置スペースの制約もあって、ディスプレイを置く台の奥行きまでは考慮する余裕がなかった。ディスプレイそのものは置けても、スピーカーの設置まで想定して検討していなかったのだ。

ディスプレイ台の寸法を測ってみると、奥行きは20cmしかない。リアバスレフポートが多い小型スピーカーにおいて、選択肢は限られてきた。2~3機種に候補を絞っていた時、ふと筆者がまだライターとして駆け出しの頃、JBLの「Control X」をレビューしたことを思い出した。価格を疑うほどのナチュラルで丁寧な音を鳴らしてくれたことを覚えている。そんなControlという設備音響シリーズで、新しく目にとまったのが「Control 1 PRO」だ。

JBL Control 1 PRO

シリーズを遡れば「Control 1(1986)」、「Control 1Xtreme(2002)」、「CONTROL ONE(2012)」と1986年から長きに渡って歴史を積み重ねてきた。途中ウーファーの口径が13cmから10cmになったり、スピーカーユニットの素材などに変更があったようだが、バスレフポートとツィーターとウーファーの特徴的な位置関係は初代から踏襲されている。防磁設計を採用したCONTROL ONEは終売になってしまったが、Control 1 PROは2007年の発売以降、未だに現役のロングセラーモデルだ。

プロの名を関するとおり、モニター用途をはじめ、店舗などの商業施設向けの製品となる。ドライバは、13.3cmのウーファーと19mmのツイーターの2ウェイ構成。世界中のスタジオで使用されているというControl 1の機構をもとに性能を向上。フラットな周波数特性と安定した出力を実現したという。バスレフポートはフロント側なので、壁に近づけての設置も自由自在だ。

ネットワーク回路の前段に配置したSonic Guard Overload Protectionという保護回路のおかげで、過負荷から高域と低域双方のドライバを保護している。誤操作などでアンプから大出力で爆音を鳴らしてしまう可能性のある設備音響の世界では、ありがたい機能と言えよう。

壁面取付用金具を標準で同梱し、購入後すぐに壁面マウントが可能な点も店舗ニーズには嬉しいオプションだ。モニター機とあって、縦置きも横置きも可能なデザインになっているが、縦置き時はグリルのロゴは回転できる。カラーはブラックとホワイトの2種類だ。

スピーカーを鳴らすアンプは、フォステクスのAP20dを活用した。

フォステクスのAP20d

最大出力20W+20Wのデジタルアンプを搭載し、LINE入力はRCAと3.5mmの2系統備える。スピーカーターミナルはプッシュ式だ。幅が108mmとCDジャケットより小さいのがポイント。デスクトップオーディオのレビューで使うかもしれないと以前購入したが、普段使いはせず眠っていたのだ。

超小型のプリメインアンプとしては、フォステクスとFX-AUDIO-の2社が筆者の中では有力候補で、フォステクスで言うと上位機種の「AP25」がAP20dを購入後まもなくリリースされたときは涙をのんだ。FX-AUDIO-なら、ボリューム機能を省いた純粋なパワーアンプである「FX-1001Jx2」が気になる。

というのも、K3ESの3.5mmラインアウトがボリューム固定ではなく可変出力のみであり、最大2V出力を確保するためにボリュームMAXまで上げて使っているからだ。DACとアンプ、2箇所にボリュームがあるのは音質的にあまり好ましくはない。K3ESは、ギャングエラーを排除した独自のA/D変換方式による音量制御により、ごく僅かな音量でも左右のバランスが崩れないことはラインアウトでも確認済みだ。

完成した新・俺のデスクトップオーディオ環境

さて、一連の機材を設置した様子を改めて写真でお見せしよう。

以前の環境からは比較にならないほどスタイリッシュで、デスクトップオーディオらしくなった。パソコンデスクとのマッチングもいい感じに思える。黒色のControl 1 PROがDELLのディスプレイと並べても不思議と違和感がない。

USB-DACとアンプの距離が離れているのは、LINEケーブルが単線銅体のため曲げにくく、このくらいの距離が必要だったため。アコースティックリバイブの「LINE-1.0R-TripleC-FM」をベースに、片側をRCA、もう片側は3.5mmプラグに変更した特注品を使った。外出先で手元のDAPからアンプに接続する際のリファレンスケーブルとしてずいぶん前に作ったものだが、ついに常用稼働となった。

USB-DACは、DELLのディスプレイのUSBハブを使っている。本来なら、オーディオデバイスはPC本体に直接接続したいところだが、この辺りはラフに使うデスクトップオーディオの妥協点としてあってもいいかなと考えた。実運用上、ハイレートのハイレゾ音源でも音飛びは無いし、デバイスの認識トラブルは起きていない。

スピーカーケーブルは、これまた小型スピーカーレビュー用に眠っていたアコースティックリバイブの「SPC-AV」を短く切って使用。単線銅体のため、曲げればそのまま空中浮遊する。スピーカーケーブルや電源ケーブル、ラインケーブルは、極力振動を伝えないために、床などの設置面から離すと良い。SPC-AVならケーブルインシュレーターを使わなくても、勝手に浮遊してくれるから助かっている。

振動対策とアンプの電源ノイズ対策もできるだけこだわりたい。まず、振動対策は、AETの「VFEシリーズ」を複数使用。USB-DACとアンプには、薄型の4005シリーズを、スピーカーには、厚みのある4005シリーズを使用した。アンプの電源ノイズ対策は、FX-AUDIO-のPetit SusieとPetit Tank LEを活用している。効果のほどは後述するが、もう必須といっていいほど圧倒的な音質改善が確認できた。本稿のレビューは、すべてアクセサリー類を使用した状態でチェックしている。

振動対策は、AETの「VFEシリーズ」を複数使用
FX-AUDIO-のPetit SusieとPetit Tank LE

FiiOのUSB-DACは、K3ESの他にQ3 MQAも所有している。iPadやiPhoneと接続して、BGMやSEのポン出し用途で使うために買ったものだ。高域の煌びやかさが特徴的な透明感のあるサウンドが個性の1つだと感じている。K3ESも基本は似ていて、ヘッドフォンのサウンド傾向に大きな違いはなかった。ラインアウトの音は、AP20dを通して聴いているからなのか、Control 1 PROがマイルドな音のスピーカーなのかは不明だが、フラットな周波数バランスで気になる帯域はほぼない。スピーカーとアンプの組み合わせとして、非常に筆者好みだ。

AP20dは、アンプの個性をなるべく廃して音源そのままの音を聴かせてくれる癖の少ないサウンドが魅力。以前、別のブックシェルフスピーカーを鳴らしたときも感じたが、今回もその記憶は裏付けられた。アンプのボリュームは、15畳程度のリビング、試聴距離65cm程度において、だいたい11時~12時くらいまで上げれば十分だ。

Control 1 PROは、13.3mmのウーファーユニットの割には、ローエンドは高め。-10dBの下限周波数が80Hzなので、厳しめの-3dBで測定すると、下限はさらに上の方にあると思われる。価格を考えればやむを得ないとはいえ、音がやや軽めなのは残念だった。ただ、無理に低音を鳴らしているような、いわゆる中低域モリモリなバランスになっていないのは好印象。振動対策を行なうとより分かりやすくなるが、低域の素直かつ上品なチューニングにより、中高域の解像感も保たれている。

新たなデスクトップオーディオで様々なコンテンツを楽しんでみる

まずはネット番組から視聴してみた。「無職転生II」のABEMAで放送されたキャスト出演による特番「ラノア魔法大学キャンパスライフ中間報告」。

ディスプレイのサイドに置いているスピーカーから聞こえてくるトーク音声は、斜め下からだったこれまでと比べて、圧倒的に自然だ。画面とのシンクロ度合いが段違いである。

声のディテールは彫り深く、クッキリと浮かび上がる。アニメ本編で使われるアフレコ用マイクの音声と、番組内で使われているワイヤレスのリベリアマイクの音の違いがしっかり分かるのはモニタースピーカーらしい。リベリアマイク、いわゆるピンマイクは、収音するダイヤフラムに対して直角の位置に口元があるので、部屋の響きが一緒に入ったり、少し籠もったような音にもなる。アニメ本編との音の違いに気付けるのも、良質なスピーカーで楽しめている証だと思った。

ミュージックビデオもチェック。4Kで配信されている石原夏織の「Paraglider」、りりあ。の「貴方の側に。」

石原夏織 "Paraglider" Music Video
りりあ。「貴方の側に。」Music Video

ParagliderはCD版とBlu-rayのミュージックビデオを既に視聴している。貴方の側に。は、ハイレゾ版をチェックしていた。iPad AirやPebble V3でYouTube版は何度も視聴していたけれど、改めてモニタースピーカーでちゃんと聴くと意外な発見がある。

Paragliderは、YouTubeの圧縮音声による中高域のシャカシャカ感が耳に付く。「こんなに圧縮された感あった?」ってくらい驚きのショボさだ。反面、バンドの各楽器がある程度分離して聞こえてくるから、オーディオ的な満足感が高まった。貴方の側に。は、ハイレゾ版とMVのミックスが少し違う気がする(2番の「泡沫の夢でも(泡沫の夢でも)」のコーラス以降が特に)のだが、そんな微細な違いも聴き分けられる。

イマイチな面もクリエイティブな作りの違いもしっかり気付かせてくれる、Control 1 PROのモニターらしさを、ここでも実感した。

続いて、テレビ放送された番組のアーカイブ。10月のぼんぼり祭り開催を前に、インフィニットのYouTubeチャンネルで毎日プレミア公開されていた「花咲くいろは」。2011年当初、リアルタイムで楽しんでいた筆者は、改めてP.A. WORKSのお仕事シリーズの最高傑作はこれだ!と膝を打つばかり。毎日21時のプレミア公開が楽しみで仕方なくて、部屋の電気を消して、食い入るように観た。DELLのモニターはベゼルが狭いので、まるで映画を前列で観賞しているような感覚になれる。やっぱり13.3mmのウーファーは音の厚みや実在感が違う。音声はもちろんだが、SEや環境音の情報量がアップしている。画面と平行に音が聞こえてくる件も相まって、作品の世界へドップリとシンクロしてしまうのだ。タブレットから聞こえてくるYouTube音声に慣れきってしまった筆者の耳にも、ああYouTubeの音って意外といいじゃん、なんて思わせてくれる。

次は、音楽リスニング……といきたいが、筆者はながら聴きが苦手。ラジオも音楽もパソコン作業をしながらは楽めない。家事や自炊をしながら音楽を聴くのは大好きなのに、こればかりは全然ダメだ。集中できなくてすぐに音を切ってしまう。なので、音楽鑑賞ではあまり使っていない。本稿を書くに当たって、ハイレゾ音源などを何度も聴いてみたら、「いざとなればパソコンデスクに座りながらいい音が楽しめる」という安心感が生まれたのは暁光であった。

モニタースピーカーとしていい面も悪い面も忠実に鳴らすControl 1 PROは、動画編集時のモニター用としてもPebble V3からポジティブな変化があったといえる。何度も試聴のたびに聴いていると、控えめなボリュームなら、ながら聴きもいいかも……と思い始めている。

最後に電源ノイズ対策と振動対策について少し触れておきたい。ケーブル類には気を遣ったが、問題は振動面。明らかにスピーカーを載せているディスプレイ台が共振していて、サウンドステージが濁ってしまっている。スピーカーからの音には、汚れや雑味のような不純物も混じっているようだ。

そこで、AETのVFEシリーズで振動対策。スピーカー自身の振動をディスプレイ台に伝えない、かつ伝わった振動がスピーカーに返ってくることも大幅に緩和してくれた。2万円台のスピーカーになにをやっているんだと思われる方もいるかもしれないが、一度その音を聴くと戻れない。ベースやバスドラはフォーカスが合って、音階の変化も分かりやすくなるし、アニメの効果音は臨場感を格段にアップさせた。ダイナミクスの大きいソースも、台がビビらなくなったお陰で音量を適度に上げたくなる。なにも対策していないと、出音が大きくなればなるほど、途端に音場がグチャグチャしてくるので、ボリュームを余計に絞りがちであった。

電源ノイズ対策として、FX -AUDIO-の「Petit Susie」と「Petit Tank LE」をAP20dのACアダプターに追加。今まで聴いていた音はなんだったのかというくらい、音場はクリーンに、耳障りな雑味は一層、奥行きや立体感まで改善した。2つを外すと、「嘘でしょ?」ってくらい中高域が汚れる。

nano.RIPE「光のない街」で比較。先行配信のアニメ版は96kHzで配信されており、シングル盤は他の楽曲に合わせて48kHzでリリースされている。アニメ版を聴くと、数kHz付近の耳の感度が高くなる帯域に歪みのような雑味が目立つ。バンドサウンドの分離も悪いし、96kHzの強みである奥行きも浅くなってしまった。耳障りな高域のお陰で音量も上げにくい。率直に言って、うるさく感じてしまう。

Petit SusieとPetit Tank LEを戻すと、美味しい空気を吸って気持ちよくなるかの如く、リスニングのストレスがなくなった。エレキギターやドラム、きみコのエネルギッシュなボーカル、それら一つ一つにこんなに跳ねるような躍動や瑞々しい質感が込められていることにハッとさせられる。Petit Tank LEによって、中低域のエネルギー感が充実し、独自の有機的な質感がプラスされる点も特筆すべきだろう。AP20dの本来の実力が十二分に引き出された。

リーズナブルなデスクトップオーディオとはいえ、可能な範囲で対策をするのは大事だと痛感した。

置き場所がないからデスクで楽しむオーディオは妥協……なんて理由で積極的にやろうとしていなかったデスクトップオーディオ。思わぬアクシデントをきっかけに大規模リニューアルをすることになったが、勢いで一歩踏み出してよかった。

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト