レビュー

机が狭くても大丈夫! クリプトン最強デスクトップオーディオKS-33G、KS-11Gを聴く

左からKS-11GとKS-33G

デスクトップオーディオが人気だ。リモートワークの拡大で“デスクトップ環境を充実させよう”という人が増え、いわゆる安いPC用スピーカーではなく、オーディオメーカーからアンプ内蔵の高音質なアクティブスピーカーが多数登場した事も関係している。

ただ、デスクトップオーディオのスピーカー選びで最も重要なのは“机の上に置けるのか問題”だ。

ブックシェルフスピーカーというのはその名の通り“本棚に入れて使える(くらい小さい)スピーカー”という意味だ。ただ、海外メーカー製品によくあるが、彼らの言う「小さいスピーカー」を「日本の家に置いたら超デカかった」という事もある。また、デスクトップオーディオの場合は、机の上にスピーカーだけ置けば良いわけではない。「スピーカー置いたらキーボードもマウスも置く場所無くなっちゃった」では話にならないわけだ。

つまり、“日本のデスクトップオーディオ”には“本当に小さくて、それでもメチャクチャ音の良いアクティブスピーカー”が必要なのだ。そんな視点で製品を探してみると、実はあまり無い。なんだかんだで辿り着くのは、デスクトップオーディオブームの前から、このジャンルでがんばってる日本のオーディオメーカー、クリプトンだ。

KS-33G

AV Watch読者なら写真を見ただけで「あーこれね」とわかるだろう。だが、実際に音を聴いたことある人は少ないはず。というもの、クリプトンのPCオーディオ向け「KSシリーズ」は直販限定商品、“お店で聴けないスピーカー”だからだ。それでも、買った人の口コミでジワジワ人気が拡大、10年以上かけて“知る人ぞ知るアクティブスピーカー”から“小さくて音の良いアクティブスピーカーの定番”へと成長し、現在に至る。

「いや、気軽に試聴できるように量販店でも売ってよ」と言いたいところだが、もともとKSシリーズは、20万円、30万円といった“ガチな”ピュアオーディオ用スピーカーを作っているクリプトンが、「オーディオファンを増やすためには、高級スピーカーばかり作っていてもダメだ。気軽に良い音が聴ける価格とサイズのスピーカーを作らなきゃ」と考えたところからスタートしている。

音を良くするために、ピュアオーディオで培ったノウハウやパーツを投入していくと、価格は上昇してしまう。それでもとにかく価格を抑えるため、言わば苦肉の策として直販限定とした。その結果、5万円台からと、オーディオマニア以外も「ちょっと頑張って買ってみようかな」と思える値段になっている。つまり「お店で売ってないからこの価格で買えるスピーカー」なわけだ。

前置きが長くなったが、このKSシリーズがモデルチェンジ。型番末尾に「G」が追加された新モデルが9月15日に発売された。価格(税抜き)は以下の通り。外観や搭載ユニットなど、基本的な部分は変わっていないので「マイナーチェンジでしょ?」と気軽に聴いてみたのだが、音が出た瞬間に「いやいや、ちょっと待ってコレ」と言いたくなる進化を遂げている。また、KS“G”シリーズの活用の幅を広げる機能強化も果たしている。

  • KS-11G 59,800円(税抜)
  • KS-33G 84,800円(税抜)
  • KS-55HG 114,800円(税抜)

今回はこの3機種から、より手が届きやすい価格の「KS-11G」と「KS-33G」を使ってみる。発売がすこし先になるKS-55HGは、また別の機会に紹介しよう。

2機種で何が違うのか

KSからKS“G”になって、どこが進化したのか気になるが、まずはシリーズをよく知らない人に向けにザックリとKS-11G、KS-33Gの違いをおさらいしよう。

左からKS-33G、KS-11G

2機種に共通する特徴は“小ささ”。KS-11GとKS-33Gは“縦長”なので接地面積は少なく、手のひらに乗るサイズ。外形寸法はKS-11Gが89.5×105×176.5mm(幅×奥行き×高さ)、KS-33Gが87×105×176.5mm(同)でほぼ同じだ。オーディオ用スピーカーは両手で持ち上げなければならないが、KS-11G/33Gは片手でガシッとつかんで持ち運べるサイズ感だ。

数字よりも、ノートPCと並べた写真を見ると“サイズ感”がわかるだろう。ちなみに、今回設置している机は奥行きが65cmとかなり広いので、KS-33GとKS-11Gでは場所をとらないどころか、ちょっと机に対して「小さいな」とすら思えてしまうほど。逆に、ここまで奥行きがない机であっても、KS-33GとKS-11Gであれば楽に設置できるはずだ。

KS-11G
KS-33G

入力の豊富さも共通の特徴だ。ステレオミニのアナログ入力は当たり前として、USBスピーカーとして動作するUSB入力、さらに光デジタル音声入力も装備。パソコンだけでなく、例えばテレビやゲーム機と接続したり、CDプレーヤーなどと接続する事も可能だ。

さらにBluetooth受信もできるので、スマホやタブレットからワイヤレスで音楽を再生できる。要するにPCスピーカーというより、“コンパクトなオーディオシステム”のような製品だ。

KS-11Gの背面。どちらのモデルもUSB入力、光デジタル入力、ステレオミニのアナログ入力を供え、Bluetooth受信もできる

音質面での特徴は、2機種ともフルデジタル信号処理思想を徹底し、DACではなくDDC(デジタル to デジタルコンバーター)を搭載している事。入力されたデジタル信号はアナログ変換せず、そのままDDCへ。アナログ信号の場合はデジタルに変換してからDDCで処理する。処理した信号をデジタルアンプで増幅し、ユニットの直前までフルデジタルで伝送する。これにより、鮮度の高い音を維持しようという、ピュアオーディオの思想で作られている。

データとしては、PCMの最大192kHz/24bitまでに対応。ハイレゾ音楽も楽しめるのが特徴だ。

KS-11G

そんなKSシリーズで最も低価格、かつ全ての基本となるのがKS-11G。フルレンジユニット1基を搭載したシンプルなスピーカーだが、随所にこだわりがある。ユニットはデンマークTymphany(旧Peerless)の63.5mm径で、振動板は軽量かつ高剛性のコンケーブ型のメタル製。バスレフ方式で、ポートは背面に備えている。小型であってもパワフルな35W×2のデジタルアンプを搭載している。

KS-11G

こだわりはこれだけではない。PCスピーカーというと、筐体はプラスチック製のものが多いが、KS-11Gはフレーム部分をなんとアルミの押し出しで作っている。

KS-11Gのフレームはアルミ押し出しで作られている

これだけでもPCスピーカーとしてありえないガチっぷりだが、底面に備えた“脚”もすごい。振動を熱に変換するネオフェードという特殊な素材をカーボンの板でサンドイッチした「ネオフェード カーボンマトリックス3層材」を使ったインシュレーターに、滑り止めを兼ねたOリングを組み合わせたものを3点支持で搭載している。

「ネオフェード カーボンマトリックス3層材」を使ったインシュレーターも装備。もはやPCスピーカーではない

「ゴム足がついてたらラッキー」なPCスピーカーと明らかに世界が違う。というか「この素材使ったインシュレーターだけで、オーディオアクセサリとして何万円とかで売ってますよね?」みたいなパーツをシレッと装備しているのがKS“G”シリーズの良い意味で“どうかしている”ところ。「59,800円のPCスピーカーって高くね?」と思われるかもしれないが、マニアが見ると「いやいや、逆にコレが59,800円で買える方がおかしい」と苦笑いしてしまう製品だ。

KS-33G

エントリーのKS-11Gでコレなので、上のモデルはもっと凄い事になる。

KS-33Gは、KS-11Gとソックリなので「同じじゃないの?」と思ってしまうのだが、実物を手で持った瞬間に「ごめんまったく違うわ」とわかる。剛性がぜんぜん違うのだ。前述の通りKS-11Gは、前面~天面~背面~底面と、フレーム部分がグルっとアルミ製だったが、側板はモールド樹脂だった。しかしKS-33Gは側板までアルミという“オールアルミ”スピーカーになっている。

KS-33Gは側面までアルミ
左がKS-33G、右がKS-11G

「そんなに違いが出る事なの?」と思われるかもしれないが、音を出す前に側板を叩いただけで違いが出る。以下に動画を掲載しているが、側板が樹脂のKS-11Gは「ポコポコ」と音が響いて“樹脂っぽいというかプラスチックっぽい音の響き”がする。当然音楽を再生すると、この響きが一緒に耳に入る。KS-33Gは側板を叩いてもメチャクチャ硬いので「コツコツ」と響かない。余分な響きが音楽に乗っからず、よりクリアな再生ができるというわけだ。

側板の響き比較。左がKS-33G、右がKS-11G
剛性が高く、指で叩いてもまったく響かない

それ以外のユニット仕様や、35W×2のデジタルアンプなどはKS-11Gと同じだ。

ガチなインシュレーターを備えているところも同じ

Gシリーズの進化点を聴く:KS-11G

ここまでが2機種の特徴だが、Gシリーズになって進化したポイントをおさえながら、試聴していこう。視聴環境はWindows 11のPCとUSBで接続し、foobar2000でのWASAPI接続や、Amazon Musicの排他モードでハイレゾ音楽を再生している。

KS-11G

まず既存のKS-11とKS-11Gの違いは、大きく2点。

1つは音質チューニングで、バスレフの循環する空気量を増やしたそうだ。もう1つは、左右のスピーカーを繋ぐケーブル。KS-11付属のケーブルは短かったのだが、後に発売されたKS-33では、大型のテレビとも組み合わせやすいように長い3mのケーブルを採用。さらに、長くなる音質的デメリットを補うために、線材に高純度なOFC線を使ったケーブルになっていた。

この、長くて高音質なゲーブルが、新たにKS-11Gにも採用されたというわけだ。

KS-11Gのスピーカーケーブル。高純度なOFC線を使った、長い3mのケーブルになった

ぶっちゃけ、進化点を言葉で説明すると地味だ。だが、実際にKS-11とKS-11Gを聴き比べると、驚くほど音が違う。

左が既存モデルのKS-11G、右が新モデルKS-11G

「ダイアナ・クラール/月とてもなく」は、冒頭から肉厚なアコースティックベースが展開するのだが、その中低域の響きが膨らみがちなKS-11に対し、KS-11Gはタイトになり、ベースの弦がブルッと震える細かな様子が見やすくなっている。これがバスレフまわりのチューニング効果だろう。かといって、響きが痩せたわけではない。気持ちの良い低域の“ゆったり感”は維持されているのもポイント。このあたりのバランスが、チューニングの上手さだ。

中高域も大きく進化した。ダイアナ・クラールのボーカルに注目すると、声の明瞭さが明らかにKS-11Gの方がアップしており、文字度通りベールを何枚か剥ぎ取ったような音になる。これはおそらく、左右のスピーカーを接続するケーブルの進化によるものだ。

検証は簡単で、新旧のケーブルを付け替えてみればすぐにわかる。新ケーブルの方が長くなっているので、そこはマイナスポイントだが、ケーブル自体が高純度OFCを使ったハイグレードなものになったおかげで、マイナスを補ってあまりある音の進化がある。ボーカルの口の開閉の生々しさ、歌い始める瞬間の「スッ」と息を吸い込む音の細かさなどが新ケーブルの方がバツグンに良い。

私は旧KS-11をPCスピーカーとして毎日使っており、以前KS-33を試用した時に、この新ケーブルによる音の進化にショックを受け「ケーブルだけ単品で売って!」と熱望していたのだが、それがKS-11Gで実現して感無量だ。

先程、長さが3mになった事で「大型のテレビと組み合わせやすい」と書いたが、デスクトップ使用でも恩恵がある。例えばデュアルモニタ環境でも、2台のディスプレイの両端にスピーカーを設置できる。これも大きな進化点だろう。

Gシリーズの進化点を聴く:KS-33G

KS-33G

お次はKS-33Gだ。

KS-11GとKS-33Gの違いは“側面までアルミのオールアルミ”だが、それが音にもダイレクトに出る。KS-33Gの方が、ベースやピアノ、ボーカルといった音像の輪郭がキリッとシャープになり、視力……もとい、聴力が良くなったように、あらゆる音がクッキリ聴き取れる。

例えば「米津玄師/KICK BACK」のような、疾走感のあるロックを聴くと、ベースのビートやコーラスの広がりが、KS-33では非常にクリアで、「こんな音が入ってたのか」「こんな風に空中のここに定位していたのか」という発見の連続。録音の良し悪しや、音楽ファイルの情報量の違いもわかりやすくなるため、空間の広さや、細かな音のニュアンスなど、ハイレゾ楽曲の良さを味わいやすいのもKS-33Gだ。

KS-33とKS-33Gの違いは低域だ。前述の通り、フルデジタル処理が特徴のスピーカーだが、KS-33Gではデジタル領域で低域を少し強めにチューニングしたという。というのも、従来のKS-33はタイトでシャープな音が評価されたが、一方で低域もタイトなので「もうちょっと迫力が欲しい」という意見が多かったそうだ。そんなユーザーの声を踏まえてチューニングされたのがKS-33Gだ。

確かにKS-33Gでは、ベースの沈み込みの深さや、ダイアナ・クラールのボーカルのお腹から出ている中低域の分厚さなどが進化している。クールでシャープなKS-33サウンドに、KS-33Gではズシンと響く重さや、グワッと押し寄せる音圧がプラスされた感覚。よりより満足度の高い音になった。「KICK BACK」のベースも、KS-33Gの方が明らかに強烈で気持ちが良い。

KS-33G

この進化は音楽だけでなく、映画でも効果的だ。「トップガン マーヴェリック」をNetflixで鑑賞。冒頭のダークスターが飛び立つシーン、ストリングスの静かなBGMが徐々に雰囲気を盛り上げていくが、その細かな弦の重なりが、KS-33Gではクリアに聴き取れる。

同時に、ダークスターの離陸する時の爆音、マッハ10を目指して加速していく「ガォオオオ」というエンジン音、機体が空気を切り裂く音の迫力が、KS-33Gではよりパワフルに、ガツンと楽しめる音になっている。それでいて、中高域のクリアさは維持されているので、飛行中に無線で会話する声や、スッと息を吸い込む小さな音もしっかり描写できている。パワフルな音から微細な音まで描写できるKS-33Gの実力は確かなものだ。

KS-11GとKS-33Gも聴き比べた

こうして聴き比べると、「KS-11GとKS-33Gなら、KS-33Gを選んだ方がいいのか」と思われるだろう。確かに、純粋に音の情報量、クリアさではKS-33Gの方が一枚上手だ。だが、これが結構悩ましい。

前述の通り、KS-11からKS-11Gになって、音は大きく変わった。中高域のクリアさ、低域のタイトさに磨きがかかった事で、KS-11Gの音は、かつてのKS-33や、新たなKS-33Gにかなり近づいている。

先程、「KS-33Gの側板はアルミ、KS-11Gの側板はモールドなので響きが乗る」と書いたが、KS-11Gはこの“響き”を巧みに音作りに活用している。ゆったりと身をまかせたくなるような、ウォームな味わいを味方につけている部分がある。そのため、単に値段で決めるよりも、「ホッとする音も欲しいならKS-11G」、「あくまでクリアさと情報量重視ならKS-33G」という感じで、音の好みで選ぶと良いだろう。

これら2機種はコンパクトなので、大型のテレビ台はもちろんだが、壁寄せスタンドに付属している小さな棚にも設置できる。薄型テレビと組み合わせて聴いてみると、テレビ内蔵スピーカーとは次元の違う音が楽しめる。

大きく違うのは低域の深さと、音の自然さ。どうしてもテレビ内蔵スピーカーの音は音像や音場に奥行きが無く、薄っぺらに聴こえる事が多いのだが、KS-11G/33Gで聴くと、ワイドレンジかつ音場も広大になるため、比較にならないほど音が違う。映画の迫力あるカーチェイスなどのアクションシーンでは、車の移動感、衝突した時の鋭い音、爆発の迫力などが一気にレベルアップ。普通のテレビ番組でも、男性アナウンサーの声がお腹からしっかり声が出ている事がわかり、聞き取りやすく、ニュースの内容や、バラエティ番組のトーク内容が頭にちゃんと入ってくる。

“テレビの音を良くするにはサウンドバーを買う”というイメージがあるかもしれないが、2chのアクティブスピーカーでもサウンドバーに負けないクオリティアップが期待できる。バーチャルサラウンド的な機能は搭載していないが、“ちゃんとした2chスピーカー”で“しっかりステレオ再生”した時の、音の包囲感、臨場感はすごいものがある。サウンドバーよりも自然で無理のないサウンドは、音にこだわる人ほど気に入るだろう。

KS-11Gとテレビを組み合わせたところ

Gシリーズの進化点を聴く:ワイヤレス

ここまではワイヤードでの再生だったが、ワイヤレスでも聴いてみよう。Bluetoothスピーカーとしての注目点は、KS-11GとKS-33Gのどちらも、aptX Adaptive(48kHz/24bit)に対応した事だ。

スマホからAmazon Music HDで「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生し、KS-11GとKS-33Gで聴いてみたが、小さな音の響きが広がり、消えていく様子が明瞭に聴き取れ、ワイヤレスだから音質が大きく下がった感覚はまったくない。

「米津玄師/KICK BACK」のような楽曲は、情報量が少ないと、音の質感が無く、ガチャガチャした音になり、うるさく感じるものだが、ボリュームを上げても気持ち良さが維持されている。

一昔前は「Bluetoothは音が悪い」というイメージがあったが、技術やチップも進化し、情報量が増加した事で、ワイヤレスでもかなり満足感のある音が楽しめる時代になったと改めて実感した。

ワイヤレス再生でもう1つ、大きな利点と感じたのは“静かさ”だ。

先程までの試聴では、デスクトップパソコンやノートPCと接続して聴いていたが、パソコンを起動せず、スマホやDAPとワイヤレス接続で聴いていると、パソコンのファンノイズが無いため、部屋が非常に静かになる。その静かな空間にKS“G”シリーズの高音質なサウンドが流れると、かなり“ピュアオーディオっぽい雰囲気”になる。

パソコンのノイズが耳に入っても、それが毎日だと慣れてしまう。しかし、一度パソコンを起動しない状態で、スマホからのワイヤレス再生を聴いてしまうと、「俺は毎日パソコンのノイズに邪魔されていたんだ」と気づいてしまう。例えば「手嶌葵/明日への手紙」を再生すると、静かな空間にピアノの音がスッと現れ、そこからボーカルが出演する様子がよりクリアに、生々しく聴き取れる。SN比の良さや、トランジェントの良さといたKS“G”シリーズの魅力が、ノイズに邪魔されないので、よりしっかりと聴きとれる。これはハイレゾの情報量をしっかり聴くという面でも利点になる。

また、聴き取れる情報量以上に、“音楽の楽しみ方”自体も変化する。

パソコンが起動していると、ディスプレイにWebサイトやSNSが表示されているので、どうしてもそれを見ながら音楽を“ながら聴き”してしまう。それも悪くはないのだが、どうしても“リラックスして音楽に身をゆだねて楽しもう”という気分にならない。

しかし、パソコンをシャットダウンして無音になった状態で、KS“G”からワイヤレスで音楽を再生すると、ディスプレイにもノイズにも邪魔されず、「よし、今からは音楽だけを楽しむ時間だ」という気分になる。そうなると、音楽としっかり向き合う気分になり、より音の表情に集中でき、結果的に細かなニュアンスや、微細な描写に気づける。

Amazon Music HDなどのストリーミングサービスであれば、「この曲に似た楽曲はあるのかな?」とか「このアーティストに影響を与えた昔のアーティストの曲はどれかな?」など、音楽に関する事に興味が次々と湧いてきて、ついつい音楽を聴く時間が長くなる。“気になった曲がすぐに聴ける”音楽配信サービスの利点も、改めて実感した。

さらに良いのは、このコンパクトなワイヤレスオーディオシステムを、気軽に別の部屋に移動できる事。パソコンのある書斎に限らず、台所やベッドサイドなど、ちょっとしたスペースとコンセントさえあれば、どこにでも設置できる。

料理をしながらアルバムを聴こうとか、あの曲を聴きながらベッドで小説を読もうとか、新たな楽しみ方が生まれる。これは、据え置きのピュアオーディオシステムでは無理な事で、コンパクト・ワイヤレスオーディオシステムならではの利点だ。

音楽を聴く時間がワクワクするものに

もともと“省スペースで良い音が楽しめるスピーカー”として、KSシリーズの完成度は高かったが、Gモデルになる事で、サイズは維持しながら、各モデルの音が着実に進化している事がわかった。

さらに、KS“G”シリーズ全体でワイヤレス接続が高音質化した事で、どこにでも置けるコンパクトオーディオ”としての魅力が高まった。PCスピーカーとして見ると高価に思われるかもしれないが、活躍する部屋やシーンが広がると、コストパフォーマンスの良さを感じるようになる。

音のクオリティは完全に“PCスピーカー”の域を越え、ピュアオーディオのブックシェルフスピーカーと比較しても良いレベルに到達した。これにより、“PC作業中に聴きながらスピーカー”という役割を越え、「仕事が終わったら、このスピーカーでじっくり音楽を聴く時間にしよう」とワクワクさせてくれる存在になった。まさに、趣味としてのピュアオーディオの醍醐味を味あわせてくれる、小さな巨人だ。

(協力:クリプトン)

山崎健太郎