【レビュー】実売2万円でテレビ音質を大幅に改善。ソニー「HT-FS30」

HDオーディオ対応。2.1chの柔軟な設置性


HT-FS30

 最近のテレビの薄型/狭額縁化のトレンドとともに指摘されるようになったのが、「音質がないがしろにされているのでは?」ということ。薄型かつ狭額縁となることで、エンクロージャーの容積やユニット配置などが犠牲になり、音が悪くなっているというのは、筆者も確かに実感する部分。また、デザインと音質のトレードオフという問題は、多くのテレビ開発者が認めるところだ。

 そうした中、テレビメーカーやオーディオメーカーは、近年シアターラックやサウンドバーといった製品にかなり力を入れている。確かにこうした専用のシアターシステムを使えば音質は向上するし、店舗側も単価下落が激しいテレビとセットで販売することで、利益を確保するという狙いもある。

 ただ、シアターラックやサウンドバーは、テレビを上に置く(シアターラック)、テレビの前に置く(サウンドバー)だけで、設置の自由度は少ない。そうした中、ソニーが提案するのが、2.1chのシアターシステム「HT-FS30」だ。

 見た目はアンプを内蔵したサブウーファ部と、サテライトスピーカーから構成される一般的な2.1chシステム。従来から多くの2.1chシアターシステムが発売されているが、どちらかというとエントリー向けという位置づけの製品が多かった。このHT-FS30も実売価格が約2万円と価格帯的にはエントリークラスだが、3系統のHDMI入力を装備し、ドルビーTrueHDやDTS-HD Master Audioにフル対応するなど、シアターシステムとしての機能は十分。また、ソニーでは、小型~大型のテレビやパソコン、スマートフォンなどのポータブル機器など、用途に合わせて位置を調整できる点を訴求。「手軽にテレビの音をグレードアップしたい」や「スマートフォン/PCもいい音で楽しみたい」といったユーザー層にアピールして、2.1chシステムの新しい使い方を展開していくという。


■ サブウーファ部は小型化。設置自由度は高い

HT-FS30と42型液晶テレビVIERA「TH-L42DT5」の組み合わせ

 サブウーファ部と、フロントスピーカー、ACリモコン、FMアンテナ、光デジタルケーブル、オーディオケーブルなどを同梱。フロントスピーカーは小型で、ノートPCの脇においても、42型テレビの両脇に設置してもしっくりくる。設置の自由度は高い。

 総合出力は400Wで、フロント133W×2ch、サブウーファ134W。ソニー独自のS-Masterデジタルアンプを採用する。アンプやFMチューナをサブウーファ側に内蔵しており、ユニットは130mmコーン型。外形寸法は約175×368×325mm(幅×奥行き×高さ)、重量7.5kg。「従来モデル比で容積を27%削減」とのことだが、最近のテレビは薄型化が進んでおり、レコーダも奥行きがかなり短くなっている。そのため、約37cmというサブウーファ部の奥行きはやや大きく感じてしまう。とはいえ、サブウーファとしては相当小型の部類といえる。

 入力端子はHDMI×3、光デジタル音声×2、アナログ音声×1(ポータブルオーディオ用)。HDMI入力はGAME、BD/DVD、SAT/TV用となっており、リモコンのボタンからダイレクトに切り替えられえるようになっている。出力はHDMI×1。HDMI出力はオーディオリターンチャンネル(ARC)に対応する。消費電力は75Wで待機時0.3W。


サブウーファ部側面。奥行きは368mm
背面にドルビーやDTSなどのロゴバスレフポート背面。HDMI入力は3系統
フロントスピーカー部

 フロントスピーカーは55×88mmユニットを搭載し、約85×95×220mm(同)/0.46kg。約6度ほど上方に傾いたデザインは、ソニーのBRAVIAシリーズと共通のイメージ。サブウーファとは専用ケーブルで接続する。


側面サブウーファとの接続は専用コネクタリモコン

■ HDオーディオやポータブルオーディオに対応

 今回は、液晶テレビREGZA「42Z2」と、BDレコーダ「DMR-BZT700」と接続してテストした。

ドルビーTrueHDやDTS-HD Master Audioに対応TrueHD表示

 まずはBDビデオを鑑賞。HT-FS30の特徴のひとつといえるのが、低価格ながらドルビーTrueHDやDTS-HD Master AudioなどのHDオーディオにフル対応したこと。確かにBDの再生を開始すると本体前面の表示管にDTS-HD MAやDolby TrueHDなどの表示が行なわれる。

 基本は2.1chシステムだが、入力信号はソニー独自のS-Force Proフロントサラウンドにより、自動的にサラウンド化する。サラウンドモード(SOUND.FIELD)は、STANDARD/MOVIE/DRAMA/NEWS/SPORTS/GAMING/MUSIC/2CH STEREO/P.AUDIOの各モードが選択できる。2CH STEREとP.AUDIO以外は、広がりある音場再生を行なうモードとなる。モード切替はリモコンの「SOUND.FIELD」で切り替え可能で、各モードの特徴は以下のとおり。


モード特徴
STANDARDどんなソースにも幅広く対応
MOVIEセリフが聞き取りやすく、迫力のあるサウンドと臨場感に
DRAMAテレビドラマに最適な音質
NEWSアナウンサーの声が聞き取りやすい、クリアな音声
SPORTS解説が聞き取りやすく、歓声などがサラウンドで聞こえ、臨場感向上
GAMINGゲームに最適な迫力あるサウンドと臨場感
MUSIC音楽番組や音楽系のBD、DVDに最適な音質
2CH STEREO音楽CDに最適な音質
P.AUDIOLINE.INのみ動作。高域音場を補正し、スマートフォンや
携帯音楽プレーヤーなどの音源も音場豊かに

 なお、SOUND.FIELDを「AUTO」にしておけば、BRAVIAやソニーレコーダでデジタル放送のテレビ番組受信時には、ジャンルに応じてサウンドフィールドを自動的に切り替えるという。

 今回は主にSTANDARDで視聴した。BDビデオの「ヒア・アフター」の冒頭の津波シーンを見ても、砕け散る波や視聴者を巻き込むような広がりが強烈に感じられるほか、音の移動感もしっかりと感じられ、波の中で自由を奪われて上下不明になるような複雑な音の動きがしっかりと経験できた。セリフの聴きやすさや明瞭さも確実にテレビのスピーカーより上。サブウーファによる重低音の効果も高い。

 トラビス・ライスなど、一流のスノーボーダーが雪山を自由自在に滑降するBDビデオ「THE ART OF FLIGHT」を見ると、臨場感の差はさらに顕著。冒頭の雪山を滑り降りるシーンでは、BGMの野太いシンセベースの音と、映像に同期するヘリのロータ音など硬質な金属音が絶妙に混ざりながら、臨場感を高めてくれる。また、ヘリの垂直/水平移動の感触もしっかりと感じられた。

 サブウーファの重低音が効果的で、ガスボンベをライフルで打って爆破させる音、スノーモービルが脇を通り過ぎる音など所々で強烈な低音を響かせる。新たに搭載した「スマート・BASS・テクノロジー」により、広がりと厚みを加えているというが、確かに、サイズからすると意外なほど太く重い低音が出る。

HDMI入力は3系統。出力はARCに対応する

 また、HDMI出力はオーディオリターンチャンネル(ARC)に対応している。テレビ側がARCに対応しているのであれば、確実にこの機能を使いたい。ARCにより、テレビで視聴中の番組の音声をHDMI経由でHT-FS30で受信し、出力できる。

 REGZAも1系統がARC対応のため、これをHT-FS30に接続したがとても便利だ。HDMIケーブルをつないでHT-FS30側のARCをONにするだけで、テレビの音を簡単に強化できる。電源連動も可能なので、消し忘れも防げる。ニュースのセリフはもちろん、ドラマの臨場感、スポーツなど、どれをみても確実にテレビより音質は上といえる。

 なお、HT-FS30では、テレビの番組表のジャンル情報を見て、自動的にサウンドモードを切り替える「オートジャンルセレクター」も搭載しているが、REGZAではうまく動かなかった。

・ポータブルオーディオにも対応

本体にも操作ボタンを装備

 音楽については、CDで2CH STEREOを中心に再生してみた。クセなく広い音場が特徴といえるが、ロック系のソースは勢いをそのままに、迫力ある再生が可能だ。ただ、解像感はそれほど高くなく、ジャズのArt Blakery「A Night At Birdland」を聞いてみたところ、ステージの広がりは出ているが、ピアノのアタック感やそれぞれの楽器の音像にはやや物足りなさが残った。

 アナログ音声入力接続で、「P.AUDIO」を選択することでポータブルオーディオ用としても利用できる。リモコンのボタンで[LINE IN]を選択するだけなので、操作としてもシンプル。iPhone 4Sを接続して何曲か聞いてみたが、かなり出力を上げても歪まず、予想外に楽しめた。高域補正技術の「ポータブルオーディオエンハンサー」も搭載しているとのこと。シアターシステムとして出力もかなり高いことから、音楽を楽しむ環境としては、小型のiPodスピーカーなどより優れているといえるかもしれない。

 ただし、ケーブル接続(1.5mケーブルが付属)で、Dockなどは無いのでスマートフォンなどの置き場には困ってしまうかも。また、入力信号レベルがポータブルオーディオと他の機器ではかなり異なるため、入力をテレビなどに切替えた際にいきなり大音量で出力されてしまうこともあった。


■ 低価格にテレビ音質を向上できる魅力的な製品

 ドルビーTrueHDもDTS-HD Master Audioにもフル対応などスペック面でも申し分なく、それでいて2万円を切る価格というのはお手軽だ。テレビの音質に不満がある人、特にHDMIのオーディオリターンチャンネル対応のテレビを持っている人には魅力的な選択肢と感じた。

 ソニーが提案する、スマートフォンやポータブルオーディオ向けシステムという用途も、音質や価格面では十分に納得できる。ただし、サブウーファはやはりそれなりに大きく、デスクトップオーディオ的に使うのは難しいとは感じる。もっとも、サウンドバーやシアターラックに比べれば、設置自由度や応用可能なシーンははるかに増えるとは思う。

 本格的なシアターやオーディオシステムを構築している人も、“普段使い”のテレビ音質を向上するという意味では導入検討してもいいかもしれない。手軽にテレビの音質向上をしたい人にとっては、とても魅力的な製品の登場といえる。

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HT-FS30


(2012年 5月 25日)

[ Reported by 臼田勤哉 ]