【レビュー】ソニーの新オープンエア「MA」シリーズを一気に聴く

-超開放的な「MA900」、耳に追従する新機構も


ソニーのオープンエア型ヘッドフォン「MDR-MA」シリーズ

ソニーから久々に登場した、本格的なオープンエア型ヘッドフォン「MDR-MA」シリーズ。ラインナップは4機種(+テレビ向けロングケーブル版1機種)だが、今回は4機種全てを試聴する。

 いずれもオープンエアなので、室内での使用を想定したモデルだ。型番のMAは「Multimedia Audio」の略で、オーディオ機器だけでなく、シアターやPCなど、様々な機器での利用を想定しているためだという。

 ラインナップと共な仕様は以下の通り。最上位のMA900は約3万円、MA500は約1万円と、価格に少し開きがある。


MDR-MA900MDR-MA500MDR-MA300MDR-MA100
標準価格30,975円9,975円4,935円2,468円
ユニット70mm径
ネオジウムマグネット
40mm径
ネオジウムマグネット
40mm径40mm径
フレキシブルイヤー
フィットメカニズム
その他の特徴・フレキシブル
ヘッドクッション
・アコースティック
バスレンズ
・インピーダンス
整合回路
・プラグアダプタ
・プラグアダプタ
再生周波数帯域5Hz~40kHz8Hz~25kHz10Hz~24kHz12Hz~22kHz
インピーダンス12Ω40Ω40Ω40Ω
ヘッドバンドの素材メタルモールド
ケーブル3m片出し3m両出し
重量約195g約245g約245g約190g

 全機種に共通する特長として、非常に軽量に作られている事が挙げられる。最上位MA900と、最下位MA100は200gを切っている。装着感の良さも追求されており、“長時間装着していても快適である事”や“オープンエアらしい聴き疲れしないサウンド”をテーマに開発されたという。

MDR-MA900MDR-MA500
MDR-MA300MDR-MA100
最上位のMA900はケースも豪華

 スペック的な特徴として、最上位モデル「MDR-MA900」のみ、70mm径の大型ユニットを採用している。その他のモデルは40mm径ユニットだ。ただし、MA500の40mm径ユニットには、ネオジウムマグネットが使われている。MA900もネオジウムマグネットだ。

 MA900は最上位ながら、手にすると驚くほど軽い。アーム部分も細身だ。構造的な特徴は、形を見ただけでわかる。ハウジングの背面に、大きな三日月型の切れ込みが入っているのだ。いや、切れ込みというには空間が大きく、“ハウジングとイヤーパッドが途中で分離している”と形容した方が正しいかもしれない。装着した姿を後ろから見ると、背後は“ほぼ素通し”だ。この思い切った機構を、ソニーでは「フルオープン」と呼んでいる。


MDR-MA900正面から見たところ耳にフィットするよう微妙な角度がついている
ハウジングを後ろから見たところ。大きな隙間があいている装着して背後から見たところアーム部分は非常に細身だ

 MA900にはこれ以外にも、低音をドライバーユニットの中心部に集中させるという「
アコースティックバスレンズ」や、接続するアンプのインピーダンスによって変化する音質のばらつきを低減する「インピーダンス整合回路」(抵抗ネットワーク)なども使われている。

MA500。ハウジングに銀色のリングがついているのがデザインアクセント
MA300。銀色のリングはついていない

 MA500/300の特徴は、「フレキシブルイヤーフィットメカニズム」という機構を採用している事。上記の表にも記載したように、最上位のMA900と、最下位のMA100には搭載されていない。

 簡単に言えば、ユニットの角度を耳の形状に追従させる仕組みだ。ユニットをハウジングを繋ぐパーツに、フレキシブルなものを使っており、装着して耳がユニットを押すような格好になると、そのままユニットが耳の形に合うようにハウジングの奥に引っ込む。

 試しにユニットを指で軽く押してみると、そのままググッと奥まで押しこめる。反発力は弱く、耳への負担も考慮されている。指を離すと、一瞬ユニットは引っ込んだままだが、ゆっくり元に戻りはじめ、最後は「ペコン」と元の形に戻る。

 この機構により、人によって異なる耳の形にユニットを追従させ、「装着感の向上」や「低域の量感確保」を図っているという。

MA500のユニット部分。指で奥に押しこめる。離すと元に戻る

 MA100の形状は、MA500/300に近いが、「フレキシブルイヤーフィットメカニズム」は搭載されておらず、ユニットは押し込めない。その代わり、MA500/300と比べるとユニットが奥まった場所にあり、形状としては“普通のヘッドフォン”と言えるだろう。

MA100。「フレキシブルイヤーフィットメカニズム」は搭載していない


■音質&装着感をチェック:MA900

 開放型ヘッドフォンであるため、今回の試聴には据え置き型のヘッドフォンアンプを使用。ラトックの24bit/192kHz対応DAC内蔵ヘッドホンアンプ「RAL-24192HA1」を使っている。再生ソフトは「foobar2000 v1.1.11」で、WASAPIモードで出力している

 まずは「MA900」から装着&試聴してみよう。

MA900
柔らかいヘッドパッドで頭頂部も痛くならない

 装着して驚くのは軽さだ。ヘッドフォンそのものが軽いというのもあるが、側圧もソフトで自然にホールドされる。どこかに力がかかったり、痛みが出るような事は無く、これまで装着してきたオープンエアヘッドフォンの中でも1、2を争うほど“着けている事を忘れる”心地良さだ。

 アームも細く、ホールド力に不安を感じるが、頭を動かしても意外なほどピッタリ追従する。ベッドに寝転がって使ってみたりもしたが、危うくそのまま寝てしまうところだった。これだけ負担が少ないと、数時間着け続けても苦にならない。

 「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」を再生する。非常にバランスの良いサウンドが展開。特筆すべきは音場の広さ。特に奥行きの描写が凄い。音像の定位が立体的で。ピアノやギター、ベースの分離も良く、奥行き描写が優れているため、音像が立体的に感じられる。

 音色も色付けが無く、ギターの弦の硬さと、木の筐体の暖かな響きが描き分けられている。ヴォーカルも自然で、実際の人間の声に近い。中高域の分解能も高く、ほじくり返すような描写力がありながらも、高域が音が硬くならない。このため、ちょっと聴いただけでは“地味”というか、“無難”というか、特徴が無く聴こえるが、ボリュームを上げながら細部に意識を集中させると、描写の細かさが実感でき、「これは凄いぞ」と椅子に座りなおして聴いてしまう。


フルオープン機構が非常に開放的な音場を生んでいる

 サ行がキツめ「坂本真綾/トライアングラー」では、ボリュームを大きめにして聴いても、「耳が痛い」という感覚を覚えるギリギリのところで踏みとどまっている。これは高域の描写が丁寧、かつ伸びが良いため。音色が自然である事も寄与しているだろう。高域が荒っぽく、金属質な音を出すヘッドフォンで同じようなボリュームにすると、耳が痛くて眉間にシワを寄せながら聴く事になるが、MA900の場合は何の苦痛も無く、むしろ気持ち良く聴き続けられる。

 70mm径ユニットを採用しているので、さぞや低域も強烈だろうと思うが、最低域の沈み込みはそれほど深くはない。無理をして低域を強調するタイプではなく、あくまでバランスを重視している。では、低域に厚みが無いかというとそうではなく、「Best OF My Love」のアコースティックベースは頭の中心に「ヴォーン」と迫ってくる音圧を持っており、迫力不足というイメージは無い。締りと節度のある低域で、ひたすら抜けが良い中高域と良くマッチしている。

 開放型で音漏れを指摘するのはナンセンスだが、フルオープンと名付けられているだけあり、盛大に漏れる。電車内や会社など、他の人がいる場所で使うのは基本的に厳しいと考えたほうが良いだろう。




■MA500

MA500

 MA500にチェンジ。装着感としては、“着けていないような”MA900とは異なり、左右からシッカリホールドされる。だが、キツイと感じるほどではないため、苦痛にはならない。

 側圧より気になるのは耳への感触だ。基本はアラウンドイヤータイプのハウジングなので、耳の周囲にイヤーパッドが当たる感覚があるのだが、それに加えて、耳にペッタリとユニットが蓋をしてくるのだ。

 これは、先程説明した通り、耳でユニットを押しこむ「フレキシブルイヤーフィットメカニズム」を採用しているためだ。耳の周囲 + 耳の表側全体に何かが触れている事になるため、凄く簡単に言うと「耳が凄く狭い部屋に入っている」ような気がする。

 なお、耳の表側全体にペタっと触れているユニット部分は、薄いスポンジでサラサラしているため、革製のオンイヤーヘッドフォンのような“暑苦しさ”は無い。それゆえ、耳にいろいろ当たってはいるのだが、不快な感じはしない。だが、“なんか耳が狭いなぁ”という感じはする。アラウンドイヤーとオンイヤーを一緒に装着したような、なんとも不思議な感覚だ。

 この機構によるところが大きいと思うのだが、MA900と聴き比べてまず違うのは音の広がりだ。MA900は耳の横というより、頭の外側の空間から聞こえてくるような広い音場が特徴的だた。しかし、MA500はユニットが耳のすぐそばにあるため、音像が近く、広がりを重視するというより、個々の音を最短距離で耳に届けるような印象。

MA500のハウジング

 モニターヘッドフォンの「MDR-Z1000」を連想させるサウンドステージだ。そのため、オープンエア型に「開放感」や「空間描写」を求める人にはちょっと合わない。オープンエアの爽やかさと、ダイナミック型のようなガツンと音が主張してくるパワフルさも欲しいという人には良いかもしれない。

 低域の沈み込みはMA900と同様、あまり深くはない。だが、張り出しの良い中低域は元気よく主張し、迫力は十分。ユニットが耳に近い事で、低域もダイレクトに耳に届く。元気は良いが、ネオジウムマグネットを使った高解像度な描写力も併せ持っており、迫力で誤魔化すような音作りではない。

 音色はニュートラルな部類だが、注意深く聴くとMA900の方がより自然だ。MA500は若干硬質なキャラクターをのぞかせる。だが、上位機種との比較で差を挙げるなら……というレベルであり、単体で聴けば固有色の少ない部類だ。少し気になるのは高域が空間に広がる時の響きの音に、若干プラスチックっぽい、カンカン/コンコンした付帯音がまとわりついている事だ。

MA500のアーム部分ヘッドパッドもついている



■MA300

MA300

 MA300にチェンジ。装着感はMA500と似ているが、MA300にはヘッドパッドが無いため、頭頂部にパーツが当たっている感覚がある。1時間程度ではどうということもないが、長時間装着していると気になるかもしれない。機構が同じであるため、耳が小さな部屋に入っているような感覚はMA500と同じである。


MA300のアーム部分ヘッドパッドは無い左がMA300、右がMA500

 サウンドもMA500と似ており、音像が近い。中低域の主張も強めだ。

 MA500と大きく違うのは高域だ。MA500よりも抜けが一段落ち、解像度も低い。これはユニットにネオジウムマグネットが使われているか、いないかの違いだろう。

 分解能が低いため、MA500と比べると、頭を抑えられたような音になる。MA500やMA900で透明感のある女性ヴォーカルを聴くと、声が天井に抜けるような感覚を覚え、思わずうっとりと天井を見上げてしまうが、MA500は正面から視線が移動しない。

 ただ、“高域がまろやかになった”と言う事もできる。そのため、MA500で感じた、響きのプラスチックさや、音の硬質さは良い意味で目立たない。上位モデルと比べると注文をつけたくなるが、このヘッドフォンだけを聴いている分には、アラの目立たない、よくまとまった製品だと感じる。



■MA100

 MA100にチェンジ。ヘッドパッドは無く、頭頂部にプラスチックのアームが直接触れる感覚はMA300と同じ。しかし、MA300と比べて全体的に軽めで、側圧も弱く、耳にペタっと触れる「フレキシブルイヤーフィットメカニズム」が無いため、トータルの装着感はMA500/300よりも、MA100の方が良い。

MA100ヘッドパッドは無いユニットは押し込めない

 音質だが、なかなかどうして、悪くない。使われているユニットが同じなので当然だが、MA300で耳のすぐ横にあったユニットをちょっと離して設置。低域の主張が控えめになり、MA900で感じられた背後に広がる空間描写を少し取り入れたようなサウンド。

 そのため、音の傾向としてはMA900に近く、「開放型ヘッドフォンらしい音」がする。もちろん高域、低域の解像度という面ではMA900に敵わないのだが、音色のキャラクターも抑えられており、素直で、無理をしていないサウンド。開放型の入門としては十分なクオリティであり、「2,468円でこの音なら十分。というか安い」というのが正直な感想だ。

 構造の違いもあり、シリーズとしては4機種だが、音の傾向としては「MA900とMA100」、「MA500とMA300」という2つのカテゴリに分けて考えるとわかりやすい。

 ヘッドフォンに求める音によって評価は変わってくると思うが、開放型らしい空間描写、抜けの良さ、解像感などを考えると、オススメは文句なくMA900だ。また、前述のように音の傾向がまるで違うため、「予算的にMA900が買えないので、とりあえずMA500で」というチョイスは少し違うだろう。MA500のようなサウンドが好きならば、さらに上を目指す時に密閉型ヘッドフォンや、開放型でもゼンハイザーのHD650のようなモデルがシックリくるだろう。



■MA900と他社製ライバル機を比較する

 最後にMA900と、他社のモデルを比べてみたい。

 ●SHURE「SRH1440」

SHURE「SRH1440」

 SHUREのオープンエア下位モデル「SRH1440」(実売37,000円程度)と比べてみる。価格としては近いライバルだ。

 「SRH1440」のサウンドは、以前レビューした通りだが、中低域の主張が少なめで、高域はクリアかつ、若干金属質なキャラクター。低域の量感は少なく、軽めだが、締りは良い。コントラストは低めで、全体的に高域寄りのバランス。音場は広く、見通しは良い。

 MA900に戻すと、中低域の主張が強く、全体的にコントラストがアップし、音にメリハリが出る。低域のアタックも強く、心地良く、楽しいサウンドだ。音色も「SRH1440」より癖が無くてニュートラル。ヴォーカルの温かみが伝わって来る。音場の広さは良い勝負だが、奥行きがMA900の方がある。


 ●SHURE「SRH1840」

SHURE「SRH1840」

 次に、SHUREの上位モデル「SRH1840」(実売65,000円程度)と比べてみる。「SRH1440」と比べるとコントラストや低域がアップし、MA900と近いサウンドだ。同時に、高域の色づけの無さも特徴で、MA900に匹敵する。音場も広く、非常に良いライバルだと感じるが、MA900の価格は30,975円であり、「SRH1840」の半分以下。MA900のコストパフォーマンスの良さが光る。


 ●ゼンハイザー「HD650」

ゼンハイザー「HD650」

 オープンエアの代名詞的なモデル「HD650」(実売4万円程度)。だが、数あるオープンエアヘッドフォンの中では、どちらかというと密閉型寄りの音作りで、中低域の張り出しが強く、派手なサウンドである。高域の抜けの良さはあるが、全体的のバランスとしては低域寄りである。低域の主張が強いため、音場は狭めで、見通しもあまりよくない。高域のなめらかさは一級品である。

 MA900と比べると、低域の沈み込みや、量感の豊かさではHD650の方が力強い。だが、音像の分離の良さ、音場の広さ、中高域の解像度、低域の締りの良さなどは、MA900に軍配を挙げたい。そっけない音と言う事もできるが、長時間聞いていても疲れがすくない音作りで、飽きがこないだろう。


 ●オーディオテクニカ「ATH-AD1000」

オーディオテクニカ「ATH-AD1000」

 比較した中で、価格的にも音質的にも、ライバルとして非常に良い戦いとなったのが、オーディオテクニカの「AD1000」(実売約3万円)。MA900と同様、非常に軽量なモデルだが、音の解像度の高さ、トランジェントの良さなど、甲乙つけがたい。MA900よりも若干コントラストが薄く、傾向としてはSHURE「SRH1440」に似ているが、音色のキャラクターは少なく、高域は自然で雑味も少ない。

 MA900の方が、個々の音の彫りが深く、低域や中域の音圧もあり、繊細さと力強さのバランスが絶妙だ。また、女性ヴォーカルの高域に注目して聴き比べると、MA900は人間の体温を感じさせる温かみが漂う一方、AD1000は、まだかすかに冷たい硬質さが残っている。

 ただ、そういう違いがあるというだけで、AD1000の方が、爽やかなサウンドだと感じる人もいるかもしれない。2機種をとっかえひっかえしながら、果てしなく唸ってしまう好勝負だった。


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(2012年 6月 1日)

[ Reported by 山崎健太郎 ]