本田雅一のAVTrends

185回

ついに立ち上がる「HDR10+」。テレビやプレーヤー登場とAmazon対応が牽引か

 “よりよい4K/HDR体験”をもたらすため、8月28日から無料でコンテンツ/関連機器などへのライセンスが開始されたHDR規格「HDR10+」に対応する製品が、いよいよ登場しはじめた。

 パナソニック、サムスン、20世紀フォックスの合弁で設立した「HDR10+ Technologies, LLC」には、すでにはライセンスに関する問い合わせが80社以上から集まっており、19社とはライセンス契約を締結済み。

 HDR10+の普及には、制作ツールの普及や動作互換などをテスト・認証する機関の対応なども必要となるが、すでに主要なツールには対応プラグインがそろっているという。大手映画会社だけでなく、アマゾンもHDR10+に賛同しているため、どの系列のポストプロダクションもHDR10+に対応せざるを得ないからだ。

 対応するハードウェアは、パナソニックとサムスンが最初の対応製品を発売するが、サムスンは日本で販売していないため、本誌読者にはパナソニックのプレーヤー、テレビなどが対象となる。パナソニックは2017年以降に発売されたテレビに関してはファームウェアアップグレードでHDR10+に対応する。

HDR10+対応のUltra HD Blu-rayプレーヤー「DP-UB824」
パナソニック「UBS70」

 もっとも、HDR10+に関してIFAで知ったもっとも大きなニュースは「実はアマゾンが配信しているHDR映像は、すべて(自社制作だけでなく、ハリウッドスタジオの作品も含む)HDR10+に対応している」ということだ。

 以前のアナウンスでは2017年以降に制作されているアマゾンのHDRコンテンツは、すべてHDR10+に対応させるという理解だったが、実は“すべて対応”しているという。

 パナソニックアプライアンス社の技術本部 ホームエンターテインメント開発センター・特命担当の柏木吉一郎氏(帰国前はパナソニックハリウッド研究所長だった人物)によると「アマゾンが配信しているHDRの映像作品はすべてHDR10(もっとも一般的なHDR規格)に対応していますが、“HDR10”と表示されるコンテンツはすべてHDR10+の動的メタデータが埋め込まれている」というのだ。

パナソニック柏木吉一郎氏

 アマゾンが配信している映像作品は、マスターを制作元から受け取って、独自にエンコード作業を行なっている。HDR10+は、HDR10と相互運用できる互換性があるため、このときにすべてHDR10+にしているのだそうだ。従ってアマゾン自身が制作したタイトルはもちろん、映画会社が制作したものに関しても、アマゾンの配信するHDRタイトルはすべてHDR10+対応となっている。

 これらに加え、すでに75タイトル以上になっているワーナーのHDR対応UHD-BDタイトルが、年内から来年初旬をめどにHDR10+対応に切り替わる見込みで、まだタイトルラインナップは決まっていないものの、年末商戦向けに20世紀フォックスがHDR10+対応UHD-BDを近日中に発表する。

 現時点ではUHD BDタイトルでHDR10+を“あえて採用しない”理由はなく、全タイトルが対応済みのアマゾンも加えると、膨大なポートフォリオを形成することになりそうだ。もちろん、HDR10+の動的メタデータを活用するにはテレビ側の対応が不可欠だが、ソフトが先に増えれば対応する機器が増えていくことは過去の歴史が証明している。

 なお、パナソニックは2月に発表済みだった高級プレーヤー「DP-UB9000」のデモをブース内で行なっていた。ただし、DP-UB9000の国内発売はまだ未定のようだ。従前であれば、同じプラットフォームでコストをさらにかけた録画機が登場するところだが、今回も同じパターンかどうかはわからない。

DP-UB9000

 ただ、システムの基礎となるLSIはこの製品から一新されているそうで、旧ユニフィエ系のソシオネクスト製最新システムLSIが搭載されている模様だ。新LSIによる利点などは、そのうち明らかになってくるだろう。

 ただ、いずれにしろパナソニックは欧州で高級機種として販売していても、国内では別仕立てのチューニングを加えることが多い。まずは期待して待つことにしたい。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。  AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。  仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。