本田雅一のAVTrends

3Dテレビは買いか? それとも待ちなのか?

~液晶では容易な対応。PDPは3D化=高画質化~




VIERA VT2シリーズ

 パナソニックからいよいよ3DテレビのビエラVT2シリーズが発売され、いよいよ新しい世代の3Dテレビビジネスが始まった。“新しい世代の”としたのは、3D表示が可能とされるテレビは、これまでに何度か発売されたことがあるからだ。

 直近では欧州でサムスンが3Dプラズマテレビを発売して事業的には失敗し、日本でもBS11の3D放送と同時にヒュンダイの3D液晶テレビ(アリサワの偏光フィルムXpolを用いたもの)が発売された。


HYUNDAI製の46型液晶テレビ「E465S」

 しかし、今回の一連の3Dテレビ発売に関連した動きは、そうした過去が全く無かったかのようにスムースに進んできた。理由は家電最大手のパナソニックとソニーが業界を主導してきたという事もあるが、大元の“首謀者”が映画スタジオということも、注目を浴びた理由のひとつだろう。アバターのヒットも要因では? と言う方も多いと思う。もちろんその通りだが、アバターが生まれたのも、近年のハリウッドにおける3D映画ブームがあればこそ。

 大成功を収めたDVDのパッケージソフト売り上げは、映画スタジオの経営の根幹に関わる重要な事業になったが、2007年以降は年々金額ベースで縮小を続けている。販売単価がかなり下がってきてしまっているからだ。放送がHDになっているのに、SD解像度のままではパッケージソフトとしては通用しづらくなってきた。

 Blu-ray Discのビジネスが少しずつ伸長しているものの、その移行ペースを速めるために、映画スタジオは3DソフトによってフルHD化よりも“一目でわかりやすい”DVDとの差異化を求めた。 


■ 本当に3Dテレビが必要なのか?

 “本当にテレビに3D機能など必要なのか?”

 これからしばらくの間、同じような疑問が日本全国、いや世界中で呈されることだろう。映画ソフトの3D化は時間の問題で徐々に進んでいく。なぜなら映画スタジオは、わざわざBlu-ray 3Dのために3D映像を作っているわけではないからだ。彼らはいずれにしろ、劇場公開時の収入を増やすために3Dに取り組んでいかなければならない。どうせ作るのだから、それを少しでも幅広く販売するためにBD化するのは当然のことなのだ。

 北米ではこのことが大きな3Dテレビ普及のモチベーションになっているが、問題は日本ではどうか? という点だろう。日本ではケーブルテレビや衛星放送といった多チャンネル放送メディアが弱いという背景もあり、今すぐに3D放送があちこちで始まるという状況にはない。

 しかし、実のところそれほど難しく考える必要はない。というのが、個人的な3Dテレビに対するスタンスだ。今年、パナソニック、ソニー、東芝、シャープ(発表順)が国内で 3Dテレビを発売する。このうちパナソニック以外は液晶テレビの3D化だ。

ソニーBRAVIA「KDL-52HX900」シャープもUV2A+4原色の新パネルで今夏「3D AQUOS」を投入東芝も今夏の「3D REGZA」製品投入を予告

 液晶テレビの3D化というのは、技術的にあまり大きな障害がない。既存の4倍速駆動テレビをベースに、アクティブシャッター式メガネとの同期を取る仕組みを組み合わせれば、最低限の追加コストで3Dに対応が可能だ(もちろんメガネ自身はコストアップ要因になるが)。実際には3Dの質を高めるためには工夫や追い込みも必要だが、理屈の上ではひとつ開発すれば、ほかの4倍速モデルにも同じように技術を適用できる。

 ソニーやサムスンといった液晶テレビを3Dテレビの中心に据えたメーカーが、ミドルクラスのテレビも“3Dレディ(メガネを買えば3Dが楽しめる)”にしているのは、本体側の3D対応が容易だからに他ならない。

 3Dメガネ付きの3Dテレビは、それなりに追加コストが必要になってしまうので、ゆっくりと上位モデルから下へと展開していくことになるだろうが、“3Dレディ”のレベルであればミドルからミドルローぐらいの価格帯から対応できる。

 従来の新しいテレビ規格は、いずれも移行のために大きなコスト負担が伴った。ハイビジョンへの移行などは、放送業界も巻きこんで大きなエネルギーと時間が必要だった。しかし、3Dテレビに関しては“追加機能”と捉えて新しいエンターテイメントソフトを楽しむための、ちょっとした投資と思えば、なるほどそんなに大きな価格差ではないことがわかるのではないだろうか。

 


■ プラズマは“3D対応パネルだから”高画質

 一方、プラズマテレビに関しては、3D対応パネルの方が高コストになる。

VIERA VT2シリーズでは、3D対応のために新パネルを採用

 プラズマは単位時間あたりに発光する回数と、発光ごとの発光量調整で階調を表現している。つまり「単位時間」が短くなると発光プロセスに使える時間が少なくなるので、120Hz表示となる3D表示時は1フレームあたりの発光回数が減ってしまう=階調表現力が下がるのだ。

 そこでパナソニックは、Neo PDP Ecoでシングルスキャン化してコストを下げていたにもかかわらず、3D化のために発光パターンを書き込むスキャンを両端から行なうデュアルスキャン化している。これは発光回数(=階調数)を高めるための措置だ。

 通常のプラズマパネルは60Hz時に1フレーム10bitだが、パナソニックのVT2シリーズは1フレーム11bitとなり2倍の階調を表現できるようになった。120Hzでの表示時、単純に考えると従来のパネルは5bit表示(製品版になる前のデモは、すべて5bit表示で行なわれていたと推察される)になってしまう。しかし、製品となったVT2では120Hz時にも6bitの表示を可能にしているようだ(数値は公式なものではない)。

 6bitというと少なくなる感じるかもしれないが、実際には左右の眼に入った像を合成して脳内で認識するため、一般的な2Dテレビを見る際と同程度の階調感は確保されている。

 ただし、デュアルスキャン化はコストアップ要因になるので、簡単に低価格なモデルにまでは適用できない。液晶テレビが4倍速なら簡単に対応できるから3Dレディで販売する……というケースと同じ対応をプラズマテレビに求めるのは難しい。

 だが、実は3D対応プラズマテレビは、プラズマテレビの中でも特に高画質になる。前述したように階調表現能力が2倍に増加するためだ。VT2の場合、同時にコントラストも大幅に向上しているのでこの階調表現力が活きてくる。コントラストが向上するということは、その間の刻みを細かくしなければ、滑らかな階調表現を行なえなくなるからだ。

 付加機能としての3Dも、エンターテイメントとして重要な要素だが、3D化は同時に高画質化ももたらしているということだ。 


■ フルHD化と3D化の違い

「3Dテレビなんて必要なんだろうか?」

 こうした疑問が生まれる背景には、“フルHD化”と“3D化”の位置付けの違いが少々わかりにくいことにあるのだと思う。前述したように3D化というのは、新しいファンクションの追加であって、テレビそのものが大きく異なるものに変化するものではない。3D化によってもっとも大きく影響を受けるのは、映像制作に関わる部分であって、テレビの側ではない。

 あるいは車に例えるとわかりやすいかもしれない。

 “ハイビジョンテレビにするべきだろうか?”という疑問は、車選びで言えば“通常のガソリンエンジンか、ハイブリッドか、はたまたEVか?”という切り口に近い。一方、“3Dテレビにするべきだろうか?”という疑問は、車選びで言えば“カーナビ付きを選ぶか、選ばないか”という選択に近い。そのうち、ほとんどのモデルが標準装備してしまうだろう……という点においても、標準装備カーナビと3D機能はとても近い関係と言えるかもしれない。

 3Dは、あくまでもプラスαのエンターテイメントを求めたものだ。液晶の場合は僅かな追加予算、プラズマの場合はもう少しばかり大きな投資が必要かもしれないが、従来以上の画質が得られるという点ではフェアな価格設定だ。

 入っていても誰も邪魔ではないし、そのうちコスト差もゼロに近くなっていくだろう。3Dテレビが普及するかどうか? という議論もよくあるのだが、標準的なテレビの買い換えサイクルの中で徐々に増えていき、そのうち3D機能があることもあまり意識しなくなる。ほとんどのテレビが“3D対応”になっていくと考えられるからだ。

(2010年 4月 26日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]