買っとけ! Blu-ray/DVD

 

[BD]「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」

シンジ再び体育座り。空白の14年と溢れる謎
旧エヴァを脱却? そして未踏の最終作へ

 このコーナーでは注目のDVDや、Blu-rayタイトルを紹介します。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。

 「Blu-ray発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。

もうBDが出たんです

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q
EVANGELION:3.33
YOU CAN (NOT) REDO.
(C)カラー
価格:
6,090円
発売日:
2013年4月24日
品番:
KIXA-290
収録時間:
本編約105分+特典約36分
映像フォーマット:
MPEG-4 AVC/1080p
画面サイズ:
シネマスコープ
音声:
(1)日本語(リニアPCM 5.1ch)
(2)日本語(リニアPCM 2.0ch)
発売・販売元:
キングレコード

 「あれ、もうQのBDって出るんだ」というのが、劇場で「Q」を観た人の反応で多い気がする。実際のところ、第1作「序」が約8カ月でDVD化、その翌年にBD化。2作目の「破」は公開から1年近くでBD/DVD化されているが、3作目の「Q」は、昨年11月に公開され、半年も経たない4月24日にBD/DVD発売がスタート。「Q」という題名だからというわけではないが、急な印象を持つ作品である。

 また、映画の内容自体にも関係があると思われる。序・破でオーソドックスなロボットアニメに再構成され、新規ファンも獲得した新劇場版シリーズだが、Qは冒頭からちゃぶ台をひっくり返したような展開で、かつてのTVシリーズや、旧劇場版のラスト付近の、破滅的で内向的な雰囲気が色濃く漂い、登場人物達の言動が謎まみれでわけがわからず、シンジはとりあえずウジウジする、まさに“エヴァっぽい”作品に逆戻り。「破」のように、家でもう一度楽しみたいと、BDの発売を今か今かと待つ心理状態でない事も、「あ、もう出るのか」という印象に繋がる理由だろう。

 このコーナーで以前「破」のBDレビューをした時、「サービス満点の王道アニメに変化した事」を嬉しがり、同時に「エヴァだからこのままで終わるはずは無い。引きこもりで30代になったシンジ君が布団で目覚めるような“超ちゃぶ台返し”が起きるのでは」と書いたところ、読んだ周りの人から「どんだけ(旧作の)トラウマ負ってるんだよ」、「考えすぎだ」と笑われた。

 だが、「Q」は簡単に言うと、「破」で14歳だった前向きシンジ少年が、レイを助けようと頑張った結果、何かの箱に凍結・封印され、復活したら14年経過しており(14+14=28歳? 外観は14歳のまま)、いろいろあって、ウジウジ少年に戻る話だ。劇場で「だから言ったじゃないか」と半泣きだったのは言うまでもない。

“旧エヴァ”を早足で駆け抜ける

 “セカンド・インパクト”と呼ばれる大災害で、人類の半数が死滅したものの、復興しつつある日本。14歳の少年・碇シンジは、疎遠だった父に呼び戻され、ネルフという組織に所属。第3新東京市で「使徒」と呼ばれる正体不明の巨大生物と戦う事になる。彼に与えられたのは対使徒用に開発された人型兵器エヴァンゲリオン。陽気な上司・葛城ミサトや、同じエヴァのパイロットで、無口な少女・綾波レイや、勝気で自信家の少女式波・アスカ・ラングレーとの関わり合いの中で、シンジは今までの自分を変えるキッカケを掴んでいく。

 そんな最中、アスカが使徒の侵食などで戦線を離脱。レイは第10使徒に捕食される。彼女を救うため、シンジ+初号機は戦線に戻り、彼女を救い出すが、初号機は光の巨人へと変化。“サードインパクト”発生かと思われたが、空から謎の少年・渚カヲルによって投げ落とされた“槍”が貫き、それを停止する。

 それから14年後。覚醒したシンジが目にしたのは、以前とは変わり果てた世界。ミサトやリツコ、アスカ、マリらはネルフに敵対するWILLE(ヴィレ)と呼ばれる組織に所属し、シンジがもう初号機に乗る必要は無いと語り、シンジが助けたと思っていたレイは、既に存在しないと告げる。

 だが、ミサトが艦長を務めるWILLEの空中戦艦「AAAヴンダー」を、レイの乗ったエヴァが襲撃。シンジをネルフへと連れ去る。だが、シンジが戻ったネルフは廃虚のようになっており、レイも、人間的な感情を見せていた以前の彼女と様子が異なる。さらに、謎の少年渚カヲルに見せられた第3新東京市は、地獄のような有様になっており、そこでシンジは、自らの14年前の行動が、この惨事の引き金になったと聞かされる……(※あらすじは公式なものではなく、私が書いたものなので、設定や時間経過などは正確ではない可能性があります)。

 Qという作品が難しく感じる最大の理由は、いきなり14年経過している事と、どのキャラクターも親切に「あれからこうなりました」と説明してくれないためだ。観客は寝起きで混乱するシンジと同じ状況に置かれ、散りばめられた情報から、14年間に何があったのか推測するわけだが、考えている間にも次の展開と謎が追加され、世界もどんどん崩壊していくため、頭をフル回転させていないと「わかんないから考えなくていいや」とギブアップしたくなる。

 この説明不足の置いてけぼり感、お腹いっぱいなのに大盛り定食が追加される情報量の過多具合、登場人物全員が自分の事に手一杯でシンジに冷たく、短く無神経な言葉を突き刺す感覚。大半の観客はポカンとし、残りの考察大好きコア層が「キタキタ」とほくそ笑む。ああこれぞエヴァである。むろん、これは監督の狙い通りのはずだ。

 理解の一助として、「破」の最後に入っていた「Q」の予告映像が使える。この予告では、14年前に初号機が凍結された事、ネルフスタッフが幽閉され、リリスのいるセントラルドグマへエヴァ6号機が向かったことなどが、極めて短いが、映像と共に語られる。だが、実際の「Q」で描かれたのは、ここで予告された14年間の物語の“後の話”と思われ、なんというか、破とQの間で、映画1本分抜かされたような気持ちだ。この予告を何回か再生し、「いろいろあったんだろうな」と想像を膨らませた後で、Qを落ち着いて鑑賞すると、理解しやすくなるような気がする。

 この、“何か重要な部分が抜けた感”は、Qの鑑賞後、結局この映画で物語がどのくらい進んだのか? を整理すると鮮明になる。アクションパートが多く、映像的なスペクタクルが強烈で、地球と人類に与える被害が天文学レベルなので誤魔化されるが、ぶっちゃけ話はたいして進んでいない。「シンジは寝たままだから別にいいや」と、本来Qとして描かれるハズだった壮大な話の、前半を切り落とし、後半だけが映画になったのではという気すらしてくる。

 逆に、この短さだからこそ、謎は多いものの、完全に観客が置き去りにされてはいない。「よくわからないが、こういう事なんだろう」と、ストーリーの大筋が把握できるギリギリのラインに観客は繋ぎ止められている。これは興味深いポイントで、複数回見ればぼんやりとした足場が強固になる。劇場公開から早期にBD/DVD化されたのも「Qで離れず、次にもついてきて」というメセージかもしれない。

 同時に、Qという作品自体の雰囲気、血まみれの色使い、レイアウト、さらには鑑賞後の「で、どうなったのこれ?」感まで、旧劇場版の最後「THE END OF EVANGELION」(Air/まごころを、君に)を想起させる事も、無関係ではないはずだ。おそらくはこの作品をもって、“従来のエヴァ”のゴール地点に辿り着き、それを完全に脱却する第一歩を踏むという事なのだろう。その意味では非常に重要な作品だ。

 惜しむらくは、明るく、息抜きできるシーンがほとんど用意されていない点だ。渚カヲル×シンジは男同士でイチャイチャしまくるので、そういうのが好みな人にはたまらないと思うが、個人的にはアスカの猫耳風ヘルメット&帽子に、僅かな心のオアシスを求めるので精一杯だった。マリが戦闘していないシーンなど、もう少しシンジ以外のキャラクターの生活・感情描写をキッチリ入れて欲しかったところ。これもQに急造感を感じる一因だろう。

 いちおう空中戦艦「AAAヴンダー」のクルーとして、新しい美少女キャラなども登場しているが、声が沢城みゆきや、大塚明夫、大原さやかなどお馴染み揃いであまり新鮮味が無い。大塚明夫声を乗せた空中戦艦が、大昔にどこかで聞いたBGMに乗せて登場するシーンは完全にネモ船長+ニューノーチラス号であり、「エヴァ観るつもりがナディアになってた」と爆笑してしまった。

天変地異を盛り上げる低音

 従来のエヴァを脱却し、新しい物語へと踏み出す作品だけあり、序・破でビスタサイズだった映像は、Qでシネマスコープサイズ(1:2.35)に変わっていている。「同じシリーズなのだから統一してよ」という気もするが、“今までと違うんだぞ”という意気込みは伝わってくる。

 今作でも3DCGは多用されているが、手書きキャラクターとの質感的な融合は進歩を続けており、エヴァだけでなく、前述のヴンダーや廃虚となったネルフ本部の建造物などが、浮いて見えず、ぼんやり鑑賞していると3DCGだという事を忘れてしまう。冒頭、宇宙空間で展開する“US作戦”では、エヴァの三次元的な挙動の複雑さと、それによって生み出される動きの気持ちよさに唸らされる。

 エヴァ同士の格闘戦も、巨大な質量&パワーを持つ物体同士が、力をため、振り下ろし、ぶつかりあう、躍動感と衝撃の描写が秀逸。観ていると、一撃一撃に感情移入してしまい、思わず肩に力が入ったり、奥歯を噛み締めたりしてしまう。終盤にかけては、“んなバカな”としか言えないほどスケールの大きな天変地異も発生する。上手くやらないとスケールが大きすぎて、嘘っぽくなって白ける危険性があるが、手前にある小さなビルや、謎の巨人達が、巨大な力に巻き上げられ、ずり落ち、破壊されていく細かな描写が丁寧であるため、映像に説得力がある。

 ビットレートは30Mbps後半がメインで、40Mbpsを上回る事も頻繁。後半につれ、その傾向が顕著だ。廃虚のシーンが多いため、暗部が浮かないように注意しつつも、階調が良く出るようなセッティングにすると、画面の情報量が増え、地球の荒廃ぶりが雄弁に伝わるようになる。それにしても、廃虚と化した第3新東京市に散らばる、おびただしい数の戦車や巨人(量産したエヴァ?)は何なのだろう。ネルフと国連が戦争でもしたのだろうか。

 冒頭の宇宙空間から後半の天変地異まで、音声面はサブウーファが大活躍だ。この壮大なバトルは、地鳴りのような低音と共に鑑賞するのが正しいスタイル。近所迷惑にならない範囲で、できるだけ大音量で楽しみたい。フォーマットはリニアPCM 5.1chのみとシンプルになった。

 ネルフの廃墟はすっかり風通しがよくなったことで、そこで奏でられるカヲルのピアノが実に伸びやか。会話中も風の音がしっかり耳に入るボリュームまで上げると、空間の広さが出て爽快だ。だが、その音量のままバトルシーンに突入すると、かなりの低音が部屋を揺さぶるので注意が必要だ。ちなみにピアノの連弾シーンは実写の演奏映像をトレスして作画したとのことで、指の細やかな動きを、よくアニメで根気よく再現したものだと関心してしまう。バトルシーンを除くと、このシーンが、作品の大きな盛り上がりとなっている。

撮影に使われた巨神兵の、頭部のみのレプリカ
(C)2012 二馬力・G
新作短編に向けて作られた、巨神兵のひな型。竹谷隆之氏によるもので、合成樹脂や金属が使われている
(C)2012 二馬力・G

 特典映像の見所は3DCGを使ったシーンのメイキング。今回もナレーションや細かな説明はなく、レイヤーやエフェクトを重ねていく行程が淡々と展開するが、付属の冊子に説明が少し書かれているので、これを片手に鑑賞すると良い。CGと手書きの融合度合いが深く理解できるほか、下書き部分に書かれたメモ書きなどもBDの解像度では読み取れる。なお、初回特典としてサントラCDも収録。テーマソングである宇多田ヒカルの楽曲も収録されている。

 また、特典映像と言っていいのかわからないが、庵野秀明氏の盟友・樋口真嗣監督による特撮映画「巨神兵東京に現わる」が、Qの冒頭に収録されている。もともとは企画展「館長庵野秀明 特撮博物館」での上映用に作られたもので、長年培われ来た日本の特撮技術を再結集して風の谷のナウシカに登場する巨神兵(どちらかと言うと漫画版)が、東京を焼きつくすというもの。詳細は企画展のレポート記事にも書いたが、博物館では、樋口監督と特撮スタッフが試行錯誤しながら、CGもアニメも使わず、ミニチュアとアイデアだけでこの映像を作り出していくメイキングが流されており、これが実に面白かった。正直言って、あのメイキングと本編をセットにすべきもので、今回のBDにメイキングが入っていないのは理解に苦しむ。ちなみに「Q」のエヴァは、光輪を背負って飛翔しまくりであり、ナウシカの漫画を読んだ人は「まんま巨神兵じゃないか」と思うだろう。

誰も観たことがないエヴァへ

 劇場公開直後から、WebやSNSなどで感想があっというまに広まる現在。まだ映画館に行っていないのに「Qは昔のエヴァに戻った」、「わけわからない」などの感想を目にしてしまい、ゲンナリして足が映画館から遠のいてしまった、BD買うのもどうしよう? なんて人もいるかもしれない。

 確かに昔の雰囲気に近くなり、シンジはところかまわず体育座りするようにはなった。だが、爽快感のあるアクション・シーンは「破」から踏襲されているし、アスカも前向きのままだし、希望も見える。学校から急いで帰ってテレビの前に座ったのに、真っ暗な画面に白い線だけ表示され、抽象的な会話が続くだけだったTV版時代を過ごした事を思えば、絵が動いて物語が進んでるだけでエヴァとしては親切過ぎるくらいだ。ミサトさんのシンジに対する冷たさにちょっと泣きたくはなるが、陰々滅々とした雰囲気も、昔に比べれば大したことはない。

 しかも、映画の最後には最終作「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」の予告まで、アニメ映像でちゃんと収録されている。タイトルが反復記号なのか、横倒しした真顔のニコちゃんマークなのか、もはや読むことすらできないが、予告映像が実写だったり、「作りますけど永遠に公開しない」とか「アニメは1日1時間、3次元の生活も大事にします誓約書にサインした人だけに上映する」とか言い出していないだけで一安心である。

 駆け足気味ではあるが、“従来のエヴァ”を完全に卒業し、新しい地平へとジャンプするための助走的な物語が「Q」だとポジティブにとらえたい。「破」で前向きになったが、自己中心的だったシンジ。まわりの人は大人になっていくのに、14年間、アスカ曰く「ガキのまんま」だった彼が、アスカに手を引かれ、尻を叩かれ、情けなくもおっかなびっくり前に進むのだ。さすがにもう進んでもらわないと困る。

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山崎健太郎