[BD]「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」

大ファンでなくても楽しめる?
「KING OF POP」Blu-rayで復活!!


 このコーナーでは注目のDVDや、Blu-rayタイトルを紹介します。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。
 「Blu-ray発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。

■ マイケル旋風継続中


 
BD版
マイケル・ジャクソン
THIS IS IT

(C)2009 The Michael Jackson Company, LLC.
All Rights Reserved.
価格:4,980円
発売日:2010年1月27日
品番:BRS-69320
収録時間:約111分(本編)+特典
映像フォーマット:MPEG-4 AVC
ディスク:片面2層×1枚
画面サイズ:ビスタ(1.78:1) 1080p
音声:(1)英語
     (DTS-HD Master Audio 5.1ch)
発売元:ソニー・ピクチャーズ
      エンタテインメント

 1月27日にBD/DVD版が発売された「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」は、まさに「KING OF POP」と言える別格の売れ行きで、新記録を次々を樹立中だ。

 2009年11月30日の予約開始初日に、Amazon.co.jpでBD/DVDを合わせた全商品の予約注文数が、同サイト過去最高となる3万枚を記録。

 そして迎えた、発売開始初日にBD版が12.2万枚を売り上げ、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」の累計9.9万枚を初日で突破。BD/DVD合わせて発売初日に16.1億円を売り上げたというから驚きだ。関連イベントやテレビでの露出など、まだまだマイケル旋風は続いていると言える。

 おそらく、大ファンだという人は劇場公開に足を運び、BD/DVDも既に購入済みの事だろう。一方で、「好きだけど、大ファンという程でも……」、「テレビで名曲が流れると、やっぱりいいなぁと思うけど、CDやライヴDVDを買い集めるほどでは……」という、私のような人も多いハズ。

 だが、こんなにも爆発的に売れていると「どんなもんだろう?」と気になるのが人情だ。というわけで、今回は「それほど大ファンでもない人でもTHIS IS ITを楽しめるの?」という視点で鑑賞してみたい。



■ そもそも「THIS IS IT」って?

 「THIS IS IT」というのは、そもそもロンドンのO2アリーナで、2009年7月13日~2010年3月6日まで、50公演が行なわれる予定だった、マイケルのコンサートの名前だ。前回のコンサートから10年以上経過しており、発表会見で「これが最後のライヴになる」、「皆の聴きたい曲をやる」などの発言があったこともあり、大きな注目を集めていた。世界ツアーも考えられていたようで、実現していればマイケルの復活を世界に印象付けるものになっていただろう。

(C)2009 The Michael Jackson Company, LLC. All Rights Reserved.
 しかし、ロンドン公演初日の直前となる2009年6月25日に、ご存知のように彼は亡くなってしまい、幻のコンサートとなってしまった。そこで、ロンドン公演の演出制作を務めていたケニー・オルテガが監督となり、リハーサルシーンや舞台裏の映像を、1本の映画にまとめたのが今回の作品だという。

 映画は、今回のコンサートでバックダンサーに選ばれたダンサー達が、喜びやマイケルへの想いを語るシーンからスタート。次に、全身がディスプレイに覆われたCGの“ミラーマン”が登場。「この中から、マイケルが登場するという演出からスタートするはずでした」というナレーションが入り、まるでそこから登場したようなタイミングで、リハーサルでステージに立つマイケルが登場。1曲目の「Wanna Be Startin Somethin」を鮮やかなダンスと共に披露する。

 映画のジャンルとしては「コンサートの舞台裏に迫ったドキュメンタリー」だが、参加者へのインタビューや舞台裏紹介だけに終始するような、映画のメイキングとは異なる。マイケルのリハーサル映像を繋ぎ、幻のコンサートを擬似的に体験できるようになっている。曲の冒頭に稽古に励むダンサー達の姿や、演出や演奏についてマイケルが指示を出す様子などが挿入。「こうした試行錯誤の結果、この曲はこんなステージになりました」という風に、リハーサル映像が続くという流れになる。

 もっとドキュメンタリー色が濃いものを想像していたので、良い意味で予想を裏切られた。音楽は二の次で「マイケルの素顔に迫る」的な作品だったら、ファン以外には辛い作品になったかもしれない。しかし、“バーチャルコンサート”的な作りになっているため、視聴者は往年の名曲の数々をただ楽しめば良く、非常に観やすい。もちろん“マイケルの素顔”も合間合間に挿入されているので、意外な一面を知ったり、観客を驚かせる演出がどのような過程で生まれたか? というドキュメンタリー的な魅力も上手く取り込めている。

 “観やすさ”という面では、ツアーの自体が「誰もが知ってる名曲をガンガン披露する」というコンセプトで作られている事が、それに拍車をかけている。「Human Nature」、「Smooth Criminal」、「Thriller」、「Beat It」、「Black Or White」、「Billie Jean」から、ジャクソン5時代の「I Want You Back」や「I'll Be There」など、知らない人はいないレベルの曲ばかりなので、音楽に詳しくない人でも楽しめる。

 それにしても、曲そのものが持つパワーが凄い。鑑賞していると足が無意識にリズムを刻んでしまう。この文章も、BDを再生しながら書いているが、少しでもボリュームを上げると耳と意識が曲に持っていかれて一文字も打てなくなる。マイケルの楽曲はR&B的なリズムの心地よさと、シンプルで美しいメロディライン、ソウルフルでありつつ、恐ろしく良く伸びる繊細な高音表現が絶妙なバランスで成り立っており、聴く側に音楽的知識や年代を問わない、ある種の普遍性を持っている事を再確認させられる。

 ただ、コンサートと同じ流れでリハーサルが楽しめるからと言って、コンサートの代わりになるか? と言うと、残念ながら2つ問題がある。1つは撮影機材の問題。なにしろリハーサル映像なので、しっかりとしたHDカメラで撮影されたものと、SD解像度で撮影されたような眠い映像が入り交じっているのだ。アングルの種類も少なく、動きも定点観測的。パンの動きも雑だ。コンサート撮影でよくある、マイケルを追いかけてステージを移動したり、クレーンなどを使って滑らかに上の方から撮影するといった、バリエーションに乏しいのは残念だ。

 曲によって違いはあるのだが基本アングルは3種類で、ステージの下から見上げるように撮影したHDカメラの素材と、ステージ上手の袖から撮影したようなマイケルの横顔HD素材がメイン。時折観客席中央から見たようなアングルも挿入されるのだが、これが低解像度で、マイケルのストライプ柄の衣装に盛大なクロスカラーが発生している。ただ、これらの映像を編集でテンポ良く切り替えていくので、アングルそのものに迫力は無いが、完成した映像としてはなかなか小気味良く鑑賞できる。このあたりは編集の腕が光るポイントだろう。

 バックの演奏がリハーサルでも本気モードなのも良い。マイケルのボーカルもクオリティの高いリハーサル音源から採用されているようで、音質は良好。包み込まれるようなライヴのサラウンド感も出ている。音素材は映像素材が切り替わっても変化しないため、音楽をメインに楽しんでいると、撮影日や解像度の違う映像に切り替わっても、あまり違和感を感じないのだ。

(C)2009 The Michael Jackson Company, LLC. All Rights Reserved.
 もう1つの残念点は、マイケルが100%のパワーで歌ったり、踊ったりしていない事。演出や動きを確認しながらのリハーサルなので当然なのだが、例えば最後に高い声で叫ぶような曲も控えめな声に抑えたり、ダンスも要所要所を締めているのだが、7割くらいの力で踊っている事がわかる。映像の中で「今日はまだ全力で歌うわけにはいかないんだ」とスタッフに話しているシーンもあり、彼が本番に向けて声の調子を整えている最中だという事もわかる。本番ではきっと、120%、いや200%くらいのパワーを発揮し、カリスマ性で圧倒してくれた事だろう。

 ただ、抑えた力でも、彼の歌唱力やダンスの素晴らしさはよくわかる。激しいダンス中でも全て生で歌っており、バラードでの年齢を感じさせない透明感溢れる歌声も必聴だ。ダンスも若い頃の超絶的な動きとは一味違う、キビキビとしつつも、しなやかで、色気のある、独特の味が出ている。彼の半分くらいの年齢のバックダンサーを従えても、マイケルの動きにしか目がいかないのは、彼にしか出せない“オーラ”のなせる技だろう。Billie Jeanの鬼のようにカッコいいソロダンスを見ながら「すいません、この人本当に50代ですか」と呆然としてしまった。



■ 3Dメガネで楽しむコンサート

 前述のように、画質がコロコロ変わる珍しい作品なのだが、途中でいきなり凄まじく高画質な映像が挿入される。ゾンビが大量に登場する「Thriller」や、環境破壊への警鐘を鳴らす「Earth Song」などのために作成された、ステージ上映用のショート映像がそれだ。

 実はこのコンサート、会場の後方に、観客の視界を覆うような超巨大なモニタが配置されており、そこに3D映像を表示。ステージ上の実体パフォーマンスと3D映像を連携させる予定だったらしい。例えば名作PV「Thriller」を3D映像でリメイクしており、様々なゾンビがモニタから飛び出す様を観客が3Dメガネをかけて鑑賞。すると、映像の中に巨大な蜘蛛が登場。それが画面から本当に飛び出してきたように、ステージ上にロボットの蜘蛛が登場。さらに、蜘蛛の中からマイケルが登場し、ゾンビ達と歌を披露する……という段取りが紹介される。

RED ONEのファインダーを覗いているマイケル。右がコンサートの演出制作を務め、映画の監督も務めたケニー・オルテガ
(C)2009 The Michael Jackson Company, LLC. All Rights Reserved.
 こうした上映用映像は単体で完成しているため、非常に高画質だ。しかも、巨大モニタで上映するため、おそらくRED ONEなどの4Kカメラで撮影されたようで、BDにはその解像度をフルHDに落としこんで収録しているが、それでもゾンビのボサボサの髪の毛1本1本が確認できるような、高い解像感が残っている。

 PVの撮影現場のメイキングでは、マイケルが3Dメガネをかけて映像をチェックして大喜びしている姿も収録されていて面白い。コンサートが実現していれば、3D映像を大規模に取り入れた新しい形のコンサートとしても、きっと話題になっただろう。ちなみに、マイケルがステージを去る最後も3Dを活用し、文字通り観客のド肝を抜く演出が用意されている。これはぜひBDで確認してもらいたい。

 ただ、こうした映像は、BDに2D映像として収録されている。ご存知の通り「Blu-ray 3D」の対応テレビやソフトは今年の春頃から順次登場すると思われるため、時期が少しズレた印象だ。もし、コンサートが無事に開催されていれば、その模様を収録したBDは「Blu-ray 3D」のタイトルとして発売され、Blu-ray 3Dフォーマットを牽引する大注目タイトルになっていたかもしれない。もっとも、PV部分のみを3D収録したBDは、いつか改めて発売されるかもしれないが……。

 こうした“3Dを取り入れた演出”は、構想や断片映像を見ているだけでも非常にワクワクするのだが、1つ気になったのは「どういうタイミングで観客に3Dメガネを着脱させるのだろう?」という事。曲の合間にマイケルやスタッフが登場して「みなさーん、配ったメガネかけてくださーい」と言うのも間抜けなので、映像の冒頭にメッセージが流れるのだろうか? でも、途中で実体のステージパフォーマンスに切り替わる場面が多々あったようなので、その都度「メガネをかけて」、「マイケルが出ました! 外して」と表示されるのもカッコ悪い。そのあたりの細かい説明は残念ながら無かった。

 映像のビットレートは、舞台裏とリハーサルステージのどちらも25~30Mbps程度で推移。前述のように画質がコロコロ変わるので全体的な評価はしづらいが、HDカメラでの撮影シーンは高精細で、色味もナチュラル。月光のようなブルーライトの中で歌うシーンは幻想的だ。荒削りな撮影だが、逆に現場の臨場感や生のマイケルの何気ない仕草などもとらえており、これはこれで楽しめる。ミュージシャンに指示を出しながら、尻ポケットにサングラスを仕舞う仕草など「いちいちカッコいいな」とニヤけてしまった。

 特典映像も収録されているが、ある意味、特典映像を組み合わせて本編が作られているようなものなので、「本編と何が違うんだろう?」という疑問があった。しかし、再生してみて納得。これは映画版のメイキングであり、「マイケルが亡くなった後」の映像が多く含まれるのが特徴だ。

 面白いのは関係者へのインタビュー。コンサートの依頼を承諾したマイケルが、「子供達が大きくなり、僕も今なら(自分のコンサートを彼らに)見せてあげられる」と語っていたエピソードや、プロのダンサー達から見たマイケルのダンスの“凄さ”、ミュージシャンから見た“音楽的才能”など、興味深い話が続く。

 「体の動きがいくら美しくても、それはダンスじゃない。ダンスの本質はフィーリング。音楽に合わせて踊るマイケルのダンスは“楽器”になっていて、もし耳が聞こえなくても彼の動きで音楽がわかる」という分析や、「(マイケルが生歌にこだわるのは)彼が若い頃は、他の歌手はみんな踊りながら、本当に歌っていて、口パクで誤魔化すような真似はしなかった。でも、今ではそんな歌手は少ない」という話が面白い。本編で、耳穴に挿入するイヤーモニターに慣れず、「耳に拳を入れられたみたいで歌えない。普通に自分の耳で聴くように育てられたから」と困っていたマイケルの姿と合わせて、印象に残った。

 私生活のエピソードは爆笑。ケニー・オルテガがネバーランドに招かれ、真面目な話をしていたらしいのだが、窓の外を普通にゾウが通り過ぎ、マイケルは平然とした顔で会話を継続。耐えきれずに「ちょっと待ってくれ! ここはアフリカかい!?」と突っ込んだという。コンサートのアイデアを出し合う会議でも、マイケルが「こんな感じでやりたいんだ」という話の流れで、アカペラで歌い始め、全員がその歌声を聴いて部屋が静まり返る一幕が。「あのマイケルが歌ってる中で、会議に集中なんてできるわけない」と語るスタッフに「そりゃそうだ」と笑ってしまった。

 狭き門を突破し、ダンサー達がマイケルと踊るまでの道のりに密着したコンテンツは、1つのオーディション番組として楽しめるほどのボリューム。ダンサーにとって彼の後ろで踊る事がどれほど名誉な事なのかが非常によくわかる。

 選ばれたダンサー達は、どれもキャラが立っており、特に「マイケルオタク」のチャッキーが最高。マイケルの大ファンで、テレビでマイケルの動きを見てダンスを覚えたという彼は、周囲から「マイケル百科事典」とからかわれるほどステップを熟知。採用条件以下の165cmという身長ながら、マイケル完全コピーのダンスで審査員やマイケル本人を驚かせ、見事に採用。練習中も振付師のミスを指摘するなど、素晴らしいオタクぶりに感動した。

 ほかにも、数百万ドル分のクリスタルを使った衣装の紹介や、マイケルがダンスする時に絶対必要な靴があり、彼がそれを100個持っている事、マイケルがあまりインターネットに詳しくない事など、スケールの大きな事から小さな事まで、面白い情報が詰め込まれている。

 なお、PlayStation 3ユーザーはXMBの「ゲーム」列からインストールできる、専用壁紙(テーマ)も忘れずに見ておきたい。選べるのは1種類だが、「テーマの適用」を何度か選ぶと、ランダムで黒バックのものと、水色バックのものが現れる。BD-LIVEにも対応しているが、ダウンロードできるのはディスクにも収録された予告編なのが残念だ。


■ KING OF POPの復活

(C)2009 The Michael Jackson Company, LLC. All Rights Reserved.

 幻のコンサートに参加した気分を味わえると同時に、マイケルの素顔も垣間見えると言う意味で、ファンでなくても楽しめるバランスの映画になっていると感じる。

 映像素材のクオリティがバラバラな事や、実現しなかった演出アイデアを聞くたびに、「せめてリハーサルの撮影をもっと本格的にやっていれば」とか、「せめて初日を迎えていれば……」など、悔しい気持ちは募る。しかし、舞台裏からでも“KING OF POP”の復活を十分印象付ける作品になったと言えるだろう。

 ファンにとっては再生するたびに、彼の新たな一面を発見できるマストアイテムだ。ただ、そこまでファンではない人にとっては、“一度は観るべき映画”なのだが、本気モードで最後まで歌っている曲が少ない事もあり、「あの曲が聴きたいな」と、CD気分で何度も再生する事は少ないかもしれない。

 全編を通して一番印象に残ったのは、マイケルの非常に謙虚な姿勢だ。スタッフやミュージシャンに指示を出す時も、必ず「ありがとう」と付け加え、ハグも頻繁に行なう。気に入らない部分を訴える時も、「今のは怒ってるんじゃないんだ、愛だよ、LOVEなんだ」と笑顔で続ける。大スターとは思えない謙虚さに驚くと同時に、「気疲れするタイプの人だろうなぁ」と余計な心配をした。5年ほど前に「ムーンウォーカー」と「ネバーランディングストーリー」を「買っとけ」で取り上げて喜んでいた身で偉そうな事は言えないが、諸問題で世間を騒がせた頃は、繊細な彼にとって相当精神的な負担が大きかった事だろう。

 リハーサルの最後で、マイケルは共にステージを作り上げるスタッフと輪になり、「世界に愛を取り戻そう」という、非常に感動的なスピーチを行なう。世間からいろいろ言われた日々を経ても、彼の人間に対する希望や、先を見据えたメッセージは一貫していた。映画「ムーンウォーカー」の冒頭、「Man In The Mirror」で溢れんばかりのカリスマ性を発揮していた頃と変わっていない姿に、胸が熱くなった。



●このBD DVDビデオについて
   
 購入済み
 買いたくなった
 買う気はない

 


前回の「G.I.ジョー」のアンケート結果
総投票数493票
購入済み
117票
23%
買いたくなった
243票
49%
買う気はない
133票
26%

(2010年2月2日)

[AV Watch編集部山崎健太郎 ]