第263回:[BD]「G.I.ジョー」

“やり過ぎ”くらいがちょうどいい!?
光学迷彩/特殊スーツ/音波砲のテンコ盛り


 このコーナーでは注目のDVDや、Blu-rayタイトルを紹介します。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。
 「Blu-ray発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。

■ アクションフィギュアの代名詞が映画化



G.I.ジョー ス
ペシャル・コレクターズ・エディション

G.I. JOE: THE RISE OF THE COBRA
(C)2009 Paramount Pictures Corporation.
All Rights Reserved.

価格:4,935円
発売日:2009年12月11日
品番:PPWB-114512
収録時間:約118分(本編)
映像フォーマット:MPEG-4 AVC
ディスク:片面2層×1枚
画面サイズ:16:9(ビスタ) 1080p
音声:(1)英語
      (DTS-HD Master Audio 5.1ch)
    (2)日本語(ドルビーデジタル5.1ch)
    (3)タイ語(ドルビーデジタル5.1ch)
    (4)コメンタリ
発売元:パラマウント ジャパン株式会社

 男性読者なら、子供の頃に戦車や戦闘機のプラモや、ヒーローのフィギュアなどに熱中したという人も多いだろう。大人になった今でも、部屋に入るとスナイパーのフィギュアに狙われるような私のような人間はさておき、シアタールームのAVラックの脇に、スターウォーズやターミネーターなどのフィギュアを飾っている人も少なくないだろう。

 そんなフィギュアにも色々種類があるが、腕や足などが可動し、好きなポーズがとれるものを“アクションフィギュア”と呼ぶ。最近だと低価格ながら可動の自由度が高い「figma」が知られているが、世界的な代名詞と言えば「G.I.ジョー」だろう。

 '64年、ベトナム戦争の頃にアメリカの玩具メーカー・ハズブロから発売されたもので、バービー人形をヒントに、男児向け版として登場したそうだ。その後、様々な軍装を再現するフィギュアとしてマニアを中心に親しまれれていくが、'82年から子供向けにイメージチェンジ。サイズを小型化し、正義の軍団と悪の軍団の対決というテーマに変更。それをもとに、アメリカン・コミック化され、「地上最強のエキスパート・チーム G.I.ジョー」というTVアニメも'80年代に製作。日本でも放送された。

 そのアニメ版が、ハムナプトラシリーズで知られる、スティーヴン・ソマーズ監督により実写映画化され、12月11日にBD/DVD発売された。ただ、昔のフィギュアは知っているが、アニメ版は知らないという日本人がほとんどだろう。私も「G.I.ジョー映画化」と聞いて、硬派なミリタリー映画を連想したが、テレビでトレーラーを見たら、ロボコップみたいなパワードスーツ(?)を着た兵士が、マトリックス顔負けの超アクロバット・アクションを繰り広げていて驚いたクチだ。

 映画館では観ていない作品だが、個人的に「ウォンテッド」のような、深く考えずに無茶なアクションで爆笑できる映画が大好きなので、今回BD版を購入してみた。



■ ハイパー・スーツと目立つニンジャ

 舞台は近未来。ガン細胞を破壊するために、ナノテクノロジーを使って作られた“ナノマイト”。それが兵器に転用され、戦車でもビルでも破壊する脅威の最終兵器が誕生した。ナノマイトは爆発的に増殖させることができ、自壊させる停止信号を送らない限り、都市全体をも破壊し尽くす威力を持っている。

 だが、完成したナノマイトをNATO軍基地に輸送中の部隊が、謎の組織“コブラ”に襲われる。NATO軍の兵士デュークとリップコードは反撃するが、音波砲を放つUFOのような航空機“タイフーン”や、銃が効かない兵士達など、コブラの装備はNATO軍を圧倒。そんな彼らを救ったのは、コブラ並の装備を持つ組織、G.I.ジョー。デュークとリップコードは、奪われたナノマイトを取り戻すため、そしてデュークは、コブラ構成員の中に、かつての恋人の姿を見つけたこともあり、G.I.ジョーへの入隊を志願する。

 熾烈な争奪戦が繰り広げられる中、コブラが発射したナノマイト弾頭により、パリのエッフェル塔は倒れ、大惨事に発展。ミサイルは北京、モスクワ、ワシントンも標的にしている。ミサイルの発射は阻止できるのか? 世界の運命はG.I.ジョー達に委ねられた……。

 開始10分くらいでラストが予想できるような単純明快なストーリーだが、随所にドンデン返しが用意されており、意外性はある。それよりとにかく凄いのがアクションシーンの派手さと量。よく「スリル満点のジェットコースタームービー」と紹介されるが、この映画の場合、「話半分で聞いていたら、本当に最初から最後までジェットコースターに乗せられると思いませんでした」とグッタリする。夜戦から室内戦、市街戦、潜水艦バトルから戦闘機のドッグファイトまで、息つく暇もないほど連続する。この“過剰”とも言えるサービス精神がこの映画の特徴だ。

 とにかく冒頭から登場する兵器が凄い。ナノマイトを護衛するNATO軍は、アパッチ(攻撃ヘリ)と装甲車で武装しているのだが、コブラ軍の戦闘機“タイフーン”の動きが若干スターウォーズ入っているのでとてもかなわない。メイン武器は音波砲で、アパッチを一撃で空中分解。ハンドガンタイプでも、NATO兵士2、3人まとめて吹き飛ばせる。コブラの一般戦闘員もロボコップやターミネーター並の耐久力で普通の銃では歯が立たないが、G.I.ジョーはホーミング機能付ボウガン(!?)で、装甲の薄い眼球を射抜いて対抗する。完全に小学生がノートに書く「俺が考えた最強武器」レベルの設定だが、ここまで徹してくれるとスッキリする。

 主人公達が入隊するG.I.ジョーは、23カ国が参加する国際的な特殊部隊という設定で、コブラと同様、武器や装備が現在の軍隊より遥かに進んでおり、透明人間になれる光学迷彩服まで実用化しているが、なぜそんな先進装備があるのか特に説明は無い。登場人物の心理描写、背景説明などはとにかく最小限で、隙あればアクションをねじ込もうという姿勢が凄い。

 看板装備は加速装置を備え、着るだけで車よりも早く走れ、ビルの壁をよじ登り、車が衝突したり、銃で撃たれても平気という“ハイパー・スーツ”。雑なネーミングだが、腕にはホーミングミサイルと、1秒間に50発打てる10mmガトリング・マシンガンを巨大ブレスレットのように装着するワンマンアーミーぶり。これでパリの市街地を暴れまわるので、敵の捕獲以前に周囲の被害が大変な事になるが、国際特殊部隊なので大丈夫らしい。飛んでくるミサイルも、体操選手ばりのアクションで華麗に避けまくり、「んなバカな!!」を連発する最高のアクションシーンに仕上がっている。ちなみにパリのシーンでは本物の車を112台以上破壊しており、“映画史上最高の数字”なのだとか。

 また、この手の映画でよくある、間違ったアジア(というか日本)描写が期待を裏切らないクオリティで炸裂。コブラの暗殺者として、ストーム・シャドウ(イ・ビョンホン)というニンジャが登場するのだが、頭から白いマスクをかぶり、白いバトルスーツ、白い日本刀を背負い、銀色に輝く手裏剣で敵を倒す、「お前はスターにしきのか」という目立ちぶり。イ・ビョンホンは流暢な英語とキレのあるアクションで素晴らしい熱演を見せてくれるのだが、「イ・ビョンホンはアジア人なのでニンジャね」というのも、ある意味ハリウッド的な思考と言えるだろう。

 G.I.ジョー側には、彼の因縁のライバルとして、スネーク・アイズという黒ずくめのニンジャが登場。2人の回想シーンも絶品で、高層ビルの下にスラムが広がる、古臭い“サイバーシティ・トーキョー”なイメージからスタート。子供の頃のストーム・シャドウが食べ物を盗むために、五重塔に挟まれたライトアップバリバリの楼閣のような建物に潜入(お寺のつもりらしい)。相撲取りみたいな太った料理人が、白米の山(用途不明)を鍋に盛っていなくなった隙をついて侵入。そこでスネーク・アイズに見つかり、以降ライバルとして同じ寺で修行をするように……という流れだ。

 寺では皆が拳法の修行をしており、ストーム・シャドウは常に道着で生活(この頃から白い服が好きらしい)。どうやら日本の寺院と少林寺拳法がゴッチャになっているようだ。Blu-rayの解像度だと、厨房の壁の張り紙にある「無くし物の責任は、寺(?)ではありません」という文字がクッキリ読み取れるが、意味は不明だ。ちなみに横書きの紙が、縦向きに貼ってあるので首をかしげないと読めないオマケ付である。


■ 徹するって素晴らしい

 映像はグレインが強めで、青い空などが含まれるシーンでは、ジラジラした色ノイズが目に付く。夜の森の中の戦闘シーンでもかなり粒状感はあるのだが、前述のようにアクションの展開が目まぐるしいのでノイズを気にしている暇が無い。レートは全編を通じて31~35Mbps程度。青と緑が強めの色調だが、肌色の発色も悪くない。色乗りの良い映像で、派手な作風にマッチしている。

 一点気になったのは終盤の雪のシーン。CGで作られた屋外の雪景色はノイズがほとんど無く、クリアな映像なのだが、氷の中に作られた格納庫内部はセットを実写撮影しているのでグレインが強い。そのため、屋外から屋内にカメラが切り替わると、粒子が大きく異なり、違和感がある。砂漠のシーンや航空機など、CG部分が綺麗過ぎて、実写素材から浮いて見えるシーンも幾つかあった。

 サウンドデザインも映像に負けじと派手で、戦闘機が背後に回り込んだり、ミサイルが飛び交ったり、リアスピーカーが大活躍。音波砲を発射する時のの「ヴォーン」という効果音が独特で印象に残る。爆発時の低音もさぞや……と思っていたのだが、意外に中低音が少なく、非常に低い音のみが豊富という面白いバランス。「バーン!!」という爆発した瞬間の派手さはそこまでではないのだが、「ーン…ン……」と後に続く振動が豊富で、部屋を揺さぶる。空間の広さを感じさせる音響になっている。

 特典は、監督・製作総指揮のスティーブン・ソマーズと、製作のボブ・ダクセイによるコメンタリと、メイキング、「次世代アクション」と題したアクションシーンの解説だ。

 一連の特典で関心するのは、監督をはじめとするスタッフ全員が“徹している”ことだ。「僕の仕事は楽しくて、派手な映画を作る事。医者や弁護士の映画なんて撮らない、とにかく観客を未知の世界に案内したいんだ」と断言する監督が、スタッフ達に出した指示が「やり過ぎを基本に」というから小気味良い。

 そんな現場なので、タイフーンの音波砲でバラバラになるアパッチの映像を解説していたCGスタッフも、「ひとたび爆発が始まれば、観客は技術的裏付けなど忘れてこう思うだろう“こいつは凄いぞ、次の爆発はもっと強烈だ”ってね。そんな映像にしなくちゃならないよ」と暴走気味。「予算内に収まるわけもなく、アクションシーンやCGは何倍にもふ膨れ上がったよ」、「ドッグファイトシーンで、製作からまず言われた指示は“観客を吐かせろ”だった」などなど、全員がひたすら“派手な映画”を目指して突き進む姿が面白い。

 出演者のインタビューも、普通は監督の才能を褒め称え、“この作品に参加できてよかった”的な優等生コメントを残すものだが、「演出指導している時の監督は、アクションフィギュアで遊ぶ子供みたいだよ」、「子供時代の彼が目に浮かぶようだ」、「熱中してくると変な顔になって、皆でその顔真似をして大爆笑だった」など、完全に“監督観察”を楽しんでいたようだ。


■ 年末年始にオススメの1枚

 最近のアクション映画では、トレーラーで“美味しい”シーンを出し過ぎて、本編を観に行ったけど、トレーラー以上のシーンが無かったなんて事がよくある。その点、「G.I.ジョー」は「これでもか」とテンコ盛りの皿を押し付けてくるようなサービスぶりで、期待を裏切らない。ハリウッド映画の“強み”を感じさせてくれる作品だ。細かいことは考えず、「んなバカな」と画面に突っ込みを入れながら楽しむには最高の1枚だが、一晩寝たらストーリーを綺麗に忘れる程度の内容なので、その点は期待しないでいただきたい。

 「心理描写とかラブシーン入れる時間があるなら車を爆発させます」というタイプの作品なので、年末年始に家族が集まった時などにもオススメだ。ただ、血が出たり、死体が崩れたりというグロテスクなシーンが少しあるので、小さな子には怖いかもしれない。

 ちなみにこの映画、「続編があるかも」と匂わせながら終わるのではなく、「絶対作りますのでよろしく」という、“やる気満々”のラストを迎える。実際、続編の製作も決定したそうだ。「ハムナプトラ」で誰もが楽しめるアドベンチャーシリーズを手掛けた監督だけあり、このアクションシリーズも“さらなるやり過ぎ”が期待できそうだ。

 
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(2009年12月15日)

[AV Watch編集部山崎健太郎 ]