[BD]「アバター ブルーレイ&DVDセット」

2Dでも十分楽しめる!? SFもののけ姫
3D普及の鍵を握る超大作


 このコーナーでは注目のDVDや、Blu-rayタイトルを紹介します。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。
 「Blu-ray発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。

■ 映像は2Dです



アバター
ブルーレイ&DVDセット

(C)2010 Twentieth Century Fox
Home Entertainment LLC.
All Rights Reserved.
価格:4,990円
発売日:2010年4月23日
品番:FXXA-39603
収録時間:約162分(本編)
【BD版仕様】
映像フォーマット:MPEG-4 AVC
ディスク:片面2層
画面サイズ:16:9(ビスタ) 1080p
音声:(1)英語
      (DTS-HD Master Audio 5.1ch)
    (2)日本語(DTS 5.1ch)
発売/販売元:20世紀 フォックス
ホーム エンターテイメント ジャパン

 2010年の薄型大画面テレビのキーワードは、なんと言っても「3D」だ。先陣を切ったパナソニックの「3D VIERA」ことVT2シリーズは、予定していた23日から前倒しで、21日から量販店などで販売がスタート。売り場ではテレビの前に3Dメガネが設置され、気軽に3D映像が体験できるようになっている。テレビ番組などでも“3D”が新しいトレンドとして頻繁に紹介されており、そういった効果も合わせて量販店のテレビコーナーは盛況。ゴールデンウィーク中も賑わいそうだ。

 そんな3Dブームの発端であり、今後も牽引する作品と言えば「アバター」だろう。「タイタニック」のジェームズ・キャメロン監督が、構想14年、製作に4年を費やした超大作であり、この作品を3D撮影するために新しいカメラシステムも開発。従来の3D映像の概念を変える作品としても大きな注目を集め、世界興行収入歴代1位を記録。各国で歴代興収を次々と塗り替え、タイタニックが約1年半かけて達成した記録を、公開後39日間で突破したのも記憶に新しい。

 日本でも大きな話題となり、それまでも劇場で3D映画の上映は行なわれていたが、「映画館で3D映像を楽しむ」という形を、広く一般に浸透させた作品であるのは間違いない。

 そんな「アバター」が早くも4月23日にBlu-ray/DVD化された。ちょうど(前倒しされる前の)「3D VIERA」と同じ発売日であり、3Dテレビの売り場に置かれるなど、合わせてアピールされる場面も多くなりそう。しかし、気をつけなければならないのは、今回のBlu-ray/DVDに収録されるのは2D映像のみで、新しい3DフォーマットであるBlu-ray 3D対応ソフトではないと言う事だ。

 さらに言うと「3D VIERA」VT2シリーズには2D-3Dの変換機能は備えていないため、2D版「アバター」を擬似的に3D表示する事もできない。AV Watch読者的には“言わずもがな”的な話だとも思うが、3Dテレビ登場と「アバター」Blu-ray発売が重なっているので、「セットで買えば、家でアバターが3Dで楽しめるのでは?」と考える人も多いと思うので、その点は注意したい。

 現時点で正式に発表されているBlu-ray 3Dソフトは、3D対応ブルーレイDIGAやプレーヤーの購入者先着3万名に、同梱されるパナソニックオリジナルの「お試し版ブルーレイ3Dソフト」(自然の映像や映画の予告編を収録)。もしくは、3D VIERA、3D対応ブルーレイDIGAの購入者向けプレゼントキャンペーンとして、プロゴルファー石川遼選手の「Go for Dream Ryo Ishikawa」と、20世紀FOXのCGアニメ「アイジ3」の2枚が5月下旬頃からプレゼントされるというもの。そのほかでは、ディズニーが今冬に「クリスマス・キャロル」をBlu-ray 3Dを発売する事をアナウンスしている。

 また、2D版ソフトのラインナップにも特徴がある。BD+DVDのセット(FXXA-39603/4,990円)と、DVD単品(FXBA-3960/3,490円)のみで、BD単品版は用意されていない。特典映像も一切収録されておらず、とりあえず本編をいち早く届けるバージョンという印象を受ける。現在のところ日本における具体的なアナウンスはされていないが、将来的にはBlu-ray 3D版もリリースされる事になるだろう。

 なお、一部のPC用再生ソフトや、ソニーのBDレコーダ、東芝のBD内蔵「REGZA」などの一部機種で再生不具合が報告されている。再生前に、ソフトやファームウェアの最新版へのアップデートや、各メーカーの最新情報の確認をオススメしたい。


■ 驚異的な映像。物語はシンプル

 舞台は22世紀。地球から遠く離れた星・パンドラに人類は進出した。目的は、貴重な鉱石「アンオブタニウム」。しかし、大地の上には広大な森が広がり、「ナヴィ」と呼ばれる先住民が暮らしている。彼らと交渉し、立ち退いてもらうため、人類は学校を建てて「アバター」を介して英語を教えるなど、コミュニケーションを試みるが、なかなか成果が出ない。

 「アバター」とは、人間とナヴィの遺伝子を組み合わせて作り出した、ナヴィ族そっくりの肉体の事。アバターには人間の意識を送り込む事ができ、自在に動かせる。そして、アバターを使った新たない計画として、アバターをナヴィ族の中に送り込み、信頼関係を築いて、立ち退き交渉をしようという試みがスタートした。ナヴィ族の中に送り込まれる男として白羽の矢が立ったのは、元海兵隊員のジェイク・サリー。もともとは、研究者である双子の兄の役目だったが、兄が不慮の死を遂げたため、アバターの“使い回し”が可能な、同じDNAを持つジェイクに要請が来たのだ。

 ジェイクは戦闘によるケガで下半身不随だったが、人間よりも遥かに身体能力が優れたナヴィ族の肉体を得て喜びに包まれる。そんなある日、パンドラの森で怪獣に襲われた所を、ナヴィの族長の娘・ネイティリに救われる。彼女から、自然と調和し、動植物を敬うナヴィの文化や生き方を教わるにつれ、彼らに尊敬の念を抱いていくジェイク。だが、彼の任務はナヴィ族を森から立ち退かせる事。交渉が成功しなければ武力行使が待っている。人間とナヴィの間で板挟みになったジェイクは、命がけの決断を下す……。

 ストーリー自体にあまり新鮮味は無いが、映像は超一級。IMAX上映を前提に映像が作られているため、BDのフルHD解像度に落とし込まれても、もともとの解像感の高さがよく分かる。主な舞台は森林だが、木の葉の1枚1枚までディテールが確認できる。ナヴィ族の肌の模様や、髪の毛の編み込み、基地の建物や戦闘機の細かなディテールなど、全てがクッキリと描写され、曖昧な描写がほとんどない。

 普通のSF映画でここまで細部を鮮明に描写すると、アラが見えて世界が作り物っぽく見える危険性があるが、アバターの場合は逆に“見られても大丈夫”と言わんばかり。空中に浮かぶ岩山のスケール感や、夜光性の植物が生み出す万華鏡のような夜の森の美しさ、獰猛な肉食獣のなめらかな筋肉の動きなど、CGではあるが実在感のある映像ばかりで、情報量の多さに圧倒される。

 見所はやはり身長が3mくらいあるナヴィ族。最初は「うわ! デカッ!!」、「なんでこんなに肌が青いの!?」という印象を抱くのだが、森の中を縦横無尽に疾走する姿や、豊かな表情などの変化が見事に作り込まれており、鑑賞していると次第に違和感が無くなり、終盤にはヒロインのネイティリが「可愛いな」と思えてくる。

 物語を一言で表すと「郷に入っては郷に従え」だろうか? エイリアンが出てくると問答無用でぶっ飛ばしていた昔と比べると、ハリウッド映画も随分変わったものだ。ブッシュ政権時代に公開されていたら痛烈な皮肉になったかもしれない。

 基本構図としては、『鉱石資源の金銭的価値しか頭にない民間軍事会社の責任者』&『ナヴィ族にミサイル打ち込みたいマッチョな大佐』というグループと、『ナヴィ族を尊重し、神秘的な森の価値を評価する科学者グループ』の対立が軸になっている。このマッチョ大佐の存在感が強烈で、まさに“頼れるアメリカ軍人像”を具現化したようなキャラ。豪放磊落、驚異の戦闘能力の持ち主で、かつてキャメロン監督が手掛けた「エイリアン2」に登場した「パワーローダー」そっくりの二足歩行兵器に乗ってナヴィ族の前に立ちはだかる。昔のハリウッド映画なら主人公になっていたであろう彼が、悪役に回ることで、これまでのハリウッド映画へのアンチテーゼを強く感じさせる部分だ。

 パンドラの星に広がり、“世界そのもの”と言えるほど広大な森や、空を覆うよう大木、強大な力を持つ動物達を、恐れ、敬いながら、調和して暮らす……という設定は、日本の映画で言うとジブリの「風の谷のナウシカ」や「もののけ姫」などを連想させる。

 だが、ストーリー展開は良い意味で単純で、「森や巨大な虫は全部人間が作ったものでした」(ナウシカ漫画版)、「結局人と森は調和できませんでした」(もののけ姫)などの作品ほど、鑑賞後に深く考えさせられるものではなく、最後は結局ナヴィ族と人間の殴り合いに発展。ハリウッド映画らしい“大クライマックス”へと雪崩れ込んでいく。

 ただ、個人的にはこれだけ映像が凄い作品で、例えばメッセージ性を重視して抽象的な描写で幕を閉じたり、「答えは観る人の数だけあるのだ」的なまとめにしなかったのは大正解だと感じる。凄まじい映像で観客をパンドラの世界に引込み、ちょっとひねりのある物語で飽きさせず、最後はスカッと大爆発でハッピーエンド。エンターテインメント大作のお手本のような仕上がりであり、この“王道感”が映像のスケールにマッチしていると思う。


■ 3D版と比べると……

 気になるのは劇場で観た3D版と比べてどうか? という点。最初に違いを強く感じたのは、冒頭、宇宙船内部で冷凍睡眠から目覚めたジェイクが、冷凍カプセルから引き出されるシーン。手前にいるジェイクにフォーカスが合い、画面奥に向かって無数のカプセルが並んでおり、3Dの強烈な立体感を最初に観客が体験するシーンだ。劇場で観た時は、その奥行感で“宇宙船の大きさ”を強く感じたのだが、2Dで鑑賞すると「あれ? それほど大きな宇宙船でもないな」と感じてしまう。

 パンドラの密林も同様。手前に若干飛び出た草と、その奥に広がる森の“深さ”に3D版では感動し、そこに迷い込んだような一体感を感じたが、2D版では“情報量の多い森のシーン”とは感じるものの、映像の中へ没入していく感覚は弱い。

 中盤から終盤にかけては、東京タワーより遥かに高いような巨木の枝から飛び降りたり、翼竜に乗ってのスカイアクションを展開するなど、高低差を強調した演出が多い。3Dで鑑賞すると、奥行だけでなく、地面を見下ろした時の“高さ”もリアルに感じ、本当に高所に立っている時のような足の裏がゾクゾクするような感覚を覚えたが、2Dの視聴ではその感覚も乏しい。

 このように、従来の3D立体映像は、スクリーンから飛び出たオブジェクトが、鼻の頭でクルクル回転するような観客をおどかすような演出が多かったが、「アバター」の3Dは奥行や高さを強調させ、映像への没入感を高める事に終始しており、“こけおどし”的な3D演出がほとんど無い。それゆえ“地味な3D”とも表現できるが、2Dと比べると確かに没入感は3Dの方が高く、効果はあったと感じる。そもそも映画の魅力は、巨大なスクリーンで視界を覆い、サラウンド音声に包まれる事で、“映画の世界に入り込む事”にあり、その基本が確認できると共に、魅力の向上に3Dが寄与できるのは間違いないだろう。

 ただ、現時点では単純に3Dの方が全ての面で優れているとは言えない。例えば「アバター」の場合、IMAXでの上映を前提に作られているため、国内ではIMAXデジタルの3D上映館で鑑賞するのがベストだが、川崎(神奈川)、菖蒲(埼玉)、名古屋、箕面(大阪)と、いかんせん劇場の数が少ない。他方式では「XpanD」、「Real D」、「Dolby 3D」などが存在するが、色再現性や輝度の低下、メガネの重さなどで各方式一長一短である。

 なお、パナソニックやソニー、東芝、シャープなど、各社から登場する家庭用の3Dテレビは、基本的にフレームシーケンシャル方式で3Dを描写するため、劇場の方式としては「XpanD」が最も近いだろうか。今回、「XpanD」で鑑賞した記憶を思い出しながらBD版と比べてみた。ただし、輝度などの面で実際の3DテレビがXpanDと同じ表示になるわけではない。参考程度にとらえてほしい。

 「XpanD」は他方式と比べて、フレームシーケンシャルの映像をアクティブシャッターメガネで観るため、3D視聴時の輝度の低下が大きい。劇場とホームシアターをそのまま比較するのは無理があるが、BDの2D映像をホームシアター用プロジェクタ(1,600ルーメン)で投写し、約100インチで鑑賞すると、劇場のXpanDとは比較にならないほど明るい。森の緑やナヴィ族の肌なども色鮮やかで、コントラストも高い。XpanDの劇場で鑑賞中、3Dメガネを外してみた人は少ないだろうが、実際外してみると、3Dに見えなくなる代わりに、スクリーンの輝度や鮮やかさが格段にアップする事に驚くだろう。

 4月12日にシャープが発表した3D液晶技術は、光の利用効率を高めて“3D表示時も明るい”事をアピールした内容になっていたが、今後、3D対応テレビの評価では、立体感だけでなく、3D表示時の輝度や色味、階調表現などが、2D表示時から“どのくらい低下しないか”が重要になってくるだろう。3Dテレビを観る際は、ぜひその点も念頭に置いて体験して欲しい。

 また、方式に限らず、3Dではシーンが変わるたびに、どこに目の焦点を合わせればいいのか、慣れるまでわかりにくい部分もある。162分もある「アバター」のような長編作品では、疲労も大きい。フレームシーケンシャルで使われる、アクティブ液晶シャッター型の3Dメガネは、他方式と比べると大きく・重くなりがちなので、装着による負担も無視できない。筆者はメガネをかけているが、「XpanD」用メガネをその上にさらに装着し、劇場で最後まで鑑賞した時は正直かなり疲れた。周囲の客席からも同様の声が漏れていたので、今後の家庭用3Dメガネでも“軽さ”、“かけやすさ”が重要な要素になるだろう。

 サウンド面では、映像に負けないジェームズ・ホーナーによる重厚なBGMが必聴。サラウンドとしては環境音の使い方が上手く、風で木の葉がこすれる音、小川の流れる音、動物の雄叫びが森にこだまするエコーなどで、空間の広さが表現される。低音成分は終盤のバトルで爆発するが、作品全体としては少なめ。BGMの静かな迫力で迫る、センスの良いサウンドデザインになっている。

 最後に3Dと関係無いが、162分という長時間のため、劇場ではメガネよりも、座り続けたお尻の方が痛くなった。今回のBD版も家のリクライニングチェアで鑑賞していたが、お尻の負担は高く、ホームシアター用の“長時間座っても疲れない椅子の重要性”についても痛感した。色々な面で、“快適さ”について考えさせられる映画である。


■ 3D版の発売まで待つか否か

 映画全体の感想をぶっちゃけると、「中身はともかく映像が凄い」の一言に尽きる。劇場で3D版を観た人は、2D版に物足りなさを感じるだろうが、2D版でも十分に“映画の進化”を感じさせる映像になっており、BDソフトとして超高画質な1枚である事に間違いない。特典などは付属しないが、BD+DVDセットで4,990円と通常の洋画大作BDの価格に抑えられており、購入して損のない1枚だ。

 問題は“3D版まで待つか否か?”だが、3D対応はソフトだけ買えば済むというわけではないので、“3D再生環境をいつ頃までに整えるつもりがあるのか?”にかかってくる。テレビは現時点では、各社の大型・ハイエンドモデルであり、相応に高価だ。プレーヤーはPlayStation 3がファームアップで対応を予定しているため追加投資はいらないという人も多いだろうが、間に入るAVアンプを、3D対応のものに変える必要が出てくるかもしれない。HDMI 1.4a以前のAVアンプで3D映像が通るものがある可能性もあるが、これは実際にBlu-ray 3D映像を通してみないとわからない。

 おそらく「しばらくは2D環境のままだな」という人が多いだろう。そう考えると、ソフトを買っただけでは3Dで観られないため、今回の2D版をとりあえず購入しておくというのもアリだろう。内容的にもゴールデンウィークなどで、家族や友人、恋人など、幅広い層の人と一緒に楽しめる1本だ。


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(2010年4月27日)

[AV Watch編集部山崎健太郎 ]