ミニレビュー

考えずに感じて設定。PS5「3Dオーディオ個人最適化」を試す


(C)2024 Sony Interactive Entertainment Inc. All Rights Reserved.

7月25日、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、PlayStation 5(PS5)の新システムソフトウエアのベータ版を公開した。

「ヘッドフォンでの個人用3Dオーディオプロファイル」作成が可能となったので、さっそく試してみた。なお、このベータ版は、一部の参加者を対象に提供されているもので、全ユーザー向けには後日配信が予定されている。また、正式リリース版では変更される可能性もあるのでその点はご留意いただきたい。

発表時からの悲願「HRTF個人最適化」に対応

PS5にはTempest 3Dという、いわゆる3Dオーディオ機能が搭載されている。ヘッドフォンでの利用が前提ではあるが、PS5の発売以来、システムソフトウエアのアップデートに合わせ、「テレビのスピーカーでの再現や最適化」をはじめとして、より幅広い環境で使うための機能が搭載されてきた。

今回はヘッドフォン・イヤフォン向けの改善。SIE純正の「PULSE」シリーズはもちろん、一般的なヘッドフォン・イヤフォンをコントローラーのDualSenseにつないだ場合に有効な機能である。

具体的には、「使う人に合わせ、より自然な立体感を得る」ためのプロファイルを設定できる、というものだ。

これは俗に「HRTF(頭部伝達関数)」と呼ばれるもの。音は個人の頭部や耳の形状などによって微妙に伝わり方が変わってくる。それをパラメータ化したのがHRTFなのだが、3Dオーディオでは、「個々人による立体感の感じられ方の違い」に大きく影響してくる。

過去の記事より。左が標準設定のHRTFで、右がPS5・リードシステムアーキテクトのマーク・サーニー氏のHRTF。けっこう形が違う

本来、HRTFはそれぞれの個人に応じて最適なものを選んだ方がいい。

スタジオなどで計測して設定するのが望ましいのだが、それはなかなかに大変だ。

PS5開発時にHRTFを計測している様子
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というわけで、ソニーの「360 Reality Audio」やアップルのヘッドフォンでは、スマホで頭や耳の写真を撮って、そこからHRTFを推定して算出する仕組みが使われている。

アップル製品ではiPhoneに耳の写真を撮影してHRTFを推定し「空間オーディオ」を最適化する機能が組み込まれている

ただ、今回SIEが採った仕組みは異なる。

簡単に言えば、「自分に音がどう聞こえたか」を答えていくことで、自分の耳に適切であろうと思われるHRTFを探り、そこからプロファイルを作っていく。別途スマホを用意する必要がないので確かに手軽ではある。

実は以前から、自分向けにプロファイルを設定する機能はあった。ただ、既存のものは「音の上下」を設定する簡易なものであり、効果は限定的だった。

現在、正式版のシステムソフトウエアに組み込まれているカスタマイズ設定。比較的シンプルなものだ

だが今回の機能ではずっと詳細なプロファイルが作られる。

このパーソナライズ機能、実は2020年にPS5の概要が発表された時から「将来的に搭載したい」と予告されていたもので、ようやく搭載が叶ったものでもある。

「どう聞こえるか」を7回チェックして設定

設定自体は簡単だ。

機能が搭載されたバージョンのシステムソフトウエアだと、以下の画像のように「ヘッドホン用の個人用3Dオーディオプロファイル」の設定を促される。

システムソフトウエア側での対応が行なわれると、「個人用オーディオプロファイル」の設定を促される

設定を始めると、ヘッドフォンの中に音が聞こえる。それがどの方向かをPS5へとコントローラーを操作して伝える。

パターンは2つある。「立体の球の中で、どの方向から音が聞こえてきたか」を示すものと、「立体の球の中で、どこからどこへと音が移動したか」を示すものだ。

どこから音が聞こえてきたかを点として指示
次にどこからどこへ音が移動したかを指示
PS5で個人用3Dオーディオプロファイルを作成している様子

けっこう微妙で悩むこともあるが、感覚で答えて大丈夫だ。テストは7回も繰り返されるので、その中でソフト側が補正をしてくれる。

テストは7回繰り返す

7回のテスト後も、音が聞こえる高さや方向の微調整は行なえるので、自分で聞いて納得できる感じになったら調整は終わりだ。

さらに細かい調整も可能

では効果のほどはどうか?

効果はゲームでも確認できるが、テストパターンで把握することもできる

実はこの辺にかなり個人差がある。

もともとPS5には「一般的と思われるHRTF」が設定してあり、個人用のオーディオプロファイルは、そこからさらに最適化するためのものと言える。だから、元の設定がイマイチで最適化されて大きく変わる人もいれば、そうでない人もいるだろう。

いくつかのゲームや動画で試してみたが、筆者の場合には「聞き分けようと思えばわかる」くらいの差だった。

具体的には、ゲーム環境内の効果音が単に前から聞こえるのではなく「斜め前上方にある」のがわかるような、位置感覚の解像度が上がったような感触を受けた。前後や左右のようなシンプルな感覚ではなく、微妙な位置感覚が把握しやすくなり、結果的に音のフィールドが広がったようなイメージだろうか。

3Dオーディオ自体を切った場合・標準的な設定・個人用プロファイルを設定した場合では、もちろん個人用プロファイルを設定した時がもっともリアルな立体感を感じる。ただ、そもそもTempest 3Dがオンかオフか、という効果の方が大きい。個人用プロファイルはさらに「オンの方が体験はリッチになる可能性が高い」機能、というところだろうか。

リスクはゼロだしコストもかからないし、設定すればそのあとは自動的に適応される。個人用プロファイルは設定する価値があるのは間違いないと言えそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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