大河原克行のデジタル家電 -最前線-

ソニーという価値、年末商戦4K大画面TV No.1へ。αはプロ・動画強化

 ソニーマーケティングは、2016年の年末商戦において、4Kテレビ、αシリーズ、ハイレゾの3つの重点領域での販売拡大に力を注ぐ。4Kテレビでは、付加価値提案を前面に打ち出し、55型の比率を高めることで、大画面テレビにおけるナンバーワンシェア獲得に取り組む一方、αシリーズでは、プロフェッショナル向けのサポート体制の強化に加えて、α Plazaを新設。カメラユーザーの創作活動を支援する場を提供することで、商品面の強化だけでなく、マーケティングおよびサポートの観点からも、カメラメーカーとしてのポジション確立を狙う。

ソニーマーケティング河野弘社長

 さらにハイレゾでは、ヘッドフォンやスピーカーなどの販売を強化する姿勢をみせる。ソニーマーケティングの河野弘社長に、2016年の年末商戦への取り組みについて、話を聞いた。

4K TVならではの楽しみ提案、大画面テレビNo.1を目指す

――ソニーにとって、2016年の年末商戦の重点ポイントはなんですか?

河野氏(以下敬称略):これまで同様に、4Kテレビ、αシリーズ、ハイレゾの3つの領域に力を注ぎます。4Kテレビは、市場における構成比が年々上昇しており、台数では30%を突破、金額では50%を突破するところにまできています。普及期に入り始めている証でもあり、それに伴って平均単価も下落しはじめています。

 ただ、こうしたなかで、単に4Kであるということだけを前面に打ち出しても、4Kへの買い換えを促進することはできません。4Kならではの付加価値をどれだけ訴求することができるかが鍵です。「これならば、4Kテレビが欲しい」といってもらえるような提案ができるかが重要になってきているわけです。

 たとえば、ソニーのBRAVIAのフラッグシップとなる「Z9Dシリーズ」は、すべてのLEDが完全独立駆動し、テレビ史上最高画質モデルとのメッセージを打ち出しており、ソニーストア銀座には、100型のZ9Dを展示しています。多くの人が、このテレビを見て、ソニーが提案する最高峰の画質を評価し、その画質に感動しています。しかし、市場想定価格は700万円ですから、誰もが購入できるわけではない。ただ、これを見た人からは、75型(市場想定価格は100万円)や65型(同70万円)であれば購入できるかもしれないといって、家の近くの販売店に出向くといった動きが出ているという話も聞いています。

ソニーストア銀座の100型BRAVIA「KJ-100Z9D」

 また、画質だけではなく、新たなテレビの提案も必要です。BRAVIAの特徴のひとつにAndroid TVである点があげられます。これによって、テレビの数万倍もの映像コンテンツが視聴できるようになっています。BRAVIAユーザーの特徴は購入者の60%以上がネットに接続している点。これは、テレビをネットに接続して楽しんでいる人たちが多いことを示しています。そして、アップデートによるAndroid TVの進化も、安定した形で、使いやすいものへと進んでいます。この点も、ユーザーから新たなテレビとして価値を評価してもらっています。今後、4Kテレビの世界において、新たな需要を生むためには、新たな楽しみ方を提案することが必要です。ソニーは、今年も、そこにこだわっていきたいと思っています。

Android TVの特徴を生かして様々なコンテンツを視聴できる

――具体的なシェア目標はありますか。

河野:付加価値提案を前面に打ち出すとともに、55型の販売比率を高めることで、大画面テレビにおけるナンバーワンシェアを維持したいですね。

カメラはプロ・アマ共にサポート強化。「αアカデミー」開講も

――2つめのαシリーズの取り組みではどんな点が特徴になりますか。

河野:αの事業は、ソニーのコア中のコアといえる事業です。そして、その考え方はこれからも変わりません。そうしたなかで、これまでは家電メーカーであるソニーが展開していたαという位置づけから、カメラメーカーとして、ソニーが提供するαへとステップアップする時期にいよいよ入ってきたと考えています。

 なぜソニーが、カメラメーカーであると自信を持って言えるのか。その理由のひとつが、ソニーのカメラそのものに、力がついてきたことです。プロフェッショナルが活用できるカメラがラインアップされ、実際にプロフェッショナルに活用されはじめています。

2016年日本カメラグランプリの大賞に選ばれたα7RⅡ

 「カメラグランプリ2016」の大賞にα7RⅡが選ばれました。レンズ交換式では初の大賞受賞です。また、同じく日本カメラグランプリのカメラ記者クラブ賞に、RX10ⅡおよびRX100Ⅳが選ばれ、ダブル受賞となりました。さらに、G MASTERレンズが、欧州の権威ある「TIPA Awards 2016」および「EISA Awards 2016-2017」を受賞。このように、カメラ業界においても認められる製品が登場していることを証明しています。

 デジタルカメラは、レンズ固定式も、レンズ交換式も縮小傾向にありますが、ソニーのデジタルイメージング事業は拡大傾向にあり、高機能、高付加価値の商品戦略が成果をあげています。ソニーは、自らが持つイメージセンサーをベースにしたロードマップを描くことができ、さらに画像処理技術のアルゴリズムもある。そして、レンズに対する評価も高まっている。こうしたことがプロフェッショナルに認められている理由のひとつだといえます。

 2015年にα7R IIおよびα7S IIを発表以降、プロシェッショナルを対象にしたソニー・イメージング・プロ・サポートの会員数は急速に拡大し、いまでは前年同月比2倍の伸びをみせています。とくに、雑誌や広告などの商用写真を中心に撮影しているプロフェッショナルや、静止画だけでなく、動画撮影も行っているカメラマンなどの会員数が増加しているのが特徴です。プロフェッショナルは、自らの力を最大限に発揮できるカメラを選択します。そうしたプロフェッショナルから、ポートレートの撮影にはα7R IIが最適であるといった声や、暗所の撮影にはα7S IIがいいといった声、あるいはデリケートな環境ではソニーのサイレントシャッターは適しているといった声があがっています。

 しかし、これらのプロフェッショナルやハイアマチュアユーザーに対して、マーケティングやサポート面から、万全の体制が整っているのかというと、先行しているカメラメーカーとは大きな差がありました。

全国のソニーストアにソニー・イメージング・プロ・サポートが設置される

 たとえば、プロシェッショナル向けには、東京・銀座のソニーストア銀座に直接サポートを行なう、ソニー・イメージング・プロ・サポートの窓口を開設し、2016年9月24日のソニーストアの移転オープンに伴い、窓口を拡張しましたが、東京以外では、この恩恵が受けられない状況でした。そこで、このほど、大阪、名古屋、福岡天神のソニーストアにおいても、ソニー・イメージング・プロ・サポートの窓口を開設します。また、来年春にオープンするソニーストア札幌でも同様の窓口を開設することにしました。

 これによって、全国5カ所の主要都市において、プロフェッショナルサポートを行なえる体制が整います。

ソニーストア銀座に設置されたソニー・イメージング・プロ・サポート窓口
ソニーストア銀座のソニー・イメージング・プロ・サポートの様子

ソニーストア大阪のソニー・イメージング・プロ・サポート
ソニーストア名古屋のソニー・イメージング・プロ・サポート

 さらに販売網についても、高い商品知識を持ったカメラ量販店に対する販売強化に加えて、プロフェッショナルが購入するような専門店ルートでも取り扱ってもらうための活動を進めていきたいと考えています。トップカメラメーカーだからこそ扱ってもらえるような販売ルートにも積極的にアプローチをしたいと考えています。

 また、先頃、プロフェッショナル向けの展示会を初めて開催しました。こうした取り組みを通じて、ソニーのカメラがプロフェッショナルニーズにも対応できること、αシリーズならではの特徴などを訴求できたと考えています。
 いま、プロフェッショナルがソニーに求めているのは、静止画を撮影するという使い方だけでなく、αシリーズを活用して、動画を撮影したいというニーズです。ここに、ソニーの大きなビジネスチャンスがあると思います。

 そして、こうしたプロフェッショナルに対するマーケティング強化、サポート強化だけでなく、ハイアマチュアユーザーなどに対するサポートも強化していきます。

――個人ユーザー向けの強化ではどんな取り組みを行ないますか。

河野:ハイアマチュアユーザーから初めてαを購入するユーザーまで、幅広いパーソナルユーザーに対応した拠点が、「α Plaza」になります。α Plazaは、全国のソニーストアのインフラを活用し、すべてのαユーザーが、創作活動のサポートをワンストップで受けられる場として新設したもので、プロフェッショナル向けのサポートプログラムであるソニー・イメージ・プロ・サポートで培われた「プロクオリティ」の体験やサービスを提供します。

αPlazaは全国5カ所のソニーストアで展開

 具体的には、αテクニカルアドバイザーと呼ぶプロサポートスタッフによる技術説明や使い方相談のほか、専用設備を使ってカメラの点検や清掃、ソフトウェアアップデートを有料で行なうメンテナンスサポートも用意します。また、ギャラリースペースの設置により、プロフォトグファーやビデオグラファーによる作品を展示するほか、地域に密着したコミュニティによる写真展などを開催する予定です。ギャラリーは常になにかしらの展示を行なっているというようにしたいですね。

ソニーストア銀座のαPlaza

αPlazaでは購入相談にも乗ってくれる
ソニーストア名古屋のα Plaza

 さらに、写真を楽しんでもらうためのフォトスクールも積極化していきます。これまでにもα cafe体験会やαセミナーの形で、プロフェッショナルなどを講師に招いたセミナーを年間1,000回以上開催してきましたが、今後もこれを継続していく一方で、2017年春からは、αアカデミーの名称で、6回コースや8回コースなどの受講プログラムによって、連続して学ぶことができる環境を提供する考えです。αアカデミーで、カメラの基礎から高度な技術までを体系的に習得することで、よりカメラを楽しんでもらうことができるようになります。

ソニーストア銀座でのαセミナー
ソニーストア名古屋でのαセミナー

 こうした取り組みは、地域の販売店にもプラスになると考えています。たとえば、量販店の重要顧客に対して、ソニーストアのインフラを活用してセミナーを開催したり、一緒になってイベントを開催したりといったことも計画しています。

 ソニーは、自らがカメラメーカーとして、写真文化の創出に貢献していきたい。そして、真のトップカメラメーカーの1社に入るために、ハードウェアだけでなく、サービス、サポートの体制を整えていきます。これは、ソニーのカメラ事業戦略と、販売会社であるソニーマーケティングのマーケティング戦略が、いよいよ一体化し、統合して展開するフェーズに入ってきたことを示します。カメラにおいても、事業部門と販売会社の垂直統合型ビジネスが始まったともいえるわけです。社内にはフォトカルチャー推進課を設置し、この取り組みをドライブしていくことになります。今年の年末商戦をスタートに、2017年に向けて、αシリーズのブランド価値をさらに高めていきたいと考えています。

ソニーストア銀座のギャラリー

ハイレゾは「成長が見込める市場」。Aシリーズ軸にTV CMなど広告強化

――3つめのハイレゾオーディオについては、どんな取り組みを予定していますか。

河野:今年の年末商戦では、ハイレゾオーディオの楽しさを、より多くの多くの人に知っていただくための活動に取り組みたいと思っています。ソニー・ミュージックのアーティストを起用して、テレビCMや交通広告、ネットを通じた訴求活動も積極化させる一方、ハイレゾ商品のラインアップも強化しています。NW-A30シリーズは、量販店において、高い評価を得ていますし、ソニーストアでは、計画値よりも2桁以上の出足を見せ、期待以上のものとなっています。いまや、Aシリーズは、ハイレゾの主流となる製品に位置づけられるようになっています。

計画値に対して2桁上回る売れ行きを見せている NW-A30シリーズ

 また、NW-WM1ZやNW-WM1Aといった商品の投入によって、音に込められた想いまでを再現し、ハイレゾの音質を、さらに深く楽しんでもらえる環境も提供できます。また、ヘッドフォンでは、ワイヤレス対応のMDR-1000Xが高い人気を博しているとともに、これらのハイレゾ対応商品の広がりによって、量販店におけるヘッドフォン売り場のスペースが拡大するといった動きも出ていますし、ハイレゾ対応のワイヤレススピーカーも注目を集めています。

ワイヤレスヘッドフォンのMDR-1000X

 このように、ハイレゾ市場は、まだまだ安定する市場ではなく、これからも成長が見込める市場です。ハイレゾ比率はさらに上昇することになるでしょう。

ソニー・ミュージックのアーティストと連動したプロモーションを展開

――こうしてみると、年末商戦におけるソニーの取り組みは、例年以上に付加価値戦略に舵を切っている印象を受けます。

河野:年末商戦は、市場の停滞感があるなかで、ソニーの存在感を付加価値という観点から発揮し、それによって成長につなげようとしています。これは商品単価を引き上げることにもつながり、その点で販売店とも連携をしていきたいと考えています。

 ソニーは、どういう商品を出すブランドなのか――。それを考えたときに、年末商戦での取り組みも明確になってきます。ソニーは、効率的なディストリビューションを活用して、多くの人に、広く使ってもらう商品ブランドではありません。ソニーを使っていて満足してもらえる、ソニーを使って安心できると感じてもらえるロイヤルカスタマーに向けた商品を提供していくブランドです。もちろん事業効率を高める努力は必要ですが、ロイヤルカスタマーに満足してもらうことを考えずに、コスト削減に取り組むということはしません。

 そして、今回のαシリーズへの取り組みに象徴されるように、商品だけでなく、顧客サービスという観点からもしっかりとした体制を構築し、ロイヤルカスタマーにソニーの価値をお届けしたい。テレビやオーディオは、ソニーを買えば安心というブランドイメージがあります。そして、カメラならばキヤノンやニコンを買えば安心というイメージが定着しています。ソニーは、カメラにおいても、「ソニーを買えば安心だ」という新たなイメージを定着させていきたい。こうしたイメージの変化が、2017年から少しずつ表面化してくるはずです。その評価の変化をぜひ見ていてください。

大河原 克行

'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など