大河原克行のデジタル家電 -最前線-

日本のテレビはどうなる? 大手各社に事業再編の動き

海外事業見直し、工場売却、日本特化。4社の狙いは?

 電機大手が相次いでテレビ事業の再編の動きを加速させている。ここ数年、国内電機大手が業績悪化に苦しんだ最大の要因は、テレビ事業およびパネル事業の採算悪化だ。その課題解決に向けて、各社は大規模な構造改革を展開。各社が異口同音に語るように、「数を追わずに、利益を追うことを重視する」体制へとシフトし、ようやく長いトンネルを抜け出し始めた段階にある。そして、その総仕上げともいえるのが、ここにきて相次いだ海外テレビ事業の見直しだ。各社のテレビ事業はどうなるのか。

米国の大手量販店では、シャープの70型液晶テレビが1,399ドル(約168,000円)で販売。その横でVIZIOは1,299ドルと約12,000円安い。海外での価格競争は熾烈だ

 ここにきて、電機大手各社が打ち出したテレビ事業の再編は、なりふり構わない姿のように見える。

利益優先で、中国生産撤退。メキシコ工場売却も検討するパナソニック

2015 International CESのパナソニックブース

 パナソニックは、中国におけるテレビの生産を終了することを発表。今後は、さらに北米向けテレビの生産を行なっているメキシコ工場の売却も検討していることを明らかにする。

 パナソニックの河井英明代表取締役専務は、「海外生産拠点の再編は、もうひと息で黒字化するというところまで改善してきた道筋の上で、次の施策として行なうものである」と説明。「為替への影響を考慮し、マレーシアの主力工場および、国内では宇都宮でも生産を行なう。欧州ではチェコ工場での製造を継続する」と語る一方、「今後は、絞り込みを進めるなかで、高付加価値の製品へのシフトを図っていく」とする。

 2013年度にプラズマテレビ事業から撤退。尼崎工場での生産を終了したパナソニックは、液晶テレビ事業でも生産拠点の再編に乗り出すことになる。

 中国のテレビ工場は、2009年に北京のブラウン管テレビ工場を閉鎖。創業者である松下幸之助氏の肝入りで操業した工場に続く、今回の工場閉鎖となる。

 さらに、米国では、工場から直接消費者に届けるファクトリーダイレクト方式を推進。これにより在庫負担の減少などの効果が生まれているものの、さらにその取り組みを一歩進め、ここでも抜本的な見直しを行なうことになる。すでに、ウォルマート向け製品を生産していた旧三洋電機のテレビ生産拠点も売却が完了している。

 パナソニックにとってテレビ事業は、6期連続の赤字が続く課題事業。今年度も赤字が残る見込みだが、来年度には、赤字脱却が最低限の目標となる。

 河井代表取締役専務は、「テレビは、パナソニックのブランドイメージの維持、向上に寄与する」として、今後も、グローバルでのテレビ事業の継続に取り組む姿勢を強調してみせる。ただ、やはり、「数よりも、利益優先」の姿勢は崩さない。

海外展開はブランド供与にシフトするシャープ

シャープ テレビ事業の業績悪化理由と今後の方針

 シャープは、欧州市場におけるテレビ生産から撤退。ポーランドの生産拠点をUMCに売却し、UMCがシャープブランドによって、液晶テレビを販売する体制へとシフトした。

 「欧州市場は国ごとにニーズが異なること、シャープの販売シェアが小さく、開発コストに見合う販売量を確保できずに赤字を続けていたという課題があった。欧州市場からの生産撤退により、テレビ事業の最大の赤字が消えることになる」(シャープ・大西徹夫副社長)とする。

 さらに今後は米国でのテレビ事業の再編に取り組む。現在、米国市場向けには、30機種以上を投入している同社だが、今後は、付加価値製品に絞り込み、機種数を削減。さらに、販売ルートも見直し、絞り込みを行なうことになる。

 だが、ここでも生産拠点売却などを視野に入れている模様で、今後の動向が注目される。

シャープ 高橋興三社長

 シャープの高橋興三社長は、「米国のテレビ事業は昨年度までは黒字だったが、ここにきて採算が悪化しており、見直しが必要になった」と説明する。

 また、マレーシア工場の売却についても検討が始まっているようで、米国市場およびASEAN市場向けのいずれも、シャープブランドを使うことを提案しながら売却先との交渉を行なう模様だ。

 シャープの海外テレビ事業は、ブランドビジネス中心とした新たなビジネスモデルを模索することになる。

黒字化が見えてきたソニーのテレビ事業。国内生産堅持

ソニー 吉田 憲一郎 代表執行役 EVP CFO

 ソニーは、すでに、欧米の生産拠点の売却を完了しているほか、2017年度に向けて、発売する製品数を、現行ラインアップに比べて3割削減。ソニーが差異化できる機能を持った製品づくりに絞り込むことで、製品あたりの単価向上に取り組む姿勢をみせる。

 まずは、10期連続の赤字が続いているテレビ事業を黒字化。続けて、「売上高が2~3割下がっても利益を出せる体質への転換」(ソニービジュアルプロダクツの今村昌志社長)を目指す。

 そうしたなか、ソニーのテレビ事業は、今年度第1四半期以降、3期連続の黒字化。「前年度第4四半期には166億円の赤字を形状した経緯もある。まだ楽観できない」(ソニー・吉田憲一郎代表執行役EVP)と慎重な姿勢をみせるものの、通期黒字化はほぼ手中に収めたといってよさそうだ。

2015年以降のソニーテレビの中核モデルはAndorid TV搭載

 「分社化による意識の高まりと固定費削減効果に加え、高付加価値モデルが好調であり、モデルミックスの改善が効果に表れている」(神戸司郎執行役EVP)という。

 今後、Androidを搭載したテレビへとシフト。Linuxベースのソフトウェアの自社開発、SoCの自社開発体制から脱却することにつながり、コスト削減とともに、画質や音質といったソニーが差異化する部分へのエンジニアリングリソース強化による製品力向上にも寄与することになる。

 ソニーの平井一夫社長は、2014年度中に構造改革をやりきると宣言しているが、その象徴的存在が、テレビ事業だといってよさそうだ。国内でのテレビ生産を維持する姿勢は変わらない。

海外はブランド供与。日本市場に注力する東芝

2015 International CESの東芝ブース。北米の自社展開を織り込んでいたのか、テレビの展示はほとんどなかった

 東芝は、北米でのテレビ事業を終息すると発表。台湾コンパルに、東芝ブランドを供与することになる。また、北米以外の海外テレビ事業についても、自社開発および販売を終了。ブランド供与についての協議を開始し、今年4月までに協議を完了することを明らかにしている

 東芝の前田恵造代表執行役専務は、「コンパルは北米市場において、設計、開発、マーケティング、販売、アフターサービスを行なう。それに対して、東芝は新製品の品質認定を行ない、東芝ブランドとしての品質を担保して、フィーをもらうビジネスになる。ただし、品質問題が起きた場合にも、東芝が責任を負うことはない」と、新たなビジネスモデルの仕組みについて説明する。

 すでに国内拠点でのテレビ生産を終了し、欧米の生産拠点も売却していた東芝だが、今後は、インドネシアの工場売却について交渉を行なっている模様だ。

 東芝・前田代表執行役専務は、「厳しい事業環境を踏まえて、事業の抜本的な見直しを行なう。(海外では)自前では事業をやらない。そして、日本の事業に集中特化していく」とする。

 テレビ事業は全世界で2,700人、そのうち国内は500人。海外では大幅な人員削減が見込まれるほか、日本においては、開発、研究、設計といったテレビ事業に関連する技術者を半減。半導体部門などにシフトしていくという。

 同社のテレビ事業のうち、海外売上高は75%。国内はすでに黒字化しているというが、海外事業では毎四半期に50億円前後の赤字が出ているという。これを来年度以降、黒字化していくことになる。

各社とも「数を追わない」戦略に。それでも必要な「テレビ」

 振り返ってみると、いち早くテレビ生産から撤退したのは日立製作所だ。2009年に最上位モデルを生産していた国内拠点での生産を終了。これにより、テレビはすべて外部から調達する体制を整えた。当時、日立では、「この事業は儲かるとは思っていない」として、テレビ事業の再編に取り組んだが、その成果は、過去最高の営業利益を目指す状況にあるなど、いち早く業績回復を成し遂げた「いま」につながっているといえよう。

 ここ数年、電機大手各社の業績を苦しめたのは、テレビ事業の競争激化による収益悪化と、その基幹デバイスであるパネル事業の苦戦。2010年以降、それら事業の構造改革によって、各社の業績が徐々に改善傾向にあるのは確かだ。

 10期連続のテレビ事業の赤字に苦しむソニーは、昨年7月にテレビ事業の分社化に踏みだし、その成果が着実に出始め、先にも触れたように、今年度の黒字化にめどをつけている。そして、6期連続のテレビ事業の赤字を続けているパナソニックも、来年度の黒字化に向けて着実な歩みをみせている。

 各社に共通しているのは、数を追わない事業戦略だ。

 かつてのテレビメーカー各社の基本戦略は、薄型テレビの世界的に旺盛な需要を背景に、積極的な拡大策を推進。世界規模での生産体制、販売体制を構築してきた。

 だが、サムスン、LG電子といった韓国勢が、ウォン安を背景にした価格優位性を発揮して海外市場でのシェアを拡大。これに対して円高が直撃した日本勢は厳しい競争環境に立たされることになった。また、日本のメーカーは、その痛手を得意とする付加価値で補おうとしたものの、コモディティ化の進展とともに、新興国での成長が著しい環境では、普及価格帯の製品が事業成長の中心となり、日本勢の競争力が発揮できない状況に陥った。これが日本のテレビ事業の収益悪化につながったのは周知の通りだ。

米量販店の展示の一等地はサムスンやLG電子といった韓国勢が独占する

 そうした苦い経験をもとに、2000年代後半まで続いた事業拡大戦略のツケを、2010年以降、積極的に清算してきた。

 国内生産からの撤退、人員削減、製品の絞り込み、出荷計画の縮小、そして、海外事業の再編といった構造改革によって、テレビ事業の負の遺産を処理。成長戦略から一転して、スリム化した体制による、利益重視の姿勢へと転換した。

 だが、追い打ちをかけるように中国勢が台頭。最も成長率が高い中国市場で苦戦を強いられたことはマイナス要素。この影響は、ここ数年顕著になり、一時回復基調にあったテレビ事業の収益性を鈍化させることにもつながった。

 一方で、テレビ向けを主軸にしたパネル生産からの撤退も相次いだ。ソニーは、サムスンとの合弁会社によるパネル生産から撤退。日立製作所は、液晶パネル工場を売却。パナソニックもプラズマパネルの生産から撤退した。亀山モデルで高い人気を誇るシャープも、収益性が高いタブレット、スマートフォン向けの中小型液晶パネルの構成比を拡大させるといったモデルミックスの改善に乗り出している。

 そうした点からみても、今回のテレビ事業における海外生産拠点の相次ぐ閉鎖、それに伴う事業縮小は、テレビ事業再編の総仕上げとなることは間違いない。各社がこれらの取り組みによって、黒字体質への転換を図ることを明確に宣言していることもそれを裏付ける。

 だが、こうした苦い経験をしても、テレビメーカー各社は、テレビ事業からは完全撤退しない。形を変えてもブランドを残し、対外的には事業を継続する姿を示してみせる。また、生産拠点がなくても、数を追わずに海外事業を維持する体制構築も、皮一枚で首をつなげたと表現できなくもない。

 これは、次代のテレビにおいて、成長戦略を描くための布石と、前向きに捉えておきたい。