藤本健のDigital Audio Laboratory
第839回
RME「Babyface Pro FS」の音質はどこまで向上した? 従来機と比較
2020年2月17日 10:25
1月末に、シンタックスジャパンからRMEのオーディオインターフェイス「Babyface Pro FS」が発売された。Babyface Proの後継モデルとなるBabyface Pro FSは、最高で192kHz/24bitに対応し、最大12in/12outだ。
見た目には従来機種のBabyface Proとほとんど変わらないが、精度が1,000兆分の1秒単位という高性能なStedyClock FSなる高性能なクロックを搭載したことなどで、音質が向上しているという。実売価格は105,000円(税込)。実際、どんな製品なのか試してみたので紹介しよう。
オーディオファンにも注目のRME Babyface新機種
本来、音楽制作用/レコーディング用の機材メーカーであるドイツのRMEだが、特に国内においてはPCオーディオファンからの熱い注目を受けている。オーディオインターフェイスはSteinberg、Roland、TASCAM、Focusrite、PreSonus、MOTU……と国内外数多くのメーカーがあるが、たぶん多くのPCオーディオファンが認知しているのはRMEくらいではないだろうか。こういったちょっと不思議な状態になっているのは、やはりRMEの音質の良さが評価されているからなのだろう。
そのRMEは、現在多くのオーディオインターフェイスを出しているが、その中でエントリー製品となっていたのがBabyface Pro。エントリーといっても実売価格が10万円程度だったので、誰でも簡単に買える価格とはいいがたいところだが、そのBabyface ProがモデルチェンジしてBabyface Pro FSとなった。2011年に初代Babyfaceが発売され、2015年にBabyface Pro、そして2020年にBabyface Pro FSとなったので、これが第3代目ということになる。
10万円以上の製品だけに、パッケージはしっかりしており、頑丈なプラスティックケースで提供されている。これに付属のUSBケーブル、MIDIのブレイクアウトケーブルを入れた状態で、どこにでも持ち運びができるようになっているのだ。
その第2代目のBabyface Proと第3代目のBabyface Pro FSを並べてみると、デザインも大きさもまったく同じでありパッと見ではほとんど区別がつかないほど。トップパネル上部のロゴ部分にBabyface Pro FSとあることで、判別できるのみだ。入出力端子などもすべて同じ。
ただし、本体を裏返すと、1点だけ違いがある。Babyface Proにはなかった小さなスイッチが一つ追加されているのだ。見るとXLR Outputと書かれており、+19dBuと+4dBuの切り替えが可能となっており、出力のリファレンスレベルを変更できるようになっている。
ではBabyface Pro FSの端子部分を順番に見ていこう。まず左サイドはUSB端子、DC入力、MIDIブレイクアウト端子、オプティカルの入出力が並ぶ。DC入力はあるが、PCとUSB接続する場合、バス電源供給で動作するので、とくに使うことはなく、実際ACアダプタも付属していない。ただし別売のACアダプタを接続することでスタンドアロンのDACやDACなどとして使えるようにもなっている。またオプティカルの入出力はS/PDIFおよびADATの兼用となっている。ADATとして使った場合、Babyface Pro FSとしては最大12in/12outとして使うことができる仕様となっている。
バックパネル側はBabyface Pro FSのメイン入出力で、XLR(キャノン)端子となっている。オーディオファンで、RCA接続を標準とする人にとっては、やや扱いにくい端子だとは思うが、市販のXLR-RCA変換ケーブルなどを使えば利用できるはずだ。もちろんDTM系のユーザーであれば、この出力をキャノンケーブルでモニタースピーカーへ接続すればいいし、入力側はラインでもマイクでも接続可能で、マイクへは+48Vのファンタム電源を供給することも可能だ。
そして右サイドにあるのはヘッドフォン端子と標準ジャックの入力端子。見ると分かる通りヘッドフォン端子は6.3mmの標準ジャックと3.5mmのステレオミニジャックが用意されているのも嬉しいところ。IN3、IN4と書かれている標準ジャックの入力はラインおよびギター入力兼用でアンバランスのTSフォンとなっている。
新しいStedyClock FSは何が違う?
RMEによると、Babyface Pro FSと従来のBabyface Proの違いは、クロックにStedyClock FSを採用すると同時に、オペアンプなども変更しており、入出力ともS/Nを向上させているとのこと。そのオペアンプ、PCM 768kHzおよびDSD 11.2MHzに対応したRMEのADI-2 Pro FSと同じものを採用したことで、出力THDが最大10dB改善しているという。また3.5mmのヘッドフォン出力は最大90mWまで対応し、出力インピーダンスはBabyface Proでの2Ωから0.1Ωに減少と、ヘッドフォンアンプとしての性能を大きく向上させているのも注目ポイントだ。
気になるStedyClock FSについても少し触れておこう。RMEは以前からクロックに強いこだわりを持っており、いかにジッターのないクロックを実現させるかに力を注いできた。その中で、StedyClockという安定したクロック供給を行なってきたことが、高い音質につながっていたのだと思うが、それをさらに先に進めたのがStedyClock FS。
FSとはフェムトセカンドのことで1,000兆分の1秒の精度を意味している。もうここまでくると、測定器でも測ることのできない領域なので、あまり言及するのは避けるが、製品ページのコメントには以下のように説明されている。
新たに開発された「SteadyClock FS」でもSteadyClockの基本設計とパフォーマンスはそのままに、アナログPLL回路のアップデートを行ない、DDSとPLLの両方に低位相雑音水晶発振器を参照させることによりさらなるセルフ・ジッターの抑制に成功。SteadyClockは常にPLLモードで動作しますが、ジッターの仕様は通常マスター・クォーツ・クロック・モードでしか見られないレベルに達します。アップデートされた回路をドライブさせる低位相雑音水晶発振器は非常に高い周波数安定度を誇り、その仕様はピコ秒を超えるフェムト秒 (Femto Second) の領域に達し、そのことが「SteadyClock FS」という名前の由来にもなっています。
Babyface Pro FSとBabyface Proの音質を測定してガチ比較
さて、このBabyface Pro FSと従来機種のBabyface Proで、本当に音質の差があるのか? オペアンプなどを変えたとはいえ、そもそもかなり高音質のインターフェイスなので、微々たる違いしかないのでは……と予想した。また個体差などもあるだろうから、下手すれば前の機種のほうがいい成績だった、なんてことも起こるかもしれない。そうした疑問をシンタックスジャパンのマーケティング担当者に投げたところ、強い口調で反論された。
「RMEの製品は絶対に個体差がないというのが大きな特徴であり、重要なポイントなんです。生産時にも、さまざまな測定チェックを行なっていますが、どれもまったく変わらない結果になっているし、何度試しても同じになります。また、カタログ値で出しているのも部品から推定される値ではなく、あくまでも実測値。なので、正しい測定をすれば必ず、Babyface Pro FSとBabyface Proの違いも出るはずです」と。
そこまで自信をもって言われると、当然試したくなるわけで、いつものRMAA Proを用いて、Babyface Pro FSおよびBabyface Proそれぞれで実験してみることにした。接続はリアのXLRの入出力を直結するという方法。ちょうど4年前にBabyface Proをこの連載で取り上げていたが、その時からはファームウェアがアップデートされているし、ドライバもアップデートされているので、最新の状態での比較をすることにした。ドライバ自体はRME製品すべて共通となっているので、すべて設定は同じ状態で、本体のみを差し替えれば同じ条件での比較ができるはずだ。
なお、ここではあまり深くは触れないが、RME製品では、オーディオインターフェイス内部のミキサーを自由自在にコントロールするためのTotalMix FXというソフトがドライバと一緒にインストールされる。これを使うことで、非常に自由度高くルーティングを行なえるほか、入力、出力それぞれにEQをかけられるなど強力な機能を持っている。
DTM系のユーザーにとっては非常にありがたいものである反面、オーディオファンにとっては、難しくて混乱しやすい要因でもある。もっとも、初心者でも使えるように、シンタックスジャパンが丁寧なチュートリアルも用意しているので、それに従って操作していけば大丈夫だ。ここではこのTotalMix FXのほぼすべての機能をオフにした上で、シンプルにアナログの入出力ができるようにした上で、RMAA Proを使ったテストを行なった。そのBabyface Pro FSとBabyface Proを比較した結果を掲載する。
いずれもExcellentと表示されているが、細かく数値を見てみると、確かに違いが出ている。たとえば44.1kHzの結果において20Hz~20kHzの信号の揺れはBabyface Proよりもずっと少なくなっているし、ノイズレベルもわずかだが小さくなっている。またTHDも0.00082が0.00037となっているなど……いずれの値も向上しているのが分かる。しかも、試しに複数回測定してみたけれど、結果が完全に一致するのも担当者の自信が示した通りのものだった。
さらにもうひとつレイテンシーのテストもそれぞれで行なってみた。これもいつも使っているCentrance Latency testを使っての実験した結果を掲載する。
同じドライバを使っているのだが、いずれもわずかながらBabyface Pro FSのほうがレイテンシーが小さく抑えられているのが面白いところ。最近他社のオーディオインターフェイスだと最小のバッファサイズを32サンプル、さらには16サンプルに抑えられるものも登場しているため、必ずしもBabyface Pro FSも低レイテンシーとは言えなくなっては来ているものの、同じバッファサイズであれば好成績を実現している。
以上、新モデルになったBabyface Pro FSを取り上げてみた。もともとが高性能なので、わずかな差ではあるが、確実に向上しているのがハッキリと分かった。まだ出たばかりのBabyface Pro FSは、やはり人気で品薄状態。今注文しても1カ月以上の待つ必要があるようだが、この結果を見る限り、人気は衰えそうにない。