藤本健のDigital Audio Laboratory

第908回

プロ御用達のUSBオーディオ「RME Fireface UCX II」。堅実進化で性能向上

Fireface UCX II

8月18日、RMEからUSBオーディオインターフェイスの新モデル「Fireface UCX II」が発売された。

他社のオーディオインターフェイスと比較すると、かなり高価なラインナップとなっているRME製品だが、各製品とも人気は高い。Fireface UCX IIも税込み実売価格が165,000円だが、どの店舗も初回ロットは即日完売で、現状すでに4カ月待ちという状況だ。実物も見ず、音のチェックもせずに、みんなそんな高価なものを予約するのか……と驚いてしまうが、RMEのこれまでの実績があるからこそ、これだけの人気になっているのだろう。

筆者自身も買うべきか迷っているところなのだが、発売元のシンタックスジャパンから、この新製品を借りることができたので、実際どんなものなのか、その性能をチェックしてみた。

どこが変わった? 前モデル「Fireface UCX」と端子・機能を比較

前モデルの「Fireface UCX」が発売されたのは2012年の3月だから、今回のFireface UCX IIは9年半ぶりとなるフルモデルチェンジだ。全面的に設計を変え、SteadyClockFSに対応させたのが目玉ではあるが、ほかにもさまざまな機能が強化されている。

RME製品のローエンドとしてはBabyface Pro FSがあるが、Fireface UCX IIはその一つ上に位置づけられるオーディオインターフェイス。もちろん好みにもよるが、Babyfaceは天面に操作パネルがあるデスクトップに置くインターフェイスであるため、固定位置に常設したい人にとってはFireface UCXがエントリーモデルということになる。

RME「Babyface Pro FS」の音質はどこまで向上した? 従来機と比較

個人的には、出た当初から欲しいと思いつつも、15万円近いオーディオインターフェイスはなかなか手を出すことができずにいた。が、測定機材としてダントツの性能を持っていることを理解し、ようやく購入したのが1年前のこと。

RMEインターフェイスの高性能測定ツール「DIGICheck」。全12機能を試す

まぁ、買ったのが遅すぎたのが悪いのだが、今回のFireface UCX IIの発表を見て「しまった」と舌打ちしてしまったのも事実。もう少し我慢しておけばよかったような、とはいえ1年でずいぶんいろいろ活用したので、仕方ないと考えるべきか……。そう簡単に乗り換えられるほどの余裕はないけれど、何がどう違うのかとっても気になるところ。そんな視点で、2台を並べながらチェックしていく。

まず見た目だが、大きさ的にはどちらも1Uハーフラックサイズであり、ピッタリ同じ。フロントパネルのデザインは、大きく変わっており、左右に取っ手がついた初代UCXのほうが個人的には好みだけれど、7セグLED表示しかなかった初代UCXに対し、UCX IIはカラー液晶ディスプレイが搭載されたことで、操作性は圧倒的に向上している。

上がFiraface UCX II、下がFireface UCX
フロントパネル。上がUCX II、下がUCX
UCX IIはカラー液晶ディスプレイに進化

フロントパネルはコンボジャックの入力が2つとTRSの入力が2つ、ヘッドフォン出力が1つという点では、どちらも同じ。しかしリアパネルを見ると、その端子の内容は大きく変わっている。

UCX IIのフロントパネル左側
リアパネル。上がUCX II、下がUCX

まずアナログから見ていくと、初代UCXではTRSのライン入力×4、ライン出力×8であったのに対し、UCX IIではライン入力×4、ライン出力×6と出力が2ch分減っている。初代は2ch分がヘッドフォン出力と兼用になっていたのが、UCX IIでは別に位置付けられた。

ADAT、もしくはオプティカルのS/PIDFとして利用するオプティカルは、どちらも入出力1つずつ。一方の初代UCXにあったコアキシャルのS/PDIFがUCX IIに見当たらないが、これはブレイクアウトケーブル経由で使う形に変わった。

同軸デジタルはブレイクアウトケーブル経由で使う

このブレイクアウトケーブルには、XLRでのAES/EBUのデジタル入出力があり、これが初代UCXから増えたポートだ。数字的にいうと、初代UCXが18入力/18出力であったのに対し、UCX IIではこのAES/EBUが追加された分、20入力/20出力となっている。もっとも初代UCXにおいてもコアキシャル端子を使ってAES/EBUの入出力は可能ではあったが。

MIDIにおいては、初代UCXがブレイクアウトケーブル経由であったのに対し、UCX IIではMIDI入出力端子が直接搭載された。

WORDクロックは、BNC端子が初代UCXには入力・出力が1つずつあったのに対し、UCX IIには1つしかなく、INなのかOUTなのかの表記がない。これはどうなっているの? と思ったら、Setteingダイアログにおいて、切り替えが可能になっていた。

WORDクロック端子は、Setteingダイアログで入出力の切り替えが可能になった

そのほかの違いとして、以前は卓上のリモートコントローラ用の端子があったが、それが廃止になり、FireWire 400の接続端子も廃止になった。また電源スイッチも廃止になり、フロントの右側のノブを長押しすることでON/OFFできるようになった。

PCとの接続端子は従来からのUSB Type Bのまま。世の中の多くのオーディオインターフェイスがUSB Type-C接続になっているのに対し、ここは相変わらずのUSB Type Bなのだ。なぜ、Type Cにしなかったのか、機会があればRMEの開発担当者に聞いてみたいところだが、業務用での使用が多いRME製品だけに、抜けやすいType-Cを嫌った、ということなのかもしれない。

もう一つ大きなポイントはUSB Type Aの端子が搭載されたこと。これはPCと接続するためではなく、USBメモリを接続するためのものだ。

USBメモリ接続用のUSB Type Aを搭載した

上位のFireface UFXでは搭載されていた機能なのだが、オーディオインターフェイスの入力・出力の任意のチャンネルの信号をそのままWAVで保存したり、反対に再生することができるというもの。

オーディオインターフェイスなのに、なぜそんな機能を? と不思議に思うかもしれないが、こうしておくことで、万が一DAWが落ちるなどした場合でも、USBメモリ側にレコーディングし続けることができ、バックアップに利用できるわけだ。

初代UCXと音質検証。性能もレイテンシーも初代から向上

初代UCXとUCX IIで音質的な違いがあるのだろうか。いつものように、RMAA Proを使ってテストしてみることにした。

今回、この実験を前回の記事で使ったWindows 11 Inseider Previewで行なってみた。

Windows 11 Inseider Previewを利用した

ドライバ自体は初代UCXもUCX IIも共通であり、さらにいえばUFXや802、またBabyfaceシリーズも共通のものとなっており、その最新版である1.212というリビジョンをインストールした。対応OSはWindows 7/8/10となっていたが、問題なくWindows 11でもインストールでき、接続したらすぐ認識してくれた。

最新1.212のドライバーをインストールした

これまでと同様、Settingsという各種設定ダイアログがあるのとともに、オーディオインターフェイスの全体をコントロールするTotalMixFXがあり、この辺の使い勝手は従来と同じ。初めてRME製品を使う人にとっては、かなり癖があって分かりにくいのは事実だが、ここでは、その操作手順の詳細は割愛する。

というわけで、まったく同じ条件でFireface UCXとFireface UCX IIでテストした結果が以下のものだ。初代UCXについては2012年にも同じ実験をしているが、それから何度かファームウェアがアップデートしていることや、OSも違うので、改めて試した結果、ほぼ同様ではあるが若干パフォーマンスが向上した結果になっている。

Fireface UCXの計測結果
44.1kHzの場合
48kHzの場合
96kHzの場合
192kHzの場合
Fireface UCX IIの計測結果
44.1kHzの場合
48kHzの場合
96kHzの場合
192kHzの場合

一方、それとUCX IIを比較してみると、数字上でもUCX IIが上回っていることが確認できる。これがStedyClockFSの効果なのか、それともほかのアナログ回路などが効いているのかは定かではないが、結果としてより高性能なオーディオインターフェイスになっていることが分かる。

では、レイテンシーはどうだろうか? これについても初代UCX、UCX IIそれぞれでテストしてみた。先日、このレイテンシー測定ツールとしてRTL Utilityというフリーウェアを紹介したが、ここではいままで通りCEntranceのASIO Latency Test Utilityを使っている。

測定したのはいつもと同じように44.1kHzのサンプリングレートのときのみ、バッファサイズを128 Sampleの設定および最小サイズでの設定、そして48kHz、96kHz、192kHzにおいては最小サイズでの設定で測定している。

Fireface UCXのレイテンシー
128 Samples/44.1kHzの結果
48 Samples/44.1kHzの結果
48 Samples/48kHzの結果
96 Samples/96kHzの結果
192 Samples/192kHzの結果
Fireface UCX IIのレイテンシー
128 Samples/44.1kHzの結果
48 Samples/44.1kHzの結果
48 Samples/48kHzの結果
96 Samples/96kHzの結果
192 Samples/192kHzの結果

初代UCXの結果とUCX IIの結果を見比べてみると、すべてにおいてUCX IIのほうが微妙にレイテンシーを縮めている。

ただし、たとえばサンプリングレート192kHzで2.97msecというのは、一般的に見てもかなり小さいけれど、トップとはいえない数値。その理由は簡単で、バッファサイズを192kHzだと192 Sampleまでにしか縮められないからだ。他社製品だと64 Sampleや32 Sampleはもちろん、16 Sample、さらには4 Sampleにまで抑えられる製品も存在する。そうした中で、192 Sampleまでに留めているのは、かなり安定志向での設計なのではないだろうか? もし、これを96Sampleに設定できれば、1.5msec程度にまでレイテンシーを小さくすることも可能だろう。

もっとも、他社製品とはドライバの設計などが違うから単純に比較してはいけないのかもしれない。以前テストしたTASCAMのSERIES 208iの場合、192kHzで4 Sampleの設定ができるけれど、測定結果は4.81msecとなっていたからだ。

とはいえ同じ設計であればバッファサイズを小さくすれば、それに比例してレイテンシーは小さくなるので、ぜひどこかのタイミングでRMEももうちょっと小さいバッファサイズを解禁してもらいたいところ。それなりに処理能力の高いPCでないと音切れが起きてしまうにせよ、その注意書きをした上で小さく設定できれば、より無敵なオーディオインターフェイスになると思うのだが。

以上、Fireface UCXとFireface UCX IIの違いをいろいろな角度から見てみたが、いかがだっただろうか。個人的には、やはり乗り換えたいという気持ちでいっぱい。あとは初代UCXを売却するべきか、両方持ち続けるべきか、もう少し悩んでみようと思っているところだ。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto