藤本健のDigital Audio Laboratory
第838回
注目のMOTU 2万円台USB-Cオーディオ「M4」を音質チェック
2020年2月10日 12:06
'19年のInter BEEのレポート記事でも取り上げた通り、米MOTUが低価格なオーディオインターフェイスM2およびM4を昨年12月に発売した。MOTUというと、高価なオーディオインターフェイスという印象が強いし、事実、プロのレコーディングエンジニア、ミュージシャンに支持されているメーカーでもある。
そのMOTUがついに2万円台で入手可能な普及価格帯の製品を2つ出してきた。メーカーいわく「音質性能は上位機種と同等ながら、WordClockなどの同期機能、S/PDIFやADATなどのデジタル入出力機能を省くとともに、マイクプリアンプも2つに絞ることでコストを大幅に抑えた」とのことだが、ホントに上位機種に匹敵する音質性能を持っているのだろうか? 実際にM4を使ってテストしたのでレポートする。
MOTUからもついに登場したシンプルな普及価格モデルの特徴は?
昨年の11月の記事でMOTU M2とM4をとり上げて以来、多くの読者から実際の音質性能がどうなのか調べてほしいという要望をTwitterやFacebookなどのSNSでいただいたり、掲示板などを通じて依頼の連絡が来ていたので、筆者としても早くチェックしなくてはと思っていた。ただ、前評判からして非常に良かった製品だけに、国内外ともに非常に売れているらしく、まったくモノが足りない状況が続いているのだ。
国内でMOTU製品を扱っているハイ・リゾリューションに聞いてみたところ「発売以来、数多くのご注文をいただいているのですが、生産が追い付いておらず、多くの方をお待たせしており、申し訳ありません。ようやく今週300台ほど入ってくるのですが、まだまったく足りておらず、右から左へと流れて行ってしまう状況です」とのことで、大人気のようだ。
改めてこのM2とM4について紹介すると、これはUSB Type-C接続のオーディオインターフェイスで、Windows、MacさらにはiOSでも利用可能なUSBクラスコンプライアントな機材だ。M2のほうは2IN/2OUT、M4のほうは4IN/4OUTとなっており、すべてアナログ入出力となっており、マイクプリアンプはいずれも2つずつ。どちらもUSBバスパワーで駆動するタイプの最高192kHz/24bitに対応したオーディオインターフェイスだ。実売価格は、M2が21,800円前後、M4が27,800円前後。
フロントには液晶のフルカラーディスプレイがあり、ここで入力と出力のレベルを表示できるのが特徴。そして、その内部にはESS製のSABRE 32bit DACチップが搭載されているとのことで高音質であるとメーカーは説明している。ヘッドフォンでモニターしても音を聴いた瞬間に、何かちょっと違って、音がクリアというかクッキリしている印象を持つ。先日、筆者が隔週火曜日の夜に作曲家の多田彰文氏とともにネット配信している「DTMステーションPlus! 」という番組で、このMOTU M2およびM4を取り上げたことがあったのだが、多田氏も、この音をヘッドフォンでモニターしてすぐに「おや? 」と同じ指摘をしていたので、偶然ではなかったのだと思う。もしかしたら、ヘッドフォンの出力レベルが他のオーディオインターフェイスと比較して大きいので、音がよく感じられたという可能性もありそうだが、それを確認するためにも、しっかりとチェックしてみたかったのだ。
先ほどのハイ・リゾリューションによると、こうした低価格のオーディオインターフェイスを出してほしいという要望は何年も前からしており、ようやく実現できたとのこと。競合他社が1万円台の製品を展開して非常に売れているのを横目に見ていたことから、気にはなっていたのだろう。ただし、その競合他社製品と比較すると1.5倍程度の価格設定にしていることから、値段勝負ではなく、品質勝負で製品を投入したようだ。また、生産も競合他社が中国、マレーシア、インドネシアなどで行なっているのに対し、MOTUはすべてアメリカ製というのも他社と差別化しているポイントだそうだ。もっとも、内部の部品類は当然、中国などから輸入しており、その部品が品薄であることが、需要に対して生産が追い付かない最大の原因とのことだった。
その品薄というM2とM4だが、今回借りることができたのは4in/4outのM4の方。改めて見ても、とってもシンプルな機材ではある。フロントの左側にはコンボジャックが2つあり、これがマイク入力、ライン入力、ギター入力兼用のものとなっており、端子の横にファンタム電源供給用の48Vのボタンが用意されている。またその下のMONというのは、ダイレクトモニタリングをするためのスイッチとなっている。なお、ラインとギター入力を切り替えるためのスイッチは用意されておらず、ロー出しハイ受けの原則にしたがって使う形になっている。
フロント右側にある大きいツマミはメイン出力(MONITOR OUT)用の調整ノブで、一番右にあるのはヘッドフォン用のボリューム調整ノブ。いずれのツマミもトルクがやや重めなのも気持ちのいいところ。メイン出力用のノブもカタカタと切り替るエンコーダーノブではなく、なめらかに動くボリュームだ。
一方、リアを見ると、一番右にあるのが3chと4chの入力で、これはTRSのライン入力専用のもの。その隣がメイン出力であるMONITOR OUT、さらにその隣が3ch/4ch出力に相当するLINE OUTとなっている。なお、MONITOR OUTおよびLINE OUTはTRSフォンのほかに、RCAピンジャックでの出力も用意されている。さらに、その隣にUSB Type-Cの端子、そしてMIDI入出力がある。
では、これをPC側から見るとどうなのか? M2およびM4にはMOTUのDAWであるPeformer Liteというものが付属してくるが、このDAWの場合、MOTUのオーディオインターフェイス専用になっているため汎用的にチェックできない。そこでCubaseを使ってみてみると、4in/4outのオーディオインターフェイスであるはずのM4が8in/4outとして見える。これは、通常の入力のほかにLoopback 1/2およびLoopback mix 1/2というものがあるためだ。これは名前の通りループバックに対応した入力になっており、PCから出力した音をこのポートから取り込めるようになっている。このうちLoopback 1/2はループバック音のみを、Loopback mix 1/2はループバック音とフロントからの入力音をミックスした形で取り込む。
多くのオーディオインターフェイスの場合、Loopbackボタンがあったり、ドライバにループバックのスイッチがあって、それでループバックを取り込めるようになっているが、M2およびM4は、ループバック用のポートが用意されているわけだ。Windowsで使う場合、ASIOドライバだけでなく、MMEドライバにおいても、それぞれを選べるのもわかりやすいところ。
なお、ドライバの設定画面はサンプリングレートとバッファサイズを選ぶだけのシンプルなものとなっている。このバッファサイズは44.1kHzにおいて16サンプルまで小さくすることができ、192kHzの場合は最小が64サンプルとなっている。
音質テスト結果も好成績
ここからは、一番気になる音質テストを、いつものようにRMAAを用いて行なってみよう。ここではすべてライン入出力だけでチェックできるよう3/4chの出力を3/4chの入力にフィードバックする形にしてみた。こうした接続をした際、多くのオーディオインターフェイスの場合、出力レベルが足りずに入力側でマイクプリを駆動させなくてはならないことが多いが、試してみたところ、出力レベルがしっかりとラインレベルに達しており、即そのまま測定することができた。
マイクプリを使っていないという面は大きいが、44.1kHzでの結果も、192kHzでの結果も、すべてExcellentと表示される好成績。実際、192kHzでの周波数特性を見ても60kHzあたりまでほぼフラットと理想的なグラフとなっている。この辺が聴感上でも非常によく聴こえた要因なのかもしれない。
なお、レイテンシーのテストもしようと思ったが、前述の通り、ループバック専用のポートが用意されており、ループバックを完全にオフにするという設定がない。いつも使っているCentrance Latency testというツールは全ポートの入出力を同時に使うため、ループバックがあると、どうしても正しい測定をすることができず、今回は見送ることにした。
以上、MOTU M4に関してレポートした。今回の音質の結果を見ても、確かに人気モデルである理由はよくわかった。生産体制が改善して、早く品薄が解消されることを期待したい。