藤本健のDigital Audio Laboratory

第922回

ハイレゾ・3Dオーディオ再生アプリ「ωプレーヤー」とは!? WOWOW配信実験を試す

WOWOWは13日、ハイレゾ・3Dオーディオサービスを検討すべく「ω(オメガ)プレーヤー」なるアプリのベータテスター募集を開始した。

ωプレーヤーは、MacおよびiPhone用の再生アプリで、WOWOWが提供するハイレゾ・3Dオーディオコンテンツをインターネット経由で、オンデマンドおよび生配信の形で視聴することができる。開発はNTTスマートコネクトとの協業で、今回の配信実証実験には、現在WOWOWを視聴していない方も応募可能だ。

ωプレーヤー

配信フォーマットとしては「Auro-3D」と「HPL-MQA」の2種類が用意されていて、ユーザーの環境に応じて選択可能。イマーシブの再生環境を持っている方だけでなく、2chのスピーカーやヘッドフォンでもハイレゾ・3D再生できるというのもポイント。ωプレーヤーを一足早く試すことができたので、実際どんなものなのか紹介してみよう。

ハイレゾ・3Dオーディオ再生の「ωプレーヤー」とは

ωプレーヤーの存在を知ったのは、InterBEE 2021の特別公演をした際のこと。

12月17日までアーカイブ配信されているセッション「イマーシブオーディオの現状と将来動向」の中で、WOWOW エグゼクティブ・クリエイターの入交英雄氏がωプレーヤーを開発中であることを紹介。セミナーの収録後、入交氏に声を掛けられ、ωプレーヤーのデモを見せてもらった。

ωプレーヤーを紹介する入交氏

デモビデオは入交氏のMacBook Proの内蔵スピーカーを使ったものだったのだが、普通の音とは明らかに異なり、音が立体的に飛び出してくる用に聴こえた。

聞けば、この効果は「Auro Scene」という技術で、ステレオスピーカーでありながら3D再生できるというもの。Auro Sceneテクノロジーをωプレーヤーに実装することで、MacBook Proの内蔵スピーカーで立体的な表現を生み出しているのだという。

ωプレーヤーは開発の都合もあり、現時点ではMac版とiPhone版の2種類が用意される。Mac版の対応OSはMojave以降で、従来のIntel版はもちろんM1 Macでも利用可能。iPhone版はiOS 14以降が対象となる。Mac版とiPhone版では機能に違いがあり、具体的には表1の通り。またMac版、iPhone版それぞれの導入条件は表2のようになっている。

Mac版とiPhone版の違い
アプリの導入条件

今回はMac版アプリを事前提供いただいたので、それを使ってその内容を紹介していくが、ωプレーヤーのベータテスターに参加すれば、Mac版・iPhone版の両方を入手できるという。

今回の取り組みについて、入交氏は「以前からオンラインで高音質にイマーシブオーディオの配信ができないか、ということを検討していました。配信用としてはドルビーデジタルプラスなどはありましたが、音質面にはボトルネックがあり、いいコーデックを探していたのです。そうした中、Auro 3Dであればロスレスでいけるけど、いかんせんファイルサイズがでかい。そこでMPEG-4 ALS(MPEG-4 Audio Lossless Coding)などと掛け合わせる方式を3年前に考案し、開発を進めてきました。この度ようやくアプリとして完成し、実際にサービスとして成り立つものか、ユーザーを募って実験をしよう、というわけなのです」と話す。

WOWOW エグゼクティブ・クリエイターの入交英雄氏

4種類の再生方法と数多くのストリームを用意

上述の表にもあった通り、再生方法は大きく4種類ある。

まず1つはAVアンプを利用して、パススルーでAuro 3Dを再生するという方法。この場合はあらかじめAVアンプとHDMI接続した上で、設定画面で音声出力デバイスをAVアンプに設定するとともに、パススルーにチェックを入れる。

こうすることで、ωプレイヤー内のデコーダーを使うことなく、そのままAVアンプにAuro 3Dの信号が送られ再生することができる。この際、再生環境がDolby Atmos方式のスピーカー配置でも、問題なく聴くことができるようになっているという。「スピーカー配置は人によって異なるので、Auro 3DかDolby Atomosかのどちらかに最適に作りすぎるのは問題だと考えました。そこで100点ではないけれど、どちらでも80点の成績になるように作っています」と入交氏。

もう1つはマルチチャンネルのオーディオインターフェイスを利用して7.1.4chなどのスピーカーを鳴らすという方法。高性能なオーディオインターフェイスとスピーカーを組み合わせれば、AVアンプよりも高音質に聴くことも可能になるはず、とのことだ。

3つめはAuro Headphonesを利用する方法。これは設定画面でプレーヤー出力モードをAuro Headphonesにすることで、ヘッドフォンで7.1.4chのAuro 3Dを再生可能にするもの。アプリケーションで、Auro Headphonesを搭載するのは世界初とのことなので試してみる価値は大きそうだ。

そして4つ目は、2chのスピーカーで再生する方法。具体的な設定方法としては、プレーヤー出力モードを「Player DAC Outputs」に設定するとともに、Listening ModeをAURO-3D、ModeをAURO-Sceneに設定する。この際2chのスピーカーでの再生も可能だが、5.1chや7.1chでも再生可能であり、チャンネル数が多くなるほど、より本来のAuro 3Dのサウンドに近づいていくという。

今回は、このヘッドフォンで聴く方法と、2chのスピーカーで聴く方法で試してみたが、明らかに普通のステレオと比較して立体的なサウンドになる。

12月12日現在、用意されていたのはオンデマンドでの5つのコンテンツ。まずはチャンネル確認信号というものがあるので、これを使って、正しく音が出ているかをチェックするとよさそうだ。

興味深いのは、1つのコンテンツに、多くのストリームが用意されていること。例えば「アームチェア・コンダクター」というコンテンツの場合、1:Auro 11.1(7.1.4),48Hz/24bit、2:Auro 9.1 Hires,96kHz/24bit、3:HPL-MQAステレオ,48kHz/24bit、4:ステレオMQA,48kHz/24bit、5:Auro 9.1,48kHz/24bit、6:Auro 13.1,48kHz/24bit、7:Auro 11.1ch(7+4),48kHz、8:AAC 128kHz,48kHz/24bitが用意されていた。

共通するのは映像がすべて1,920×1,080のフルHD(4Mbps)で、音声だけが異なる。Auro 3D 11.1chとなると音声だけで6Mbpsとなり、映像帯域を超える。世の中一般では4Kであっても音はAACのステレオと、映像のほうが断然大きいのが常だが、映像よりも音に重きが置かれているコンテンツというのには、ちょっと感激してしまう。

一方、HPL-MQAの場合は1.5Mbpsと小さくなる。それでもAACに比べれば断然大きいわけだがこれはAuro Headphoneとは違う技術を用いた方式。入交氏は「基本的にはより多くの帯域を使っているAuro 3Dのほうがより立体的に、高音質に聴こえますが、コンテンツ、また聴く方や使うヘッドフォンによってはHPLのほうがリアルに聴こえるケースもあるので、ぜひ聴き比べてほしいです」と語る。

現在ある5つのコンテンツの中には、音楽コンテンツだけでなく、熱海の花火大会を収録したものもあり、これはこれでリアルに聴こえて面白い。やはり3Dサウンドになると、かなり迫力もあって、実際に現地で花火を見ているかのような感覚を味わえる。

「アームチェア・コンダクター」
「ジョスカン・デュ・プレの教会音楽」
「熱海海上花火大会」

通常はこれらオンデマンドのコンテンツとなっているが、2022年1月11日と12日は生配信も行なわれる。11日18時から配信されるのは、ハクジュホールで行なわれる寄席。日本の伝統話芸である落語を3Dオーディオで生配信しようという試みであり、林家たけ平などが出演する予定。

続く12日もハクジュホールからの配信だが、今度はピアノデュオによる演奏。ロシア生まれの作曲家でジャズの要素を取り入れた作品が特徴のニコライ・カプースチンによる作品をpiaNAという2人の日本人ユニットが演奏する内容。いずれも、生配信が終わった後はアーカイブで配信される。

この2つの生配信を含め最終的には15コンテンツまで増やし、2022年2月10日まで約2か月間のベータテストを行なうとのこと。冒頭でも紹介した通り、WOWOWの視聴者でなくとも、無料でエントリーできるとのことなので、興味ある方はぜひ応募してみてはどうだろうか?

ただし、エントリーに当たっては無料で登録できるWOWOW WEBアカウントの取得が必要となり、また2カ月のベータテスト期間が終わったところで、アンケートへの協力が条件。最終登録締め切りは2022年1月28日となっているが、規定の定員に達した場合は募集を締め切るという。また応募多数の場合は、抽選となるケースもあるという。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto