藤本健のDigital Audio Laboratory

第583回:Mac波形編集の決定版? 大幅に強化された「Sound Forge Pro Mac 2」を試す

第583回:Mac波形編集の決定版? 大幅に強化された「Sound Forge Pro Mac 2」を試す

Sound Forge Pro Mac 2のパッケージ

 米Sony Creative SoftwareからMac用の波形編集ソフトSound Forge Pro Mac 2がリリースされ、国内でも代理店のフックアップが3月14日よりパッケージ版を38,850円で発売する。Macにおける波形編集ソフトの決定版的なものが無い中、Windows環境で定評あるSound Forgeが進出した格好だが、実際どんな機能のものなのか試してみた。

バージョン2でバッチ変換などWindows版と同等の機能を搭載

Sound Forge Pro Mac 2の操作画面

 オーディオデータを扱う上で、便利なのが波形編集ソフトだ。これがあれば、レコーディング、再生ができるのはもちろんのこと、不要部分をカットしてトリミングをしたり、ノーマライズをかけて聴きやすい音量に整えたり、エフェクトをかけたり、またさまざまなフォーマットでの保存ができるなど、一通りのことができる。

 確かにDAWがあれば同様のことはできるのだが、ちょっとデータを切り出したいとか、サンプリングレートを変更したい、といったときにわざわざDAWを起動するのは面倒だし、動作も重くなる。例えていうなら、ちょっとした文章を書いて編集するなら、WordやDTPソフトを使うよりも、テキストエディタを利用したほうが軽くて快適という感覚に近い。特に業務で使うとか、頻繁に編集作業を行なうのであれば、利用すべきソフトである。

 ところが、Macユーザーの間で、広く利用されていた波形編集ソフトであるBIAS Peakが数年前になくなってしまって以降、定番ソフトが存在しない。確かにオープンソースのフリーウェア、Audacityなどは存在しているが、どうもスマートでなく、扱いづらいと感じている人も少なくないだろう。

 そんな中、2012年秋にSound Forge Pro Macが発売され、筆者もかなり期待したのだ。というのもWindowsにおいて、Sound Forge Proは非常に扱いやすいソフトであり、高機能で軽い。これと同じものがMacでも動くとしたら、便利になると思ったからだ。

 ところが、当時試してみたところ、長年WindowsでSound Forgeを使ってきたユーザーとしては、違和感があった。印象としてはWindowsから移植したのではなく、まったく別の波形編集ソフトが登場し、名前が同じSound Forgeだった、という感じ。例えば、WindowsのSound Forgeであれば、昔から録音ボタンを押すと、録音ダイアログが表示されるとともに、入力のレベルメーターが表示されるので、ここで大まかなレベル調整をした後にレコーディングに入ることができたが、Mac版は録音ボタンを押すと直後にレコーディングがスタートするために使いづらい。

従来バージョンの操作画面
WindowsのSound Forgeで表示された録音ダイアログ画面

 ユーザーインターフェイスもだいぶ変わっていて、いろいろと馴れない感じなのだ。また極め付けはバッチ処理機能がないこと。Windows版のSound Forge Proにはバッチコンバータという機能があり、例えば「WAVファイル素材に対し、コンプレッサ処理を行なった後にノーマライズをかけ、16bit/44.1kHzに変換して、MP3の128kbpsで保存する」といった一連の操作を覚えさせ、大量のWAVファイルに一括処理するという機能があったのだが、Mac版にはなかったのだ。

 ところが、今回のSound Forge Pro Mac 2になり、Windows版とほぼ同じ機能を搭載し、バッチコンバータも搭載したということだったので、改めて試してみたのだ。

Windows版に無いエフェクト、豊富な入出力形式対応

 実はこのSound Forge Pro Mac 2がリリースされる少し前にWindows版がSound Forge Pro 11というバージョンになっていたので、こちらはすでに少し使っていた。なんとWindows版がMac版に歩み寄り始めていてユーザーインターフェイスが少し変わってきていたのである。前述の録音ダイアログがなくなってしまうなど、当初気に入らなかったが、それなりの使い方を見いだせるようになり、だんだん慣れてきていた。その上で今回Mac版の新バージョンを試したところ、ほとんど違和感はなくなっているし、機能的にもほぼすべてが網羅されている。

Windows版のSound Forge Pro 11
録音ダイアログがなくなってしまった

 録音ダイアログはないが、入力モニター用のレベルメーターを表示できるので、ここで録音時のレベルをチェックできるし、必要に応じてこのレベルメーターを右に表示したり、下に表示したり、左に表示できるなど、レイアウトは自由自在。これは入力用のメーターだけでなく、ラウドネスメーター、ファイル・プロパティ、リージョンリスト……と自分の好きな形でレイアウトできるので、Windows版よりも使いやすいくらいだ。

入力モニター用のレベルメーター
レベルメーターなどの画面レイアウトを変更可能
「Process」内のメニュー項目

 また、改めて確認してみると、Processメニューには、フェードイン、フェードアウトはもちろんのこと、ノーマライズ、リバース、ボリューム調整、またelastiqueタイムストレッチ、iZotopeのサンプリングレートコンバータやビット深度コンバータ、といった処理メニューはあるし、エフェクトとしても一通りのものが揃っている。もっとも、これはAudioUnitsに対応しているからで、GarageBandに入っているものなど、標準のエフェクトが利用できるようになっているのだ。また、iZotopeのNectar Elementsというプラグインが標準バンドルされているのも大きなポイント。これはタックシステムが12,800円で販売しているボーカル処理用のプラグインで、プリセット音色を選べるほか、手動でプレゼンスやドライブの設定、リバーブ成分の設定、ディエッサーやピッチの調整などなどが簡単にできる。

ノーマライズ
elastiqueタイムストレッチ
iZotopeのサンプリングレートコンバータ
ビット深度コンバータ
プラグインのiZotopeのNectar Elementsもバンドルされている

 さらにiZotopeのマスタリング用エフェクト6種類もバンドルされている。具体的には下記の通り。Windows版にも入っていないこれらツールが利用できるのも大きなメリットといえそうだ。

Mastering EQ
Mastering Reverb
Multiband Compressor
Mastering Limiter
Mastering Imager
Harmonic Exciter

 なお、AudioUnitsのほかにVSTプラグインにも対応しているから、フリーウェアを含め、さまざまなプラグインを追加して利用することができる。

 さて気になるバッチコンバータはというと、Windows版とは少し異なる実装となっていた。Windows版は、ツールメニューからバッチコンバータを起動させて使うのに対し、Sound Forge Pro Mac 2では、Convertという別アプリケーションとなっており、これを起動して利用するのだ。まあ、別アプリ化しているものの、基本的にはWindows版と同様で、Processメニューの各処理とエフェクトの各処理、また、ファイルの入出力などが自在に設定できるようになっている。ファイルのサポート形式もFLACが追加されたことで、Windows版が対応しているフォーマットは一通り利用できるようになった。

バッチコンバータの画面
FLACが対応形式に加わった

 具体的には、読込みは3G2、3GP、AAC、AIF、AMR、FLAC、CAF、M4A、MP3、MP4、SND、W64、WAV。保存は3G2、3GP、AAC、AIF、CAF、FLAC、M4A、MP3、MP4、SDII、SND、W64、WAVとなっているからまず不自由することはないだろう。

 この入出力フォーマットが多いのもSound Forge Pro Mac 2の大きな特徴。Sound Forge自体をファイルコンバータとして利用しても便利だが、大量にデータがある場合は、バッチコンバータが大きな威力を発揮してくれる。

「SpectraLayers Pro 2」との連携で編集機能強化も

ツールメニュー内にある「SpectraLayers Pro 2」

 ところで、Sound Forge Pro Mac 2には、もうひとつ大きな機能が追加されている。それは同じくSony Creative Softwareのオーディオ編集ソフトであるSpectraLayers Pro 2との連携機能だ。このSpectraLayers Pro 2については、また改めて詳しく紹介したいと思うが、これはスペクトル分析をかけた上で、それをレイヤーとして扱って編集するという、非常にユニークなソフト。特定の周波数成分だけを抜き出したり、特定の音だけにエフェクトをかけるなど、Sound Forgeにはできないユニークな機能を持っている。

 同じオーディオファイルに対し、Sound ForgeとSpectraLayersとの間をシームレスにやり取りして編集できるので、これまでのSound Forgeだけでは決してできなかった編集作業が可能になるのだ。なお、Sound Forge Pro Mac 2とSpectraLayers Pro 2をセットにしたAudio Master Suite Macというパッケージも定価71,400円でSound Forge Pro Mac 2と同時に発売される。

 ちなみに、SpectraLayers Pro 2との連携機能は、Windows版のSound Forge Pro 11にも搭載されているのでまさにWindows版、Mac版が横並びになった格好だ。

連携により、Sound Forge単体ではできなかった編集作業も可能になる
Sound Forge Pro Mac 2とSpectraLayers Pro 2がセットのAudio Master Suite Mac

 前バージョンで抱いていた偏見を除いてSound Forge Pro Mac 2を使ってみた結果、現時点のMac上の波形編集ソフトとして、決定版といっていい、強力な機能を持ちつつ軽いソフトに仕上がっていた。体験版もWebからダウンロードできるので、Macの波形編集ソフトを探している人ならば、一度試してみる価値のあるソフトだと思う。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto