西川善司の大画面☆マニア

第228回

これは欲しい! ソニーの新超短焦点4Kプロジェクタ「VZ1000ES」の新高画質体験

 CES 2017は予想外に「プロジェクタ」に注目製品が多かった。そんな中でも、ソニーブースのプロジェクタ製品の目玉は、リアル4K、HDR対応の超短焦点SXRDプロジェクタ「VPL-VZ1000ES」だ。

ソニーブース

ソニー空間創出4Kプロジェクタが、サイズも価格もダイエットして新登場

 このVPL-VZ1000ESは、2年前の2015年1月から発売開始された同コンセプトの超短焦点SXRDプロジェクタの「LSPX-W1S」の後継機となる。LSPX-W1Sは500万円という破格のプライスタグに度肝を抜かれたが、VPL-VZ1000ESは半額近くにまで価格が下げられている。

ソニーの4K/HDR対応超短焦点「VPL-VZ1000ES」

 北米での発売は決定しており、時期は4月を予定。価格は24,999ドル(現在の為替レートで290万円)と発表されている。今回のブース取材では、みっちりと、このVPL-VZ1000ESを見てきたので、インプレッションもふくめてレポートしたい。

 まずは基本スペックから。本体サイズは、LSPX-W1Sとの体積比で40%ダイエットに成功しており、925×494×219mm(幅×奥行き×高さ)。印象としては二回りくらい小さくなった感じだが、「小さいか?」と問われれば「まだ大きい」と言わざるを得ない(笑)。見た目の印象で大きく感じるのは、やはり幅が1m近くあるからだろうか。

 重量も軽量化されて35kgに。といってもこれでも十分重いのだが、LSPX-W1Sが51.5kgだったので33%のダイエットに成功したことになる。

LSPX-W1Sでは電動開閉していた投射開口部は手動開閉式に。コスト削減は意外と徹底

 この「ダイエット成功の秘訣」は、光学系を含めた投射コアの刷新にある。リビングなどの大きな壁に大画面投写し、映像空間を創出する「超短焦点4K-SXRDプロジェクタ」というコンセプトはLSPX-W1Sと同じだが、製品としては新規モデルということだ。

 それでも、まだ大きいのはやはり光路設計や放熱設計の難しさから来ているという。

 その原因は第一に光源が半導体レーザーだということだ。

 光源のレーザーダイオードは青色単色でこれを黄色の蛍光体ホイールにあてて波長変換して白色光とし、これを光学系で平行光源化してダイクロイックミラーを駆使してRGB(赤緑青)光に分光して映像パネルであるSXRDパネルに照射させる。このレーザー光源モジュールはメカを含むために大きく、発熱量も大きい。ホームシアター用途となると、静穏性が求められるので小径ファンを高速に回転させては騒音が大きくなるので、大径ファンをゆっくり回す必要がある。というわけで筐体も大きくならざるをえない。

 VPL-VZ1000ESの輝度は2,500ルーメン。LSPX-W1Sの2,000ルーメンよりも高輝度を実現しながらサイズ・重量ともにダイエットに成功しているのはすごい。ちなみに、騒音レベルは24dB。2,500ルーメンの明るさのレーザー光源で、この静穏性は立派である。

比較的、明るい部屋でもそれなりに見えてしまうのは2500ルーメンの輝度パワーのおかげか

 SXRDパネルは、VPL-VW5000ESやVPL-VW535などに採用されているものと世代的には同じで、DCI系の4Kとなる0.74型/4,096×2,160ピクセルとなっている(3,840×2,160ピクセルではない)。

 光学系が刷新されていることから、投射プロファイルがLSPX-W1Sから変更されている点も特筆すべき点だろう。LSPX-W1Sでは投射距離17cmで147インチ(16:9)だったが、VPL-VZ1000ESでは、投射距離16cmで100インチ(16:9)となった。若干、投射画面サイズが小さくなったが、家庭での実用上に不満はないはず。

 今回のブースでの展示も、まさに投射距離16cmで100インチ(16:9)で行なわれていたので、この設置スタイルが2,500ルーメンで投射する際の標準ということになるだろう。ブースの担当者によれば120インチくらいまでは性能を担保できるとのこと。

背面側の接続端子
右側面側の接続端子はサイドカバーを外すことでアクセス可能。カバーを被せてしまえば接続状態を隠蔽できる

 エアフローは背面吸気の前面排気となっていて、側面にクリアランスは求められない。ただし、接続端子は背面と正面向かって右側面にある点には留意したい。

 100インチ画面時の投射映像は、本体上面から17cm上に投射される。本体の高さは約22cmなので、床置きした場合の映像下辺は、床面から約40cmのところに来ることになる。
 首を上げて見ることに抵抗がある人や、画面中央がなるべく目線延長線上に近い位置に来させたい人は、床置きをした方がいいかもしれない。ローボードに置く場合は、そのローボード自体の高さに気をつけた方が良さそうだ。

直視型に迫るHDRコントラスト感

 実際に投射映像を見させてもらったが、2,500ルーメンの高輝度性能は圧倒的だ。

 わざと薄明かりの照明を付けたままでの視聴体験となったのだが、その表示映像はほとんど直視型のディスプレイと比較しても遜色ないレベル。湾曲ミラーという特殊光学系を駆使した投射映像だが、歪みらしい歪みはなく、左右辺と上下辺が互いに直線で完全直交している美しい画面だ。

 フォーカス感も鮮烈だ。バスケットボールの試合シーンの映像デモが公開された際に、黒人選手のアップが映し出されたのだが、肌の肌理の陰影がしっかりと見える事に驚かされる。

 一般的にプロジェクタの投射映像は、100インチならば3mくらいの投射距離を持って投射されるため、フォーカスをしっかり調整していたとしても、投射像は空気散乱の影響などでややしっとり気味な味わいになる。

 しかしVPL-VZ1000ESの投射像は、投射距離が短いせいか画面全域でとてもクリアに見えるのだ。湾曲ミラーで相当光路を曲げているはずで、画面下と画面上では投射距離も違ってくるので、フォーカス設計はとてもシビアだと思うが、そうした負い目はほとんど感じられない。

 レーザー光源の恩恵もあってか発色は直視型ディスプレイと比較しても遜色ないレベル。

HDR映像デモとして披露されたSF映画「PASSENGER」の予告映像。HDR感もなかなかのもの

 HDR映像のデモとしてSF映画「PASSENGERS」を見せていただいたが、明部のきらめきも液晶テレビに肉迫するレベルだ。プロジェクタからの投射映像は、液晶テレビでいうところのバックライトエリア駆動的な制御はできないはずだが、明暗が同居している映像でもその負い目をあまり感じない。

 これも投射距離の短さから来るものなのだろうか?

 デモ視聴中、このハイコントラストな画質に関してはソニー担当者から1つ補足説明が入った。というのも、今回の展示は、特別なスクリーンが組み合わされており、その効果も大きいというのだ。

 このスクリーンは、外光、環境光を吸収しつつ、投射像は視聴位置に反射させる特殊な設計のハイコントラストなブラックスクリーンだそうで、メーカー名は非公開。表示面はギザキザしていたので、おそらく構造としてはKICのハイコントラストスクリーンに近いものだと推察する。VPL-VZ1000ESの推奨スクリーンにすることも検討しているとのことだが、たしかに、相性がよいと感じる。

 約290万円はおいそれと手を出にくいが、18Gbps HDMIにも対応しているし、画質もよいし、筆者もかなり本気で欲しくなってしまった。

中身はそのまんまVPL-VZ1000ES? 新4Kプロジェクタ「It's all here」

 ソニーブースでは、人間の生活空間に新たな体験を創出することを目的としたユニークなコンセプトの製品ブランド「Life Space UX」の展示コーナーでも新型4Kプロジェクタ試作機の展示が行なわれていた。その名も「It's all here」。

 この試作機は、映像コンテンツを楽しむだけでなく、音楽ライブラリ、電子書籍ライブラリ、環境映像を楽しむための総合生活支援デバイスとして開発されたものだそうで、実体としては、VPL-VZ1000ESのようだ。スペックもサイズ感も同じで「ガワ」だけが違うという風情。

中身はVPL-VZ1000ESそのもの

 デモでは、音楽ライブラリ、電子書籍ライブラリ、環境映像をジェスチャー操作で選択して楽しむ様子が実演されたが、担当者に聞いてみると、全てのデモは実際にはムービーで、ジェスチャー操作もムービーに合わせて操作のフリの演技を被せているだけのものだそうだ。

 もしかすると、4K超短焦点プロジェクタのコアとしてはVPL-VZ1000ESそのままだが、そうしたジェスチャー入力に対応したインターフェースを組み込んで製品化する計画があるのかも知れない。

ジェスチャーによる華麗な操作デモを披露。実は展示試作機にジェスチャーUIは実装されておらず、あらかじめ作り込まれた投射映像に操作している風な演技を被せていただけであった

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。3D立体視支持者。ブログはこちら