西川善司の大画面☆マニア
第215回
CES会場に溢れるVR HMD/360度カメラを一挙紹介! SFからヒマラヤまでコンテンツも体験
(2016/1/15 09:10)
大画面☆マニア的には、50インチだ、100インチだ……と物理的な画面サイズが主たる興味の対象となるわけだが、昨今話題になってきた「バーチャルリアリティ」(VR)では、頭を切り換えて接する必要がある。
なにしろ、眼前が映像で覆われ、それこそユーザーが頭部を動かせばそちらの映像が見られる。いわば「画面サイズは無限大」であり、画面としての物理サイズは存在しないので「画面サイズなし」とも言える。
一方で、VRを体験するためのVRヘッドマウントディスプレイ(HMD)は、画面サイズ的には5~6インチの直視型映像パネル(液晶パネルや有機ELパネル)を採用しているので「物理画面サイズは5~6インチ」とも言える。
なんともややこしい映像機器が出てきたものだが、今年のCES 2016では、後発のベンチャー企業の新作VR HMDを除けば、圧倒的な存在感を放っていたのは、昨今のVRブームの仕掛け人であるOculus VR社の「Oculus Rift CV1」と、VALVEとHTCの協同プロジェクトである「VIVE」(SteamVR)だ。
実質的にソニーブースにしか出展されていなかったソニー・コンピュータエンタテインメントの「PlayStation VR」(PSVR)も、前評判の高さもありかなりの人気ぶりではあったが、Oculus RiftとVIVEは、自社ブースの他に、メディア/関係者/VIP向けブースをCES会場とは別場所に設置するなど、CESでのプレゼンスは圧倒的であった。
それと、Oculus Riftは、1月7日より予約受付が開始され、長らく秘密にされてきた価格が599ドルと発表された事も話題を呼んだ。
599ドルに対しては「高い!」「いや、性能を考えれば安い!」と意見が分かれたが、逆にこの賛否論こそが、VRに関心がある人達にとっての最高の議題テーマになっていたようで、発表当日はプレスルームのそこかしこで議論が交わされていたほど。
カジュアルVRの先鋒、サムスンのGearVRも、CES 2016におけるプレゼンスは高かった。自社ブース内にGearVR体験コーナーを設置したほか、追加で、CESメイン会場のコンコースにも50人近くが同時にGearVRを体験できる専用ブースを設けるなどして訴求していた。
このVRブームに関連して、今回のCESでとても目立っていたのが360度撮影カメラ製品群だ。
VRコンテンツにおいて最もリッチな体験ができるのはインタラクティブ要素を持ったゲーム的なコンテンツになるとは思うが、360度カメラで撮影した全天全周映像は、少し体験しただけで「わ、すごいね」という感動が得られ、カジュアルにVRに接する手段としてはおあつらえ向きだ。
据え置き型ゲーム機のハイエンドゲームに対するスマホゲームのような存在として、筆者個人的には、ヘビーなVRコンテンツの対極に、360度撮影カメラで撮影された全天全周映像があると考えている。これがカジュアルVRコンテンツの本命になるという予感だ。360度カメラを使えば、一般ユーザー自身がカジュアルVRコンテンツを制作できるという楽しさもある。いわゆる、UGC(ユーザー・ジェネレーテッド・コンテンツ)としての創作の愉しみだ。
こんな前置きを踏まえた上で、今年のVR関連事情を取りまとめてみたいと思う。
リコーTHETAシリーズに続け!? 360度撮影カメラ製品化ラッシュ
今年のCESは、とにかく360度撮影カメラの新製品が多かった。それこそ、会場内をただ歩いているだけで360度カメラの新製品が視界内に飛び込んでくる勢いだ。
無秩序に紹介するだけでは能がないので、最初にちょっとカテゴライズしたうえで紹介したいと思う。
まず、360度撮影カメラの種類で最も数が多かったのは「アクションカム」タイプ。カジュアルVRコンテンツの一番の待望コンテンツは、やはり「非日常体験」ということになるので、海山空などの広大な自然を舞台にしたスポーツ体験の撮影は定番。これを360度撮影したくなるのは納得のいく流れではある。
もう一つのトレンドキーワードには「4K」だ。基本的に、360度撮影カメラは魚眼レンズのような広画角のレンズを使用して撮影するので、いわば撮影対象の情景面積は大きくなる。例えば、一般的なビデオカメラはワイド側で(水平)画角が60度程度、これをフルHD解像度で撮影しているわけだ。リコーのTHETA Sでは画角360度で撮影している。画角あたりの画素密度はTHETA Sの方が一般的なビデオカメラよりも低いのは明か。そう、360度撮影メラでは、撮影解像度は高ければ高いほどいいのだ。
ということで、「4K」は普通のカメラやテレビ以上に引き合いが強いのである。
3つ目はキーワードというか、カテゴライズの際の注目ポイントともいうべき要素だが、「撮影レンズの数」だ。
広角レンズは撮影画角が広ければ広いほど歪みは大きいし、前述したように、広角撮影するにあたっては撮像素子の解像度は高ければ高いほどいい。そこで、1眼あたりの撮影画角を低めにして、その各撮影レンズごとに撮像素子を割り当てたような360度撮影カメラが出てきたのだ。
発想としてはGoProのようなアクションカムを360度撮影用のブラケットに取り付けたようなものと違わないが、一体化デザインされていればボディサイズは小型になるし、撮影映像のポストプロセス(360度映像としての縫い合わせ:スティッチ)も自動になるし、複数カメラを購入するよりもコスト的にも低く抑えられるし、メリットは大きい。
4つ目のキーワードは3D立体視だ。
多眼化した360度撮影カメラは、すこし手を加えることで3D映像を撮影することができるようになる。一般的な360度撮影カメラは、全天全周が撮影できるものの、その映像は基本的には一視点の映像となり2D映像である。撮影した映像をあとでVR HMDで愉しむことが前提となるのであれば3D立体視ができた方が面白みは大きい。ということで、360度撮影カメラで全天全周の3D映像が撮影できるタイプの開発が始まりつつあるのだ。
順番に見ていくことにしよう。
2眼式
まずはリコーTHETAシリーズと同じ2眼式から。同方式の大本命と目され、注目を集めていたのがニコンの「KeyMission 360」だ。ブースには黒山の人だかりが出来ていたが、残念なことに実機による実動デモはなし。
スペックも詳細は明らかにされておらず、現在分かっているのは「水深30m対応防水」「360度全天全周を4K解像度で撮影」ということくらいだ。サイズ感としてはGoProを少し膨らませたような感じで、小さいことは小さい。今春正式発表ということで、今も開発進行中と言うことなのかも知れない。
IC REAL TECHが発売する「ALLie Go portable 360x360 action video camera」も、ボディの前後に画角188度の魚眼レンズを取り付けた2眼式の360度カメラだ。
今回発表された「ALLie Go」は、位置付け的には同社が先行発売していた「ALLie Home」のアクションカム的なバージョンという位置づけ。先行発売されていた「ALLie Home」は、バッテリを内蔵せず、DC9V給電によってしか利用できなかったが、新たに発表された「ALLie Go」はバッテリを内蔵する。
大きな違いはこのくらいで、基本的な撮影スペックは変わらない。撮影レンズ1個あたりに撮像素子を割り当てており、その解像度は2,048×2,048ピクセル。つまり、二眼で前後2,048×2,048ピクセルの総800万画素の撮影が行なえることになる。フレームレートは最大22fps。映像コーデックはH.264。記録先は8GBの内蔵メモリのみだ。価格も「ALLie Home」から据え置かれ、599ドルのまま。発売時期は2016年中頃と説明されている。
3眼式
360度撮影カメラは2眼式が主流になるのか……と思いきや「画質性能を考えれば3眼式の方が優れている」と主張するのがGIROPTIC。「360CAM」をお披露目した。
そのボディ形状は特徴的で「洋なし」か「電球」のような立体的な形をしている。これは3つの撮影レンズをボディ三面にあしらっていることからの必然的なデザインのようだ。
ボディは随分とマッチョだが、重さは180gで、アクションカム系に分類しても問題なさそうだ。
4K撮影機能に対応するとはいうものの、実は4Kで撮影できるのは静止画のみ。動画はフルHD/30fpsまでとなっている。microSDカードが使用でき、バッテリもユーザー交換で対応できる点がリコーTHETAシリーズにはない特徴だ、と担当者は主張していた。
単眼式
コストを優先するならば3眼式でもなく2眼式でもなく単眼式だ……という論調を展開するのは360度撮影カメラ専業メーカーのベンチャー企業の360flyだ。
2眼式だと撮影した映像をデジタル次元でスティッチするポストプロセスが必要だが、単眼式ならばそれが不要だ。撮影レンズも1つ、撮像素子も1つ……と、コスト的に有利というわけである。
この単眼式360度撮影カメラに絶対的な自信を見せる360flyは、2015年より「360fly」の2K(フルHD)モデルを399ドルで発売開始している。
撮像素子は2Kだが、撮影解像度が1,506×1,506ピクセルでフレームレート30fps。MPEG-4 AVC/H.264の20Mbpsでのエンコードに対応している。撮影メディアは32GBの内蔵メモリのみ。内蔵バッテリによる駆動時間は2時間半で、丁度32GBメモリがフルになるとのこと。
CESではより高画質なモデルとして4Kモデルが発表され、価格は100ドル上がった499ドルとアナウンスされている。たしかに4K撮影対応モデルとしては相対的に安価と言えるかも知れない。なお、撮像素子は4k解像度だが、撮影解像度は2,880×2,880ピクセルになるという。
単眼式の弱点も述べておこう。それはシンプルに撮影画角だ。360flyは撮影レンズを天頂部に向けているが、撮影レンズの撮影画角は水平360度、垂直240度。要するに下向き120度の範囲が死角となるのだ。
感覚的には、自分の足元の1~2歩分くらいの範囲の地面が撮影されていないイメージだ。レンズが上向きと言うこともあってちゃんと天頂部は撮影される。この辺りが割り切れるならば単眼式はコストも安いのでお勧めかも知れない。
多眼撮影レンズ式
最後に、多眼撮影レンズを採用した3D対応の360度撮影カメラも紹介しよう。
こちらはまだそれほど事例が多くはないが、その代名詞的存在で知名度が高いのはサムスンの「PROJECT BEYOND」である
水平360度の撮影画角を8等分し、中心角45度ずつに約200万画素超の撮影カメラを16基、円弧状にあしらった3D立体視対応のカメラと説明されている。実際には天頂部の死角を補うための追加カメラが天板部に実装されるので、総計17基のカメラを搭載した大がかりなユニットになる。
任意の視線の方向の3D立体視の映像は、17基のカメラで撮影された映像からリアルタイムに左右の目用の映像にポストプロセッシングされて生成出来る仕組みになっている。
撮影画角の広いレンズで撮影すると、レンズ外周部の光線は撮像素子に対して掠めるような角度で入射することから画質が低下する。「PROJECT BEYOND」では撮影レンズを多数あしらっていることから、各レンズ×撮像素子のなるべく美しく撮れている映像を用いて映像を再構成できる。このことから、極めて高画質な3D立体視対応の全天全周映像が撮影できるとしている。
ただ、1フレームあたり約3,500万(8K解像度以上)、30fps換算で1秒間に10億ものピクセル数を処理しなければならず、総システム負荷は相当なものになる。もしかすると現行のスマホ向けのSoCでは処理が難しいかもしれない。開発が進められていることは間違いないようだが、製品化にはまだ時間が掛かるとみられ、今回のサムスンブースでも実機展示はされていない。
PROJECT BEYONDのコンセプトを、より現実的な仕様にしたともいえる「VUZE CAMERA」が、イスラエルのHumanEyes Technologiesから発表された。
円状のPROJECT BEYONDに対し、「VUZE CAMERA」は四角形状。一辺あたりに2眼カメラを備え付けているので、カメラの総数は8個。丁度、PROJECT BEYONDのカメラ数を半分にしたようなデザインだ。
1眼あたりの撮影解像度は非公開だが、総撮影解像度は4K程度と説明されている。映像コーデックはMPEG-4 AVC/H.264だが、対応ビットレートは最大120Mbpsで、なかなかのものだ。
実際に、GearVRを被って撮影された映像を見せてもらったが、解像感はかなり高く、3D立体視にも違和感もなかった。
サイズは12×12×3cm(幅×奥行き×高さ)、重さは250gで、イメージとしてはポータブルCDプレイヤー程度。一般的なアクションカムやその他の360度撮影カメラよりは大きく、動きの激しいスポーツ中に身に付けて撮影するのは難しくても、歩きながらの撮影は十分にできるレベル。250gと言うことであれば、ドローン撮影にも十分対応できることだろう。
筆者が体験したVRコンテンツたち
続いて、筆者が各所で体験したVRコンテンツ、各社ブースで発見した変わり種のVR関連ガジェットを紹介しよう。
まずはOculus Riftで体験したものから。
NVIDIAブースで体験できたのは、EPIC GAMESが開発した「BULLET TRAIN」、505GAMESが開発した「ADR1FT」の2つ。
「BULLET TRAIN」は、EPIC GAMESが誇るゲームエンジン「UNREAL ENGINE4」(UE4)のVR対応力を誇示するために制作されたデモソフトなのだが、あまりにもVRゲームとしてよくできていたために、各方面から高評価を得て有名になったものである。ゲームとしてはよくある一人称シューティング型のVRゲームなのだが「酔い」を起こさないためにステージ内の自身の移動はテレポートという大胆なシステムになっている。
敵を狙い撃つために使うのは、一般的なゲームコントローラではなく、Oculus Touchと呼ばれるOculus VR専用コントローラを使う。一般的なゲームコントローラを2つに割って左右の手に半分ずつ持ったようなスタイルで活用するこのコントローラは、従来のコントローラとWiiリモコン的なモーション入力コントローラのいいとこ取りという感じでとても扱いやすかった。
「ADR1FT」は、映画「ゼロ・グラビティ」を連想させる、壊れ行く宇宙ステーションからの脱出を舞台にしたサスペンスアドベンチャー。操作には普通のゲームパッドを使うため、天地無用の無重力空間での移動が少々分かりにくかったが、グラフィックスは息を飲むレベル美しさ。ちなみにゲームエンジンはこの作品もUE4である。
AMDブースで体験できたのは、CCP Gamesの「Eve Valkyrie」、Gunfire Games社の「Chronos」、Insomniac Games社の「Edge of Nowhere」、Playful社の「Lucky's Tale」など。
「Eve Valkyrie」は、映画「スターウォーズ」のような広大な宇宙で繰り広げられる宇宙戦闘機同士のドッグファイトが楽しめる作品。機銃の掃射で敵機を撃墜するもよし、照準器に敵機を合わせてロックオンして追尾ミサイルをバシバシャ撃っていくのもよし。
プレーヤーはコクピットに座っているパイロット自身で、ゲームは一人称視点で進行。自機を追い越していく敵機の姿があれば、360度頭を動かしてその行方を確認して、自機の進行方向をそちらに向けて追わなければならない。
スターウォーズではお馴染みの超巨大戦艦の壁面をすれすれに飛ぶことだって可能。とにかく爽快で、VRゲームの楽しさが集約されているような内容だ。
「Chronos」は日本人が親しみやすい後方視点の三人称視点のアクションRPGで、日本の著名ゲームで喩えるならば「ICO」「ワンダと巨像」「ゼルダの伝説」のようなゲーム性やプレイ感覚。
「Edge of Nowhere」はトゥームレイダーやアンチャーテッドのようなゲーム舞台がダイナミックに崩壊していくのを避けながら連続アクションを駆使してゴールを目指す三人称視点のアクションアドベンチャーゲームだ。
「Lucky's Tale」は、「スーパーマリオ64」を彷彿とさせるゲーム性とアートタッチで、ジャンプアクション主体の足場飛び移り系アクションゲーム。VRゲームというとリアル系でダークな作風が多い中、本作は実に暖かい雰囲気のほのぼのタッチだ。プレーヤーが扮するは可愛らしいキツネ坊や。このキツネくんを操作して、ハリネズミや昆虫のような「ゆるキャラ」の敵達を倒しつつゴールを目指すという内容。
「Chronos」「Edge of Nowhere」「Lucky's Tale」、これら3つの三人称視点のゲームは、まさにテレビに頭を突っ込んでいる状態でプレイしている感覚が新鮮。
崖から崖へジャンプする際も、椅子立ち上がって横に回ってその距離感を目することもできるし、後ろに振り向けば、後ろから迫り来る敵を確認することだってできる。従来の遊び慣れ親しんだ三人称タイプのアクションゲームも、VRに対応するだけで遊びの幅が拡張されることには筆者も驚いてしまった。
続いて、HTC VIVEで体験したもの。
HTC VIVEシステムでは、部屋の隅の2点に設置した、VR HMDの位置追従するための「Base Station」を利用する事で、その2点を対角頂点とした直方体内の空間をVR HMD装着者が自由に動き回れるという特徴を持つ。つまり、HTC VIVEでは、VR空間内をより広く歩き回れることを売りにしているのである。
この特長をHTC VIVEは「ルーム・スケール・VR体験」と呼称している。
ちなみにOculus RiftやPSVRでは、VR HMDの位置追従は、正面前方に設置したカメラセンサーの画角範囲内に限定される。
実際に一般家庭で「ルーム・スケール・VR体験」を愉しもうとすると、部屋の家具類を全て片付ける必要があるのであまり現実的ではない気がするが、アミューズメント施設などでは、かなり威力を発揮しそうなシステムである。
NVIDIAブースでは、この「ルーム・スケール・VR体験」として、エベレスト登山を追体験するVR体験「EVEREST VR」を愉しむことが出来た。
HTC VIVEによる、かなり広いバーチャル空間を歩き回れることを活かし、EVEREST VRではエベレスト登山ルート上の各名所からの絶景ポイントを歩き回り、壮大なスケールの景色を愉しむことが出来た。ゲーム的な要素はそれほど多くないが、氷河の裂け目を渡ったり、断崖絶壁に立ったり……と、「どうスリルを愉しむかは被験者次第」という体験自由度の高さが斬新である。
開発は前出のアイスランドのSolfar Studiosが担当。開発には前出のEVE VALKYRIEの開発元CCP Games出身者が携わっているとのこと。
VRとは思えないほどリアルに見えたヒマラヤ山脈の絶景には筆者も驚かされたが、これには秘密があるのだという。というのも、このVR体験の制作にはハリウッド映画「エベレスト3D」のCG制作を担当したRVXスタジオが協力をしており、なんとその映画用VFXのために撮影された30万枚のハイレゾ写真をテクスチャとして利用したというのだ。納得である。
AMDブースでは、VRコンテンツ制作集団「WEVR」が手がけた「TheBLeVR」をHTC VIVEで体験できるようになっていた。
被験者は、深海に沈む木造船の甲板上で水中遊泳を楽しむダイバーに扮しており、内容としては、ここにやってくる様々な海棲生物との遭遇を愉しむものになる。こちらも「EVEREST VR」と同様、ゲーム的な要素は皆無だが、「ルーム・スケール・VR体験」ということで、沈没船の甲板上を自由に歩き回れるのが楽しい。
最後には巨大なクジラが泳いできて、被験者の視界を覆うことになり、被験者自身の何倍もある大迫力の巨体を実感するこの瞬間が本作の体験のクライマックスとなる。
変わり種VR関連ガジェット
最後に変わり種のVR関連ガジェットを紹介して終わることにしよう。
1つは、自転車型VRコントローラ「VirZOOM」だ。メカニズム的には市販されているトレーニング用途のエクササイズバイクそのままで、ここにゲームコントローラ的なギミックを備え付けた構造だ。重さとサイズもそのイメージ。
市販のエクササイズバイク同様にペダルは8段階の抵抗調整が可能。この抵抗は固定設定で、VRコンテンツの進行に応じてペダルに反力が伝わるなどのフォースフィードバック機構はない。
左右のハンドル部にはアナログスティックと3つのボタンがあって、ゲーム内容によって使うことができる。
ペダルの回転速度やゲームコントローラ部の操作データはBluetoothによって出力される仕組み。Bluetoothトランスミッタは乾電池動作になり、基本的にAC電源は不要。この辺りもエクササイズバイクと同じだ。
対応コンピュータシステムはWindows PCとPS4。対応VR-HMDはOculus Rift、HTC VIVE、PSVRとなっている。
価格は最初の300台は早期購入者特典と言うことで199ドル。以降は299ドルとなる見込み。
本体には最初から9本のゲームが付属するとのことだが、そのうちの3本を実際に体験させてもらった。
1つはペダルを漕ぐと空が飛べるペガサス乗馬体験風エクササイズ「PEGASO!」。2つ目はカウボーイ(保安官?)になって、投げ縄で馬に乗る敵を捕らえるアクションゲーム風エクササイズ。3つ目は、漕げば漕ぐほどスピードが上がるF1カーを操作してレースをするエクササイズだ。
基本的にどれもゲーム性はシンプルで足こぎ運動をさせることに重きを置いたゲーム設計になっており、3つを体験し終わったころには筆者は汗だくになってしまっていた。
このVirZOOM、実はE3 2015の時点では、既存の市販自転車にセンサーを組み入れる方式を採用していたのだが、エクササイズバイクに統合するデザインに変更されたようだ。
E3 2015時点では左右移動操作などの方向転換では、自転車のハンドルを回転させることで実践していたが、エクササイズバイクではそれができない。そこで、エクササイズバイク型の製品版では頭(VR HMD)を左右に移動させることに置き換わることとなった。
2つ目は、ドイツのICAROSが開発したフライトVR向けコントローラ「ICAROS」だ。
ICAROS被験者はうつぶせ状態になって筐体に掴まり、お尻の位置や頭部の位置、あるいは肩の張り方などで身体の重心を移動させることで、筐体を傾かせたりスライドさせたりの操作をすることになる。
図解動画を見てもらうとよく分かるが、可動自由度は2軸だ。身体の前後はシーソーのように上下し、頭頂部を回転軸して左右に回転するが筐体全体が設置地表面に対して回転することはない。なので、ICAORS筐体は前後方向に長くクリアランスが取れれば、左右のクリアランスはそれなりでも設置が可能ということになる。
ICAROSは基本的にシーソーに一軸加わったようなものであり、その筐体可動には電動モーターは仕込まれていない。つまり、ICAROS筐体自体は電源いらずで使えることになる。
このコントローラ部には、フライトゲームの加速(アクセル)、減速(ブレーキ)の操作ボタンと、VRゲームの開始/終了を制御するトリガボタンが実装されており、さらにICAROS筐体がどういう動きをしているかを検出するためのジャイロセンサーを内蔵している。
実際に、筆者も専用フライトVRゲームを体験。内容的には山脈の狭間を飛び回りながら、渓谷ルート上に浮かぶクリスタルのようなものを集めていく、いわゆるドットイート型のシンプルゲームで、戦闘要素はなく、空飛ぶ感覚を楽しむことを主眼にした内容であった。
どちらかといえばこのICAROSも、VirZOOMと同様に「エクササイズ用途のVRコントローラ」といった位置づけなのだろう。なお、発売時期、価格共に未定だとのこと。