西川善司の大画面☆マニア
第218回
ブルーレイも4K/HDR時代。Ultra HD BDのHDR画質をREGZA Z20Xで検証
(2016/5/13 10:00)
4K BDことUltra HD Blu-ray(UHD BD)が日本でも発売され始めた。3月26日に「4K 夜景 HDR」が登場し、6月8日には「エクソダス:神と王」、「メイズ・ランナー」などの5作品を皮切りにフォックスが大作映画を順次UHD BD化、6月22日にはワーナーが「マッドマックス 怒りのデス・ロード」、「クリード チャンプを継ぐ男」など7作品を発売、7月6日にはSPEが「アメイジング・スパイダーマン2」、「チャッピー」、「ハンコック」など4作品を発売する。日本におけるUltra HD Blu-ray時代が、いままさに始まろうとしているところだ。
米国では一足先にUHD BDタイトルが発売。ちょうど米国出張時にUHD BDを購入したので、今回の大画面マニアでは、東芝4K REGZAのフラッグシップモデル「Z20X」を使って、一足先にUltra HD Blu-rayの世界を体験。UHD BDの画質、特にHDR表現や広色域表現について着目して評価した。
4Kブルーレイこと「UHD BD」の日本における最新事情
テレビに関しては、2015年以降に発売された4Kテレビのほぼ全てが4K映像のHDMI入力対応がなされている。さらに、'15年後半以降の4Kテレビ製品のうちミドルクラス以上の多くの製品では、HDR信号入力にも対応した。今回評価に試用した東芝のREGZA Z20X「58Z20X」も同様だ。
REGZA Z20Xは、2015年12月にファームウェアアップデートが提供され、HDR(ハイダイナミックレンジ)映像の入力に対応した。対応HDR方式はUHD BDに標準採用された「HDR10」になる。なお、UHD BDではオプション扱いの「ドルビービジョン(Dolby Vision)」方式への対応は見送られている(東芝によればファームウェアレベルでの対応は難しいとか)。
最近発売された4Kテレビの多くがUltra HD Blu-rayの4K/HDR信号入力に対応するのにたいし、出力側のプレーヤーの対応はまだまだ心許ない。'16年5月13日現在、日本でUHD BDが再生可能なプレーヤーはパナソニックの「DIGA DMR-UBZ1」のみだが、レコーダのハイエンド機という位置づけのため、実売価格40万円程度と高価な商品となっている。
まもなく、日本でもより安価なUHD BDプレーヤーが登場することは確実視されているが、日本でUHD BDが本格始動するのはその後からだろう。
今回の評価では、アメリカでは発売済みのサムスンのUHD BDプレーヤー「UBD-K8500」を用いた。このUBD-K8500はアメリカでは400ドル前後で市販されており、「初物」機器としてはまずまずの価格だが、日本での発売は予定されていない。
先行してUHD BD市場が立ち上がっているアメリカでは、大手家電量販店に行けばUBD-K8500が普通に販売されており、ソフト売り場では、「4K ULTRA HD」コーナーにUHD BDソフトが商品棚に列んでいるという状況。4月初頭に筆者がカリフォルニア州のサンノゼ市に出張した際には、24タイトルの映画UHD BDが販売されていた。立ち上がったばかりとしては、まずまずの盛り上がりだ。
HDRテレビ(REGZA Z20X)との接続と各種設定の確認
本題のUHD BD視聴の前に、軽くREGZA Z20Xの設定やUHD BDプレーヤーとの接続について整理しておこう。
まず、AVアンプなどとの接続がなければ、UHD BDプレーヤーとZ20Xとの接続はHDMIケーブル一本だけでOKだ。AVアンプ等を利用する場合は、AVアンプ側もHDMIのHDCP 2.2対応などが必要なので注意が必要だ。
Z20X側の4つのHDMI端子は全て同仕様のため、どのHDMI端子と繋いでも問題なし。HDMIケーブルについても、粗悪なものや極端に長いものでなければ、手持ちの現行HDMIケーブルが利用できるはずだ。
Z20X側の設定については、いくつか留意しておきたいポイントがある。
1つは、「外部入力設定」-「HDMIモード選択」だ。
UHD BDでの4K/60fps接続は、YUV=4:2:0での60fpsなので、「HDMIモード選択」設定はデフォルトの「通常モード」設定のままでも帯域的にはギリギリセーフのはずだが、プレーヤー側でYUV=4:4:4、あるいはRGB=8:8:8で出力してくる可能性が想定される場合はここを「高速信号モード」に設定しておく必要がある。今回のテストではここを「高速信号モード」設定にした。
2つ目は「外部入力設定」-「HDMI HDR設定」だ。
UHD BDでHDR映像を楽しみたいのであれば、ここは「HDRモード」を設定しておかなければならない。
3つ目は「コンテンツモード」の設定。これはデフォルトで「オート」が設定されていると思うが、基本的にこのままでOKである。あるいは特定のHDMI入力に固定的にUHD BD再生環境を接続しているのであれば「4K-BD」を明示設定してもいいだろう。
4つ目は、映像処理関連のパラメータについて。「映像設定」メニュー階層下の「ピュアダイレクト」設定を「オン」とするのがよい。「ピュアダイレクト=オン」設定時は倍速駆動やノイズ低減機構等は強制オフ設定となり、映像処理パイプラインがフル12bitで駆動される。UHD BDの映像は基本的に高画質のためノイズ低減処理は不要なので、この設定がお勧めだ。ちなみに、余談だがピュアダイレクト=オン時、1080p映像を入力した場合も、ちゃんと超解像処理を行なって4K化してくれる。基本、高画質映像であれば「ピュアダイレクト=オン」の常用で問題もない。
さて、UHD BDプレーヤーの方の設定も、幾つかポイントがある。
まず、「テレビ側の映像エンジン側で映像を処理したい」というのであれば、なるべくUHD BDの映像をなるべく素の状態でHDMI伝送をさせる設定をすべきだ。
試用したサムスンのUBD-K8500では、UHD BDに記録されているYUV=4:2:0映像が内部処理されてYUV=4:4:4映像にクロマアップサンプリングされるようである。今回は、UBD-K8500側の「HDMI Deep Color」設定を「Auto」とすることでDeep Color出力させるようにした。
それとUBD-K8500側のHDMI CECを有効化しておくと、映像再生を一時停止(ポーズ)させていても、Z20X側の入力切換がUBD-K8500になった途端に勝手に再生再開が行われてしまう現象に見舞われた。これは現行BDとUHD BDとで同じ場面の画質比較をする際に不便だったので、HDMI-CEC設定は「Off」とした。
評価に用いたUHD BDタイトルは、アメリカで購入した「The Peanuts MOVIE」「CONCUSSION」「FANTASTIC FOUR」「SAN ANDREAS」「THE MARTIAN」「HITMAN-AGENT47」「MAD MAX」「SICARIO」の6タイトルだ。タイトル選択には深い意図はなく、単純に筆者が見てみたかったものをランダムで選択して購入したものである。
それでは、実際に各タイトルを見た時のインプレッションをレポートすることにしたい(一部のタイトルは省略)。なお、各タイトルのパッケージには現行BD版とUHD BD版の両方がセットになっていたため、両者の再生映像を見比べて評価を行なった。
MADMAX Fury Road(邦題:マッドマックス 怒りのデス・ロード)
水、食料、エネルギーの全てが不足した荒廃した未来世界。この世界で図太く生き抜くトム・ハーディ演じる元警官の一匹狼マッドマックスが砂漠の独裁都市の暴君達と対決していくカースタント主体のアクション映画。
今年のCES 2016会場内でよく目にしたUHD BDのデモでは、劇中に登場する盲目の仮面ギター男が演奏するギターから吹き出す炎の輝度や色の鮮烈さが前面に押し出されていたが、自宅で見直してみても、たしかに自発光マテリアル特有の高輝度感が、絵画的で、HDR感が見た目として分かりやすい。
筆者が特に心奪われたのは、鏡面反射材質のハイライト表現。
1つは陽光にさらされた車や銃器などの金属部位が鋭い照り返しをカメラに向けて放ってくるような表現だ。周囲の人肌、衣服といった拡散反射材質が放つ明部よりも数段は明るいハイライトが感じられ、これが金属感をリアルに描き出せていた。
2つ目は、意外と思われそうだが、登場人物達の眼球だ。特に黒目に映り込んでいる周囲の情景である。漫画でも目玉を描く場合に黒目を塗りつぶさずに光沢の白を残す表現がしばしば用いられるが、「あのハイライト」だ。
本作は屋外シーンがほとんどで(乗り物に乗っていても周囲は砂漠)、登場人物達の眼球には高確率で眩しい空や屋外情景が映り込んでいる。もちろん眼球内への映り込みなので面積としては微小だが、この眼球内のハイライトがとてつもなく鋭いのだ。実際、現実世界の我々の眼球は湿っているので鏡面反射が支配的である。現実世界でもそうなのだが、テレビ画面内の人物達はここまで鋭いハイライトを目に宿していなかったので、この表現の違いに「おっ」と目を奪われるのである。
この他、夜空のシーンでは、現行BDよりUHD BDの方が、星々の明るさよりも、相対的に空の暗さを強めにチューニングされているのが興味深かった。星々の明るさのHDR感を演出するのに夜空を相対的に沈み込ませて表現しているわけだ。現行BDの夜空はUHD BDと比較するとだいぶ青々と輝いて見える。
同一映画作品でも通常版とHDR版とでは、明確な画作りの違いもあり得るということがうかがい知れるワンシーンである。
THE MARTIAN(米国盤:邦題はオデッセイ)
不慮の事故に見舞われた有人火星探査プロジェクトのチームが火星離脱を試みるも、マット・デイモン演じる宇宙飛行士だけが運悪く火星に一人取り残されてしまう。絶望的な状況の中、この宇宙飛行士は、持てる知識を最大限に活かし、火星上でたった1人のサバイバル生活を開始する。
こちらも自発光マテリアルが鮮烈で美しい。本作では至るシーンでコンピュータ画面が登場するのだが、その液晶モニターの表現がリアルである。表示内容の文字や図版が煌煌と輝いており、周囲にある印刷物などとは明らかに違い質感を感じられて面白い。
それと、宇宙モノということからか、意識的に逆光表現が多めなのだが、現行BDでは明部に階調をとられて、暗部階調がだいぶ沈んでしまっているのに対し、UHD BDではこうしたアンバランス感がない。視聴者が暗がりを見ればそこにあるものが見えてくるし、明部に意識を向ければ暗部がグッと沈んで見えてコントラスト感を味わえる。まさに現実世界に近い視覚が楽しめるというわけである。
SAN ANDREAS(米国盤:邦題カリフォルニア・ダウン)
突如大地震に襲われたカリフォルニア州。ダムの決壊、大津波に地割れが相次ぐ中、ドウェイン・ジョンソン演じるレスキュー隊員が、バラバラになった家族を救うために奔走するパニックアクション映画。
この作品も、ヘリや自動車などのメカの金属パーツの光沢感、人物の眼球内のハイライト表現などに、分かりやすいHDR感が演出されている。
冒頭で、主人公ドウェイン・ジョンソンが乗る黒いピックアップトラックがクローズアップされるシーンがあるが、そこに映り込んでいる周囲の情景の輝度感が鋭いのが印象的。現行BDと見比べると映り込んでいる情景自体は全く同一で欠落している部分はないのだが、その映り込んでいる情景内に明確なコントラスト感が表現できているのである。黒い車のボディに映り込んだ情景は、現行BDでは「ただ一様に暗い景色(あるいは同一輝度で色だけで描き分けた景色)」なのに対し、UHD BDでは「映り込んだ情景にも明確にコントラスト表現が生きている」のである。
THE PEANUTS MOVIE(米国盤)
何をやってもドジってしまう少年チャーリー・ブラウンが、素敵な美少女転校生に気にいられるために、小説まで書けちゃう天才犬スヌーピーのアドバイスに従って猛烈アタックを仕掛けるほのぼのコメディ。
この作品、3DCGで作られているのだが、原作漫画が完全2Dということもあって、3Dモデルの2D平面の描画にあたっては、「2Dに見えること」を強く意識していて面白い。ロングビューでは俯瞰表現もあるのだが、比較的キャラクターが大写しになると途端に平面的な描画になるのである。
なので、登場人物、小道具大道具オブジェクト群からは幾何学的な立体感を感じる事はできないのである。しかし、一方、ライティングや色表現、輝度表現に関しては対象的に「3D感」をそのまま残している。
ビジュアルシステムはかなり個性的な本作ではあるが、UHD BDらしさは、意外や意外、要所要所で垣間見られる。
作品冒頭の雪上で煌めく陽光の照り返し表現は実にHDR、HDRしてて分かりやすいし、キャラクター達が着ている衣服、身に付けているアクセサリーや小道具の発色は非常に豊かである。平面的な絵として描かれているキャラクター達ではあるが、色深度方向の表現で立体感が表現されているのだ。このあたりは現行BDと見比べてみると違いが歴然であった。肌表現などはUHD BD版は、妙に透明感が漂っていて、2Dキャラ達はやりすぎなのでは!?……と思うほど(笑)。
それと、室内表現が多い本作では、間接照明で暗がりが淡く描き出されていることが多いのだが、そのアンビエント感(空気感)もUHD BDの方が立体的に見える。
総じて、「描画自体は2D表現を徹底」×「色と輝度は立体表現を残す」という本作独特なビジュアルはUHD BD版の方がより深く楽しめると思う。
SICARIO(米国盤)
麻薬カルテルがらみの誘拐殺人事件で部下を失ったエミリー・ブラント演じる女性FBI捜査官が、国防省の特殊捜査チームにスカウトされ、麻薬カルテル撲滅作戦に参加するも、そのチームの非合法で残虐な捜査方法に翻弄されていくクライムアクションサスペンス。
HDR感は瞳の中のハイライト表現の鋭さで、広色域感は主人公エミリー・ブラントの美しい肌の質感で堪能できる。
劇中、「おっ」と感じたのは、たびたび登場する特殊部隊の面々が着ている黒ベースの防護スーツの描写。基本色としては「黒」なのだが、照明の関係、陽光との位置関係で、布、樹脂、金属といった各材質が質感の異なる陰影を放つのだ。彩度の低いモノクロ表現ではあるが、現行BDでは到底描きわけが難しい暗部階調の多彩さで、黒一色の防護スーツが立体感を伴って見えるのだ。これはUHD BDのHDR表現力に起因するものだとは思うが、同時にZ20Xの直下型バックライト制御のポテンシャルの高さの恩恵も多分にあるのだろう。
劇中のラストシーン。麻薬王が家族と食事を楽しんでいる屋外晩餐の場面は、間接照明によって照らされる豪華な調度品のリアリティに感動する。HDR効果と広色域性能の相乗効果が分かりやすい場面である。
HITMAN-AGENT47(米国盤)
謎の秘密結社から人体改造を受けて最強の暗殺者となるも、その組織から逃亡し、フリーランサーとなったエージェント「47」。再び組織が人体改造計画を再開することを知った47は、これを阻止するために、その人体改造技術の秘密を握る博士の行方を追う。同名のゲームの映画化作品だが、今作は、2007年に公開された同名映画とは時間軸と世界観を微妙に変えている。
階調設計を現行BDとUHD BDとでドラスティックに変えているのが特徴的。
現行BDではコントラスト感を重視したメリハリの利いた画質だが、UHD BDでは、暗部階調を丁寧に割り当てた情報量重視の映像になっている。その違いは、黒スーツの陰影、目の凹みの陰影、肌に落ちる鼻の影などに見出すことができる。
制作環境の違いによる異なるUHD BDのHDR映像
REGZA Z20Xでは、リモコンの[画面表示]ボタンを押すことで、現在入力されている4K映像のHDRパラメータを確認することができる。かなりマニアックな機能だが、このあたりは、さすがというか「いかにもREGZA」といった部分である。
今回の評価では全8タイトルを視聴しているが、大別するとHDRパラメータによって2つのグループに分けられることが分かった。
具体的にはHDRパラメータの「最大輝度」の部分である。具体的には、最大輝度が1,100nitと表示されるタイトルと、4,000nitのタイトルがある。
- THE PENAUTS MOVIE
- HITMAN-AGENT47
- THE MARTIAN
- FANTASTIC FOUR
最大輝度=1,100nit
- Mad Max: Fury Road.
- SICARIO
- SAN ANDREAS
- CONCUSSION
最大輝度=4,000nit
この違いはカラーグレーディング設計の際に使用したマスターモニターの違いによる相違のようだ。
最大輝度1,100nitのタイトルは、カラーグレーディング設計にソニー30型4K有機ELマスターモニター「BVM-X300」を用いたもの、最大輝度4,000nitのタイトルは、ドルビーのHDRマスターモニター「Pulsar」を用いたものだとされる。
最大輝度が1,100nitのタイトルと4,000nitのタイトルの優劣は好みにも依存することから一概に判断はつかないが、総じて、広色域感、HDR感は最大輝度=4,000nitのタイトルの方が分かりやすいのはたしかである。逆光表現などのまばゆさは4,000nitタイトルの方が明解だったし、彩度の高い色の艶やかさも同様であった。HDR対応テレビやUHD BDを購入直後に自分で楽しむ場合や、あるいは来客時の機材自慢には、「いかにもHDR映像、広色域感」といった味わいの最大輝度=4,000nitのタイトルをチョイスした方が満足度が高いかもしれない。
ちなみに、REGZA Z20X自身の公称スペック上の最大輝度は1,000nitオーバー(全画面白時は最大800nit)、BT.2020広色域カバー率は80%超となっている。コンテンツ側の最大輝度が4,000nitなのに、それで「HDR×広色域」が十分に再現できるのか……という疑問を持つかもしれない。階調×色の設計が4,000nitベースで行なわれているとしても、これはテレビ側で、テレビの性能に合わせて映像エンジンが調整して表示するので破綻はない。そもそも、民生向けテレビで、最大輝度4,000nitのものは、消費電力や搭載LED個数の観点から現実的なスペックとは言い難く、市場に出たとしても普通の4Kテレビの数倍の価格のウルトラハイエンド機となるであろう。
今回の評価では、最大輝度=1,100nit、4,000nitのコンテンツの違いを感じることはできた。では、「最大輝度=1,100nitのタイトルは4,000nitのタイトル比較してHDR感や広色域感は十分なのか」と不安になる人もいるかも知れないが、心配は無用である。最大輝度=4,000nitのタイトルほど派手ではないというだけで、HDR感、広色域感はちゃんと感じられる。明暗が同居するシーンは鮮烈だし、自発光マテリアルもそれらしく輝く。暗部の微妙な階調表現もちゃんと彩度を残した色深度方向の表現で描き出してくれる。あえて傾向を語るならば最大輝度=4,000nitのタイトルは「メリハリ感重視、彩度の鋭さ重視」で、最大輝度=1,100nitのタイトルは「階調情報重視」といった感じである。
解像感の違いは意外にも……。UHD BDで見えてくる“色”
最後に現行BDとUHD BDを比較時の解像感の違いについても言及しておこう。
実際に、各UHD BDタイトルに付属していた現行BDとUHD BDを再生し、同一シーンを見比べてみたのだが、ことに解像感という点において比較した場合は「違いはあるにはあるのだが、極端な差ではない」といった手応えであった。
これは意外に思われるかも知れないが事実である。
理由して考えられるのは、現在リリースされているUHD BDのほぼ全てが、フルHDのマスター映像をUHD BDにマスタリングする段階で超解像処理(≒アップスケール)等を行なって4K映像化していることだ。
比較対象の現行BDの映像は、Z20Xに内蔵されている映像エンジン側の超解像処理を経て4K映像化されて液晶パネル上に表示されるわけだが、マスタリング段階で行なわれた超解像処理とアルゴリズムは違えど、元の映像情報がフルHD相当だとすれば、その結果が両者で似通ってしまったとしても不思議はない。
よく似ている箇所としては、同系色の濃淡、あるいは白黒の濃淡で描かれる陰影テクスチャ表現などだ。具体例としては、木の茂み、芝生のような表現、石畳や岩の表面に出る陰影、布の織り目テクスチャ表現などがあげられる。張り紙、看板、書籍上の文字なども同様だ。こうした表現は、テレビの映像エンジンで採用されている「着目している画素の周辺陰影の輝度勾配情報から補完量を算出するアルゴリズム」の超解像処理にとっては得意なジャンルなので、うなずける話ではある。
フルCG映画の「THE PEANUTS MOVIE」はリアル4K解像度でマスタリングされているかと期待して見比べてみたのだが、さほど変わらず。裏を返せば、現行BDの画質、そしてZ20Xの超解解像処理がそれだけ優秀だということもできる。
いずれにせよ、リアル4K感が味わえるUHD BDの映画コンテンツはこれからといったところなのだろう。
一方で、現行BD+Z20Xの超解像処理による4K映像と、UHD BDの4K映像とで明確に違って見える箇所もある。
それは色ノイズ。当然、UHD BDの方が少ない。ここで言う色ノイズとは、本来は単色か、あるいはグラデーション表現であろう箇所に不連続な色のピクセルが散見されること。こうした色ノイズはYUV=4:2:0映像特有のものであり、実際にはUHD BDの映像にも起きているはずなのだが、そのノイズピクセルの映像に対する面積比が4K映像の方が4倍小さいため(4K映像の方がフルHD映像より同面積に占める画素数が4倍多いため)、こうした見映えの違いになっているのだと思われる。
現行BDの映像はYUV=4:2:0のフルHD映像で収められているのに対し、UHD BDではYUV=4:4:4のフルHDマスター映像をオフラインで超解像処理してYUV=4:2:0の4K解像度の映像を生成しているわけで、YUV=4:2:0の処理解像度の違いからこうした見映えの違いが出ているのかもしれない。
というわけで、現時点でのUHD BDの大きな魅力は「HDR表現」と「広色域表現」の2つといっていい。そして、この2要素において、確かにこれまでの映像体験では得られなかった感動をもたらしてくれるはずである。日本でも続々とタイトルが発売され、UHD BDの新たな映像体験がより身近なものになることを期待したい。
58Z20X |
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