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Amazon music HD配信アニソンをチェック。「コップクラフト」などの7月期アニソン紹介も

音楽的にも音質的にも注目のアニソンを紹介する本企画。7月期アニメのなかから、注目の楽曲をみていこう。

本題へ入る前に、音楽配信の新たな話題として触れておきたいのが、9月17日から始まった「Amazon Music HD」。CD音質のみならず、ハイレゾ楽曲も数百万曲が聴き放題というサブスクリプション型配信だ。ハイレゾ音楽リスナーにとって衝撃的なサービスといえる。

サブスク配信としては、Apple Music、LINE MUSIC、Spotifyなどを使っている人もいると思うが、これらは最大でも320kbps程度のビットレートに音声を圧縮して配信。「アニソンまみれ。」として展開するANiUTaもそうだが、配信音源は非可逆圧縮(ロッシー)だ。より高音質な可逆圧縮(ロスレス)のストリーミングは国内ではまだ少ない。Deezer HiFiがCD音質によるロスレス配信を行なっているが、より多く、高音質の楽曲が楽しめるAmazon music HDは、アニソンファンにも注目のサービスといえる。筆者もアニソンに特化して、短時間ながら使い勝手を確かめたので、記事末尾にレポートを添える。

なお、下で紹介する3曲は、7月期のアニメからハイレゾでダウンロード購入して聴いた楽曲だ。その後に、Amazon music HDの使用感を紹介したい。

コップクラフト ED主題歌「Connected」(96kHz/24bit)

原作はガガガ文庫で2009年より刊行されている賀東招二によるライトノベル。TVアニメ版では、同氏がシリーズ構成も務める。異世界から来訪した見習い騎士ティラナ・エクセディリカと猫アレルギーの敏腕刑事ケイ・マトバが繰り広げるバディポリスアクション。

Connected/ティラナ・エクセディリカ(CV:吉岡茉祐)

海外ドラマを彷彿とさせる独特な会話のノリは、アニメだとどこか新鮮に思える。ティラナとケイが悪態を言い合いながらも事件を解決し、徐々に信頼を深めていく様は、いわゆるツンデレのようなフォーマットに落とし込めない奥深さを感じさせてくれる。異民族との相互理解の問題は、現代でも無関心ではいられないテーマだ。

EDはティラナ役の吉岡茉祐がキャラクターソングとして歌う。作詞・作編曲は、アイドルグループなどにも楽曲を提供している安野勇太。ティラナの母国語「ファルバーニ語」で始まる歌声は、力強くて凜々しい。EDなのでバラードかと思ったら、バリバリのロックサウンドで驚かれた方もいると思うが、ハイレゾ版でも音圧は高めにグイグイ攻めるミックス。ただし、ベースやバスドラは不必要に誇張していないので、ピュアオーディオで聴いてもノれる。低域の厚みと密度はハイレート制作ならではの恩恵だ。

前後の奥行きを思い切って使ったボーカルは、前にせり出しており、ティラナがライブで熱唱しているような感覚を味わえる。ボーカルのリバーブが強めに掛かっているが、サビの盛り上がりで音が馴染むように意図したようだ。キャラソンの枠内でも確かに「吉岡節」を感じさせる歌声は、彼女が所属していた声優アイドルユニットを聴いてきた方にはたまらないだろう。そのリアルな声をハイレゾで体感してほしい。

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・ティラナ・エクセディリカ(CV:吉岡茉祐)/ Connected

Re:ステージ! ドリームデイズ♪ OP主題歌「Don't think,スマイル!!」(48kHz/24bit)

月刊コンプティーク発のメディアミックス作品、Re:ステージ! 小説、アプリゲーム、ポニーキャニオンからCDのリリース、ライブなど、既に多方面に活動していたが、この夏ついにテレビアニメ化された。

Don't think,スマイル!!/KiRaRe

「女子中学生たちがアイドルを目指して部活動を頑張る」というと、聞いたことのある枠組みと思うかもしれないが、視聴してみたらこれが実に面白い。キャラクターの掛け合いは生き生きとしているし、ストーリーもバリバリの青春もので引き込まれる。

王道な展開ながら、丁寧に作られたシナリオと作画で飽きさせない。かえと香澄が部屋をディスコ状態にして作曲する通称:例のシーンは方々で話題になり、最終回目前で同様のシーンが差し込まれたほど作り手とファンが一緒になって盛り上がっている、注目作品の一つだ。

主題歌は、主人公たち謡舞踊部によるユニット「KiRaRe」が歌唱するお祭り感あふれるポップチューン。作曲はエガオノタイガの劇伴などで活躍する伊藤翼。伊藤氏は本作で最も多くの歌ものを手掛ける音楽の要だ。

筆者のRe:ステージ!への認識は、とあるアニメショップで流れていたライブ映像だった。声優さんの後ろには生バンドがいて、すべての曲を生演奏。アイドルものの企画で生演奏を多用していることに、非常に興味をそそられた(来月の3rd STAGEもバンド編成が決まっている)。

OPテーマも、フルバンドにストリングスとホーン3管を加えた超豪華な編成。音圧は声優アイドルものとしては抑えめで、MIXも躍動感を味わえるように注意している印象。ドラムの手数の多さ、サックス・トロンボーン・トランペットの弾けっぷり、ストリングスもこれでもかと弾きまくっている。これが実にお祭り感をアップさせる。

試しにストリーミング音源とも比較してみたが、楽器音の立体感がまったく違う。音場の奥行きも急にペラペラになってしまった。48kHz/24bitとはいえ、オリジナルのフォーマットは音の説得力や分解能がまるで別物だ。特に2番終わりの間奏から大サビにかけてのアレンジは鳥肌もの。シンセとブラスがお休みし、疾走感のあるドラムとストリングス、そしてボーカルの共演。このラスサビへ至る盛り上がりは本当にカッコよかった。

カップリングは、EDテーマ「憧れFuture Sign」のPiano Stringsアレンジ。OPとは違い劇伴並の大きな編成のストリングスがダイナミックに音場を満たす。ボーカルはオリジナルと同じだが、キャストの表現の子細まで触れることができる必聴のバージョンだ。コーラスとメインのユニゾンが重なるときの音像の細やかな描写は、ハイレゾ(スタジオマスター)だからこそ潰れないのだ。

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・KiRaRe/ Don't think,スマイル!!

ソウナンですか? ED主題歌「生きる」(96kHz/24bit)

週刊ヤングマガジンにて連載中の同名原作のTVアニメ化。女子高生4人が飛行機事故で遭難し、無人島に漂着。サバイバル技術に長ける鬼島ほまれを中心に、水を確保し、火をおこし、罠を仕掛け、屋根を作る、本格派サバイブアニメ。

生きる/安野希世乃

絵柄はかわいらしく、漫画らしいファンタジー(服がきれいとか)はあるものの、最終回目前でお嬢様育ちの紫音が海に取り残された下りは、背筋が凍るような緊迫感。決死の覚悟でほまれが助けに来たとき、筆者も思わず泣いてしまった。まるで自分が助かったような気がした。

EDは作品にも天谷睦役で出演している安野希世乃が歌唱。作編曲は、川崎智哉氏。音が出た瞬間に部屋の空気が変わった。録音物が再生されるのではなく、生演奏が始まった感覚。これは良質なハイレゾだ。ミックスとマスタリングはオーディオライクでまとめられており、生楽器の質感やボーカルの抑揚もしっかりと残っている。ドラムとストリングス、ボーカルがそれぞれ高度に分離され、空間表現の整理は高いレベルでまとめられている。ドラムは奥に配置して主張しすぎない案配、ストリングスはふんわりと左右に広がる、ボーカルは前にくっきりと定位。96kHzならではのレンジの広さを効果的かつ最大限使っている印象だ。

躍動感も抜群。AメロBメロのマーチのリズムから、ブレイクを入れてからのサビへ。ちゃんと音量の起伏があって、曲の盛り上がりがダイナミクスの変化からも味わえる。その分、一般的なアニソンと比べて音量が小さく感じられるだろう。ここは、面倒がらずに音量を調整してほしい。よいミックスは音量を上げてもうるさく感じない。

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・安野希世乃/ 生きる

高音質サブスクAmazon Music HDのアニソンラインナップは?

話題のAmazon Music HDを、アニソンやゲーム音楽に限って試してみた。楽曲のラインナップとしては、ハイレゾで長らく配信しているアーティストが圧縮音源しか配信していなかったり、古くからハイレゾ配信に積極的だったあるゲーム会社の楽曲はCD音質がほとんど。TV SizeがCD音質で、フルバージョンが圧縮音源というケースもあった。まだ対応はまちまちのようだ。

7月期のアニメでハイレゾ配信中のアーティストを複数調べたが、大原ゆい子の「ゼロセンチメートル」が見つかった程度。アニソンのハイレゾストリーミングについては「見つかったらラッキー」くらいかもしれない。ただ、これまで圧縮音源が当たり前だったアニソンにおいて、結構な頻度でCD音質版が用意されているのは画期的である。ハイレゾ版が少ない現状について、「Amazonはダメだ」と評価してしまうのはまだ早計だろう。

筆者は音楽ユニットBeagle Kickとして2013年からハイレゾ配信サイトや配信業務を代行するアグリゲーターと長らくコミュニケーションを取ってきた。Amazon Music HDにしても、レーベルやレコード会社、権利元が配信業務を委託している場合はアグリゲーター、彼らとAmazonの契約次第という可能性もある。事実、我々が利用しているアグリゲーター経由で問い合わせたところ、ハイレゾストリーミングの近日開始があっさりと決まった。アグリゲーターにはDL販売用にハイレゾ版を納品済みだったので、追加の手続きなしで簡単だった。我々リスナー側が「サブスクでもハイレゾを聴きたい!」と声を上げ続ければ、状況は変わっていくかもしれない。

新たにソニー・ミュージックエンタテインメントが展開する国内期待のサービス「mora qualitas」は、今秋スタート予定。アニソンのハイレゾが手軽に楽しめる日も近づくのか、今後も注目していきたい。


    【使用機材】
  • NAS「Soundgenic RAHF-S1」SSD 1TB (アイ・オー・データ機器)
  • ユニバーサルプレーヤー(ネットワーク再生)「BDP-103DJP」(OPPO Digital Japan)
  • AVアンプ「AVR-X6300H」(デノン)
  • スピーカー「RUBICON2」(DALI)

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橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト