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ウィル・スミスが超ヌルヌルに。4K/120コマ撮影の3D映画「ジェミニマン」を観た

100年近く続く“24コマ”の歴史に、一石を投じる映画「ジェミニマン」が10月25日より全国で公開された。本作は、4K解像度カメラを使った3D撮影に加えて、一般的な映画コマ数の5倍にあたる120コマ/秒というハイフレームレートで収録した野心作となっている。

「ジェミニマン」
(c) 2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

劇場公開に先立ち開催されたハイフレームレート上映会、およびドルビーシネマ鑑賞で、製作陣らが目指した“映像革命”の片鱗を感じることができたので、その感想をレポートしてみたい。

『ジェミニマン』特別映像|<3D+in HFR>による究極の没入感!

ウィル・スミス好きにはたまらない!? “全編ウィル・スミス祭”

映画「ジェミニマン」は、スナイパーの主人公:ヘンリー(ウィル・スミス)が政府の巨大な陰謀に巻き込まれていくという近未来アクション作品だ。

「ジェミニマン」
(c) 2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

ヘンリーは時速238kmで走行する高速列車内のターゲットを2km先から仕留めることができる(!!)ほどの腕を持つが、しばらく前から身体と精神的衰えを感じるようになり、引退を決意する。しかし、自身が以前狙撃したターゲットの経歴が何者かに改竄されていたことを友人から告げられ、その真相を究明しようと動いた矢先、ヘンリーは暗殺者と謎の組織から命を狙われることになってしまう……。

実は、ヘンリーを襲うこの暗殺者は秘密裏に創られた“若い自分自身”、つまりヘンリーと全く同じDNAを持つクローンという設定になっていて、劇中では51歳のウィル・スミスと、23歳のウィル・スミスによる共演&対決が描かれる。

共演と言っても、23歳のウィル・スミスは100% CGで創られた“デジタル・ヒューマン”なのだが、ぱっと見、顔の入れ替えか、ウィル・スミスの実の息子でも演じているのではないか? と疑ってしまうほどに姿形がリアルで生々しい。クローンの表情や動作は、ウィル・スミス本人の演技をキャプチャしたものをベースに使っているそうだが、最新CGの完成度の高さには観客の誰もが驚くはずだ。

完成映像
ウィル・スミスのモーションキャプチャデータを、CGのウィル・スミスに反映
(c) 2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

ウィル・スミスの他には、ヘンリーの真相究明に巻き込まれてしまう国防情報局のダニー役にメアリー・エリザベス・ウィンステッド、ヘンリーの友人バロン役にベネディクト・ウォン、そして彼らの命を狙う政府高官ヴァリス役にクライヴ・オーウェンが出演している。

監督は「ブロークバック・マウンテン」と「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」でアカデミー賞監督賞に2度輝いた、台湾の巨匠アン・リー。「アルマゲドン」や「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズを手掛けたヒットメイカーのジェリー・ブラッカイマーがプロデューサーを務めている。

国防情報局のダニー役のメアリー・エリザベス・ウィンステッド。後半にヘッドショットを連発
写真左がバロン役にベネディクト・ウォン
政府高官ヴァリス役のクライヴ・オーウェン
(c) 2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

ジェミニマンはアン・リー監督の肝いり&リベンジ的“120コマ長編映画・第2弾”だ

冒頭でも触れたとおり「ジェミニマン」は、一般的な映画コマの5倍にあたる“120コマ”で撮影されている。

どうして120コマの映画が珍しいかと言えば、映画の基本的な形(画と音が同期した“トーキー”)が誕生して100年近く経つ今日でも、コマ数だけは昔のままだからだ。

映画がカラーになっても、音声のチャンネルが増えても、デジタル技術が導入されても、コマ数だけは変わることがなかった。ハイフレームレート撮影が今やスマホで行なえるようになっても、ほとんど全ての映画作品は100年前の映画と同じ24コマで作られている。

約100年もコマ数が変わらないのは、作業負荷やコストを増大させたくないという製作側の懐事情も大きいのだろうが、それ以上に、テレビ番組とは違う24コマ独特の見え方が“映画らしさ”を生む大切な要素だと感じている製作陣が多いからだろう。

実際、ハリウッド俳優のトム・クルーズは“映画を見るときはテレビの動き補間はオフにしよう”と呼びかけた動画の中で「コマ数が増えると、映画らしい動きではなくなる。まるで“ソープオペラ(安っぽいドラマ)”のように見えてしまうんだ」と、映画における24コマの重要さを述べている。(関連記事)

ただ、24コマが生み出す“映画らしさ”をよしとする作り手がいる一方で、“デジタル技術で簡単にコマ数が上げられるようになったんだから、バンバン上げちゃおうよ!”というアグレッシブな考えを持つ作り手も出てきている。

それが映画「ホビット」シリーズで3Dの48コマ撮影に挑んだピーター・ジャクソンや、「アバター」の続編でハイフレームレート撮影を公言するジェームズ・キャメロンといった監督達であり、中でも最右翼なのが本作「ジェミニマン」を手掛けたアン・リーだ。

アン・リーはハイフレームレートだけでなく最新技術全般を採り入れることに積極的な監督で、'12年製作の「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」では3D撮影、'16年製作の「ビリー・リンの永遠の一日」では長編映画初の4K/120コマ/3D撮影を実践している。しかし「ビリー~」が完成した当時は、4K/120コマ/3D上映できる劇場が存在しなかった上に、ハイフレームレートに対する観客の反応はいまいちだった(ちなみに「ビリー~」は日本では劇場未公開)。

今年7月に行なわれた本作のプレゼンテーションにおいて監督は「『ビリー~』は初めてだったので、(ハイフレームレートを)まだうまく使いこなせていなかった。今回はそれを踏まえた上で、私もクルーもみんな、リサーチも試行錯誤も行なった。照明のやり方も変え、フィクションであるストーリーにリアリティを与えられるようにした。それはデジタルシネマの鮮明な美しさを引き出す作業であり、今回の僕の使命だった。(ハイフレームレート撮影は)エキサイティングな新しい領域であり、映画館に行こうと観客を思わせる手段だ。観客に特別な体験を与えるもの、と僕は信じる。だからトライし続けるんだ」と話している。

「ジェミニマン」は、「ビリー~」で挑んだ120コマの撮影手法を昇華させながら、最新の映像技術を導入し完成させた、監督の肝いり、そしてリベンジ的“120コマ長編映画・第2弾”なのだろう。

撮影中の様子
(c) 2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

ヌルヌル動くよ、ウィル・スミス。液体表現のリアルさは圧巻!

10月上旬に「TOHOシネマズ 六本木」で開催された、ハイフレームレート試写会で本作を鑑賞した。この時の上映環境は、2K/60コマ/3D(円偏光方式)だった。

映画冒頭から“ヌルヌル”が炸裂する。FOSUNとALIBABAのスタジオロゴ映像も、カメラのパンも、高速列車も、ウィル・スミスも、今まで映画館で体感したことのない、滑らかな映像と情報量の多さに戸惑う。映画を見ているというより、ウィル・スミス出演のドキュメント番組や撮影舞台裏を記録した特典映像を見ている感覚だ。

撮像・表示ぼやけが減ったことで、映像全体で鮮鋭感が出てくる。中盤、コロンビアのカルタヘナで展開するウィル同士の激しいバトルやバイクチェイスシーンでも、動きがボケることなくクリアで鮮明な映像が楽しめる。

(c) 2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

中でも、液体のリアルさは圧巻だ。桟橋やボート、浜辺、井戸など、全編を通して“水”が映るシーンが度々登場するが、その流体感や水面の揺らぎは現実そのものに感じるし、グラスの中の飲み物や、頬を伝って流れ落ちる涙も生々しい。3Dとの相乗効果も手伝ってか、水中シーンの美しさと没入感は、個人的にはハイフレームレート×3D映像最大の効用と思う。水のシーンを多用したイメージビデオをハイフレームレート収録して、VRコンテンツ化すれば、人気が出るのではないだろうか?

(c) 2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

120コマ/3D(分光方式)/HDRのドルビーシネマ環境では、更に明るく鮮明な3D映像で、動きの滑らかさと水表現は凄みを増す。ドルビー3Dメガネに起因する画面の色被りを無視すれば、ドルビーシネマ版で観る「ジェミニマン」こそ、製作陣が目指した“映像革命”なのだと思う。

ドルビーシネマを見ていて気が付いたのは、120コマ映像になると、演者の視線の泳ぎだったり、顔の皮膚の揺れや表情の変化、しぐさ、体のわずかな揺れ、震えまで、まさに一挙手一投足がダイレクトに収録・再現されてしまうということだ。

それはウィル・スミスのみならず、脇を固めるキャストも、エキストラも、小道具などのセットも同様。だから、“やらされている感”見え見えの女性の表情や、抜け殻のように歩道を通る男性、店内で同じ動作を繰り返す男性など、鑑賞中あまり目にしたくない周囲の動きまでつぶさに見えてきてしまう。「解像度が上がると、全てが見えてしまい困る」とよく耳にするが、ハイフレームレート撮影でも同じ事が言えるかも知れない。

(c) 2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

念のため、2K/24コマ/2D環境でも「ジェミニマン」を観てみた。ハイフレームレート版ではヌルヌル動いていた“リアル・スミス”が、途端にシックで落ち着きのある、普段の映画俳優ウィル・スミスになった。ただ、24コマでも動きに違和感は全く感じないし、ハイフレームレートゆえに見えてしまった部分(エキストラの動きや合成の不自然さ)はいい具合にマスクされていた。映像に刺激はなく、少し退屈だが、24コマ版でも十分鑑賞は可能だ。

なお、本作は4K/120コマで撮影されているが、日本にある現在の劇場システムでは4K/120コマの上映ができないという。近い将来、アン・リー監督が提供したかった本当の「ジェミニマン」が体感できる日が来ることを期待したい。(11月8日13時追記)

ハイフレームレートの「ジェミニマン」が観られるのは今だけ

劇場で3回も鑑賞しておきながら言うのは何だが、「ジェミニマン」の魅力はストーリーにはない。ごく普通の映画やビデオ映像では絶対に体験できない、ヌルヌルかつ鮮明な“リアリティ”をただ感じるためだけの作品なのだ。だが、それがイイ!!

だから、2K/24コマ/2D上映よりも、4Kor2K/60コマ/3D上映の<3D+in HFR>対応館で観ることをオススメするし、もしも可能なら、2K/120コマ/3D/HDR上映のドルビーシネマ館(さいたま・梅田・博多)で味わっていただきたい。(<3D+in HFR>対応劇場 ※PC版のみ表示)

【お詫びと訂正】記事初出時、“4K/120コマ/3D/HDR上映のドルビーシネマ”と記載しておりましたが誤りでした。正しくは2Kでの上映になります。お詫びして訂正します。(11月8日13時)

UHD BDでは3Dや48/120コマの映像が記録できず、またブルーレイ3Dは2K/3D収録と引き換えに24コマに制限されるため、「ジェミニマン」のハイフレームレートを家庭で再現できることができない。120コマ映像は、NHKが8K放送で目指しているが実現はまだ当分先だろう。

海外では興行成績が振るわず赤字という報道もされているが、映画ファンはもちろん、少しでも映像に関心がある方ならば、もう二度と体感できないかも知れない“4K×3D×ハイフレームレート”の最新技術マシマシ映画「ジェミニマン」を体感してみてほしい。そして願わくば、是非トムさまにも観ていただき、ヌルヌル映像の感想をツイートして下さい。

『ジェミニマン』本予告
『ジェミニマン』本編映像(吹替版)

映画「ジェミニマン」概要

監督:アン・リー(「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」)
製作:ジェリー・ブラッカイマー(「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ)
出演:ウィル・スミス、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、クライブ・オーウェン、ベネディクト・ウォン

公開:10月25日(金)
配給:東和ピクチャーズ

阿部邦弘