日沼諭史の体当たりばったり!

第17回

360度ライブ配信がセルフィ嫌いも吹き飛ばす「Insta360 Nano S」

Insta360 Nano S

 2016年、iPhoneのLightning端子にダイレクト接続して使うという風変わりなスタイルながら、スタンドアロン型の360度カメラにはない使い勝手の良さが受け、360度カメラの急先鋒の一角として名乗りを上げた「Insta360 Nano」。それから1年半、2018年に入って登場したのが、その第2世代ともいうべき「Insta360 Nano S」(31,299円:税込)だ。

 外観に目立つ違いは見られないものの、「Insta360 Nano S」はカメラとしての基本性能が大きく進化した。それだけでなく、専用アプリでの動画編集やライブ配信周りの機能も充実し、360度動画でとことん遊べる点が注目の製品となっている。今回、取材でタイ北部の都市チェンマイ滞在中に試すことができたので、主に海外におけるライブ配信の使い勝手を中心に「Insta360 Nano S」の魅力を探ってみたい。

ライブ配信プラットフォームは「確認のしやすさ」で選びたい

 Insta360 Nano Sは、Lightning端子を備えたiPhone 6以降と接続して使うことを前提とした360度カメラ。800mAhのバッテリーを内蔵し、iPhone本体とは別電源で駆動する構造となっている。microSDカードスロットも用意され、そこに挿入したmicroSDカードに静止画・動画を保存できるので、操作に必要なインターフェースとしてだけiPhoneを使う形だ。

iPhoneのLightning端子に接続して使う
専用のInsta360 Nano Sアプリで撮影するときはこのような手持ちスタイルがスタンダード
画面が天地逆さまになっているが、画面の回転ロックを解除することで正しい向きで撮影できる
ちなみにパッケージはVRスコープも兼ねている。撮影した360度映像をすぐに体感できる

 初代のInsta360 Nanoに比べてカメラ性能は大幅にアップした。静止画・動画撮影の解像度は、初代が3K(3,040×1,520ドット)だったのに対し、Insta360 Nano Sでは静止画が6,272×3,136ドット、動画は最大4K(3,840×1,920ドット、30fps)に。それでいて本体の縦横サイズは変わらないまま、重量はマイナス7gの約66gに軽量化されている。

 少なくとも解像度の面で高画質化していることは間違いないが、そういったハードウェア性能より、むしろ注目すべきはアプリ上で使える機能だ。iPhoneというネットワーク通信可能なデバイスと常時接続して使用することから、回りくどい事前準備や別のハードウェアを用意する必要なく、簡単に動画のライブ配信が可能なのが一番の特徴だ。

 対応しているライブ配信プラットフォームは、Facebook、YouTube、Periscopeなど。各SNSのアカウントを所有している必要はあるが、ログイン操作さえすれば、あとは通常の動画撮影とほとんど変わらない操作で、すぐにライブ配信を始められる。

前準備はほぼSNSアカウントとの連携のみ
ライブ配信するプラットフォームを選択して配信開始

 数種類のライブ配信プラットフォームの選択は、配信したい相手が誰かに左右されるのは当然だが、配信者の観点から見れば個人的なおすすめはFacebookだ。というのも、ライブ配信中は正しくライブ配信しているかできるだけ自ら確認したいわけで、Insta360 Nano Sを試した1月の時点でベータ版だったYouTubeは別として、ライブ配信の状況を確認しやすいのがFacebookだからだ。Periscopeでは、正しくライブ配信されているか簡単に確認する術がないので注意したい。

 まず、Insta360 Nano Sアプリ上でライブ配信しているときは、iPhoneで他のアプリに切り替えると撮影が終了してしまうことを念頭に置いておく必要がある。撮影中もしくはライブ配信中は、常にInsta360 Nano Sアプリに止まって(ディスプレイもオンで)いなければならないということだ。必然的に、ライブ配信を確認するにはもう1台スマートフォン(かPC)を用意することになる。

Facebookアプリ上でライブ配信をチェック(スクリーンショットは帰国後に撮影)

 このときFacebookであれば、たとえば別のスマートフォンのFacebookアプリ上で自身のライブ配信をきちんとチェックできる。一方Periscopeアプリ(もしくはWebブラウザ上のPeriscope)だと、自分のアカウントを見ても、ライブ配信中の映像を表示することができなかった。安定しているとは限らないモバイルネットワークを使った屋外でのライブ配信では特に念入りに視聴側での見え方をチェックしたいところなので、確認しやすいプラットフォームを選ぶのがおすすめだ。

海外SIM+テザリング視聴でも問題なく配信。バッテリー残量と熱には注意

 今回ライブ配信を試す際に使用したのは、iPhone 6(SIMフリー版)と、タイの通信事業者AISのプリペイドSIM(4G対応)。チェンマイ中心部の観光スポット「ナイトマーケット」をぶらぶら歩きながら撮影してみた。フードコートでは現地の雰囲気たっぷりの安くてうまいタイフード、アジアンフードを食べることができ、狭い歩道に並んだ露店では、本当にタイで作られたものかよくわからない服やら絵やらハンドクラフトやらが売られていて、それこそ毎日、大勢の観光客がそんなカオスでごった煮のナイトマーケットを楽しそうに歩いている。

 こうしたなかを360度撮影するときは、Insta360 Nano Sの手ぶれ補正の優秀さを実感する。iPhone自体はかなりラフな感じで手持ちしているのだが、映像を見るとわかるように、足を踏み込んだときのわずかな振動は感じるものの、それ以外は気になる振動がほとんどない。筆者の身体に視点を向けると、まるで身体とカメラが一体化しているんじゃないかと思うほどの安定ぶり。

【360度動画】タイ・チェンマイのナイトマーケット(ライブ配信ではなく録画保存した映像より)

 狭い人混みをかき分けて歩こうとすると、どうしてもiPhone&Insta360 Nano Sを持つ手を引っ込めたりしなければいけないが、そういう場面でも手振れを気にしないで撮影が続けられるのは気分的にも楽だ。視聴者側としても、いくら生配信に価値があるものだったとしても、ブレだらけの映像ほど見る気をなくすものはないので、歩きながらのライブ配信に耐えられるスタビライズ性能はありがたい限り。

 現地のモバイルネットワークの通信品質を考慮し、ライブ配信は解像度を720p、速度は2Mbpsと4Mbpsの2パターンで試した。これと同時に、iPhoneのインターネット共有機能をオンにし、別のスマートフォンからテザリングで通信しながらFacebookアプリ経由でライブ配信をチェックした。動画データのやり取りを同時に2台分こなしていたにもかかわらず、大きなコマ落ち・処理落ちなく配信できたようだ。もちろん、ネットワークの速度が出ないときは自動で画質が低下している可能性もあるが、こんな簡単に海外から360度動画を配信できるようになったのかと思うと、感動すら覚える。

 ライブ配信の際に注意しておきたいのは、バッテリーの持ち時間と“熱”の2点。Insta360 Nano Sは独立したバッテリーで動作するとはいえ、最大録画時間は1時間程度。撮影しながらの充電には対応していないのと、Lightning端子が使われてしまっているのでiPhone自体も充電できない。どちらかのバッテリーが切れれば撮影終了と、長時間のライブ配信には向かないのが残念なところ。細かく中断しながら配信するにしても、Facebookではライブ配信を始めるたびに新しい投稿になるので、視聴者側が混乱しやすいのがデメリットと言えるかもしれない。

 そして、何度も撮影を繰り返していると、Insta360 Nano SもiPhoneも、手で保持し続けるのが困難になるほど熱をもってしまう。今回、インターネット共有機能をオンにしていたことや、世代としては古いiPhone 6であることも、それを助長する要因になっていた可能性はある(常夏のタイとはいえ、1月のチェンマイの夜は気温20度前後と涼しいことが多い。そのため外気温は原因ではないと考えている)。人の少ない開けた場所での撮影時は、熱対策にInsta360 Nano Sを装着した状態で固定できるハンドグリップやセルフィスティックを併用すると良さそうだ。

撮影中の充電はできず、手に持っていると熱い。ハンドグリップなどで対策すると良いかも

 ライブ配信後の動画データは、Insta360 Nano SのmicroSDカードやiPhone本体ストレージには残らず、配信プラットフォーム側に保存される。Insta360 Nano Sアプリのもう1つの目玉機能は、360度動画の視点を自在に変えて2D動画を出力できる編集機能「Free Capture」だが、これは通常の録画機能で保存した動画に限られるので、ライブ配信後の動画には利用できない。

 でも、このFree Captureはとにかく強力だ。例えば録画した映像を見ながら視点を変えたりズームインさせたりしていくだけで、360度動画のままでは気付かれにくかった映像内のポイントに注目させることができる。映像の中央に被写体が集中したリトルプラネットの状態から、撮影者の一人称視点に徐々に変わっていくような演出や、映画「マトリックス」の弾丸を避けるシーンのような「バレットタイム撮影」に近い編集も可能となっている。

録画保存した動画
360度動画として視点を変えながら再生もできるが……

 Free Captureでは凝れば凝るほどに面白い映像ができあがる。気を付けないと、熱中度の高いパズルゲーム並みの時間泥棒になること間違いなしだ。

動画の好きなシーンでリトルプラネットにしたり視点を変えたりすることが可能。2Dの通常の動画で出力できる

Insta360 Nano SはSNSユーザーなら必携のコミュニケーション用ツール

 360度カメラということで、ライバルとして挙げられやすいのはリコーのTHETAシリーズだろう。方やスタンドアロン型、方やiPhoneに物理接続して使うタイプ、といった構造の違いから単純には比較できないものの、今のところTHETAが「撮影して残す」ことに力点を置いた「記録用のアイテム」だとすれば、Insta360 Nano Sは「撮影して(他の人に)見せる」ことを重視した「コミュニケーション用ツール」と言えるだろう。

 Insta360 Nano Sは、録画した動画をmicroSDカードに保存できるとはいえ、その動画を大画面テレビで視聴する環境は整っているとは言いがたい。代わりに、iPhoneと接続して使うというメリットを活かし、Free Captureをはじめとする動画編集機能と、手間なくライブ配信できる機能で、ネットワークの向こう側にいる人に見せるのは得意だ。

 筆者個人の用途で言うと、プライベートでは家族に自宅のテレビで360度映像を見せたいときが多いため、大画面テレビに出力しやすいTHETAの方が都合がいい。PCで動画編集して360度のまま映像コンテンツにする仕事の用途でも、やはりTHETAがいい。

 しかし、現地で撮った360度動画をその場でSNSにシェアするという用途なら、圧倒的にInsta360 Nano Sだろう。写真とほとんど変わらない気軽さで360度動画をシェアできる感覚は、セルフィが苦手な人でもそれを覆すほどの魅力を秘めているように思うのだ。

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日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。