日沼諭史の体当たりばったり!

第25回

寝るため“だけ”のイヤフォンBose「Sleepbuds」との1週間。睡眠の質は改善される?

Bose「Sleepbuds」は睡眠の質を高めてくれるのか

Boseが、これまた不思議なイヤフォン「Sleepbuds」を発売した。音楽再生が目的ではなく、むしろ音を聞かせないためのイヤフォンだという。正確には「イヤープラグ」と呼称されているこの製品は、耳に装着することで安眠を妨げるノイズを抑制し、睡眠の質向上を目指せる、というものだ。音響機器メーカーなのに音響させないとはこれいかに!?

とはいっても、まったく音を出さないわけではない。入眠を誘う、あるいはリラックスできる種類のノイズを発することが可能になっている。みなさんも、しとしと降り続く雨の音とか、アナログテレビのザーッというノイズ(古い)とか、規則的で耳障りではない音を流していると、なんとなく気持ちが落ち着いたり、眠りにつきやすい、なんて経験があるのではないだろうか。

それに近い役割を果たしてくれるという、そんな風変わりなSleepbudsを実際に試してみた。価格は32,400円とミドルレンジの本格的なイヤフォンに匹敵するお値段。本当に睡眠の質向上に役立てることができるのか、毎晩耳に装着したその使い心地と、睡眠の結果をお届けする。

完全ワイヤレスでコンパクト。圧迫の少ない優しい装着感

Sleepbudsのパッケージ内容

Sleepbudsは、何度も言うように、音楽再生用のイヤフォンではない。あくまでも睡眠、リラクゼーション用途。スマートフォンとBluetoothペアリングして使うのが前提となるものの、端末設定から接続するのではなく、専用アプリを介して利用することになる。

なので、他のメディアプレーヤーアプリなどで再生した音楽がSleepbudsで流れることはない。専用アプリ上で流せる後述のサウンドやアラームのみ聞くことができ、それ以外の音を再生することは不可能という機能の絞られた製品だ。

なぜSleepbudsが睡眠やリラックスに適しているとされているのか。それは、イヤープラグを装着することによる遮音と、サウンドを流すことによる“ノイズマスキング”で、不快なノイズを低減する仕組みになっているから。付属のバッテリー内蔵ケースのフタをスライドさせてSleepbudsを取り出すと即座に電源が入り、専用アプリでペアリングして耳に装着すれば、すぐに使い始められる。

持ち運びしやすいコンパクトな付属ケース
フタ部分をスライドさせるとSleepbudsを取り出せる
ケースはバッテリー内蔵。Sleepbudsを収納するだけでSleepbudsの充電が始まる
Micro USBに給電することでケースの内蔵バッテリーを充電できる

左右分離型の完全ワイヤレスで、一般的な同種の音楽再生用イヤフォンよりひとまわり小さく、軽い。迫力のある高品質な音楽再生にこだわる必要がなく、そのための電力も必要ないため、バッテリー容量や内部構造をシンプルにできるためだろうか。それでも動作時間は最長16時間と、休日でここぞとばかりに寝溜めする人でもフルに使い続けられそうだ。

インイヤータイプに分類されると思われるシリコンイヤーピースは、耳の形に合わせて装着できるよう3サイズ用意されている。耳穴に挿入する部分はやや末広がりで、スタビライザー(イヤーフック)と一体になっているので交換するときは丸ごと取り外す形になる。

この末広がりなイヤーチップは、他のインイヤー型イヤフォンと比べて柔らかく、装着するときに耳穴に詰め込むような感じも、奥で広がって圧迫されるような感じもあまりない。ふわっと優しくハマる印象だ。ボディ自体が小さく、装着時に外側への張り出しが少ないことから、身体を横にして耳が下になったときも他のイヤフォンに比べて煩わしさは圧倒的に少ない。

末広がりなイヤーチップで優しいつけ心地
イヤーチップはスタビライザー部分と一体になっている

でも完全に違和感がない、というわけでもない。枕に耳を押しつけるように寝るとさすがにわずかな圧迫感が出てくるし、寝ている間に外れやすくもなる。ただ1週間くらい毎晩身に付けていると、朝起きたときに装着していることを忘れるくらいには慣れてしまうだろう。

睡眠時だけでなく静かに過ごしたい移動時にも

専用アプリ「Bose Sleep」。最初にこのアプリを介してペアリングする→ペアリングが完了するとこの画面

機能が絞られた製品なだけに、専用アプリ「Bose Sleep」の作りもシンプル。Sleepbudsと接続しているかどうかの状態表示、Sleepbudsのバッテリー残量表示、Sleepbudsから流すサウンドの選択、オフタイマーとアラーム、といったところが主な機能となる。

アプリから指定できるサウンドは10種類用意されている。雨音、水流、たき火、飛行機内の音といった環境音のほか、ヒーリングサウンドのようなものもあり、そのなかから選んで再生すると同じサウンドを繰り返し流し続ける(繰り返し時のつなぎ目には気付けない)。サウンドを再生しなくても物理的にある程度遮音され、サウンドを流すことで不快なノイズをマスキングし、サウンドの音量を上げていくにしたがってその効果が高まる仕組みになっている。

雨音のノイズサウンド「Shower」、飛行機のなかにいるようなサウンド「アルティツールド」、小川の流れる音「ダウンストリーム」、ヒーリングサウンドのようなものが流れるパターン「Tranquility」

また、就寝時にSleepbudsを装着するとき、サウンドを流す場合は起床するまでエンドレスで流すことも、オフタイマーを設定して一定時間経過後にサウンドを止めることもできる。起床用のタイマーを設定しておけば、その指定時刻にSleepbudsでアラーム音を鳴らすことも可能だ。

オフタイマーを設定と寝付いた頃合いにサウンドをオフにすることができる(左)。アラームもSleepbudsで鳴らすことが可能(右)

Sleepbudsを電源オン状態で装着してみると、物理的な圧迫感が少ないだけでなく、ノイズキャンセリングイヤフォンによくある、特有の「キューッ」と締め付けられるような感覚がないため、自然に違和感なく使い始められる。その分、周囲のノイズが劇的に減る印象もないのだが、再び外してみると確実に不快な音が取り除かれていたんだな、というのがわかる。

一度、リビングのテレビをつけている状態で、そのすぐ隣の部屋で扉を開けたまま眠ったこともあった。夜間で抑えめだったとはいえ、スピーカーまで1メートルちょっとの場所で、普通に聞こえる音量。それでもSleepbudsを装着するとテレビ音声は全く気にならず、というか聞こえなかった。1人でテレビを見ていた妻によれば、すぐにいびきが聞こえてきたという(むしろ「いびきをしていた」と聞かされたことの方がショックだった)。

ちなみに、アプリでサウンド音量を一定以上にしようとすると、聞き取りたい音までマスキングされる、という旨の警告が表示されるのだが、それ以下の音量で流している状態であれば、誰かが話しかけてきたときにもすぐに気付けるし、そのまま会話するのにも支障がない。飛行機搭乗時にも使ってみたところ、キャビンアテンダントから声を掛けられたときにも装着したままで問題なく受け答え可能だった。

機内の騒音自体の低減効果も大きい。そのときは最新のエアバス A350型機だったこともあって、そもそも従来の飛行機よりかなり騒音が少ない環境だったのだが、それでもSleepbudsがあるのとないのとでは、断然あった方が眠りに“集中”しやすかった。

機内で使用したときの写真。長距離移動も快適にしてくれた

装着時と非装着時で睡眠状態をモニタリングして比較

そうは言っても、筆者の主観だけで「Sleepbudsはリラックスや睡眠の質向上に効果がある!」とは断言しにくい。ある程度客観的なデータが必要だ。そこで、簡易的ではあるがわかりやすそうな指標を得られそうな方法として、睡眠状況をモニターできるAndroidアプリ「Sleep as Android」を使ってみることにした。

まず、最初の1週間はSleepbudsなしでいつも通り就寝し、その次の1週間をSleepbudsとともに眠る。スマートフォンは必ず頭の横に置き、Sleep as Androidでモニタリング。Sleepbudsではオフタイマーもアラームも設定せず、自然に起きるまでノイズをエンドレスで流す、という方法で2週間、毎晩使ってみた。

あらかじめ断っておきたいのが、毎日就寝時刻は異なるし、ホテルに宿泊した日もあれば、日中取材で歩き回ったり、ずっと自宅で仕事していることもあったりと、必ずしも生活のペースや就寝時の条件は一定していないこと。完全な密室で全く同じ生活をしながら……というわけにはいかないので、ご了承いただきたい。

そんなわけで、最初の1週間(Sleepbudsなし)と次の1週間(Sleepbuds装着)の睡眠履歴は以下のSleep as Androidのスクリーンショットをご覧いただきたい。

Sleepbudsなしの睡眠履歴(クリックすると1週間分を表示)
Sleepbuds装着状態の睡眠履歴

このスクリーンショットだけでは何がどう違うのかわかりにくいかもしれない。なので、「睡眠の質」の面で意味のありそうな「全睡眠時間における“深い睡眠”の割合」と「最初の“深い睡眠”までの時間」をグラフにしてみた。平均も表にしている。

Sleepbudsの有無による深い睡眠の時間割合
Sleepbudsの有無による最初の深い睡眠までの時間

深い睡眠の平均割合 最初の深い睡眠までの平均時間
Sleepbudsなし 38% 32分
Sleepbuds装着 47% 21分

これを見ると、Sleepbudsなしの場合、深い睡眠の割合は長いときと短いときとでばらつきが大きいのに対し、Sleepbudsありだとその割合は一定していて、しかも長いことがわかる。また、最初の深い睡眠までの時間も、Sleepbudsの有無にかかわらず日ごとに差は大きいが、平均的にはSleepbudsありの方が短時間で深い睡眠に至っている。

騒音が気になる環境にいる人、移動の多い人ならぜひ試したいアイテム

もちろん、この数値がどこまで信頼できるのか、という疑問は残るし、必ずしもすべての状況において深い睡眠が長いほど、もしくはそれに至る時間が短いほど健康にいい、ということが言えるかどうかもわからない。先述の通り、条件は毎日一定していないわけで、その日の疲労度合いももちろん影響しているだろう。

ただ、Sleepbudsのあるなしで1週間ずつ計測した際の平均を取った限りでは、少なくともそこになにがしかの差は生まれている。1週間という短い期間だったこともあって、「すっげー健康になった!」と実感することは、まあ正直なところないのだが、睡眠や長距離移動のお供に持っていたいな、と思う製品であった。

人によっては、慣れないものを身に付けていると絶対に眠れないとか、サウンドがかえって煩わしい、という人もいるかもしれない。そういう人にはおすすめできないけれども、可能な限り健康な睡眠を目指している人、繁華街近くなど騒音が気になりやすいところに住んでいる人、飛行機や列車で移動することが多い人には、ぜひ試してみてほしいアイテムだ。

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sleepbuds

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。