日沼諭史の体当たりばったり!

第26回

アンテナ替えて新4K衛星放送を丸ごと観る! 2019年へ地デジ受信も強化

新4K衛星放送が始まった。当然ながら、筆者は2018年12月1日朝10時の放送スタート1時間前からテレビの前で正座待機。試験電波の1kHz音が消えた後、放送開始記念特番で富士山がどーんと4Kで表示された時は、マジで感動してそこはかとなく涙が出そうな雰囲気になった。正月かよ。

4K/8Kアンテナを設置。地デジアンテナもリニューアルした

ある意味この日のために、3年前の家を建てる前後から配線やら機材やらを吟味してきたわけで、新4K衛星放送の受信環境を整えないでどうするんだという話である。ところが、自力でアンテナ工事をするとなると、やはりそれなりに時間がかかる。本当のところを明かせば、12月1日の放送スタートにアンテナの設置を間に合わせることはできなかった。それでも、きちんと新4K衛星放送が見られたのだ。

そんなこんなで、実は既存の設備でもわりと見ることができてしまう新4K衛星放送。本当にアンテナなどの機材を買い替える必要があるのか、変えるときはどこに注意すべきか、といったところも交えつつ、主にこれから新4K衛星放送の視聴環境を整えようかどうか迷っている人に向けてお伝えしたいと思う。

放送開始前のテレビ番組表。10時のスタートまであと2時間余り
放送開始前はまだ試験電波発信中な画面だった

アンテナ変更前後で見られる・見られないチャンネルは?

新4K衛星放送受信には欠かせないチューナー。写真はアイ・オー・データ機器の「HVT-4KBC」

サービスが開始するしばらく前から、新4K衛星放送は既存の設備そのままでは視聴できない、といった注意喚起があちこちでなされいた。たしかに対応するチューナーがなければ見られない。でも、チューナーさえ用意できれば、とりあえずそれ以外は既存の設備のままでも見られるチャンネルがある。

新4K衛星放送は「右旋円偏波・左旋円偏波」(右旋・左旋)における「10~3,224MHz」の周波数帯を使用し、このうち左旋の周波数帯となる「2,224~3,224MHz」は従来のアンテナや機材では基本的に扱えない。なので、この部分に割り当てられているチャンネル(「スカパー! 4K」の9チャンネル分の4K放送)は見ることができないわけだ。逆に言うと、従来と同じ周波数帯を使う右旋に割り当てられているチャンネル(NHK、民放を含む5チャンネル分の4K放送)は、従来のアンテナ・機材でも視聴できるということ。

チャンネルのラインナップと視聴に必要な機器
地上デジタルと、従来のBS/110度CS放送向けの分配器。対応する周波数が2,150MHzまでと表記されている

筆者宅では、BS/110度CSアンテナが左旋には対応していない従来のもの(スカパー! マルチアンテナ)。配線機材も4K/8K放送を見据えて分配器、壁面端子を対応するものに変えていたが、一部古いままのアンテナパーツもある。この状態から4K/8K完全対応の環境を整えていくとどうなるのだろう。アイ・オー・データ機器の新4K衛星放送対応チューナー「HVT-4KBC」で信号品質などをチェックしながら確かめてみた。

【変更なし】従来のBS/110度CSアンテナ・配線機材

チューナー追加のみで他は変更していない状態の配線模式図(オレンジは4K対応機材)
変更していないときの信号品質

機材は全く変えていないにもかかわらず、チューナーを接続するだけで、NHK BS4Kと、民放4局のビーエス朝日 4K、BS-TBS 4K、BSテレ東4K、BSフジ4Kが「A」もしくは「B」と判定された。画面上の説明では「B」は受信不良とされているが、実際の受信映像には問題ない。これらはいずれもBS右旋で、従来の設備そのままで受信できる範囲というわけ。

一方、BS左旋のザ・シネマ4K、ショップチャンネル、4K QVCは「D」となっており、受信不可。J SPORTS 1はCS左旋でこれも受信不可。本来ならJ SPORT 2~4など他のCSチャンネルも一覧に表示されるはずだが、放送開始前のタイミングだからなのか、電波が一切受信できないためなのか、チャンネル名すら出てこなかった。

【アンテナのみ変更】新4K衛星放送対応BS/110度CSアンテナ

アンテナのみ変更したときの配線模式図(オレンジは4K対応機材、信号経路)
アンテナのみ変更したときの信号品質

この組み合わせは、アンテナ自体はBS右旋・左旋に対応してはいるものの、途中経路の機材が非対応の状況。それでも、NHKや民放4局が受信可能なのはもちろんのこと、それに加えてBS左旋のザ・シネマ4K、ショップチャンネル、4K QVCも受信可能になった。ただ、アンテナパーツは仕様上はBS左旋の周波数帯をカバーできていない。そのせいか、信号品質を示す数値は若干不安定なときもあった。

CS左旋については、アンテナを新しくしたおかげかチャンネル認識数が増え、J SPORTS 1以外にJ SPORTS 2~4など7チャンネルが表示されるようになった。しかしどれも「D」で受信は不可能だ。これらは有料の契約が必要な放送なので、特に見る予定がない人にとっては受信の可否はそれほど重要ではないかもしれない。ただし、アンテナだけ4K/8K対応なのに途中の配線が非対応だと、電波の漏洩や干渉が問題になることがある。やはり速やかに全体を変えるべきだろう。

【アンテナと配線機材を変更】新4K衛星放送対応BS/110度CSアンテナと、4K/8K放送対応の配線機材

アンテナと配線機材を変更したときの配線模式図(オレンジは4K対応機材、信号経路)
アンテナと配線機材を変更したときの信号品質

新4K衛星放送のすべてを見るのに必要な機材に変えた状態。これによりBS右旋・左旋とCS左旋も含め、現在放送している全16チャンネルが正しく受信可能な「A」判定となった。CS左旋は有料チャンネルだが、もしこれらも視聴したくなったときは契約すればいつでもすぐに見られる。今回、従来使っていたブースターが4K非対応になるため廃止したが、全体的な信号品質には変化がないので、今後も対応するブースターは不要そうだ。

機材の変更にあたっては、アンテナやチューナーは置き換えるか追加するだけなので難しくはない。けれども、その途中経路の配線機材が3,224MHzまでの周波数帯に対応しているかどうかは確認しにくい場合もある。途中経路の1箇所でも対応していない機材が存在すると、場合によっては視聴できる可能性もあるが、受信状態が不安定になったり電波漏洩につながったりもするので、確実にチェックしておこう。

アンテナ配線をまとめている収納ボックスの最新の状態。右側にあるブースターは廃止。いずれ整理してきれいにしたい

実は重要、衛星・地デジアンテナの強風対策

2018年を振り返ると、大型台風がたびたび襲来し、各地に少なくない被害をもたらしたのが記憶に新しい。筆者宅では特に何かが壊れたりするような被害はなかったものの、強風が吹き荒れた翌日、さあ衛星放送を見ようか、とチャンネルを合わせてもエラーで何も映らない、という現象に遭遇した。理由は簡単。パラボラアンテナが風に煽られて角度がずれてしまったのだ。

筆者宅の古いアンテナ環境(屋根上)
風で左右に振られてどんどん下にずり落ちていったのだろうか。ポールにはジグザグの引っ掻き傷のような跡が

かなり強く固定しているつもりでも、ずれるときはずれる。でもあまり強く固定すると、固定先のポールなどの破損にもつながりかねない。もしかしたら、ずれてほどほどに風を受け流すのもいいのかも……とか思いながらも、できれば2019年の夏は同じ目に遭いたくないな、と考えて、新4K衛星放送のアンテナ変更に合わせて風対策をしておくことにした。

今回設置するアンテナ。4K/8K対応のスカパー! マルチアンテナ
従来のアンテナに比べると少し縦長い楕円

それでもって、ついでに地上デジタル放送用のアンテナも変更してみたい。そこで目を付けたのが、マスプロ電工が2017年9月に販売開始した「UNICORN」というユニークな筒型のアンテナだ。当初は施工会社経由での販売が想定されていて、気軽に導入できる感じではなかったが、最近は通販サイトで簡単に入手できるようだ。

左が新たな地デジアンテナ「UNICORN」

購入時の価格は約1万2,000円と、普通の地デジアンテナにしてはやや高いけれども、なんといってもカッコいい。風の影響が少なく済みそうなスタイリッシュな形状がそそる。自宅の外壁がブラックなので、それにマッチする色合いなのもいい。ソーラーパネルの近くにアンテナを設置する場合、影が小さく発電効率を損ないにくいのもメリット、らしい(筆者宅はソーラーパネルがないので)。

付属品は説明書とF型コネクター、防水キャップのみ
よく見るときれいな円筒形ではなく背面が平ら。屋根上での作業中に横置きしたときに転がり落ちないようにする配慮なのか?

性能としては中・強電界用。混合器が内蔵していないタイプなので、新4K衛星放送用アンテナからの出力と混合して1本のアンテナケーブルで宅内に引き込むには、新たに混合器を追加したうえで宅内に分波器を設置する必要がある。いずれも4K/8K対応のものとなるとそこそこ費用はかさむが、このシュッとした感じを出すためなら仕方がない。ああ、仕方がない。

地デジアンテナも変更するにあたって、混合器や分波器なども追加した

ただ、このアンテナ、下側からポールを差し込むようにして、それを締め付けて固定するのだが、ポールの先10cm程度しか入らないので要注意。筆者宅のアンテナ設置用ポールは円形のパイプなので、そのまま差し込んで先端に固定することもできるけれども、それだとあまりにも背が高くなりすぎてしまい、逆に風に弱くなる。

とりあえず屋根上に設置しているポール先端に固定してみたが……
あまりにもピョーンと飛び出し過ぎる状態に

そこで、既存の衛星放送用アンテナに使っていたL字型のマストに固定することにした。元々風に強そうな形状のアンテナではあるけれども、さらにマストをポールに固定する部分に耐候性のあるシリコンシートを挟み込んで滑りを抑制。新4K衛星放送対応のスカパー! マルチアンテナの方は、同じくシリコンシートを固定部に施したうえで、念には念を入れて落下防止のためのステンレスワイヤーも結びつけた。これで強風対策はバッチリだろう。

衛星放送アンテナ用のマストを流用することに
耐候性のあるシリコンシートを巻き付けて、その上から締め付けることにする
新4K衛星放送用のアンテナと混合器を仮設置したところ

ビデオチャットしながらアンテナ調整しよう Ver.2.0

ところで、こういった屋根上でアンテナを設置する場合、困るのが信号の受信状況の確認がしにくいこと。地デジの方は放送波を発信しているアンテナ(筆者宅の場合は東京スカイツリー)の方角になんとなくアバウトに向けておけばOKだが、BS/110度CSアンテナ、とりわけスカパー! は1mmずれただけで信号がゼロになったり、いい感じになったりと、かなりシビアだ。ほんのちょっとずらして、リビングに戻ってテレビ画面で確認する、なんて作業を繰り返しているといつまでたっても終わらない。

その解決策として以前この連載で紹介したのが、2台のスマートフォンでLINEなどを使ってビデオチャットするというもの。1台は信号強度を表示するテレビ画面を映しておき、もう1台は手元に置いてビデオチャットの画面を見ながらアンテナの位置調整をする。

これはこれで大変はかどるのだが、今回のように地デジ、BS/110度CS、スカパー! と4種類の信号をチェックしたい場合、テレビリモコンで画面を切り替えないとそれぞれの信号強度を確認できないのが問題となる。そのためにリビングに戻ってテレビを操作する、なんて、ひどくおっくうでやりたくない。

テレビ前にスマホを置いて画面を撮影。ビデオチャット状態でもう1台のスマホを持って屋根上に上がり、映像をチェックしながらアンテナを調整する。これがいわば「ビデオチャットしながらアンテナ調整しよう Ver.1.0」

しかし、これについてもいい方法が見つかった。テレビがAndroid TVであることが前提となるが、スマートフォンアプリの「Android TV Remote Control」を使えば、Wi-Fi経由でテレビをリモート操作できるのだ。LINEでビデオチャットしながらアンテナを位置調整し、別の放送波の信号を確認したくなったらこのアプリでテレビを操作して画面を切り替える。あまりにも楽ちんすぎて思わず他人の家のアンテナもセッティングしてあげたくなるほど。いや、しないけど。

Android TVアプリでテレビをリモート操作しつつ小窓の映像で信号強度を確認する。名付けて「ビデオチャットしながらアンテナ調整しよう Ver.2.0」

しかもLINEの場合、ビデオチャットしている間は他のアプリに切り替えても画面の隅で映像を小さくウィンドウ表示してくれるのがすばらしい。Android TV Remote Controlをメインに表示して、小窓のビデオチャットで信号強度を確認するような使い方でもいいくらい。このおかげで、地デジと新4K衛星放送用のアンテナの設置を、筆者1人で3時間ほどで終えることができた。自力でアンテナを設置する際にはぜひ参考にしてほしい。

衛星アンテナ側もシリコンシートで固定。シリコンシートをした状態では調整が難しいので、先に位置合わせしておいてマーキングし、その上からシリコンシートを巻く。黒いゴムシートとは違って透明なのでマークが見やすいというメリットも
地デジアンテナの位置も本決めして完了
外から見るとこんな雰囲気。外壁と色が似ていて、ちょっとおしゃれな感じ?

新4Kへ切り替えでコスト減も

アンテナを自力で丸ごと交換するという、わりと大げさな手間も発生してしまったが、それでも地上デジタル放送にはない高精細な4K放送の映像を目の当たりにすると、その苦労も報われるというもの。惜しむらくは、まだ4Kネイティブ解像度のコンテンツが揃いきっていないことだろうか。地デジ並みの解像度の番組を目にすることも時々ある。

ちなみに今回、筆者はすでにスカパー! プレミアムサービス(J SPORTS 1~4)を契約していたので、ひとまず単純に新4K衛星放送にも対応するスカパー! マルチアンテナに置き換えた。だが、もし新4K衛星放送を受信したいだけなら単純に4K/8K放送対応のアンテナを購入すればOKだ。その方がマルチアンテナより安価で、配線も単純になる。

しかも筆者のように、スカパー! プレミアムサービスのJ SPORTS 1~4などを契約しているなら、新4K衛星放送(CS左旋のスカパー! 4K)にも同じものがあるため、新4K衛星放送の受信契約に切り替えるのもおすすめ。アンテナの購入費用を抑えつつ、さらに4K放送として受信できるメリットは大きい。筆者もタイミングを見て切り替えようかと思っているところだ。

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。