日沼諭史の体当たりばったり!

第54回

ワイはステレオペアを使いたい! ソニー/AnkerなどポータブルBTスピーカー4種で音が広がりんぐ

みなさんは「ステレオペア」という言葉を聞いたことがあるだろうか。主にBluetoothスピーカーにおいて、同種のスピーカー2つを連携することでステレオスピーカー化できる機能のことだ。

持ち運びにも適した小型のBluetoothスピーカーはお手軽に使える反面、多くはモノラルスピーカーなので音の広がりや臨場感はそこまで期待できない。しかし2つ揃えてステレオ化できれば、そのあたりの満足度はぐっと上がるはず。

ただ、価格が問題だ。2台必要なので当然ながら通常の2倍の出費を強いられる。みなさんのなかにも「ステレオペアにしてみたいけどコストがなあ……」と思って踏みとどまった人もいるのではないだろうか。かくいう筆者もそうだった。

というわけで、実際ステレオペアはイイのか、期待したほどでもないのか、4種類のBluetoothスピーカーを2個ずつ用意して試してみた。1台で十分! という人の方がほとんどのような気もするが、純粋にポータブルBluetoothスピーカーとしてどうなのか、みたいなところにも触れているので、参考になれば幸いだ。

スペック比較表

これはイチ押し! 高いけど! ソニーの「LinkBuds Speaker」

今回試した4機種のなかで、(ステレオペア的な意味で)一番気に入ったものをさっそく紹介してしまおう。それはソニーの「LinkBuds Speaker」だ。

ソニー LinkBuds Speaker

デスクに置いてもさほど邪魔にならないコンパクトなキューブ型。ファブリック素材が使われていて優しげな雰囲気を醸し出しており、遠目では単なる置物のようにも感じられるミニマルなデザインが特徴と言える。

手に載せたときのサイズ感
ストラップで吊り下げにも対応

内蔵バッテリーで約25時間動作するが、付属の専用クレードルに置くだけで簡単に充電でき、そのまま給電しながら動作時間を気にせずに使い続けられるという強みもある。据え置きスピーカー的に使いつつ、時々モバイルスピーカーとして使う(もしくはその逆)、というようなスタイルにもバッチリ合うわけだ。

クレードルに置くだけで給電開始
Type-C端子に直接給電もできる

今回紹介するなかでは唯一、(通話に使える)マイク機能も備えている。ペアリングしたスマホやパソコンなどのデバイスのマイク&スピーカーとして動作するので、電話やWeb会議にも利用可能なのだ。普段は書斎などで充電しながら仕事に使い、時々リビングやダイニングに持って行って音楽を流す、みたいな活用方法もアリだろう。

天面に各種操作ボタン

ちなみに防水性能はIPX4で、水飛沫なら耐えられるレベル。水が軽くかかる可能性のあるキッチンまわりくらいならOKだが、水辺やお風呂のような高湿度だったり水没しやすかったりする場所では使えないことに注意したい。

で、これをステレオペア化するのは実に簡単だ。底面にあるボタンで両方とも電源をオンにした後、一方(Lチャンネルにしたい方)のBluetoothペアリングボタンを長押しし、次にもう一方(Rチャンネルにしたい方)のペアリングボタンを長押しするだけ。ちなみにデバイスとのペアリングはLチャンネルの方だけで大丈夫。Rチャンネルの方はペアリングする必要はない。

Bluetoothペアリングボタンを長押しして、「ST PAIR」のランプが光ればステレオペア化完了

単体で使っているときから、小型なわりに重厚な低音とクリアな中高音を響かせるが、ステレオになると透明感に磨きがかかる。音楽のジャンルは問わないオールマイティ感のある音質で、クラシックやジャズはその場の空気感が出てくるし、元気なボーカル曲もキレよく鳴らしてくれる。

そして、今回紹介する4製品のなかではステレオペア化したときの使い勝手が最も良い。たとえば2つ以上のデバイスから切り替えて使いたい場合、ペアリングさえ済んでいれば、再生したい方のデバイスから再接続の操作をするだけでいい。

LinkBuds Speakerのステレオペアでの使用イメージ

他の製品は接続中のデバイスでいったん切断の操作をし、それから別のデバイスで接続する、という手順になってしまうところ、LinkBuds Speakerなら最初の切断操作を省けるのだ。たったそれだけの違いではあるけれど、操作の煩わしさは格段に減る。

ただし、マイクとして使うときは、ステレオペアにしても機能するのはLチャンネルのみとなる点に注意が必要だ。相手から聞こえる音声もLチャンネルだけになるので、Rチャンネルが完全にいらない子になって悲しい気持ちになる。

あとは1台あたり実売2万5000円、2台揃えれば5万円という値段の高さがネックだろう。据え置き型スピーカーとしても、モバイルスピーカーとしても使いやすいハイブリッドな活用にどれだけ価値を見いだせるか、といったあたりが分かれ目になりそうだ。

センサーで自動的に最適音質、ステレオでも使いやすいAnker「Soundcore Motion 300」

モバイルバッテリーなどでよく知られるAnkerは、Soundocoreシリーズとして多数のスピーカー製品もリリースしている。そのなかでもアウトドア向けのミドルクラスモデルが「Soundcore Motion 300」だ。

Anker Soundcore Motion 300

IPX7の防水性能をもち、一時的な水没にも耐えるので水辺でも安心して使える。700gを超えているのでやや重く、ボリューム感のあるサイズだが、持ち運びに困るほどのレベルではないだろう。

手に持ったときのサイズ感
充電はType-C。しっかりした防水キャップでカバーされている

特徴的なのは、立てて置いたり、平置きしたり、ストラップで吊り下げたり、といった3ウェイの使い方をできるようにしたうえで、それをセンサーで判定し、置き方に合わせたイコライジングモードを自動適用して最適なサウンドで聞けるようになっていること。

直立スタイル
平置きスタイル
吊り下げスタイル
スマホアプリで現在の設置スタイルがどう認識され、どのイコライジングモードが選択されているのかがわかる

また、コーデックはSBCなどの他にLDACにも対応し、Androidスマホからの再生時には高音質を実現する。実際の音質もクリアで、低音も重厚感がある。それでいて音量を絞ったときも繊細に再現してくれて、丁寧に音作りしている印象だ。

LDAC対応で、Androidスマホからの再生は高音質に

ステレオペア(完全ワイヤレスステレオペアリング)の設定は、LinkBuds Speakerと同じで簡単。両方の電源を入れ、Bluetoothペアリングのボタンを両方で長押しするだけだ。デバイスとのペアリングはどちらか一方(Lチャンネル)とだけでよい。

Soundcore Motion 300のステレオペアでの使用イメージ

便利な機能としては、ステレオペアにしている時、一方の電源をオフにするともう一方の電源も連動して切れるところ。その後の電源オンはもちろん連動してくれないが、少ない手間で扱えるのはうれしい(設定時間で切れるオートパワーオフの設定もあるとはいえ)。ただし、複数デバイスで切り替えて使う場合は、いったん使用中のデバイスで接続解除し、その後別のデバイスで接続操作することになる。

各種コントロールボタン

また、スマホアプリの「Soundcore」を利用すればイコライザーの調整ができ、ステレオペア時でも変わらず利用可能だ。なお、置き方検知を元にしたイコライジングモードの自動切り替えは、デバイスとペアリングしているLチャンネル側の置き方が基準となる。なので、左右で違う置き方をしているときには最適とは言えないサウンドになる可能性があることに気を付けよう。

ステレオペアで使用しているときもイコライザーの調整が可能

ステレオにちょいクセがあるも、レッツパーリナイできるJBL「Flip 6」

続いてはJBLの「Flip 6」。同メーカーのBluetoothスピーカーはポータブルであってもかなりのラインアップがあるが、Flip 6はハンディサイズでありながら30Wと比較的高出力、それでいて値段もお手頃なモデルだ。

JBL Flip 6

円筒型のボディはファブリック素材をメインに使用しており、全体的なデザインはなんとなくパリピな雰囲気も漂う。横にも縦にも置けて、さらにストラップで吊り下げて使うこともできる。IP67の防水・防じん性能も備えているため、お風呂やアウトドアなど、使いどころを選ばないのが特徴だ。

手に持ったときのサイズ感
縦置きスタイル
横置きスタイル
吊り下げスタイル
充電はType-C。むき出しではあるが、防水・防じん対応だ

音質はやっぱりJBLらしい押し出しの強さを感じさせるもの。ただ、めちゃくちゃ低音ばかりが強い、ということでもなく、クリアで伸びのある中高音もなかなか聴かせてくれる。

ステレオペアは「JBL PartyBoost」という機能のオプションの1つとして「ステレオグループ」という名前で用意されている。JBL PartyBoostは、この機能に対応するJBLスピーカーなら機種を問わず、同じサウンドを一緒に鳴らせるというもの。それこそパーティ会場に複数人が持ち寄って、そこかしこで同じ音楽を流したいときなんかに活躍するわけだ。

右端に見える∞ボタンが「JBL PartyBoost」のボタン。音を鳴らしている1台目でこのボタンを押した後、すぐに2台目以降でもボタンを押すと、同じ音楽が流れるようになる

ステレオグループにするには、まずスマホアプリの「JBL Portable」が必要だ。2台ともスマホとペアリングし、その状態でアプリにある「ステレオグループ」からペアとして設定する。通常のPartyBoostモードで設定してしまうとステレオではなく、モノラルでそれぞれ再生する形になってしまうので注意したい。

2台ペアリングした状態でアプリを起動し、「ステレオグループ」を選択(左)、2台認識されたら「作成する」ボタンをタップ(中)、これでステレオペア化できた状態(右)

そのままスマホから音楽再生すればステレオで再生されるし、いったんBluetooth接続を解除してパソコンなど他のデバイスからペアリングして接続すれば、ステレオグループの状態が維持されたまま再生できる。

Flip 6のステレオペアでの使用イメージ

他のデバイスから接続したいときは、いったん本体のPartyBoostモードボタンを2台とも押してステレオグループを解除しなければならないときもあるが、その場合でも、接続後にもう一度PartyBoostモードボタンを両方で押せばステレオグループの状態に復帰してくれる。

というように、ステレオペアにするのに若干手間がかかるところもあるのだが、ステレオ再生中もちょっとクセがある。おそらくはPartyBoostモードがベースになっているためか、一方の本体の音量ボタンを調節すると、その1台の音量だけが変化するのだ。定位を変えたくなければ2台で同じだけ音量調整するか、最初からスマホやパソコンなどのデバイス側から調整した方がいい。

ただ、これは見方を変えると左右バランスを自在に調整しやすいということでもある。2台の距離感に合わせて音量のバランスを調整したいときには便利かもしれない。

ステレオグループ(PartyBoostモード)時のデメリットとしては、イコライザー設定が特定の1種類に固定されること。活きのいいJBLサウンドはステレオでも味わえるが、イコライザーをカスタマイズして自分好みの音質にしたいときは単体で、ということになる。

ステレオグループ(PartyBoostモード)中はイコライザーの設定ができない

スマートスピーカーだけどBluetoothスピーカーにもなるGoogle「Nest Mini」

最後にもう1つ、ステレオペアに対応するスピーカーとしてGoogleの「Nest Mini」も紹介しておきたい。Wi-Fi接続して使うスマートスピーカーではあるものの、Bluetoothスピーカーとしても使うことができ、同じNest Mini同士であればステレオペアも可能なのだ。

Google Nest Mini

といっても、やはりBluetoothスピーカーの機能はおまけみたいなもので、スペックとしては他と比べると弱いところが多い。ハードウェアボタンがほとんどないためソフトウェア(スマホのHomeアプリ)からの制御がメインになり、使い勝手もいいとは言えない。たとえばペアリングモードにするのにもアプリから操作しないといけないし、ステレオペアの設定も同じくアプリからだ。

手に載せたときのサイズ感
平置き、もしくは壁掛けなどに対応する
ステレオペアの設定手順。Homeアプリで2台とも使用できる状態にする(左)、どちらかメイン的に使いたい方の設定画面を開く(右)
「ステレオペア」をタップ(左)、ペアにしたいもう1台のNest Miniが選択されていることを確認して「次へ」(右)
LRチャンネルの確認。「左」または「右」を選択した状態で「音声を再生」をタップしたときに、音の聞こえるNest Miniをその方向に置けばよい(左)、最後にステレオペア化後の名前を付けて設定終了(1個にまとまる)(右)

そんななかでも、Nest Miniの強みと言えるのが「キャスト」できること。アプリなどから簡単にキャストして音楽再生できるし、Wi-Fi接続なので音質面でも有利だ(遅延は残念ながらBluetooth時よりも大きくなった)。Bluetoothスピーカーとしてはマルチポイントには非対応だけれど、キャスト(Wi-Fi接続)とBluetooth接続の両方を使い分けることでマルチポイント的な活用ができなくもなかったりする。

Nest Miniのステレオペアでの使用イメージ

音質はその筐体サイズから想像できる通り、決して満足できるものではないと思う。低音はかなり痩せ細っており、ソフトウェア的に低音域を引き上げても音が歪むだけ。単体のモノラル出力では得られない、広がりのあるステレオ感を楽しめるのは確かだとしても、6,000円の出費と釣り合うかどうかは微妙なところだ(筆者は自腹で買ったわけだが)。

対応スマホアプリからNest Miniに音声をWi-Fi経由でキャストできるのがメリット(左)、最近はスマホ全体の音声や、特定のアプリの音声のみキャストすることも可能になった(右)

せっかくステレオペアにするなら、同じNestシリーズでもより出力の大きそうな「Google Nest Audio」を選んだ方が良さそう。価格が2倍近い1万1550円(2台で2万3100円)になるため、お手頃感はなくなってしまうけれど……。

デメリットは少しありつつも、ステレオペアは音も夢も広がりんぐ

モノラルのスピーカーを2台用意することでステレオ化できるステレオペアは、なんとなく憧れ感のある機能。実際にそれを試してみると、期待していた以上の広がりのあるサウンドに思わず感動してしまう。そして、ステレオペアというある意味イレギュラーな使い方における機種ごとの違いも理解できた。

今回試用した4種類のBluetoothスピーカー。サイズ感の参考に

ところで、1つだけ注意しておきたいことがあって、今のところはどの機種であってもステレオペアにすることでマルチポイント接続が不可になる、というデメリットがある点だけ頭に入れておきたい。

2つのデバイスと同時接続の状態を保ち、音声の出力元デバイスをシームレスに切り替えられるマルチポイントだが、今回紹介したマルチポイント対応の3機種全てで同じように無効になってしまう。切り替えるときは、一般的に接続解除と再接続の操作が不可欠だ。

ステレオペア中はどの機種もマルチポイント接続が不可。他デバイスから接続したいときは、通常、現在の接続を解除する必要がある

そんななかでも、切り替えの手間が最小限で済むLinkBuds Speaker(再接続すればいいだけ)は個人的に一番のおすすめ。次点はSoundcore Motion 300とFlip 6の2つ、といったところ。LinkBuds Speakerを2台揃えると5万円になってしまうのはさすがに厳しいけれど……ボーナスがたんまり出る人は、この冬、ステレオペアにチャレンジしてみてはいかがだろうか。

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。