小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1146回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ソニーの“穴あき”健在! LinkBuds新モデル「LinkBuds Open」と「LinkBuds Speaker」を聴く

「LinkBuds Open」(手前)と「LinkBuds Speaker」

「穴あき」は死んでなかった!

耳を塞がない系イヤフォンが市民権を得たのは、コロナ禍以降にライフスタイルが大きく変わり、これまでリスニングの主戦場であった電車内から家庭内へと変化したからである。耳を塞がず音楽を聴かせる方法論としては、大きく分けて骨伝導か、耳の近くで音を鳴らすという方式がある。

一方2022年というタイミングで登場したソニーの「LinkBuds」は、インイヤー型として耳の凹みには入れるのだが、スピーカーのど真ん中に穴を開けるという斬新なアプローチで、「耳を塞がない」を実現した意欲作だった。

ただそのすぐあとに登場した「LinkBuds S」は、ノイズキャンセリングイヤフォンで、外音取り込み機能を使ってオープンにするというコンセプトで登場した。元々LinkBudsのコンセプトは、様々なサービスと連携していくのがメインなので、穴を開けて外の音を聴かせるところがメインではなかったという事である。

とはいえ、せっかく開発したリングドライバがもったいない。後継機はもう出ないのかと心配になっていたところ、10月11日に新モデル「LinkBuds Open」が無事発売となった。 ソニーストア価格では、29,700円となっている。

また同じくLinkBudsシリーズとして、カナル型の「LinkBuds Fit」と、シリーズ初のスピーカー製品「LinkBuds Speaker」も発売された。価格はどれもソニーストア価格29,700円に統一されている。今回はこのうち、「LinkBuds Open」と「LinkBuds Speaker」をお借りできた。

両モデルの連携も含めて、早速聴いてみよう。

細かい工夫が光る新ラインナップ

まずはLinkBuds Openのほうから見ていこう。ボディカラーはブラックとホワイトの2色で、今回はブラックをお借りしている。

LinkBuds Open ブラック

穴の空いたドライバ部に球体の基板・バッテリー部がくっついたデザインなのは基本的に変わらないところだが、リングドライバが新設計となり、12mmから11mmにサイズダウンされている。

ドライバの形は1mmサイズダウン

前作では耳の形状によっては装着感が悪いとの評価もあったところだが、耳の凹みに入れる部分が小さくなったことで、こうした不満点を解消しようという事だろう。

角のように飛び出しているフィッティングサポータも新開発だ。前作はリング状のサポータを溝にはめ込むスタイルだったが、今回は基板・バッテリー部全体をスポッと包み込むような構造になっている。

したがってソニーロゴは表面にはなく、裏側に小さくあるのみだ。また角の部分も中身が空洞で、折れ曲がることが前提の作りなので、幅広い人にフィットするだろう。前作は5サイズのサポータが付属したが、今回は1サイズのみだ。

フィッティングサポータは被せ式になった

このフィッティングサポータは、別途5種類のカラーのものが発売される。ケース用カバーも同じ5色展開で、カラーリングが変更できるようになっている。

中央に空いている穴は通話用マイクだ。前作からすでに、AI技術を使った高精度ボイスピックアップテクノロジーがウリだったが、今回も同様だ。これはあとで試してみよう。

ボディ中央の穴がマイク

裏面の充電端子は、以前は3接点だったが今回は2接点となっている。また着脱センサーも大幅に小型化され、R/Lを示すマークとほぼ同じサイズで、ほとんどわからない。

接点は2つになっている

音が出る部分は、穴の開け方が変更された。以前は小さい穴と長い穴が二重になっていたが、今回はシンプルに小さい穴のみになっている。

重量は片側約5.1gで、前作より1g重くなっている。恐らくフィッティングサポータの分だろう。ただフィット感が大幅に向上しているので、重さ的な負担はほとんど感じられない。

連続再生時間も大幅に向上しており、前作が最大5.5時間だったのに対し、今回は最大8時間。ケースのバッテリーも加えると、プラス14時間再生となる。コーデックはSBCとAACのほか、LC3にも対応した。

ケースはかなり軽量で、コンパクトだ。上蓋が光沢、下半分が艶消しになっている。蓋を閉じて全体で1つになるという形状ではなく、上下二段のお重のような格好のデザインが面白い。

設定用アプリは、以前は「Headphones Connect」というアプリだったが、10月より「Sound Connect」というアプリにリニューアルされている。機能的には同じようなものだが、スピーカーである「LinkBuds Speaker」もこのアプリから設定できるようになっている。

10月から設定アプリがリニューアルされている

LinkBuds Speakerは、外寸84×110×90mmの手のひらサイズBluetoothスピーカーだ。ソニーのBluetoothスピーカーは横型のものが多いが、こちらは縦型で、モノラル仕様となっている。カラーは同じく、ホワイトとブラック。今回はブラックをお借りしている。

手の上に載るサイズの「LinkBuds Speaker」

ウーファーは「ULT POWER SOUND」シリーズで搭載されたX-Balanced Speakerと同様の、48×56mmドライバを新開発。パッシブラジエータが左右に1つずつ付いている。ツイーターは16mm円形ドライバだ。DPSにより音に広がりを持たせる「Sound Diffusion Processor」を搭載した。小型ながらもアンプはデジタルアンプの「S-Master」を採用している。

天板にコントロールボタンがあり、一番上のQuick Acessボタンは、電源ONから音楽再生まで一発で行なえるという機能だ。イヤフォン型のLinkBudsにも同様の機能があるが、スピーカーではタップで機能が起動できないので、ボタンを付けたということだろう。

天板のボタン。タッチ式ではなく、押しボタンだ

外装はファブリック素材で、IPX4の防滴性能を備えている。キッチンで濡れた手で触ってもOKだ。背面にはリング状のストラップが取り付けられており、指1本で持ち運べる。重量は約520g。

背面には持ち運び用のリング
背面下部に電源ボタンとUSB-C端子

対応コーデックはSBCとAAC。2台揃えると、ステレオペアになる機能も備えた。バッテリーは25時間再生を実現。底面のバッテリーボタンを押すと、現在のバッテリー残量を音声でアナウンスしてくれる。

底面にBluetoothペアリングとバッテリーボタン

専用クレードルも付属しており、置くだけで充電される。ちなみに本体側の充電端子が同心円状になっているため、四方どの向きに置いても充電される。

マーブル模様の充電クレードル
ケーブルは底面端子に差し込む設計

弱点を克服したサウンド

まずLinkBuds Openから音を聴いていこう。前作は低音の量感が弱く、屋外でBGMとして聴き流すなら十分だが、しっかりした音楽鑑賞にはバランスが悪く感じた。

初代LinkBudsでチェックしたのと同じ、Donald Fagenの「Morph The Cat」をデフォルト状態で聴いてみると、さらりとした耳触りのいい音がするのは、前作同様である。一方で低音のほうにもしっかりした芯が感じられるようになった。これは期待できる。

新アプリ「Sound Connect」では、「ファインド・ユア・イコライザー」という機能が使えるようになっている。これは、音楽を再生しつつ、提供される好みの音質を番号で選んでいくと、最終的にイコライザー設定が完了するという機能だ。これを使って好みの音に設定してみたところ、Clear Bassがかなり効いた、少しハイ下がりのEQとなった。

音を聴きながら好みの音質を選ぶだけで最適なEQが設定できる
筆者の好みでEQを調整した結果

EQで調整すれば、音質的にはもはや普通のイヤフォンと遜色ない。前作では、最大にしても音量が小さいという弱点もあったが、今回はかなりの大音量で聴く事もできる。リングドライバの弱点と言われた部分は、ことごとくクリアしてきた印象だ。

新しいエフェクトも搭載された。BGMエフェクトは、音の広がり感を調整して、BGMに丁度いい音響特性へ変更してくれる機能だ。モードとしては、マイルーム、リビング、カフェの3タイプがあり、徐々に空間が広く、音源が遠くなっていくのがわかる。カフェにいるときにはカフェモードで、という意味ではなく、好きな聞こえ方を選ぶという使い方だ。

新機能BGMエフェクトも面白い

外音がそのまま聞こえてくることもあり、カフェモードを使用すると、自室にいてもカフェにいるような気分になれる。仕事に集中したいときに使いたいところだ。

スマートフォンとの接続においては、新コーデックLC3を採用したLE Audio対応となったのもポイントである。切り替えにはイヤフォンの再接続が必要になるが、あきらかにAACとは違う、高音域がまるで一皮剥けたようなリアリティのある音質となる。

LE Audioでの接続にも対応

まだ試験運用中の機能であり、これに切り替えると音源の2台同時接続といった機能が使えなくなるが、それを諦めても聴く価値のある方式だ。

音声通話もテストしてみた。初代LinkBuds同様、AI処理による音声抽出を行なうわけだが、効果としては大きく変わったところはなく、良好だ。LinkBuds Sではビームフォーミングを使ったせいか、低音が音痩せするという傾向が見られたが、今回のOpenではそうした傾向は見られない。

音声通話のテスト

据え置き型スピーカーならではの機能を搭載

続いてLinkBuds Speakerを聴いてみよう。手のひらサイズとも言える小型スピーカーだが、昨今は小型でも低音がドカドカ出るものが登場してきている。以前ご紹介した「JBL GO 4」なんかはその典型だが、本機も低音充実、ファブリック素材採用防水仕様といったあたり、コンセプト的にはかなり近い。

スピーカーを防水設計にするには、穴が空いているバスレフ型は難しく、密閉型で作る必要がある。昨今ソニーのスピーカーは密閉型のパッシブラジエータ構造で設計されるものが多いが、この点でも防水仕様にはかなり有利となる。

注目はやはり、左右両方にパッシブラジエータを備えた事もあり、このサイズでも相当量感のある低音が出せるところである。こちらもEQは「ファインド・ユア・イコライザー」が使えるが、プリセットとしてはCustom1と2しかない。

設定は同じく「Sound Connect」で行なう

こちらもLinkBuds Open同様の設定にして、聴いてみたところ、Tears For Fearsの「Woman in Chains」などは、イントロのインパクトのあるベースがかなり沈み込んで、えぐり込むような独特のサウンドがうまく表現されている。低音は設置する場所の素材にも左右されるところだが、できるだけ堅いところに設置した方が豊かな低音が得られる。設置場所さえしっかりしていれば、これでも低音が足りないという人はまずいないだろう。

音の広がりに関しては、モノラルスピーカーなのでステレオ音源に起因する広がり方はない。ただ、点音源のように指向性がキツい感じはなく、モノラルながらも豊かな広がりを感じさせる設計となっている。

また本機は、Auto Playにも対応している。この機能は以前のLinkBudsからあったのだが、イヤフォンでは装着時にしか機能しない。一方スピーカーでは、装着の有無と関係なく機能できるので、意味合いが変わってきている。

朝や寝る前にEndelやSpotifyからお気に入りのサウンドスケープを再生したり、スケジュールやメッセンジャーの通知を読み上げる機能は、スマートスピーカー的と言える。またその日の最初に使用したときには、日付や天気予報などを読み上げてくれる。いつも同じ動きをするので、管理しやすいのもポイントが高い。

朝夕の時間に自動で音楽を再生するAuto Play
決まった曜日と時間に音楽再生が始まる
日付や天気を知らせてくれる「スタート・マイ・デイ」

またLinkBuds Openとセットで使うと、LinkBuds Openをケースにしまったら自動的に音楽の続きがLinkBuds Speaker側で再生が始まるという、「Auto Switch」機能がある。実際にはスタンバイ状態から復帰してから音がで始めるので、切り換えには数秒待たされるが、何もしなくても続きが再生されるというのは面白い。

なお、ワイヤレスヘッドフォン「WH-1000XM5」と完全ワイヤレスイヤフォン「WF-1000XM5」「LinkBuds S」もAuto Switchに対応させるファームウェアの公開もスタートしている。

何もしなくてもお互いに続きを再生するAuto Swith

総論

初代LinkBudsでは、屋外で装着している際に位置情報と連携して情報を伝えてくれるサービスとして、ソニーの「Locatone」とマイクロソフトの「SoundScape」に対応していた。だがSoundScapeはマイクロソフトが事業撤退してしまったために、現在はサポートしていない。

外部のサービスとどんどん繋がって、音声で面白い事が起こるというコンセプトだったが、それほど拡がらなかったという事だろう。だが今回スピーカー製品も出た事で、イヤフォンとスピーカーという、タイプの違う再生機器間での連携や、機能の意味づけの変更といったことが行なわれている。コンセプトを壊さずに方向性を少しずらしたという事だろう。

LinkBuds Openは、初代に比べると価格は5,000円程度値上がりしたことになるが、不満が多かった装着感と低音の出方、音量などを全てクリアし、もはや聞こえ方は普通のイヤフォンと変わらなくなった。それでいて外部の音は問題なく透過するので、初代でやりたかった領域にようやく到達したという事だろう。

LinkBuds Speakerは、手のひらサイズの小型ながらもドカスカして低音が楽しめるモデルで、音質の傾向としてはULTシリーズの流れを組むモデルと言える。ただスピーカー単体として考えれば、「ULT FIELD 1」が19,800円なので、29,700円という値付けはかなり高く感じられる。よほどAuto Playに意義を見出せる人か、Auto Switchで切り替わることの付加価値を活かさないと、コスパ的には良くない。

LinkBudsシリーズは、一般のただ音を聴くだけのイヤフォンに比べると、非常に多機能であるという点がポイントだ。音声機器を常時装着していることで何ができるのか、そうしたアプローチの積み重ねは、やがて社会の在り方を変えていく可能性がある。

ユーザーはまさに、その突端にいるという立ち位置になる。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。