日沼諭史の体当たりばったり!

第55回

約1万円のスポーツ向け完全ワイヤレス3種+α比較~このなかからどれか買う!

外でランニングするにしろ、屋内でバーチャルサイクリングに励むにしろ、もはや不可欠と言えるのがスポーツイヤフォンだ(断言)。

だいたい孤独に走るしかないので、音楽を聞くなり、ラジオを聞くなり、(屋内なら)動画を見るなりしないと退屈で仕方がない。スマホやスマートウォッチと連携してワークアウトのメニューをこなしていくときも、音声ガイドを確認するにはイヤフォンがほぼ必須だし。

でも、じっくり音楽鑑賞する、というわけではないので音質にはそこまでこだわる必要はきっとない。代わりに、雨やら汗やら水洗いやらに対する防御性能はリッチであってほしい。そして、インドアサイクリングするならノイズキャンセリングできた方がいいし、屋外を走るなら反対に外音の取り込みができた方が安全だ。

そんな用途に「ぴったし カン・カン」(古い)な、そこそこリーズナブルなイヤフォンを見つけようじゃないか! ということで、3種類+αのスポーツ向けワイヤレスイヤフォンを比べてみることにした。

スポーツ向けイヤフォンの筆者的選定条件

今回比較していくうえで選んだイヤフォンは、主に下記の条件に当てはまるものとした。

  1. 実勢価格1万円前後のもの
  2. 完全ワイヤレスであること
  3. インイヤー型もしくはカナル型
  4. ノイズキャンセリング機能があること
  5. 防水性能がIPX5以上であること

価格は、あえて低予算に。ある意味ラフに扱うことになるからフラッグシップモデルのような高級品はもったいないし、スポーツ中はじっくり聴き込みたいわけじゃないので高音質過ぎても仕方がない。スポーツに適した機能が備わっていればいいので、1万円くらいで使い倒し、しがみ続けたいと思った。

ちなみに筆者が今使っているスポーツ用イヤフォンはもう4年になるが、そろそろ不調気味、バッテリー劣化気味である。なので今回の比較ネタを考えたというのもあったり。

次の「完全ワイヤレス」は、単純にラインナップの問題。多くのメーカーが、LRのつながったワイヤレスイヤフォンより、どちらかというとLR独立の完全ワイヤレスイヤフォンに力を入れている雰囲気だ。最新の性能を備えたイヤフォンとなると、やはり完全ワイヤレスの方が選択肢が多い。

3つ目の条件は、特にインドアサイクリング中のノイズを防ぎたいから。近年はどうやらオープンイヤー型の完全ワイヤレスイヤフォンが主流な感じもあり、その意味では2つ目の理由と矛盾するところもあるが、オープンイヤーはどうしても周囲のノイズが全部入り込む(むしろそれがウリなんだけれど)。

インドアサイクリングではサイクルトレーナーや自転車のチェーンなどから盛大にノイズが発生するので、これをできるだけ減らすことを考えると、素のパッシブなノイズキャンセリング性能が高いインイヤー型orカナル型は外せない。

インドアサイクリング中は主に後ろあたりから騒がしいノイズが出るので、ノイキャンは必須

それでもって、4つ目にあるようにアクティブなノイズキャンセリング機能を備えることで、一段と快適な音楽・動画鑑賞環境を作り出したい。ただし、今回はサブ的な扱いになるが、屋外ランニングにも使いやすいように周囲の音を聞き取れる外音取り込み機能も使えるのが理想だ。

最後の防水性能は、スポーツ向けとしては一番重要かもしれない。IPX4以下でもスポーツ用途には十分な場合もあると思うが、筆者の場合、運動をすると小汗なんかではなく、それこそずぶ濡れになるくらい汗をかく体質なので、可能な限り防水性能の高いものが欲しい。さらに使用後はそれを水洗いすることになるから、じゃぶじゃぶやっても大丈夫そうな耐水性があるのがベター。

といった5つの条件から、3つの完全ワイヤレスイヤフォンをピックアップした。ただし、上記で少し触れたようにトレンドとしてはオープンイヤーである。なので、インドアサイクリングには向かないだろうことを承知の上で、2025年1月に発売されたばかりの「Shokz OpenFit 2」も試してみることにした。価格帯としても他よりかなり上になるため、あくまでも参考だ。

スペック比較表

用途ごとの最適な設定ですぐに使えるJBL「Endurance Race 2」

JBL Endurance Race 2

JBLの「Endurance Race 2」は、IP68という水没させても問題ないレベルの防水(と防じん)性能をもつ。これなら大汗をかいても、じゃぶじゃぶ洗いしても心配がない、というのも特徴だが、もう1つポイントとなるのがノイズキャンセリング周りの充実した機能だ。

充電ケース
パッケージ内容

アクティブノイズキャンセリングに加えて、アンビエントアウェア、トークスルーという3つの動作モードが用意されている。アクティブノイズキャンセリングはご存じの通り外部のノイズを低減する機能、アンビエントアウェアは主に周囲の環境音を取り込む機能、トークスルーは主に人の声を取り込む機能となっている。

動作モードは「アクティブノイズキャンセリング」「アンビエントアウェア」「トークスルー」の3種類

用途に応じてこれらをスマホアプリで、もしくはイヤフォン本体のタッチ操作で切り替えられるわけだが、こうした動作モードとそれぞれの「効かせるレベル」を記憶して一発で呼び出せる「スポーツモード」という機能が使えるのがミソだ。最初から「アウトドアウォーキング」や「インドアランニング」といったいくつかの設定が定義済みで、それらを好きに調整することも、ユーザー独自の設定を新たに追加することもできる。

一般的には屋内ならノイズキャンセリングを、屋外ならアンビエントアウェアを、それぞれ有効にすることになる。どちらも7段階でレベル調整できるので、シチュエーションに合わせて音質と外音のバランスを取ることが可能だ。

最適な設定を一発で呼び出せる「スポーツモード」(左)、ノイズキャンセリングとアンビエントアウェアの強度を7段階で設定しておける(右)

また、本体側にはサイズ違いのイヤーチップの他に本体をカバーする「エンハンサー」が用意されており、羽根のようなスタビライザー付きのエンハンサーも付属している。これを使うと耳の内側で固定されよりフィット感が高まるため、ランニングやスイミングのようなシーンでも安心して使えるのがありがたい。

ウィングのようなスタビライザー付きエンハンサーでフィット感アップ

音質は全体的にバランスがいい。低音はダイナミックで、中高音は透明感がある。独特の味付けが少ないニュートラルなもので、普段使いはもちろんアクティビティ中の聞き心地も申し分なし。

不満があるとすれば、1つはアプリの作り。インドアサイクリングで動画視聴するのによく使うタブレットでは、アプリを起動すると強制的に縦表示(タブレット横置き時に90度回転した表示)になってしまう。それと、イヤフォン本体の起動音・通知音の大きさ(びっくりするほど大きいのに調整やオフが不可)も気になる。ちょっとしたところではあるのだが、こうしたUI/UXは気になりやすい部分なのでぜひ改善してほしい。

タブレットを横置きした状態でもアプリが縦で表示されてしまう
タブレットの画面分割機能で解決できるが、アプリ単独だと使いにくいのがちょっと残念

強力なノイズキャンセリングと低音、Anker「Soundcore Sport X20」

Anker Soundcore Sport X20

Ankerの「Soundcore Sport X20」もIP68で、水没に耐える高い防水性能を誇る。インイヤータイプではあるが、耳に掛けられる伸縮可能なイヤーフックがあり安定感を高めているのも特徴。ランニングなど動きの激しいスポーツでも安心の設計だ。

イヤーフックは少しだけ伸縮可能。ちょっとわかりにくいが、写真は左右で長さを変えたところ
充電ケース
パッケージ内容

Soundcore Sport X20は、他のイヤフォンと比べていくつかユニークな点がある。まずはノイズキャンセリング機能だ。「強・中・弱」の3段階で効きを調整できるのだが、周囲のノイズレベルに合わせて自動調整してくれるため、常に違和感の少ない音質で楽しめる。

ノイズキャンセリング機能と外音取り込みの機能を搭載(左)、ノイズキャンセリングの度合いは自動調整可能(右)

で、それを「強」に設定したときのノイズキャンセリング度合いは、今回の3機種の中で最も強力だった。インドアサイクリング中のチェーンノイズはほとんど消え去り、外界から隔絶された感があるほど。逆にノイズが消えすぎるせいで走行感が薄まるというか、ペダルへのパワーの入り方が感覚的に分かりにくくなるような……。

手動でも調整可。「強」にするとインドアサイクリング中のノイズがほぼ消え去る

それはともかく、音質についても低音が分厚く、パワフルだ。ここはAnker独自の「BassUp」技術と大型11mmドライバーを採用していることによるものだろうか。ただ、その低音の強さは少し派手過ぎるきらいもあり、好みの分かれるところかもしれない。

イヤーフックのおかげで激しい動きにも対応

外音取り込み機能は、周囲の全ての音を拾うモードと、人の声にフォーカスするモードの2種類。加えて風切り音を低減する機能がある。イヤーフックも含め、屋外ランニング向きのモデルと言えるかもしれない。実勢価格はちょうど1万円で、今回紹介するなかでは(差はわずかだけれど)最もリーズナブルなのもポイントだろう。

外音取り込みは2つのモードから切り替え可

機能・性能・価格とあらゆる面でスポーツに最適なイヤフォンだが、ネックに感じるのがイヤーフックの存在。たしかにランニングなどでは安心感の高まる装備だが、このフックに必ず汗がかかるので毎回水洗いしたくなる。フック部分が脱着できればなあ……と思ってしまうのが惜しい。

小型で軽快感のあるオーディオテクニカ「ATH-CKS30TW+」

オーディオテクニカ ATH-CKS30TW+

コンパクトさの中にスポーツ用イヤフォンとしての性能を詰め込んでいるのがオーディオテクニカの「ATH-CKS30TW+」。今回紹介する中では最軽量で、数字上は大きな差ではないとはいえ装着時にはたしかな軽快感がある。充電ケースも小型かつスリムなデザインとなっており、胸ポケットに入れていても目立たないほどだ。

充電ケース
パッケージ内容

ノイズキャンセリングはもちろんのこと、ヒアスルーおよびトークスルー(外音取り込み)にも対応する。このうちヒアスルーは強度変更が可能。トークスルーはそれと似た機能だが、人の声をメインで拾う「ナチュラル」と、環境音も含めて聞き取れるようにする「ストロング」の2種類から選択でき、トークスルー中は再生中の音楽の音量を下げる仕組みになっている。

ノイズキャンセリング機能とヒアスルー(外音取り込み)機能が使用可能(左)、さらに、会話に適したトークスルー機能もある(右)

使い勝手の面では、音量調整のステップ数を変更できるのが面白いところ。通常、音量調整時のステップ数はスマホやタブレットなどのデバイス側によってくるが、ATH-CKS30TW+の場合は16/32/64の3パターンから選べる。

このステップ数が反映されるのは専用アプリ上での操作、もしくは本体のタッチ操作による音量調整時に限られるものの、デバイスによっては1ステップ上下させただけで音量が極端に変化する場合もあるので、かなり助かるのではないだろうか。ユーザー好みの、耳に優しい音量で聞けるという意味でも有用だ。

音量調整のステップ数は16/32/64の3パターンから選べる

環境音を流せる「サウンドスケープ」機能も充実している。リラックスできるサウンドを流すための機能だが、ForestやRainあたりを選んでインドアサイクリングをすると、屋内なのに自然の中で走っているような気分になって楽しい。

長尺の環境音などが聞ける「サウンドスケープ」機能

再生周波数帯域が5Hz~20kHzと広いのも特徴だ。それでも、イコライザーオフ時は低音の自己主張が激しいというわけではなく、サウンドの傾向としてはJBL Endurance Race 2に似ているように思われる。低音性能を活かしたいならイコライザーをバリバリ活用したい。

ミニサイズで軽快感抜群

防水性能はIPX5と十分。ただし、手洗い時は水流方向などに注意する必要があるのでマニュアルで手入れの方法を事前に確認しておくことをおすすめしたい。また、稼働時間は他より短めで、本体の形状によるものか指先でつまみにくく、取り落としやすいのが気になる。このあたりは小型ボディの弱点と言えるかも。

水洗いするときは水流方向や水を直接かけてはいけない部分に注意
小さいのと、その形状のためか指先でつまみにくい

さらに進化したオープンイヤー、Shokz「OpenFit 2」

Shokz OpenFit 2

Shokzの「OpenFit 2」は、オープンイヤータイプの完全ワイヤレスイヤフォン。発売されたばかりの最新モデルということもあり、前モデルから進化したドライバーユニットを搭載するとともに、バッテリー持ちも1.5倍以上の最大11時間(本体のみ)にアップしている。

充電ケース
パッケージ内容

明確にスポーツ向けと銘打ってはいないが、IP55の防水・防じん性能で汗や雨への耐性を備えている(水洗いは推奨されていない)。オープンイヤーのためフィルタリングされていない素の外音を聞き取りやすく、イヤーフックで耳に引っ掛けて使う構造でもあることから、屋外ランニングに最適だ。

が、当然ながらノイズキャンセリング機能はなくノイズがそのまま入り込んでくるため、インドアサイクリングには向いているとは言えない。Anker Soundcore Sport X20と同様、イヤーフックに汗がかかるので手入れが毎回必要になるという点もちょっと面倒に感じるところではある。

イヤーフックのおかげで安定感は高いが、汗はかかってしまう

しかしそのサウンドは、ボーカルなどの中音域から高音域にかけてのクリアさ、解像感の高さに目を見張る。さらに「17.3mm相当の低周波ユニット」と低音アルゴリズムの「OpenBass 2.0」によって前モデルから進化したとしている低音も、量感たっぷりで満足度が高い。インイヤー型と比べて低音が不利に思えるオープンイヤー型だが、全くそんなことはないのだなと思い知らされた。

イコライザーはスタンダードでもかなりの迫力(左)、オープンイヤーの課題である音漏れを抑えられるイコライザーモードも用意(右)

オープンイヤーならではの開放感と自然な聞き心地は、密閉してしまうインイヤー・カナル型にはない優れた部分。圧迫感がないおかげで日常生活の中で長時間使い続けてもストレスフリーだ。予算が潤沢なら普段使いにOpenFit 2を、インドアサイクリングに他のインイヤー型を、という感じで贅沢に使い分けたいところだけれど……。

さあ、どれか1つに決めてみよう!

インドアサイクリング用途を中心とした、筆者のあくまでも個人的な評価として、ポイントとなる要素をレーダーチャートにまとめてみた。やはりJBL、Anker、オーディオテクニカの3種類のうちどれかとなり、単純に評価点を合計した総合点はJBLがわずかにリードしているが、それぞれに一長一短があって1つに決めるのはなかなか難しい。

筆者的な4機種の評価チャート

どれもメインのインドアサイクリング用途には十分なスペック。あとは日常で考えられる使い勝手の面でどうだろう、というところ。JBLやAnkerは丸ごと水洗いできて楽だが、オーディオテクニカは注意が必要。ただ、JBLはアプリや通知音のUX部分が不満だし、Ankerは毎回必ず洗うことになる。オーディオテクニカは本筋以外の機能も便利だが、小さくて落としやすそうなのが不安。

そうしたことも考え合わせたうえで、個人的に非常に魅力に感じたのが、強力なノイズキャンセリングと、インパクトのある低音を見せてくれたAnker Soundcore Sport X20だ。1万円を切る8,500~9,000円でセールされている時もあり、(タイミングが合えば)お値段的な面での引きも強い。毎回洗う手間がかかる点がネックだが、そもそもスポーツに使ったらその都度洗った方がいいんじゃない? と思わなくもないので、そこはもう覚悟するしかないだろう。

毎日使うものなので、もう毎日洗います!

というわけで、皆さんの気になるイヤフォンはあっただろうか。同じスポーツ用途でも人によって重視する部分は変わってくると思うので、今回のレビューがその参考になれば幸いだ。

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。