西田宗千佳の
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スカパー! HD用HDD内蔵チューナ「TZ-WR320P」をテスト

~シンプルさと、安定動作が魅力の新型STB~


TZ-WR320P

 スカパーJSATが、スカパー! HD対応の新チューナの販売とレンタルを、近々スタートさせる。正確にはこの新チューナ、HDDを内蔵しており、スカパー! HDの録画に対応したレコードとなる。製品名は「TZ-WR320P」。11月22日より、レンタルと購入の受付が始まる。

 今回は、この新チューナ「TZ-WR320P」のレビューをお届けする。このチューナは、単体でスカパー! HDのハイビジョン番組が録画できるだけでなく、様々なメリットの存在する意欲的な機器だ。他のスカパー! HD対応レコーダとの比較も含め、使い勝手をチェックしてみよう。


 


■ 安価に2番組録画とHDD録画を実現、製造はパナソニック

 まず簡単に、TZ-WR320Pの概要を説明しておこう。TZ-WR320Pは、パナソニック製のHDD内蔵チューナ。パナソニック製ではあるが、あくまで扱いはスカパーJSATのダイレクトショップ「スカパー!ダイレクト」が扱う製品であり、販売・問い合わせの窓口はスカパー側になる。価格は32,800円とかなり安価。月額945円でのレンタルも可能だ。内蔵HDDの容量は320GBで、さほど多いとはいえない。既存のチューナである「SP-HR200H」と違い、地デジチューナは搭載していない。

 パナソニックがHDD内蔵チューナを供給することになった経緯は不明だが、同社はCATV向けに録画対応STBなどを提供している実績がある。詳しくは後述するが、操作感や動作状況を見ても、そういった機器の設計やソフトウエアなどの経験を生かして開発されたものと予想される。

 外観は、Blu-rayレコーダとCATV向けSTBの中間のような印象だ。外形寸法は360×258×59mm(幅×奥行き×高さ)。重量は約2kg。カラーリングはSTBというよりレコーダに近いが、Blu-rayに代表される光学ドライブも搭載しておらず、レコーダよりは横幅が小さく、厚みも薄い。ファンは背面に一つ配置されているが、動作音はさほど大きなものでなく、気になるものではない。このあたりは、現在のパナソニックのレコーダと同様と考えていい。

本体正面。非常にシンプルな作りで、表示はチャンネルや録画中の印など。まさにSTB的な作りだICカードは1枚のみ挿入。ダブルチューナ対応だが、契約は1契約でいいSDカード(SDXC対応)端子があるが、映像の持ち出しには非対応。デジカメとの連携用である
本体背面。出力はHD系が中心であり、SD系はコンポジットのみでS-Videoはない。アナログ接続が必要な場合はできる限りD端子で、という思想なのだろう。右端にアンテナ端子が「2つ」あることに注目専用リモコン。パナソニックのレコーダ用リモコンを踏襲した作りで、操作方法もほぼ同じだ

 外部入力端子はなく、Ethernetなどの通信系をのぞき、あとはすべて出力系の端子のみである。HDMIやD端子などのハイビジョン系はもちろん、コンポジットによる接続も可能になっている。SDカード端子も前面に用意されているが、デジカメで撮影した写真や動画を見るためのもので、録画番組の持ち出しには利用できない。

 リモコンも、デザイン的にはパナソニックのレコーダのものを踏襲している。そのため、同社のレコーダの操作に慣れていれば、マニュアルを見ずともかなりスムーズに利用できるだろう。


TZ-WR320Pの操作画面。DIGAの操作画面を知っている人ならば、おなじみの画面にとても似ているはず。操作方法もほぼ同じとなっている

 


■ 2番組録画時にはアンテナに注意、既存アンテナでは「シングル」のみの場合も

 TZ-WR320Pが既存のチューナやレコーダと違う点は2つある。

 一つ目はもちろん、ハイビジョンや3Dを含むスカパー!HDの番組を、他の機器を使うことなく単体で録画できることだ。これまでは、Ethernetを介して「スカパー!HD録画対応」のレコーダやNASに録画する形であったが、TZ-WR320Pは内蔵HDDの利用が基本となる。

 もう一つは、2番組の同時録画に対応することだ。

アンテナ端子は2つ用意されている。スルー端子はなく、どちらも「チューナへの接続」に使うものだ。接続できるのはJSAT3/4を使った124/128度CS放送用アンテナのみ

 どんな放送であっても、W録画を実現するには、チューナが2系統、さらに録画のパスを2系統同時に扱える機器が必要となる。これまで、スカパー!HDには1台で2つ以上のチューナを搭載した機器が存在しなかったため、W録画はなかなかハードルが高かった。スカパー!HDを複数契約し、チューナも複数用意した上で、それぞれ別の録画対応機器を用意するしかなかった。スカパー系でW録画をするなら、e2を併用するか、e2そのものでW録画をするしかなかった。SD解像度ならそれでもいいが、ハイビジョンにこだわる場合、e2ではハイビジョン・チャンネルの数が少ないため、不満に感じた。金銭的な負担ももちろんだが、なにより複雑でとてもわかりづらい。

 他方、TZ-WR320Pはシンプルだ。スカパー!HDの契約が1つ、TZ-WR320Pが1台あれば、それだけでハイビジョン番組のW録画が実現できる。

 理由はもちろん、スカパー!HDのチューナを2系統搭載しているからである。背面にも、アンテナを接続する端子が2系統存在する。

 ただしこれを利用するためには、スカパー!HD(JSAT3/4を使った124/128度CS放送)を受信できるアンテナが「2系統」必要となる。地デジなどと違い、1系統のアンテナを分岐してもW録画は利用できない。また、内蔵チューナはあくまで124/128度CS放送専用のものなので、e2(110度CS放送)用アンテナなどには対応しない。

 古くからスカパー!を利用している方の多くは、おそらく1系統しかアンテナを用意していないのではないだろうか。実は筆者も、124/128度CS放送用としては1系統のアンテナしか持っていない。そのため残念ながら、今回の試用では実際にW録画は行なえていない。

初回設定時には、ダブルチューナモードに関する解説が表示される。古い1系統のみのアンテナを利用している場合には「シングルチューナモード」で利用する

 現在スカパーJSATは、124/128度CS放送を2系統受信できる「2ルームアンテナ」(スカパーダイレクト価格6,800円)や、さらにe2、BSにも対応する「マルチ衛星アンテナ」(スカパーダイレクト価格7,800円)を拡販している。こちらを利用すれば、TZ-WR320Pで2番組同時の録画ができるようになる。もちろん、シングルチューナで利用するなら、既存のアンテナでもなんの問題もない。

 初回セットアップ時には、シングルチューナで利用するのか、ダブルチューナで利用するかを選択することになる。後述するが、W録画が不可能であることから、シングルチューナモードでは、TZ-WR320Pの機能の一部が利用できない。シングルチューナモードとダブルチューナモードでは、若干挙動が異なるのだ。


 


■ 内蔵HDDで動作をシンプル化、ディスクへのダビングには「外部機器への録画予約」が必須

 すでに述べたように、TZ-WR320Pでは「内蔵HDDへの録画」が基本になった。

 これまで使われていた、Ethernetを介した「スカパー!HD録画」は基本的に予約録画向けで、見ている番組を簡単に録画するには向かない。視聴中の番組をそのまま録画したり、離席時などに「ちょっと録画」しておいて追いかけ再生する「一時蓄積録画」など、普通のレコーダにはできるのに「スカパー!HD録画」ではできなかったことは少なくない。

 だがTZ-WR320Pの場合、内蔵HDDへと録画するので、そういった問題は出ない。表は、筆者がTZ-WR320Pのマニュアルなどから作成した、内蔵HDDと外部機器録画での「できること」の比較である。意外なほど差が大きいのがわかるはずだ。

 下表はダブルチューナモードとシングルチューナモード、そして外部機器への「スカパー!HD録画」での動作制限などをまとめたもの。TZ-WR320Pでは内蔵HDDへの録画が基本で、「スカパー!HD録画」はダビング用という位置づけだ。

-HDDNAS/外部機器
シングルチューナダブルチューナ
見ている番組をその場で録画×
1ボタンでの簡単予約×
EPG経由の通常予約
PPV録画予約
二番組同時録画××
自動チャプター
一時蓄積録画×
お好み自動録画××
ディスク/外部機器へのダビング××

 特に筆者が感心したのは、録画そのものがとても簡単である、という点だ。

 スカパー!HDの録画では、映像を再エンコードすることなく、放送ストリームをそのまま蓄積していく。そのため、TZ-WR320Pの録画設定にもビットレートなどの項目はない。単純に録画予約をするだけなら、EPG上で番組を選び、リモコンの「赤」ボタンを押せば設定は完了である。設定変更をする必要があるのは、主にTZ-WR320Pから外部機器へ「スカパー!HD録画」を利用する場合と、番組名をキーに「毎回録画」を設定する時くらいだろうか。

録画予約はとても簡単。EPG上で「赤」ボタンを押せば終了だ録画時には詳細設定もできるが、ストリーム記録のみなのでビットレートなどを設定する必要はない
EPG表示。イメージとしては、パナソニックのDIGAシリーズのEPGとほぼ同じと考えていい。録画予約済みマークの「赤」はHDD内部への、「白」は外部機器(スカパー!HD録画)を指すEPGは複数チャンネル同時表示の他、1チャンネルに絞った表示も可能。帯番組のチェックに便利だ現在放送されている番組を一覧表示することも可能。この辺りは、既存のスカパー用チューナと同じだ

 内蔵HDDを利用するもう一つのメリットは、TZ-WR320Pの場合「自動チャプター機能」が働くことだ。「スカパー!HD録画」が利用しているDLNAでは、チャプターを扱うのが難しい。そのため、NASやレコーダに「スカパー!HD録画」をした場合、パナソニックの一部のレコーダなどを除き、チャプターは自ら設定する必要があった。だがTZ-WR320Pでは、ハイビジョン番組のみに限られるものの、自動的にチャプターが設定されるようになっている。機能をオフにすることもできるが、標準設定ではオンなので、特に意識する必要もない。ドキュメンタリーやドラマを見る時に、時間を節約できてとても便利だ。他方、手動でチャプターを設定することはできない。また、あくまで音声や映像の解析によって自動で設定されるチャプターなので、精度も完璧ではない。

チャプター移動ボタンを押すと、画面右上にこのような表示が。番組全体でのチャプター位置を示したもので、現在どのあたりを再生しているかがわかる

 内蔵HDDへ録画することのデメリットは、ダビングが難しい点である。いったんHDDへ録画してしまうと、ハイビジョン番組をハイビジョンのまま書き出すことはできない。Sビデオやコンポジットを使ったアナログ出力を併用すれば不可能ではないが、作業が面倒だしスカパー!HDを使う意味がなくなってしまう。HDD内の映像をDLNA+DTCP-IPを使ってムーブできればいいのだが、現状では対応していない。BD-R/REなどへダビングする可能性があるなら、最初から外部機器へ「スカパー!HD録画」を使って録画予約しておく必要があるのだ。この点は、改善して欲しい部分だ。

 TZ-WR320Pをサーバーとし、他のDLNA対応機器から、TZ-WR320Pの内蔵HDDに録画した番組を視聴することは可能だ。名称としては、パナソニックが訴求している「お部屋ジャンプリンク」となっているが、筆者の手元でも、PlayStation 3やPCなどからも視聴できることを確認している。


「スカパー!HD録画」をする場合には、録画予約時に、録画を担当する外部機器を選ぶ必要がある。HDDに録画してしまった番組を書き出すことはできない「お部屋ジャンプリンク」利用画面。他のレコーダに保存した番組をTZ-WR320Pから視聴することも、TZ-WR320P内に録画した番組を他の機器から視聴することも可能。条件は「DLNA+DTCP-IP」に対応していることと「MPEG-2 TSおよびMPEG-4 AVCの再生」に対応していること。パナソニックの「お部屋ジャンプリンク」対応機器同士なら、操作性はさらに上がる

 ちょっと面白いのは、この際に「機器の名称」として使われる文字列を、無味乾燥な機種名(TZ-WR320P)から「居間のSTB」といった、わかりやすい名称に変えられることだ。「お部屋ジャンプリンク」では共通の仕様だが、いかにもパナソニックらしい工夫といえる。

DLNA(お部屋ジャンプリンク)利用時に、他の機器からTZ-WR320Pがどのような名称で見えるかを設定できる。任意の文字列を入力することはできないが、部屋名などを入れたプリセットが4種類用意されている

 利用時常に感じたのは、動作が速く安定していることだ。「そんなの当たり前でしょ」と思われがちだが、これまでのスカパー!HDチューナーではそうでもなかったのが悲しいことである。外部機器との連携が必須である、という複雑さも原因だとは思うが、特に初期は不安定な時期が長く続いた。2009年半ば以降、BDレコーダでの対応が始まって状況が好転してきた印象があるが、それでも「LANを使う」複雑さは残り、一般的なレコーダの感覚とは異なる部分があったのは、すでに解説した通りである。

 だがTZ-WR320Pは、とにかくシンプル。「見て消し」用途なら満足度はかなり高い。画質の点も、これまで広く使われてきたSP-HR200Hに比べると良くなった。放送自体のビットレートの低さはいかんともしがたいが、ノイズリダクションや発色もしっかりしており、不自然さを感じにくくなっている。

 正直、内蔵HDDの容量が320GBと少なく、USBなどで増設できないのは、スカパーのヘビーユーザーとしては不満に感じる。だが、機器のコンセプトが「見て消し」ならば、理解できない話ではない。内蔵HDDからのダビングを実現してくれれば、この不満も解消されそうだ。

 TZ-WR320Pからは、スカパーの本気を感じる。スカパー!HDの開始から2年。そろそろ本格的に、旧スカパー!から多くのユーザーを切り換えていきたい、というのが、本機に込められた同社のメッセージではないだろうか。

(2010年 11月 11日)


= 西田宗千佳 = 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「iPad VS. キンドル日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)、「iPhone仕事術!ビジネスで役立つ74の方法」(朝日新聞出版)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]