鳥居一豊の「良作×良品」

「ガンダムUC」の感動をサントラとポタアン4機種で振り返る

オンキヨー/ティアック/ソニー/JVCを比較。高音質をどこでも

機動戦士ガンダム UC オリジナルサウンドトラック
(C)創通・サンライズ

 ついに完結した、アニメ「機動戦士ガンダムUC」。全7巻の大ボリュームに相応しく、壮大かつ感動的なフィナーレを飾ってくれた。ご覧になった人も多いだろう。完結にあたり、当たり前のように最初から全話見直したのだが、1日がかりになる長さ。これはさすがにちょくちょく見るというわけにもいかない。

 そこで便利なのがサントラだ。以前も取り上げているのでご存じだと思うが、僕はアニソンも大好きだが、それ以上にアニメのサントラが大好きだ。僕が音楽やオーディオ再生の魅力に気付いた原点でもある。良い音楽は脳をダイレクトに刺激し、初めて聴いたときの記憶などが鮮やかに蘇る。サントラならばその作品の映像や感動が蘇る。「ガンダムUC」のような長大な作品を何度も反芻するには最適なものと言える。

 ついでに言えば、VHSビデオが普及する前の時代にアナログレコードで発売されていた「ドラマ盤」も大好きだ。これは、映画作品の音(サウンドトラック)だけを収録したアルバムで、ビデオが登場する前の時代、2番館や名画座での再上映やテレビ放映以外で、映画の感動を反芻するには、サントラかドラマ盤しかなかったのだ。現代的には不便極まりないと思われるかもしれないが、ドラマ盤にはドラマ盤の味わいがある。現代でもCDで発売されたならある程度の売り上げが期待できるのではないかとさえ思う。

 音のメディアのメリットは、言うまでもなく「ながら聴き」ができることだ。ヘッドフォンやポータブルプレーヤーでの音楽再生が主流となっている現在、ほとんどの人が何かをしながら音楽を聴いているはずだ。屋外で歩きながら聴くのは、安全の面で注意する必要はあるが、電車に乗ってもてあました時間などは音楽鑑賞に最適だ。こんな時、好きな映画のサントラを聴けば、頭の中には映像が浮かび上がり、あの感動が再び蘇る(同じような理由でゲームのサントラも大好物だ)。それが高音質ならば、なおさら素晴らしい。

 というわけで、今回の良品は、「機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック1~3」を取り上げる。もちろん、e-onkyo musicで配信されているハイレゾ盤(48kHz/24bit収録)。最終第7巻の劇伴を収録した4作目のハイレゾ盤の配信が間に合わなかったのは少し残念だが、まだ作品の感動が冷めてしまう前に取り上げることにした。

機動戦士ガンダム UC オリジナルサウンドトラック 2
(C)創通・サンライズ
機動戦士ガンダム UC オリジナルサウンドトラック 3
(C)創通・サンライズ

 では、何で聴くかというと、手持ちのiPod touchとShureのSE846という常用しているプレーヤーとイヤフォン。これだけでは芸がないし、なによりiPod touchでは音質的に少々物足りないものがあるので、最近人気が高まっているポータブルヘッドフォンアンプ、いわゆるポタアンを組み合わせることにした。

今回試聴したポータブルヘッドフォンアンプ4機種

 ポータブルヘッドフォンアンプが注目を集めているのは、やはり携帯プレーヤーの音質が十分でないと感じている人が増えているからだろう。スマホでさえもハイレゾ再生対応モデルが登場した今、そのニーズはますます高まってくると思われる。

 そんなポータブルヘッドフォンアンプだが、オーソドックスなモデルは携帯プレーヤーのヘッドフォン出力とポタアンのアナログ入力をアナログで接続するが、ここのところ増えているのは、USB DACを内蔵したデジタル接続対応のポタアンだ。デジタル接続のため、携帯プレーヤー内のノイズの影響を受けることなく音楽データをデジタルのまま出力できるので、音質劣化を最小に抑えられる。

 ただし、現状ではiPhoneなどのiOS勢はiOS 7でUSBオーディオをサポートしたため、96kHz/24bitのハイレゾ音源の出力にも対応してきているが、192kHz/24bitやDSD音源となると、まだ少々面倒なことになるし、対応機器も少ない。Androidは、カスタム化した携帯プレーヤーを別とすれば、多くのスマホでは48kHzまでの出力にとどまっている。

 だが大丈夫だ。何の問題もない。今回取り上げる「機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック1~3」は48kHz/24bit収録だから、WAVで購入すればiTunesで何の問題もなく管理できるし、iPodなどに同期して普通に再生できる。もちろん、多くのUSB DAC内蔵ポタアンとデジタル接続して再生もできる。

 ならば、1機種に絞らずに注目製品を集めて聴いた方が楽しそう。というわけで、今回は4つのポタアンをお借りして試聴を行なった。テーマはもちろん、ガンダムUCの名場面がどれだけ鮮やかに頭の中で再現されるか? だ。

iOS機器との接続で96kHz/24bit再生も可能。オンキヨー「DAC-HA200」

 今回取り上げる製品の概要を紹介していこう。まずはオンキヨーの「DAC-HA200」(実売価格3万2,190円)。ラウンドフォルムを持った薄型ボディは、ポタアンとしては標準的なサイズで、DACチップにTI(テキサス・インストゥルメンツ)/バーブラウンのPCM5102を採用し、オペアンプは新日本無線のMUSES8920としている。対応サンプリング周波数は最大96kHz/24bit。DSD音源には非対応だ。iOS端末とのデジタル接続も、Lightning-USBカメラアダプターは不要で、製品に付属するLightning-USBケーブルで接続でき、最大96kHz/24bitの再生が可能となっている。そして、対応したAndroid端末との接続時では最大48kHz/24bitの再生が可能だ。

 入力端子は、光デジタル/アナログ音声入力、USBが2種(タイプA、microB)。出力端子はヘッドフォン出力のみだ。比較的安価な製品ではあるが、入出力端子は充実しており、光デジタル出力を備えたAV機器などとの接続ができるのも便利だ。

DAC-HA200の前面写真。ツマミ式のボリュームと、ヘッドフォン出力、光デジタル/アナログ音声兼用入力端子があり、ゲイン切り替えも備える
DAC-HA200の背面写真。USB端子は、A端子とmicroB端子を採用。入力切り替えスイッチと、電源となるACアダプタ端子もある
上面図。ラウンドしたボディには、2本のゴム製のラインが備わっている。テーブルなどに置いた時の脚部、あるいはスマホなどと重ねたときの保護の機能を持つ
側面図。スイッチやツマミなどはなく、ボディ強度を高めるための金属製パネルで仕上げられている。両端は操作部などを保護するバンパーとなる
付属品一式。接続のためのUSBケーブルと充電用の専用USB DC充電ケーブル、結束用のゴムバンドが付属する。一般的なポタアンと同等の装備だ

 内蔵バッテリは、オーディオ入力では約11時間、iOSとのデジタル接続時は約8時間となる。充電は専用のUSBーDCケーブルを使って行なう。付属品を含めて、ポタアンとしては標準的な内容だが、人気のポタアンが5万円前後であることを考えると割安感がある。

オンキヨーとの共同開発モデルで外観、機能ともに共通。ティアック「HA-P50」

 続いては、ティアックのHA-P50(実売価格2万8,780円)。カラーリングこそ異なるが、外観はオンキヨーとそっくりだ。これは、2社が共同開発したモデルのため、機能や装備は共通となっている。ブラック一色のオンキヨーに対し、HA-P50はブラックとシルバーを組み合わせたカラーになっており、その他の部分としては天面部分にあるロゴマークが異なるのが外観上の違いだ。

 PCおよびiOS端末との接続時は最大96kHz/24bit対応、対応したAndroid端末の場合は最大48kHz/24bitとなるのも同じ。入出力端子などについても同様だ。

 大きな違いとしては、HA-P50のオペアンプは「MUSES8920」ではなく、TIの「OPA1652」を採用している。これも含め、メーカー毎に音作りにも違いがある。

HA-P50の正面図。ダークシルバーのパネルに、明るいシルバーのボリュームツマミを備える。入力はヘッドフォン端子と光デジタル/アナログ入力がある
HA-P50の背面図。こちらもオンキヨーとまったく同じで、電源端子と2つのUSB端子を備える
側面図。側面に配された金属製のフレームはダークシルバーで、ブラックの天面/背面部とは色が違っているのがわかる
付属品一式。こちらも充電用のUSB DCケーブル、接続用のUSBケーブル、結束用ゴムバンド2つが付属している
iPhone 5Sを結束した状態。横幅がややあるものの、縦の長さはだいたい同じで、収まりは良い

 連続使用時間は約8時間となっており、オーディオ入力時とiOS接続時の種別などについては明記されていないが、おそらくはオンキヨーと同じだろう。iPhoneと重ねて結束すると、横幅はやや広いものの、天面の平らな部分にiPhone 5Sがちょうどよく収まり、ゴムのラインがあることでずれにくい。厚みがほどほどなのでハンドリングは良さそうだ。

見た目は同じでもハイレゾ音源やDSD再生にも対応。ソニー「PHA-2」

 3番手は、ソニーの「PHA-2」(実売価格5万6,290円)。国内メーカーではいち早くポタアンを発売したのがソニーで、昨年発売のPHA-2は、2号機となってハイレゾ音源やDSD再生に対応。PC接続時は最大192kHz/24bitのリニアPCMとDSD2.8/5.6MHzに対応。NW-ZX1などのハイレゾ対応ウォークマンとの接続でも最大192kHz/24bitに対応する。iOS機器の場合は最大48kHz/24bitとなる。PC以外の接続時はDSDには非対応だ。

 44.1kHz系と48kHz系の2種のクロックを装備するほか、ライン出力用オペアンをTI製のLME49860、ヘッドフォンアンプ用にTIのTPA6120を個別に採用するなど、贅沢なオーディオ回路を備える。DACチップは、TI/バーブラウンのPCM1795だ。

 デジタル入力は3種のUSB端子があり、ウォークマン用やPC用のUSB miniB、iOS用のタイプA、microB端子を備える。ヘッドフォン出力とは別にライン出力端子(ライン入力兼用)を備えるのもユニークだ。

PHA-2の正面図。真鍮リングで補強されたヘッドフォン出力と、オーディオ入力/ライン出力端子がある。ボリュームはダイヤル式だ
PHA-2の側面図。3種類のUSBを備えており、上側の切り替えスイッチで、入力を切り替える
左側の側面には、ゲイン調整と、出力セレクタがある。ヘッドフォン側に切り替えないとヘッドフォン端子からは音が出ないので、注意が必要
天面から見たところ。アルミ製ケースには2本のゴムでラインが敷かれており、重ねた携帯プレーヤーのズレを防止する。前面側には大きめのバンパーも備える
付属品一式。ウォークマン専用の接続ケーブルのほか、充電用USBケーブル、アナログ接続ケーブルがある。結束用ゴムバンドは4本付属する
iPhone 5Sとの結束イメージ。ゴムバンドは両側の出っ張りに引っかけるようにして固定する

 連続使用時間は、アナログ接続時で約17時間、デジタル接続時は約6.5時間となる。充電はパソコンなどと接続してUSBバスパワーで行なうか、USB ACアダプターなどを使用する。無骨なデザインでやや大柄にも見えるが、iPhone 5Sと重ねてみると、横幅はそれほど大きくないことがわかる。また、接続用に短いケーブルが付属しているので、両者を接続したときケーブルがごちゃごちゃとしないのはありがたい。デジタル接続用のLightning-USBケーブルは別途購入する必要がある。

K2インターフェースで、あらゆる音源をハイレゾに近い品質で楽しめる。JVC「SU-AX7」

 最後は、JVCの「SU-AX7」(実売価格5万9770円)。落ち着いたブラウンのカラーが特徴的だが、強固なアルミボディの中には回路基板のために非磁性ステンレスのインナーシャーシを持っており、外部の振動を遮断する構造となるなど、こだわった作りになっている。インナーシャーシにはバイオリンなどの楽器で目にするfホールを空けており、剛性と適度なしなやかさのバランスを取っているなど、ユニークな工夫も数多い。PC接続時は最大192kHz/24bitに対応、iOSとの接続時は48kHz/24bit対応となる。DSD音源には非対応。DACチップはAKMのAK4390で、ヘッドフォンアンプはTPA6120を採用。入出力端子では、USB(タイプB)やアナログ音声入力に加え、光デジタル入力(角形光端子)も備える。携帯プレーヤーだけでなく、薄型テレビなどとも接続して使えるようになっている。

 最大の特徴は、独自のデジタル高音質化技術New「K2テクノロジー」の搭載。あらやる入力信号を最大192kHz/24bitに変換して再生を行なう。独自の信号解析による高域成分の再生成、ビット拡張などを行なうことで、元の音楽信号に近い波形を復元する。CD音源や圧縮音源などだけでなく、96kHz/24bit音源などに対しても同様に処理が加わる。本体のスイッチでオン/オフが切り替えられるので、好みによって使い分けるといいだろう。

SU-AX7の正面図。USBタイプA端子はiOS用。microB端子は充電用だ。このほか、ヘッドフォン端子とツマミ式のボリュームを備える。パネルはヘアライン仕上げとなっている
SU-AX7の背面端子。入力端子はライン入力と光デジタル入力を備える。このほかは機能スイッチで、左からK2インターフェース、入力切り替え、ゲイン調整となる
ヘアライン仕上げの天面。角が丸めてあるものの、基本的にはフラットな形状。センターにはデザインのアクセントとなる彫り込みがある
側面部。スイッチ部などはなくヘアライン仕上げとなる。ブラウンのカラーということもあり、ウッドケースのような雰囲気もある
付属品一式。接続/充電用のケーブルが3種用意されている。結束用バンドではなく、携帯プレーヤーを本体に貼り付けられるシリコンゴム製のシートが付属する

 連続使用時間はアナログ接続時が約12.5時間、デジタル接続時は約5時間となる。PCなどのUSBポートや別売のUSB変換ACアダプターなどで充電を行なう。ユニークなところでは、ポタアンと携帯プレーヤーの結束用として、粘着タイプのシリコンゴムシートが用意されていること。特にスマホは結束したままではかさばるが、ゴムバンドで結束してしまうと着脱に手間がかかるため、素早く着脱したい人には便利だろう。

 こうして4モデルを比べてみると、JVCが一番大柄なサイズだとわかる。原因は横幅が大きく厚みもあるためだ。二重構造のシャーシなど音質重視の設計を優先したのだろう。ソニーはボディに厚みがあるので大柄な印象だが、横幅はそれほど大きくはないので、比べて見ると意外にスリムだ。オンキヨーとティアックはもっともコンパクトで、天面と背面がラウンドしていることもあり、実際のサイズ以上に小さく見える。とはいえ、オンキヨー、ティアックでもスマホと一緒では服のポケットではかさばるサイズなので、いずれもかばんなどに収納して使うことになるだろう。大きめのかばんならば問題ないだろうが、小さめのかばんやかばんのポケットに入れる場合はサイズの吟味も重要になるだろう。

4モデルを並べて見たところ。左からティアック、JVC、オンキヨー、ソニー。横幅の大きなJVCが一番大きく見える
縦に重ねて、それぞれの長さを比較。ボディサイズとしては一番下のJVCが一番長いが、バンパーが大きいため、ソニーの方が全体はやや長い
縦の重ねて、正面から見たところ。一番下のJVCは横幅があることに加え、シンプルな形状のため大柄に感じやすい。オンキヨー/ティアックはどこから見てもコンパクト

再生ソフトは、オンキヨーの「HF Player」が便利

 試聴の前に再生ソフトについても紹介しておこう。今回はすべての機種でオンキヨーの「HF Player」を使用した。iOS用に無料で提供されているアプリだが、1,000円でHD Playerパックを購入すると、ハイレゾ音源やDSD音源の再生が可能になる。接続する機器に合わせて、DSD音源の出力をPCM変換、Dop出力が選べるなど、汎用性も高いので便利。また、iTunesのプレイリストをそのまま利用できたり、高精度なイコライザ機能も備えていたりと(電力消費が大きくなるので注意)、機能的にもかなり充実している。

オンキヨー「HF Player」の起動画面
再生画面。シンプルなインターフェースで、infoボタンを押すと楽曲のサンプリング周波数やフォーマット形式を表示できる
設定画面。DSDの出力形式はDoPまたはPCM変換が選べる。PCMにしておくと、自動的に最適なサンプリング周波数で出力される

 ティアックにも「HR Player」という再生アプリがiOS用に提供されているが、こちらも実質的には同じアプリ。ただし少々異なっているのは、「HR Player」はHA-P50などティアック製品専用で、HA-P50が接続されていないと使用できない。そのぶん、無料のままでハイレゾ音源やDSD音源の再生が可能。オンキヨーは汎用プレーヤーであるが、DAC-HA200などのオンキヨー製品との接続時はHD Playerパックへのアップグレードなしで無料のまま、ハイレゾ音源などの再生が可能だ。

 今回のような試聴では、当然ながらオンキヨーの「HF Player」が便利。複数のポタアンを使い分けているようなヘビーユーザーも「HF Player」が使いやすいだろう。

 ティアック「HR Player」の起動画面。ティアック製品を接続しないとこの画面のままで操作ができなくなる
選曲リスト画面。ハイレゾ楽曲はオンキヨー「HF Player」と共有できないため、こちらには表示されず、再生もできない。使い分けるのは煩雑なのでどちらか一方に絞って使った方がよい

「機動戦士ガンダムUC」の脳内上映を開始!!

 いよいよ、お待ちかねの試聴だ。まずは挨拶代わりに、自分が一番好きな曲であるサントラ1の「02 UNICORN」を聴いてそれぞれの音の特徴を紹介しよう。ちなみにこの曲は、第1巻で主人公のバナージがユニコーンガンダムに乗り込み、起動するときに使われる楽曲。あの場面を見た人ならば、イントロを聴いただけで鳥肌が立つ名曲。すべてのガンダム作品において、ガンダムが初めて起動する場面は印象的に描かれるが、本作はファーストガンダムの「ガンダム大地に立つ!」を強く意識し、それを超えるカッコ良さを描きたいという作り手の野心も感じる入魂の場面だ。

 楽曲は、打楽器の刻む力強いリズムに管楽器による主旋律が情感たっぷりに鳴り渡り、さらにコーラスが重なってぐっと盛り上がってくる。個人的な聴きどころとしては、この盛り上がり感がきちんと再現できるか。そして、各楽器が一斉に音を出す場面でもあるので、個々の音が混濁せずにきちんと聴こえるかも重要。

 まずはオンキヨーから。音に厚みがあり、男性的な表現だ。ひとりの少年が数奇な運命に翻弄されつつも、男の子の勇気を振り絞りガンダムを動かす。そんな雄壮さがばっちり伝わる。打楽器の骨太な響きに、管楽器の雄壮なメロディーがカッコ良い。個々の音色はストレートなもので、色づけの少ない忠実感のある音だ。細かい音は良く出ているが、空間の広がりよりもやはり音像の実体感、密度の高い音の強さが持ち味と言えるだろう。

 兄弟モデルとも言えるティアックは、意外なほど音が違う。忠実感の高い音色傾向は近いものがあるが、どちらかというとより鮮明で生き生きとした印象。盛り上がった場面で重なるコーラスは混声合唱だが、男声の雄壮さだけなく、女性の透明感のある伸びやかな声もしっかりと聴き取れる。どちらかという悲壮な思いを胸にガンダムを立ち上がらせる場面なので、やや明るく元気のあるイメージに寄ってしまうが、この解像感や生き生きとした感じは好ましい。

 ソニーは、個々の音の粒立ちが良く、くっきりとした音の再現。曲の持ち味である雄大さ、歯切れのよい打楽器のリズムが力強く再現され、ぐっと盛り上がる部分のパワー感も見事だ。ただし、全体にややゆったりとした落ち着いたムードがあり、勢いの良さや胸を熱くさせるような気分がやや抑えられてしまうのが残念。

 最後のJVCは、なんといっても低音域のパワー感が凄い。打楽器のズシンと響く感じ、それに伴って空気がうねるように空間に広がっていく様子まで再現される。力強さという点では随一の音だ。もうひとつのポイントは、弦楽器の艶やかな音色や、コーラスの張りのある再現。他のモデルがいずれも忠実志向を意識した音のまとまりに対し、本機だけが良い意味でのドンシャリで低音域の力感や高域の伸びやかさと音色の華やかさをわずかに強め、情感豊かに鳴らす演出型の音になっているせいもあるが、コクピットに座ったバナージ少年の気持ちが自分に中から溢れてくるような高揚感が得られる。

 さらに、K2テクノロジーをオンにすると、音色が滑らかになり、基本的な情感豊かな再現に質感の豊かさが加わる。楽器の演奏にコーラスが重なったときの音の分離もよくなり、音場の広がりが一回り大きく感じられる。いわゆるデジタル処理による高音質化機能にありがちな、不自然な強調感はなく、あくまでも自然に音の再現性を高めてくれる。電子楽器主体の楽曲では、K2オフの方がデジタル音源らしい輪郭の立ち方やキレ味がよいため、曲によって使い分けた方がいいが、生演奏主体で構成されるこの作品では、K2オンが良好。この後は基本的にK2オンのまま聴いている。

 自分が一番好きな曲で、もっとも気に入った音のモデルを挙げると、結論めいてしまうのだが、ここはやはりJVCが文句なしに一番だった。ユニコーンが動き始めたときの重量感、悲壮な決意とともに戦いに赴く少年の決意まで伝わる感動的な再現だった。次点は力感と音の厚みがしっかりと出たオンキヨーだ。

 続いて聴いたのは、サントラ1の「05 MOBILE SUIT」。こちらも先ほどと同じ傾向の曲なので、雄壮さとパワー感という点ではJVCやオンキヨーが好ましく、スターク・ジェガンの男らしいやられっぷりが目に浮かぶような再現となる。

 同じような曲調のものばかりだと、せっかくの比較試聴の面白さがなくなるので、今度はしっとりとしたシーンで使われるサントラ1の「08 A LETTER」。ピアノ主体のしっとりとしたメロディに女性ボーカルが流れる曲で、具体的なシーンというよりもミネバ様のご尊顔が頭に浮かぶ曲だ。こうした曲は、ソニーの独壇場。落ち着いたトーンの再現でありながら、ピアノの音色はクリアで、声の滑舌が良くしなやかに再現される。心にじんわりと染みていくような聴こえ方がたまらなく美しい。次点としては、ティアックがやや明るく鮮度の高い印象になるものの、ピアノの響きや声の透明感では上回っており、可憐さや繊細さがよく伝わる。オンキヨーやJVCのパワフル型は聴き比べてしまうと多少曲調にそぐわない感じがするものの、オンキヨーでは声の厚みがしっかりと出ているし、JVCは切なさを感じるような情感が魅力的だ。

 次は、同じ戦闘シーンの曲でも、ガンダムやモビルスーツがカッコよく激突する場面ではなく、艦内での緊迫した場面や大人の軍人達が冷徹に作戦を遂行する場面で使われたサントラ2の「02 DESTROY→SELF-SACRIFICE」。ホルンを中心とした低音楽器のイントロはなかなかに雄壮だが、それよりもシンセサイザーによるリズムが刻む緊張感のあるメロディが聴きどころだろう。さまざまな感情を胸に秘めつつも、冷静に作戦を遂行する大人の軍人。そんな重みをストレートに伝えてくれたのは、オンキヨーだ。重みのある音の凄みと、テンションの高さ、それらが醸し出すカッコ良さはピカイチだ。最初の頃は、「ああ、この人はバナージが反感を覚えるタイプの典型的な大人で、すぐにあっさり死ぬに違いない」と思いこんでいて、その最期は涙なしでは見られなかったダグザ中佐の渋い大人な魅力が存分に味わえる。ソニーもなかなかの再現だったが、渋さがちょっと和らぎ、厳しさよりも内に秘めた優しさがにじみ出る印象になった。もちろん、これもなかなか深みのある再現だ。

 アニメ少年だった僕は、今でも自称精神年齢14歳(シンジ君と同い年)だが、物理的に年を取ると、今まではあまり感情移入できなかった大人の魅力、複雑な思いを抱えながらも最良であれば残酷な手段を選ぶような生き方にも共感を覚えるようになってきた。というわけで、次はそのものずばりの曲であるサントラ2の「18 DAGUZA」。使われる部分は一部だが、ダグザ中佐の最期の場面で流れた曲のはず。だから、無骨な軍人としての雄壮な曲ではなく、しんみりとしたムードの哀しい曲だ。期待する若者に次を託すというか、大人の優しさと強さがよく出ている。そんな切なくもピンと背筋の伸びた凛々しさを持って響くピアノの旋律をもっとも美しく再現したのは、ティアックだ。タッチはあくまでも正確で、俊敏で素早く立ち上がる高音の響きがきれいに伸びる。絶対的なパワー感こそ他のモデルに比べるとやや弱く感じることが多いが、こうした切々としたメロディでは、繊細にして緻密な音で感情を揺さぶってくる。ソニーも抑えたムードでありながらも、ピアノの調べを美しく再現したが、音の感触が柔らかいせいか、内に秘めた覚悟の強さがやや薄くなる。JVCやオンキヨーは逆に意志の強さや緊張感、悲壮感が強まってしまい、演出過多な気になる。

脳内上映が止まらない!!締めくくりはボーナストラックの「MGUC」

 この連載は基本的にかなりの長文だが、実はこれでも最近は読みやすさを意識して短くまとめるようにしていた。だが、本稿はこの時点ですでにかなりの長さに達している。もっと書きたいことはいっぱいある。電車の中とか休憩中とか、なにかの片手間に楽しめる、気軽なサントラによる脳内上映のつもりだったが、ハイレゾ品質の音源と、優れたポタアンで聴いていると、本編視聴以上に夢中になれる魔力があると今さら気がついた。本編を映像とともに見返す方が作品を反芻するには良いのは間違いないが、視覚情報に脳のリソースを割かずにすむぶん、曲から思い出される作品の提示するものを考える余裕がサントラ鑑賞には生じると思う。作品が提示したメッセージをじっくりと考えるなら、声優の迫真の演技をダイレクトに受け止めるなら、あえて映像なしで耳だけで聴くのもよいのかもしれないと思った(だから、ドラマ盤の発売をお願いします)。こういう鑑賞も実に楽しい。

 最後は、サントラ3に収録されたボーナストラック音源「14 MGUC」を聴きながらこの試聴を総括しよう。この曲は冒頭は最初に聴いたサントラ1の「02 UNICORN」のアコースティックアレンジ版。CDのサントラには収録されない、ハイレゾ版だけの特典だ。雄壮さと力強さが印象的な曲だが、ギターや弦楽器が主旋律を担うアレンジのせいもあり、むしろ少年のひたむきさや、思いの強さがにじみ出る曲だ。オンキヨーはそれでもギターの爪弾きや胴の鳴りを力強く描き、原曲の勇ましさを思い出させる鳴り方をする。こうした力強い再現は、本機の持ち味でガンダムのカッコ良さを存分に味わいたい人ならば、オンキヨーがイチオシだ。

 ティアックは、弦の繊細な表現がとても精密で、この曲のムードにはぴったりと合う。繊細さや解像感の高さが一番の特徴ではあるが、線の細い鳴り方にはならず、しっかりと芯のある音になっているのが良いところだ。オンキヨー、ティアックともに今回の中では安価な製品なのだが、それでも実力の高さはたいしたものだ。iPhoneなどとのデジタル接続で96kHz/24bit再生に対応する機能性も含めると、お買い得度は一番と言えるだろう。

 ソニーは、落ち着いた丁寧な語り口で、曲の持つムードをしっかりと伝えてくれる。こうして聴いていくと、一番まとまりの良い音になっていて、バリバリのアクション場面での曲から、しんみりとしたムードの曲まですべてそつなくこなす、ジャンルを選ばずにさまざまな曲の良さをきちんと描くという点ではソニーが一番だ。

 JVCは、個人的にはガンダムUCのサントラを聴くならばこれで決まりという素晴らしさ。この曲を聴いていても、少年の一途な思い、弦の奏でるしっとりとしながらも揺るがぬ強さを秘めたメロディをもっとも表情豊かに鳴らしてくれた。サントラは曲が持つムードを、曲が使われた場面の記憶を想起させ、感情移入できることが一番のポイントだから、こうした情感豊かな再生音はぴったりとマッチする。

 JVCの音を個性派と表現してしまうと、ハイレゾ音源の普及もあって、高忠実度や高解像度を重視する人には、「アンプに不要な色づけはいらない」とマイナスイメージを持たれてしまうかもしれない。僕自身、質の悪さを誤魔化すために派手に味付けした音の機器は大嫌いだ。しかし、きちんとした実力を備えながら、最後のひと味として個性を主張しているからJVCを高く評価していることは理解してほしい。だが、オーディオは楽しむための趣味なので、いろいろな楽しみ方があっていい。

 3~5万円ほどの価格帯の4つのモデルでもここまで音が違い、曲から伝わるムードに違いがあるから、オーディオは楽しい。特にほぼ同一の設計ながらも、最終的なチューニングによってここまで音に違いがあるオンキヨーとティアックの音質はぜひとも聴き比べてみると、オーディオの面白さがより深みを増すはず。あなたもぜひ、自分好みのポタアンを見つけて、大好きな映画のサントラで脳内上映を楽しんでみてください。

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鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。