小寺信良の週刊 Electric Zooma!

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

約20万円で買える“小さな業務用4Kカメラ”キヤノン「XC10」を試す

1年越しのレビュー

 “一眼で動画を撮る”というトレンドを開拓したのは、キヤノンの功績であることは間違いない。EOS 5D MarkIIの成功をベースに、キヤノン自体もプロシネマ向けカメラを開発、「CINEMA EOS SYSTEM」として展開したのも記憶に新しいところだ。

今回紹介する4Kカメラ「XC10」

 その一方で、映画撮影までは行かない業務ユーザー向けの動画カメラとしては、キヤノン製品の中からはチョイスが難しい。動画専用CINEMA EOS SYSTEMの「C100」なのか、「C300」か、やっぱりデジタル一眼のEOS 1D Xシリーズ、あるいは5Dシリーズがいいのか……。

 そんな中、昨年6月に登場したのが4K撮影にも対応した「XC10」だ。系統としてはCINEMA EOS SYSTEMではなく、キヤノンの業務用ビデオカメララインナップであるXシリーズということになる。従来Xシリーズは、業務用カムコーダのXFシリーズ、コンシューマビデオカメラをブラッシュアップしたXAシリーズがあったが、XC10は全くの新シリーズということになる。

 これまでキヤノンは、業務用Xシリーズでもコンシューマでも、いわゆるデジタルシネマ文脈以外のビデオカメラの系列では4Kカメラを出していないが、XC10はその中で唯一の4Kカメラということになる。発表当初の実売は約22万円、現在でもそれほど下がっておらず、現在も20万強の店舗が多いようだ。

 すでに発売から1年が経過しているが、今年の7月上旬にファームウェアのアップデートが予定されており、機能が強化されるという。今回はいち早く新ファームの機材をお借りできたので、この機会にレビューしておこう。

ネオ一眼を業務用に昇華

 4Kのビデオカメラとは言っても、実際に現物をみるとネオ一眼がベースになっていることがわかる。最近ではソニーのネオ一眼が高級レンズ路線で人気を集めているが、他社のネオ一眼はイマイチその流れに乗れないでいる。そんな中キヤノンは、ネオ一眼のスタイルを、思い切って業務用カムコーダにも展開してみた……という見方もできる。形的にはデジカメで、実際に写真も撮れるのだが、本質的には動画のビデオカメラである。

見た目はネオ一眼

 レンズは35mm換算で動画27.3~273 mm、静止画24.1~241mm、F2.8~5.6の光学10倍ズームレンズ。電動ズームはなく、マニュアルリングによるズームだ。絞りは8枚の虹彩絞りとなっている。鏡筒部のマニュアルリングは、ズームとフォーカス用の2つ。そのほか上部のシャッター付近にコントロールダイヤルが1つある。

ズームと絞りのマニュアルリングを搭載
ワイド端テレ端
動画
手ぶれ補正
なし

27.3mm

273mm
動画
手ぶれ補正
ダイナミック
静止画
24.1mm

241mm

 センサーは1型のCMOSで、総画素数約1,336万画素(4,224×3,164)、動画の有効画素数は約829万画素(3,840×2,160)、静止画 約1,200万画素(4,000×3,000)となっている。

 ボディ左側には、フォーカスの切り換えスイッチと、ユーザーボタンが2つある。端子はマイク入力、MiniHDMI出力、USB端子、DC入力がある。

ボディ左にはユーザーボタンや端子類が集中
グリップ側にイヤホン端子

 背面の3型液晶モニタは上下に角度が付けられるバリアングルタイプで、総画素数103万ドット相当のタッチパネル。液晶モニタの下にはメディアスロットがある。CFと近い形状で、高速なインターフェイスを採用したCFast 2.0カードとSDカードのデュアルスロットだ。

バリアングルの3型液晶モニタ
液晶の下にメディアのデュアルスロット

 ここで動画フォーマットを整理しておこう。4KにしろHDにしろ、これまではXF-AVCという独自規格のMXFファイルでしか録画できなかった。さらに4K録画はビットレートが高いので、SDカードでは記録できず、CFast 2.0カードが必須だった。そこで、SDカードにはHD録画と静止画、カメラ設定ファイルを記録するといった具合に、役割が別れている。

 一方、この7月からアップデートされるファームウェアでは、新たにHD解像度の動画でAVC/H.264のMP4でも記録できるようになった。XF-AVCは4:2:2/8bitで高画質ではあるものの、画像の読み出しに専用ユーティリティや、編集ソフト側にプラグインが必要になる。もう少し汎用性の高いファイルで撮影したいというニーズに対応するということだろう。なおMP4での記録は、4:2:0/8bitだ。

画質モード解像度フレームレートコーデックビットレート
4K3,840×2,16029.97p
23.98p
XF-AVC305Mbps
205Mbps
MXF HD1,920×1,08059.94pXF-AVC50Mbps
59.94i/29.97p
23.98p
XF-AVC35Mbps
MP4 HD59.94p/29.97p
23.98p
MP435Mbps

 カメラボディとグリップ部は、円柱で繋がっている。したがってグリップ部はボディに対して回転することができる。手持ち撮影のローアングルやハイアングル時には持ちやすい角度にして、しっかりホールドできる。

ボディとグリップ部は円柱で接続
グリップ部は縦方向に前後90度までローテーションできる

 モードダイヤルは、シーンモード、フルオート、プログラムAE、シャッター優先、絞り優先、マニュアルの6つで、比較的シンプルである。メニュー操作はメニューキーを押し、横のジョイスティックで操作する。撮影画面ではFUNCメニューが選択された状態になっており、撮影中はジョイスティックの押し込みですぐに撮影系の機能にアクセスできる。

操作系は比較的シンプル
バッテリはグリップ部の底部から差し込むスタイル

 本機にはビューファインダがないが、液晶モニタに被せるファインダーユニットが付属している。バリアングル機構も取り付けたまま使えるので、ビューファインダスタイルでも自由な角度でモニタリング可能だ。

液晶モニタに被せるファインダーユニットが付属
奥行きは出るが、ビューファインダスタイルにもできる

丁寧な描画が光る

 では早速撮影してみよう。今回はファームウェアアップデート前とアップデート済みの機材を2台お借りしている。まずは新ファームの目玉でもある、MP4記録を試してみよう。新ファームのほうがMP4、旧ファームのほうがMXF-HDで撮影したものだ。

HDのMP4モードが新たに追加された
ファームアップ前の実機でMXF-HDで撮影
mxf_hd_hd.mov(132MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
ファームアップ後の実機でMP4で撮影
mp4_hd.mov(132MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 2台同時撮影なので、ホワイトバランスの取り方に若干違いはみられるものの、双方を見比べてみても映像的にはほぼ変わらない。4:2:2と4:2:0の違いはあるが、基本的にエンコードはH.264であり、ビットレートも同じだ。撮ってそのままの映像を肉眼で見比べてもわからないが、クロマキー合成やグレーディング処理を行なうと、色データの少なさが弊害として現われるはずだ。

 具体的には、普通に撮って出しする場合はMP4でも十分だが、Canon-Logで撮影する場合はMXFで撮った方が有利ということになるだろう。

 新しいファームウェアの特徴としては、AFの高速化が上げられる。最大約2倍に高速化したほか、AFスピードを3段階から選択できるようになった。旧ファームと新ファームのAF最速で比較してみたところ、このテストではわずかではあるが、新ファームのほうが高速化していることが見て取れる。

新旧ファームでAF速度を比較
af_hd.mov(80.4MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 本機には5種類の「ルック」がプリセットされており、加えて2つのユーザー設定が用意されている。動画の標準的なルックのほか、EOSでの動画に合わせたトーン、Cinema EOSに合わせたトーンが用意されており、マルチカメラで収録する際にも色味を合わせることができる。

5つの「ルック」で比較撮影
pf_hd.mov(60.6MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 NDフィルタも内蔵されており、メニューからON/OFFができる。濃度は1/8で、今回の撮影はすべてND ONだが、できれば1/16ぐらいのほうが使い出があっただろう。

 手ぶれ補正もテストしてみた。光学手ぶれ補正のほかに電子手ぶれ補正も搭載しており、両方を駆使するダイナミック手ぶれ補正はなかなか強力だ。

手ぶれ補正モード比較
stab_hd.mov(72.7MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 せっかくなので4K撮影も試してみよう。最高で29.97pまでしか撮れないが、ビットレートは305Mbpsと、かなり高い。画質設定で4Kを選択すると、自動的に書き込み先がCFastに設定される。

 4K撮影時の描画は、レンズの良さも相まって十分なクオリティだ。あいにくルックをビデオスタンダードで撮ったので、EOSのようなビビッドさはないが、解像感が高く、ビットレート不足も感じさせない。ダイナミックレンジはLogで撮ればあとからどうにでもなるというのがシネマカメラのセオリーだが、普通に撮っても十分で、仕事でも手離れのいいカメラだと言える。

発色、解像度ともに納得の絵づくり
逆光の強い発色も難なく描画
4K撮影の動画
mxf_4k_4K.mov(170MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ただ4K撮影時にはいくつかの制限が出る。例えばフェイスキャッチや画面タッチによるフォーカス追尾が使えないので、フォーカスの精度は撮影者の力量に依存することになる。AFの精度自体も、HDでは問題なくフォーカスが合ったのに、4Kに切り換えるとなかなかAFが合わないという被写体もあった。

こういうシーンは4KモードではAFが合わない

 手ぶれ補正も、読み出し範囲を狭くする「ダイナミック手ぶれ補正」は利用できない。ただこの手の制限は、1年が経過した現在でも大抵のカメラにある制限だ。4Kカメラは、この1年思ったほどには進化していないと言える。

 マニュアルコントロールとしては、電動ズームではないところがビデオカメラとしてはちょっと使いづらいところかもしれない。ズームを多用する場合は、一眼のようにリグを組んでフォローフォーカスを付けるなどの工夫が必要だろう。

 露出調整は、マニュアルコントローラが1つしかなく、マニュアルモードでは絞り、シャッタースピード、ISO感度のいずれか1つしか割り当てられない。それ以外のパラメータはFUNCメニューを出して設定するしかないが、FUNCメニューの表示中は露出計標示がみられないので、調整に手間取る。またプログラムAE時にはコントローラがOFFになってしまうが、このカメラを使うユーザーのレベルからすれば、AEシフトぐらいは割り当てられても良かっただろう。

総論

 XC10は一見すると変わった形状のネオ一眼だが、動画カメラとしてなかなかの実力を持っている事がわかった。発売から約1年が経過しているが、コンシューマのユーザーには「こんなカメラあった?」と言われるほどに知名度がない。業務用という位置づけなので致し方ないだろう。

 レンズ交換は出来ないものの、価格的にはEOS 5D Mark IIIのボディ(実売約30万円)よりも安い。写真となるとEOSの方が良いだろうが、動画カメラとしては、ほかのカメラと色味が合うように変えられるし、XC10はメインでもサブでも重宝するカメラだろう。

 弱点と言えば、CFastカードの価格だろうか。価格的にこなれてきた64GBでも、3万円程度はする。PCでの作業用として、USBメディアリーダーもあった方がいいだろう。4Kで長時間撮影が必要な方には、ランニングコストは若干悪いかもしれない。

CFast 2.0カードとリーダーが必須なのがネックか

 デジタル一眼で4K撮影可能なカメラは多いが、動画に特化した4Kカメラはあまりない。一方で4Kの業務用カムコーダはそこそこ選ぶのに困る数が出てきているが、価格的にはかなり思い切らないと手が出ない。

 XC10の実売20万円強という価格は、コンシューマ4Kカメラからすれば高い方だが、業務レベルのカメラから見ればコストパフォーマンスは高い。実際に所有している業務ユーザーの評価が高いのも頷ける。

 発売当初は20万円越えの業務用機ということでレビューを見送っていたが、1年経ってみても未だにそのポジションがユニークなことがわかる。ここは、案外競合のない分野だったのだ。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。