小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第760回 無料&手軽にカッコいい動画を! GoProの編集アプリ「Quik」「Splice」「Desktop」を試す

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

無料&手軽にカッコいい動画を! GoProの編集アプリ「Quik」「Splice」「Desktop」を試す

GoPro次の一手

 アクションカメラの草分けであり、今なお米国を中心に絶大な人気を誇るGoPro。ところが昨年Q3の決算では売り上げも利益も大幅減を記録し、苦境に立たされていることが明らかになった。

 主な原因は、小型化した新製品「HERO4 Session」の不振。価格の引き下げにより多少は売れ始めたようだが、それでも今年1月には従業員の7%にあたる100名以上をレイオフするなど、危うい舵取りが続いている。一方、BCNによれば、日本市場は回復傾向にあり、4月時点でGoProのシェアは42.8%と、2位以下を大きく引き離している。

 元々GoProは、ハードウェアの作りの割には単価が高い。だがその利益を使ってスポーツイベントなどをスポンサードすることで、プロモーション効果を上げてきた。しかし市場としてはすでにアクションカムが必要な人には行き渡ったと見るべきで、今後はさほど必要ではない人や、アクションカムを知らなかったような人達にも売っていかなければならなくなるだろう。

 今年3月にGoProは、PC/Mac用の動画/写真管理アプリ「GoPro App for Desktop」を無償公開した。以前から編集ツールは「GoPro Studio」を提供しているが、その前段階のツールという扱いだ。

 さらに今年5月には、スマートフォン向け編集アプリ2種を無償公開した。「Quik」はiOS/Android向け、「Splice」はiPhone/iPad向けである。

 矢継ぎ早に編集ツールを無償配付する理由として、GoProは、ビデオ編集に慣れていない人達にも、アクションカメラの楽しさを味わってもらい、利用シーンの増加やユーザー層拡大に繋げるためとしている。そこには、撮影したものを沢山ネットに上げて貰って、プロモーションに利用したいという意図も含まれてもいるのだろう。

 アクションカムで撮影された動画は、ズーム機能がないために画角が固定されており、普通のビデオ撮影の映像よりも特殊だ。したがってうまく編集するのが難しい素材なのだが、専用アプリはそのあたりをどのように処理するのだろうか。手間をかけずにかっこいい動画を作れるなら、多くの人にメリットがあるはずだ。今回は3種のアプリを使ってみよう。

手間なし完パケ「Quik」

 まずiOS/Android両方に提供されている「Quik」から試してみよう。Quikは名前の通り、撮影した動画を素早く自動編集し、SNSなどにアップするためのアプリだ。これは元々Stupeflixという会社が開発していた「Replay」というアプリがベースになっている。iPhone 6を使ってテストしてみよう。

Quik起動画面
自動的に動画を探して編集してくれる機能も

 GoProの動画は、リモートモニターと転送アプリである「GoPro」を使ってWi-FiでiPhoneに転送できる。Quikを起動して、動画に入れたいクリップを選択し、読み込ませる……ところなのだが、CPUパワーの問題か、高画質すぎて読み込めないというエラーが出た。1080/60pで撮影したクリップだが、4KならともかくHDで読み込めないというのはしんどい話である。

リモートアプリ「GoPro」を使ってカメラからファイル転送
CPUパワー不足なのか、iPhone 6では読み込めない

 同じファイルを12.9インチのiPad Proで読み込ませてみたところ、問題なく読み込めた。iPhone 6sでは調査していないが、少なくとも6以前のユーザーは、動画の利用条件が厳しくなるようだ。

 ファイルが読み込まれると、適度に自動編集された状態で1つの動画ができあがる。デフォルトの音楽に合わせて、クリップの長さが自動的に調整されている。各クリップは、さらにトリミングやタイトルを加えたりといった加工もできる。

iPadでクリップを読み込ませたところ
タイトルも追加できる

 音楽が気に入らなければ、画面右の音符ボタンをタップして、音楽を選択できる。GoProから提供されている音楽のほか、マイミュージックの中の音楽も使用できる。別の音楽を選択すると、クラウドから音楽がダウンロードされ、編集点も音楽に合わせて変更される。

音楽もクラウドから提供される

 さらに一番上のアイコンをタップすると、画面下に様々なテーマが表示される。これを選択するだけで、エフェクトが勝手に適用され、「それなりにイケてる」動画クリップとなる。テーマが沢山あるので、どれがこのクリップに向いているかを選ぶのはなかなか大変だが、手動でやっていたら手間がかかりすぎる処理を勝手に当て込んでくれるので、簡単に見栄えのいい動画が作れることは間違いない。

テーマを変えると、動画のエフェクトも変わる

 「保存」をタップすると、シェアする先が選択できる。Facebook, LINEといったSNSのほか、メッセージやメールで送る事ができる。また「リンクを送る」をタップすると、Quikのクラウドにアップロードされ、そこへのURLがクリップボードに保存される。それをメールなりに貼り付けるわけだ。「写真」はiPhoneやiPadのローカルへ保存、その他はAirDropを始め、iOS標準の共有画面が表示される。

出力先も多彩
Quikで編集した動画

 GoProなどアクションカメラで撮影した動画は、大抵音声は使えないことが多い。スポーツなら風切り音や振動音を盛大に拾うはずなので、動画コンテンツとして見せるためには、どうしても音楽を付けざるを得ない。だが音楽を付けたら付けたで、そのリズム感に合った編集が必要になるし、編集しているうちに音楽を変えたくなったら、また編集の微調整が必要だ。

 カットの使いどころを指定したりといった細かいことはコントロールできないが、そういう音楽にまつわる手間をバッサリ省いていい感じにしてくれるという点では、優れたアプリだと言える。利用できるクリップとしては、特にGoProで撮影されたものでなくても構わない点もなかなかいい。

もうちょっと手動編集、「Splice」

 ではもう一つ、iPhone・iPad用のSpliceを試してみよう。これは元々Vemory INCという会社が作っていた同名のアプリを、GoProが2月に買収したものだ。

 起動して新規プロジェクトを作成すると、iPhone・iPad内の「カメラロール」の参照画面になる。ここから動画や静止画など使いたいクリップを選択、「追加」をタップすると、音楽の選択画面になる。

まずは素材の選択
続いて音楽の選択

 音楽を選択すると、次はプロジェクト設定画面となる。プロジェクトの名称や背景のカラー、トランジションなどをあらかじめ設定する。「アウトロ」は聞き慣れない言葉かもしれないが、「イントロ」の逆で、動画クリップの最後に付けるタイトルのようなものだ。ここではGoPro提供の動画クリップを見たことがある人ならお馴染みの「アレ」が、最後にくっつく。

プロジェクトでトランジションなどを決めておく

 「完了」をタップすると、ビデオが1本に繋がった状態で表示される。ただ、自動的に編集してあるわけではないので、撮影したクリップそのままがデフォルトのトランジションで繋がっただけにしか過ぎない。ここからは各クリップごとに、自分で編集点を決めていく作業となる。

とりあえず1本のストリームになるので、あとは個別にトリミングする

 編集画面では、トリミング、エフェクト、速度変更、タイトル、静止画モーション、音声レベルとフェードイン・アウトを調整する事ができる。

 トリミングは両脇からイン点アウト点をドラッグしていく方式で、これはiMovieなどでもお馴染みの方式だ。ドラッグポイントを長押しすると時間的に拡大表示になるので、細かなトリミングにも対応できる。

トリミングはお馴染みのインターフェース

 エフェクトはどれも極端すぎて、ちょっと使いづらいような気がする。「デスクトップソフトウエアが持つ機能性をモバイルやタブレットのアプリで実現した」というフレコミだが、少しビビッドにするだけとか、微調整ができるともっといいだろう。

エフェクトは極端で微調整ができない

 タイトルはいくつかのフォントスタイルが選択できるが、日本語フォントは変化がないのが残念だ。静止画はお馴染みケン・バーンエフェクトが使える。動きだしと動き終わりの2点間を繋ぐ方式で、写真のピンチインとドラッグで位置調整ができる。

タイトル挿入機能もある
写真にモーションを付けられる

 音楽は、プロジェクト開始時のウィザードで選択したものが付けられている。ただ実際に編集してみたら、なんか違った、ということもあるだろう。その場合は「オーディオ」タブに移動して、音楽トラック先頭の+をタップすると、音楽を選び直すことができる。音楽は2トラックあるので、途中でクロスフェードして別の音楽に乗り換えることもできる。

2曲をクロスフェードできる

 アウトプットとしては、やはりクラウドに上げてリンクを貼る事もできるし、メール、メッセージに添付できる。共有としてはYouTube、Facebook、Instagramと、Quikとは微妙に違うのも面白い。

共有先はQuikと微妙に違う
Spliceで編集した動画

 マニュアルで編集するツールとしては、無難にまとまっている。アクションカメラ編集に特化したということで、先にウィザードで音楽を選ばせておき、それに合わせて編集できるのも面白い発想だ。編集点やエフェクトを自分でコントロールできるという点では、上級者用とも言えるが、単純にできあがりの見栄えの良さという点ではQuikに勝てないかもしれない。シンプルで落ち着いた動画を作りたい場合はこちら、という使い分けになるだろう。

 素材の読込みをいろいろ試してみたが、iPhone・iPad内部にある動画は、GoProで撮影したクリップしか読み込めなかった。単にビットレートなど相性の問題なのかもしれないが、そもそもGoProのプロモーション用アプリなので、読込みに制限がかかっていても不思議ではない。

 だがFacebookやGoogleDriveからも素材を読み込める機能があるのは面白い。こちらはGoProで撮影されたものでなくても大丈夫だった。カットごとにはすでにFacebbokに上げちゃったものをもう一度素材として編集できるというのは、意外に需要があるのではないだろうか。もちろんこの場合は、自分がアップしたものに限られる。

クリップ管理と簡易編集「GoPro App for Desktop」

 では最後にPC/Mac用の「GoPro App for Desktop」を試してみよう。これは編集ツールというよりも、GoProからの取り込みとファイル管理用のツールだ。カメラを接続しての取り込みと、すでに取り込まれている動画に対応する。当然ながら、GoPro以外のカメラで撮影したクリップは取り込めない。

GoPro App for Desktopの起動画面
最初にアカウントの作成が必要
カメラからの直接読み込みと、フォルダからの読み込みに対応

 読み込みが完了すると、メディアライブラリ画面に日付順にクリップが配置される。この程度は写真管理ソフトと同じような作りだ。動画のサムネイルをダブルクリックすると、再生画面となる。いいシーンのところでHILIGHTボタンを押すと、マークが付けられる。これはあとで素材クリップをフィルタリングするのに利用できる。

長時間回しっぱなしなので、ハイライト機能は重要

 画面下のハサミのアイコンをクリックすると、トリミングモードになる。これも前後から範囲を決めていくパターンでトリミングができる。なおトリミングしたクリップは、新規クリップとして書き出されたのち、Share画面へ移行する。シェア先はFacebookとYouTubeのみで、選択肢としてはスマートフォンアプリの方が幅広いということになる。

各クリップのトリミングは可能
クリップ単位でのシェアは出来るが、作品作りまでには至らない

 編集機能としては、QuikとSpliceよりも機能は低い。だが撮影した沢山の動画をファイルとして管理していくのは、スマートフォンでは無理なので、GoPro App for Desktopのようなアプリが必要になるわけだ。

 ここから「GoPro Studio」を呼び出すことができる。編集したいクリップを選択し、「Open in Studio」を選択すると、GoPro Studio側にクリップが転送された状態で開く。

以前からGoProが提供している編集ツール「GoPro Studio」

 ただGoPro Studioは、非常に使い方が理解しづらいソフトだ。STEP 1の「VIEW & TRIM」では、各クリップのトリムを行なう。それをコンバート機能で書き出したのち、STEP 2の「EDIT」でテンプレートを選ぶ。そのテンプレートのクリップを、今メディアコンバートした素材ではめ換えていくという段取りだ。

実写ありのテンプレートの絵をはめ換えていくのだが、全然意味がわからない

 だが各カットの性質や意味付け、あるいはクリップの長さなども含め、そうそうテンプレート通りにうまくはめ換えることができるわけはなく、結果的にはなんだかよくわからない物ができあがる。自由度があるんだかないんだかよくわからないツールだ。おそらくこのアプリの使い勝手がどうにもならないことになったため、他社の優秀なスマホアプリ2種を買収したのではないか……と勘ぐる次第である。

総論

 アクションカメラは2013年あたりに急成長したもの、2014年以降は一定水準を保ったままで成長的には鈍化している。一定数売れるものではあるが、今後も拡大路線……とはいかないことは確かだ。VRコンテンツ制作のために同型のカメラ3台使う、6台使うといったシステムもあるが、まだ市場規模を押し上げるようなものではない。

 したがってこれからは、これまでアクションカメラのようなものがあることを知らなかった層や、撮影に興味がなかった層を取り込んでいかないと、市場としても先がない事になる。このためには、ネットで見かける動画を増やし、同時に製品露出を増やすことが必要ということから、無償アプリの公開に踏み切ったと見るべきだろう。

 このような方法論は、GoProに利益があるだけでなく、市場全体が大きくなるため、競合他社にも利益がある。自分だけが儲かるようなプロモーションはもはや消費者に相手にされず、全員がWin-Winになる施策が好まれるようになってきた。

 その点では、今回のスマートフォン対応無料アプリはどちらも出来が良く、市場の評価も高まるだろう。いかにもGoProらしい次の一手だと言える。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。