小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第763回 ソニーにしかできない、空間光学ブレ補正アクションカムがすごい

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ソニーにしかできない、空間光学ブレ補正アクションカムがすごい

4Kアクションカムでもブレを補正したい

 様々なフィールドスポーツの映像を我々に届けてくれるのが、アクションカメラである。その代名詞としてはGoProの名前は外せないところだが、国内ではソニーのアクションカムの人気が高い。やはり画質や手ブレ補正能力で、GoProよりもメリットがあると感じる人が多いからだろう。本体のみで防滴、三脚穴も本体にあるなど、使い勝手の面でも改善が進んでいる。

前玉が大きい、アクションカメラの新モデル

 アクションカメラも一般のカメラと同じく4K化が進んできているが、現時点での4Kカメラの弱点は、電子手ブレ補正が使えないところである。光学手ブレ補正なら解像度は関係ないが、HDのカメラでは光学と電子手ブレ補正を同時に動かして高い補正力を得るという方法論が一般化したため、どうしても4Kは手ブレに弱い事になってしまう。

 いずれは時間が解決することではあるのだが、今が困る。特にアクションカメラがブレに弱いというのは、致命的だ。

 だがこの6月から販売が開始されたソニーの新しいアクションカムシリーズは、この小さなボディに光学手ブレ補正を導入した。しかもただのレンズシフト式光学補正ではない。ハンディカムで一世を風靡した、レンズユニット全体を動かすという“空間光学手ブレ補正機能”を入れ込んだ。手で持つ事が少ないので正式名称としては“空間光学ブレ補正機能”だ。

 もちろんそれだけでなく、デザインやメニューも旧モデルから一新されている。他社にはまず作れない、最新アクションカムの実力を早速テストしてみよう。

4KなのにHDと同サイズ

 6月に発売されたのは、4Kモデル「FDR-X3000」、HDモデル「HDR-AS300」の2機種だ。店頭予想価格はX3000が5万円前後、AS300が4万円前後となっているが、通販サイトではさらに2,000~3,000円ほど安いショップもあるようだ。ライブビューリモコン付きのセットは、そこから15,000円ほどプラスという価格イメージだ。

4Kモデル「FDR-X3000」
HDモデル「HDR-AS300」

 今回は比較のために、昨年3月に発売された4Kモデル「FDR-X1000V」やHDモデル「HDR-AS200V」も用意。X1000Vは、ソニーのアクションカムとしては初の4Kモデルだが、ボディはHDモデルに比べると一回り大きい。4Kだから仕方ないか、というところではあるが、今回の新モデルでは、4KもHDもサイズ的にはまったく同じだ。外見上の違いは、ボディ側面に“4Kと書いてあるかどうか”だけである。

 数値としては、X3000/AS300どちらも29.4×83×47mm(幅×奥行き×高さ)で、本体のみの重さはX3000が約89g、AS300が約84g。

新旧4Kモデルを比較。右が1年前のX1000V、左が新モデルX3000だ
新モデルでの比較。奥がHDモデルのAS300、手前が4KのX3000。4Kのロゴを見つけなければ見分けが付かない

 さらに新モデルX3000/AS300のサイズ感は、従来モデルであるAS200Vとほとんど変わらない。空間光学ブレ補正ユニットが入る分だけ若干レンズ部が大きくなっているが、それ以外のボディ部の高さは幅、トータルでのサイズ感はほぼ同じである。

右が以前のHDモデルAS200、左が新モデルAS300。鏡筒部は太いが、全体のサイズ感は同じ

 レンズは35mm換算で17mm、F2.8のZEISSテッサーレンズ。スペック的には前モデルのX1000Vとほぼ同じだ。

左が新モデル。以前よりも前玉が大きくなった

 前玉部分は従来機より大きくなっている。ハンディカムに採用している空間光学手ブレ補正は、前玉も含めた光学部分全体とセンサー分が動く仕組みだが、アクションカムの場合は本体のみで防滴仕様にするため、前玉を固定せざるを得ない。したがって空間光学ブレ補正ユニットは、前玉を軸にして、それ以降の部分が動く新開発のものとなっている。

 X3000の撮像素子は1/2.5型のExmor R CMOSセンサーで、総画素数は857万画素。前モデルは1/2.3型の1,280万画素だったので、センサーも新しくなっている。

 ボディ構造は、今年3月に発売されたHDR-AS50と同じだ。底部が平たくなり、安定して自立ができる。バッテリはボディ横のフタを外して装着する。

 ちなみにこのフタの裏側には、Wi-Fiでカメラと接続する際のSSIDとパスワード、あるいは専用コントロールソフト「PlayMemories Mobile」で読み取れるQRコードが記載されている。したがって前準備なしにいきなりフィールドに持ち出しても、「あれそう言えばパスワード……」と焦ることはない。NFC対応スマホであれば、ワンタッチペアリングも可能だ。バッテリは従来同様Xタイプ。バッテリ込みの重量は114gで、X1000Vと同じだ。

底部が平たく、安定して自立する
本体側面のフタを外してバッテリを装着
バッテリは従来同様Xタイプ

 端子類は背面に集中しており、 microHDMIとmicroUSB互換のマルチ端子のほか、外部マイク入力まで背面に持ってきた。従来外部マイク端子は底部にあった。外部マイクが必要となるのは、アクションシーンの撮影ではなく、インタビューなどの記録時だ。当然ミニ三脚などで固定することになる。このときマイク端子が底部にあると、非常に使いづらかったのだ。今後はこういった使いづらさもなくなるだろう。

端子類は全て背面に
左が従来モデルX1000V、右が新モデルX3000。従来機は底部にマイク端子があった。新モデルではメモリーカードスロットが底部に移動した

 上部に電源ボタンが付いたのも、AS50以降の新設計だ。従来は電源OFFするのにメニュー操作が必要だったが、明示的に電源のON・OFFができる点は評価できる。

独立した電源ボタンが付いた

 電源ON時の起動音やメニュー操作時の確認音だが、以前のものよりも大きく、鋭い音になっている。これはモータースポーツなどの騒音の中、あるいは水中ハウジングに入れた場合に確認音が聞こえないという意見があったため、スピーカーの改良などを行なったそうである。

 ただ、それほど騒々しくもない場所では、操作音がものすごく大きく感じる。うるさい場所では聞こえるようになったかもしれないが、それ以外の場所では利用環境を悪くするように思える。設定から音量を小さくしたり、無音にする事も可能だが、筆者はそもそもカメラに起動音や操作音がデフォルトで必要か? という疑問を持っており、すべてのカメラのデフォルト値は、無音に設定されているべきだと考えている。

 メニュー表示も含めた操作体系は、AS50で採用された新UIとなっている。以前はセグメントの粗い液晶表示だったため、メニューに入っても一覧性が悪かったが、新UIでは現在の設定が一覧でわかるようになっており、目的のメニューが探しやすくなっている。

メニューボタンや操作体系はAS50以来の新設計

 底部にはメモリーカードスロットがある。対応カードはメモリースティックマイクロ(MARK II)と、MicroSDカードだ。4K撮影ではXAVC Sの60Mbpsか100Mbpsで記録できる。ただし100MbpsではUHS-I U3以上が推奨となっている。手持ちのカード3枚はUHS-I U1だったので、試してみたがどれも100Mbpsでは記録できなかった。したがって今回のサンプルは、すべて4K/60Mbpsで撮影している。

 撮影可能な動画は以下のようになっている。

コーデック解像度フレームレートビットレート
XAVC S 4K3,840x2,16030p/24p100Mbps/60Mbps
XAVC S HD1,920x1,080120p100Mbps/60Mbps
1,280x7,20240p100Mbps/60Mbps
1,920x1,08060p/30p/24p50Mbps
MP41,920x1,08060p28Mbps
1,920x1,08030p16Mbps
1,280x72030p6Mbps
1,280x720120p28Mbps
800x480240p28Mbps

 防水ハウジングはもちろん新設計で、水深60mまで対応できるものが同梱されている。以前のAS200Vなどに付属のハウジングは5mまでで、それ以上の撮影を行なうためには別売の撮影用ハウジングを購入する必要があった。

付属のハウジングは水深60mまで対応

 ライブビューリモコンは、やはりAS50と同時に登場した小型タイプだ。設定は本体と同じメニューが出て、ボタン配置も似ているので、違和感なく操作できる。

ライブビューリモコンキットは、今年投入された新型

半端ない補正力

 では早速撮影してみよう。気になるのはやはりブレ補正の性能だが、まずその前に従来機がどうなっていたのか整理しておきたい。

 従来の電子ブレ補正搭載機では、ブレ補正がOFFだと焦点距離17mm、画角にして170度の広角撮影ができるが、ブレ補正ONだと21.8mm、画角にして120度に制限された。さらに4K撮影の場合は電子ブレ補正が効かず、常時170度撮影となる。

 今回のX3000は、ブレ補正が光学式なので、画角が170度のままでブレ補正をONにすることが可能だ。一方で、画角が狭い方がいいという場合に備えて、センサーの読み出し範囲を変えて画角が3段階に変えられるようになっている。この辺もあとで試してみよう。

 まずは補正力のチェックだ。今回はX3000とX1000Vをロードバイクに取り付けて、同時に撮影してみた。X3000はWide(170度)で空間光学ブレ補正ON、X1000Vは元々4K撮影ではブレ補正が効かないので、170度のままである。

ロードバイク取り付け時のブレ補正比較
stab_4k.mov(141MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 路面が滑らかな場合は、両方ともかなりの広角ということで、ブレはそれほど気にならない。ただ、多少X3000のほうに滑らかさを感じる。一方悪路走行では、大きな違いが出る。ブレ補正なしのX1000Vでは、固定してあるハンドル部分はまったく動かないが、周囲の風景が大きく揺れる。またこの揺れにより、ローリングシャッター歪みが目立つ。

 一方X3000のほうは、風景の方が動かず、ハンドル部分のほうが良く動いている。ボディはハンドルに固定してあるわけだが、それだけ空間光学ブレ補正ユニットが動いてブレを補正しているということだろう。ローリングシャッター歪みは目立たないが、Z軸方向の回転(ロール)は補正しないようで、その軸方向だけブレが発生しているのがわかる。

 自転車ではなくバイクのハンドルに取り付けて、ツーリングの状況を撮影するという使い方もあるだろう。この場合、ごく一部の条件が重なったときにのみ、映像に歪みやピントボケが起こるという現象がメーカーから報告されている。これは、エンジンの回転数や走行スピードなどにより、ハンドルの振動が空間光学ブレ補正ユニットの共振周波数と一致してしまうことから起こるという。ソニーではこの現象を緩和するためのアクセサリを2016年秋に発売するとしている。

 続いて、歩行のブレに対する補正力をテストしてみよう。X3000とX1000Vを平行に並べて、同時に撮影してみた。

手持ち撮影による手ブレ補正比較
stab2_4k.mov(182MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 歩行時の揺れについては、X3000のほうがかなり強力に補正しているのがわかる。映像的にもX3000のほうが色味がしっかり出ており、同じ画角ながらも湾曲が少ないのがわかる。最後に走ってみたが、こちらもかなり強力に補正されているのがわかる。

 これまで走るシーンに投入されるアクションカムは、主に走る人の顔を撮影するために使われてきた。ヘルメットに装着すれば、手ブレ補正がなくても顔とヘルメットがズレない限り、顔はFIXで撮影できる。だがこれぐらい補正力が強ければ、カメラを正面に向けて撮影しても、ある程度使える絵になるだろう。これまではアクションカムをランナーに装着させるという発想はあまりなかったが、これだけ補正できれば、そういう撮影もアリかもしれない。

これも使える新機能

 続いて新機能である、3段階の画角変更とズーム機能を見てみよう。どちらも画角を変更する機能には違いないが、動作原理が違う。

 3段階の画角変更は、センサーの読み出し範囲を変える事で、映像を拡大する機能だ。こちらは4K撮影モードでは動作せず、HDモードでしか動作しない。4Kモードでは読み出し範囲を狭くすると、画素が足りなくなるのだろう。

モード焦点距離
(35mm換算)
Wide17mm
Medium23mm
Narrow32mm

 上記3モードは、動画だけでなく静止画やタイムラプス撮影時も同じ焦点距離となる。“画質劣化を抑えた寄りが撮れる”というのがウリだ。今回はX3000とAS300を平行に並べて、画角モードをテストしてみた。画角モードはHD解像度でしか使えないので、X3000のほうもHDモードである。AS300はセンサーがX3000と同じなので、画質的にも同じということがわかる。

 Narrowまで行くとそれなりに画質劣化は感じるが、デジタルズームほどではない。Mediumぐらいまでは普通に使えそうだ。

X3000とAS300で画角モードを比較
sample_4k.mov(150MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 一方ズームのほうは、いわゆる画素拡大によるデジタルズームだ。画質は期待できないが、バリアブルでズーム倍率を変える事ができる。こちらは4K撮影モードでも動作する。

 画角モードと違って画質劣化はあるが、4Kで撮ってあとで編集時にトリミングでHD解像度に落とすほうが綺麗だろう。動画サンプルでは、X3000は4Kモードで撮影したあと、HD解像度に縮めている。やはりそちらのほうが解像度が若干上がっているのが確認できるはずだ。

 アクションカムの利用法として、このような画角変更機能がどれだけニーズがあるのかわからないが、ビデオカメラ市場がシュリンクしつつある現在、もはやアクションを撮るため“だけ”のカメラではなくなりつつある。“小型ビデオカメラ”としてのニーズもすくい上げるのであれば、このような画角変更やズーム機能は求められるところではある。

総論

 ブレ補正ができない4Kアクションカムに対し、画像処理プロセッサの能力を上げて電子ブレ補正で対応するというのが正攻法ではある。だがそっちではなく、メカニカルな方、このサイズ内に空間光学ブレ補正を持ち込んだというところが、面白い。なんでもソフトウェア処理でやってしまうところが増えてきた現在、メカ屋さんの面目躍如である。そしてこういう技術を持っているのは、世界広しと言えどもソニーだけだ。

 サイズも大幅に小型化し、HDカメラと同サイズで4Kを実現した点も素晴らしい。フタ部分以外ではHDモデルと見分けが付かないところは紛らわしいところではあるが、4Kでここまでの補正力があるアクションカメラは他にはない。どうせ買うなら、価格差1万円程度だし、4Kモデルのほうだろう。HDモデルで4Kは撮れないが、4KモデルでHDは撮れる。

 個人的には、外部マイクを繋いで展示会の動画レポート取材で使ってみたい。スタビライザーも不要ということになれば、ある意味“Osmo殺し”にもなり得るわけだ。強力なメカ技術が、色々なガジェットの意味合いを変えていくというのは、実に今風で面白い事になってきた。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。