小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第794回
春だ! ジョギングだ! 左右完全分離型でも落ちない? スポーツBluetoothイヤフォンを試す
2017年3月1日 09:40
そろそろ……観念するか
これまで数多くのスポーツ用イヤフォンやアクションカムをテストしてきた筆者だが、ここのところその手の新製品がないことをいい事に、この冬はマルッとジョギングをサボっていた。ロードバイクも玄関脇でホコリを被りつつある。
そろそろ暖かくなり始めた頃だし、運動しやすいシーズンになってくる。そんなタイミングで編集部から送られてきた、スポーツ向けイヤフォン。しかも3つも……。これは“そろそろ復帰せよ”という運命なのかもしれぬ。そんなわけでついに重い腰を上げて、ジョギングに復帰することとなった。
今回テストするのは、デノンのネックバンド型「AH-C160W」、ERATOの左右完全分離型「MUSE5」、Jabraの完全分離型「Elite Sport」の3種である。
一般的にイヤフォン・ヘッドフォンにおいて「スポーツ向け」とされる条件は、明確に規定があるわけではないが、以前から軽量・防水防滴・外れにくさで評価できるものが多いようだ。日本ではあまり根付かないジャンルと言われていたが、Bluetoothが一般的になり、ワイヤレス化できるようになってからは、利用者も多く見かけるようになった。
もちろんスポーツ時だけでなく、日常使いでも満足できる音質であって欲しいのはいうまでもない。ある意味ラッシュ時の通勤電車も見方によっては“スポーツしている”と言えなくもない過酷な条件であるし、昨今は運動しながら通勤する「エクストリーム出社」も流行っているらしい。自転車などの乗物で公道を走る場合はイヤフォンの使用はNGだが、走る、泳ぐ、山に登るといったところまで禁止されているわけではない。
スポーツに通勤に、ベストなイヤフォンを探してみよう。
オーソドックスな実力派、デノン「AH-C160W」
まずは国内メーカーのデノンから試してみよう。デノンは永らくスポーツ向けBluetoothイヤフォンを手がけており、2013年にも「AH-W150」をレビューしている。デノン製品をレビューするのは、それ以来と言うことになる。
いわゆるイヤーフック型のイヤフォンで、カラーはブラック、ブルー、ホワイトの三色。今回はブラックをお借りしている。すでに発売されており、実売は15,000円前後。
Bluetoothは4.1に対応しており、再接続が容易だ。対応コーデックはSBCとAAC。SCMS-Tもサポートするので、ワンセグなどの著作権保護技術採用コンテンツも視聴できる。充電時間は2時間で、連続再生時間は約4時間。サイズからすれば、もうちょっと再生時間は欲しいところだが、案外バッテリを入れるスペースがないという事だろう。防滴性能はIPX5/7。
途中にあるシルバーのラインより先が柔らかい素材でできている。カーブが狭いが耳への負担は少なく、固定感は強い。このあたりは補聴器メーカーのスターキージャパンが協力している成果だろう。ぴったり固定されるのだが、その反面、片手で綺麗に装着するには練習が必要だ。またメガネのツルと干渉するので、いったんメガネを外してから装着する必要があり、メガネ利用者には若干使いづらさがある。
イヤピースには、スポーツ用途としてコンプライ「TX-400」をベースにしたカスタムピースを採用。それ以外にもシリコン製のイヤピースが4サイズ同梱されている。普通は大中小の3サイズが多いが、極小のXSまで用意されているのは珍しい。
イヤーリングも3サイズ用意されているが、リング部が耳穴に入るわけではなく、耳穴に上からフタをするようなイメージだ。従ってここのサイズ感が問題になることは少ないだろう。
実際に装着してランニングしてみたが、耳からのズレは全くない。ただしイヤフォンを外すと、若干耳の後ろが押さえつけられていて「凝る」感じがある。筆者の耳には、若干フックのカーブが狭いようだ。このあたりは個人差があるので、購入の際は量販店などで装着テストしてみたほうがいいだろう。
コントロール部は、右耳の後ろ側に来る。再生・停止ボタンを挟むようにボリュームアップダウンボタンがあるが、一度慣れれば手探りしやすい位置だ。
まずスポーツ用のコンプライで試聴してみたが、音質としては、低域にパンチ力がある、はきはきした音だ。高域の表現には若干の息苦しさを感じるが、ランニング中にあまり高域がうるさくても聴き疲れするので、バランスを取っているのだろう。
一方シリコンピースに変えると、高域の苦しさがなくなり、張りと伸びが両立した音となる。むしろ音源によっては、高域が耳に刺さるぐらいの勢いで出てくる。外れにくさはフックのおかげで変化はない。遮音性は落ちるが、体が激しく揺れないスポーツを楽しむ場合は、こちらのほうが向いているだろう。
装着感はかなりガッチリしており、見た目も含めて普段使いとしてはちょっとガチ過ぎる気がする。やはりスポーツ時での利用が無難だろう。コンプライを使用している場合は、遮音性はかなり高い。いわゆるパッシブノイズキャンセリングヘッドフォンという事になるだろうが、周囲の音はほぼ聞こえないレベルである。昨今は安全性を考えて、外の音が聞こえるモードを用意するメーカーも増えているが、本機にはそういった機構はない。
ただ、アームでガッチリ耳に挟まっているように見えて、ドライバ部を持って引っぱれば耳からすぐ外れるので、周囲の音を確認したい時もそれほど面倒ではない。
準スポーツモデル、ERATO「MUSE5」
ERATOという会社を知っている人はまだ少ないだろう。2015年創業の米国ベンチャーで、国内では昨年9月頃から左右分離型の弾丸タイプの小型Bluetoothイヤフォン「Apollo7」が入手できるようになっていた。音質的には高評価だったが、価格が38,000円前後と高めで、この手の商品が欲しい人はEARIN M-1に流れていった印象だ。
そのERATOの別製品とも言えるのが「MUSE5」である。すでに昨年からクラウドファンディングや一部店舗では発売されていたが、今年2月より国内代理店のバリュートレードから大手量販店での販売が始まっている。Apollo7よりは大型になるが、価格は21,880円とかなり抑えられている。カラーはブラック、ホワイト、ローズ、ブルーの4色があり、今回はホワイトをお借りしている。
5.8mm径のダイナミック型ドライバを使用していることもあり、セパレート型と言いつつもボディはわりと大きめ。だいたい空豆ぐらいのサイズ感だと思って頂ければ想像できるだろう。
MUSE5のポイントは、なんと言ってもサウンド空間の距離感を再構築するという「ERATOSURROUND」技術を搭載していることである。独自のDSPプロセッシングとハードウェア設計により実現したというこの機能が、どれぐらいのものなのかが気になるところだ。
Bluetoothは4.1に対応で、コーデックはSBC、AAC、aptXと、AAC/aptX両対応なのがうれしい。専用ケースに入れて充電するスタイルで、充電時間は2時間で、連続再生時間は約4時間。ケース内バッテリは、3回分の充電容量を備える。防滴性能はIPX5。
イヤピースはシリコンタイプが3サイズ付属する。だが装着されているものも含めると、4サイズあるように見える。またそことボディに繋がる部分を「FitSeal」シリコーンスリーブと言うそうで、そこ取り外しでき、3サイズ付いてくる。このシリコンスリーブは特許だという。
ただこの部分はAH-C160Wのリング部と同じで、これが耳穴の中に入るわけではない。耳穴のフタとも言える部分で、昨今はここの構造がポイントになっているようだ。
実際に耳穴に入れてみたが、シリコンタイプのイヤピースをしっかり耳穴に入れると、きちんと固定される。ランニングに使用してみたが、いわゆる“ツノ”、突起状のスタビライザーもない割には、途中でズレたり外れるようなことはなかった。
ボディ中心のロゴの書かれたアクリル部分が電源スイッチになっており、長押しで両方の電源が入る。左右のペアリングを確認したのち、マスターである左側とスマートフォンをペアリングする。
ではポイントのERATOSURROUNDを試してみよう。モードとしては「3D」、「Wide3D」、「オフ」の3つがある。デフォルトでは「3D」となっており、モード切替は音楽停止状態で左側のボタンを4回押すというものだ。
まずは「オフ」から試してみたが、音質的にはなかなか良い。低域の出が良く、元気のいい音で、筆者の好みからすれば3製品の中で一番気に入った。
「3D」にすると、若干ではあるが空間的な広がりを感じる。「オフ」では耳穴から直接音が流し込まれている感じだが、「3D」では耳の外側から音が鳴っているように聴こえる。ただ、中心に定位していた音が左右に散る感じもあり、音楽の「芯」が弱くなるように感じた。まじめにリスニングするときは「オフ」のほうがいいが、ランニング時は「3D」のほうが開放感がある。
「Wide3D」では、正直「3D」との違いは少ない。「オフ」から「3D」の延長線上にあるとは感じるが、どうせならもっと極端に振ってもよかっただろう。
ガチスポーツ向け? Jabra「Elite Sport」
Jabraと言えば、どちらかというとBluetoothヘッドセットで知られてきたメーカーである。したがってヘッドフォン、イヤフォンについても、ほとんどがワイヤレス製品だ。また以前からスポーツ分野にも進出している事で、デジタルフィットネス文脈で名前を聞くことも多くなっている。
そんなJabraのスポーツ向けセパレート型の最新モデルが「Elite Sport」だ。スポーツ型としてはこれまで左右繋がったモデルは沢山あったが、Jabraとしても初の完全分離型となる。価格は30,370円。
Bluetoothは4.1に対応だが、コーデックは資料が公開されていない。例によってAAC接続可能にしたMac Miniでテストしたところ、AACで接続できることを確認した。SBCは当然対応しているが、aptX対応かどうかは不明である。
こちらも専用ケースに入れて充電するスタイルで、フル充電までにかかる時間は非公開。連続再生時間は約3時間で、ケース内バッテリーは、2回分の充電容量を備える。防滴性能はIP67だ。
イヤーピースはEarGelsというシリコンタイプと、フォームタイプが3サイズ付いてくる。またいわゆる“ツノ”であるEarWingも3サイズ付いてくる。一番小さいタイプはツノがない。
本機のポイントは、単なるイヤフォンではなく、心拍数が計測できるところだ。専用のワークアウトアプリ「Jabra Sport Life 」と組み合わせることで、運動時のログが記録できる。さらに設定した運動レベルに対して適切な運動量であるかをガイダンスしたり、現在のステータスを定期的に読み上げる機能がある。
同様の機能は、Nike + Runなどのランニングサポートアプリにもあるが、スマートフォンだけでは心拍数が計測できない。そこでスマートウォッチの出番だったわけだが、イヤフォンで心拍数を計測できるのであれば、スマートウォッチは不要だ。
早速Jabra Sport Lifeでランニングを計測……と行きたかったのだが、その前に体力レベルのテストが必要となる。およそ15分間のランニングで酸素供給量と酸素輸送量の能力を測定するものだそうだ。本来ならば数回やって平均値を取るようだが、とりあえず1回テストを行なったのち、2km弱をランニングしてみた。
ランニング中は心拍数の他、距離や消費カロリー、ペースなどがアプリ上に表示される。ただ、ランニング中にいつもスマホ画面は見ていられないので、終了後にグラフ化されたものを見るというのが日常的な使い方になるだろう。
ガチなアスリートであれば、こうしたグラフを毎日見てトレーニングに励むところだろうが、筆者のように健康のためにチンタラ走ってるだけのランナーには、ここまでの機能はいささかオーバースペックのように感じる。ただしイヤフォンの価格の中にこれだけのアプリの代金が含まれていると考えれば、3万円オーバーでも納得はできる。
肝心の音質だが、やや低域寄りのマイルドな音で、聴き疲れしない。AAC接続のわりには高域の出が少ないと感じるが、IP67レベルの防滴性能があることを考えれば、技術的なレベルは高い。
総論
スポーツ向け3種のイヤフォンをテストしたが、従来の防水・防滴仕様のイヤフォンからすれば、新世代が到来したように思う。どれも音質的には十分満足できる仕上がりだ。
だがこれからだんだん暖かくなって汗もかくようになれば、主流は断然左右完全分離型になってくるだろう。ケーブル型はどうしても断線の可能性が捨てきれないし、なによりも頭の汗をタオルでガシガシと拭くのにも不便である。その点では、デノン「AH-C160W」は夏場の使用に懸念がある。
Jabra「Elite Sport」は心拍センサーも備え、専用アプリで運動の記録もとれるのは、スポーツ型の王道とも言えるだろう。その一方で、運動というのは数年間続けるわけで、やはりランニングなどは、長年にわたる積算の記録を留めておきたくなるものだ。だが5年、10年といつまでもJabra製品を使い続けるのか? という問題は出てくる。
直球で運動向けというわけではないが、ERATO 「MUSE5」は価格的にも性能的にも魅力的だ。音質も十分なので、3Dのような機能の存在はそれほど重要ではない。一方左右にボタンが1つずつしかないので、多彩な機能を使うには1回、2回、4回押しのルールを覚えなくてはならないのが、ちょっと面倒ではある。
いずれにしても、スポーツをしながら本格的なサウンドが、ワイヤレスで快適に楽しめるようになったというのは、大きな進歩である。すでに運動している人も、これからの人も、運動のお伴に検討してみてはいかがだろうか。