小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第831回
iPadでガチ撮影!? レンズやマイクも装着できる専用リグ「iOgrapher」
2017年12月6日 08:00
iPadでドヤ顔撮影
初代Apple iPadが日本で販売開始されたのは、2010年5月28日の事だった。このとき日本では、届きました&レビュー祭りで大変な盛り上がりだったのだが、筆者は当時中国に出張していたため受け取る事ができず、iPad祭りに完全に乗り遅れたのを覚えている。
そして翌年2011年以降のCESでは、iPadで取材写真を撮影するジャーナリストが出てきた。プレスカンファレンスなどでずっとでっかいiPadを掲げていると後ろの人が見えないので、本当に邪魔だったのだが、本人はえらくドヤ顔であったのを覚えている。
当時iPadのカメラは今ほど性能がいいわけではなく、もちろんズーム機能もないので、それで撮影してどうすんだよと思ったものだが、今は違う。カメラ性能も格段に上がり、また高精細ディスプレイとしてもレベルが上がってきた。加えてSNS等による写真付きの情報拡散も大きく進化し、ちゃんとビジネスになるようになってきた。
それならiPhoneでやれば? という話ではあるのだが、業務に近いレベルでは、より大きな画面で映像を確認したいというニーズもある。ただ、なかなかiPadをビルドアップしてビデオ三脚に付けるというホルダーがなかった。
そこで今回ご紹介するのが、iOgrapherというシリーズだ。iPhoneやiPadにハンドルを付ける事で、撮影しやすくする“リグ”である。三脚穴もあり、ビデオ三脚にも装着可能だ。加えてオプションでコンバータレンズも取り付けられる。
今回はこれを試してみよう。
ありそうでなかったタイプのリグ
お借りしたのは、9.7型iPad Pro用「iOgrapher for 9.7インチiPad Pro」(8,618円:税込)と、iPhone 6 Plus/6s Plus/7 Plus/8 Plus用「iOgrapher for iPhone 6 Plus/6s Plus/7 Plus/8 Plus」(同7,538円)の2つだ。加えてiOgrapher専用のコンバージョンレンズも3タイプ合わせてお借りしてみた。
まずは9.7型iPad Pro用を見てみよう。iPad Proには現在9.7型、10.5型、12.9型の3タイプが存在する。9.7型と10.5型は本体サイズは近いが、10.5型のほうが若干縦が長いため、i9.7型iPad Pro用のOgrapherには入らない。購入の際は所有のiPadのサイズをご確認願いたい。
モノとしてはオール樹脂製の、ハンドル付きフレームで、かなり軽量だ。フレームだけだとねじり方向への強度が弱いが、iPadをはめ込むと安定する。
底部と両脇のグリップ部には三脚穴があり、普通のビデオ三脚に正面向きで固定できるのがポイントだ。多くのiPad用ホルダーは、iPadの背面方向にネジ穴が切ってあるので、iPadを正面に向けるためには、三脚のヘッドを垂直にしなければならない。それでは自由度が制限されるので、一般のビデオカメラのようには振れなかった。その点で画期的なわけである。
また上部にはアクセサリーシューが3つあり、マイクなどが固定できるようになっている。カメラ穴の周囲にはネジが切ってあり、専用コンバージョンレンズをスクリューマウントで装着できるようになっている。
コンバージョンレンズは、「0.45xワイドレンズ(+マクロ)」(5,378円:税込)、「2xレンズ」(同5,378円)、「12x望遠レンズ」(同7,538円)の3種だ。12x望遠レンズのみマニュアルフォーカスとなっている。
iPhone 6 Plus/6s Plus/7 Plus/8 Plus用は、いわゆるPlusサイズのiPhone全部に合うよう設計されている。両脇のグリップ部はiPad用よりも細身だが、本体も小さいので持ちにくくはない。
こちらも底部に三脚穴があるが、横の三脚穴は1方向だけだ。わざわざ上下逆に装着するメリットがないという事だろう。
こちらはレンズ部にネジが切られていないが、付属のクリップマウントでコンバージョンレンズを使用することができる。Plusシリーズはデュアルカメラなので、どっちのカメラにもコンバージョンレンズが使えるよう、あえてクリップ式にしているのだろう。
上部にはアクセサリーシューが2箇所あり、マイクと照明を取り付けるなど、必要最小限のビルドアップができるようになっている。
簡単にビルドアップできるが……
では実際に撮影してみよう。手始めにオプションのコンバージョンレンズの性能をテストしてみた。使用したのは9.7型iPad Proだ。
iPad Pro 9.7型のリアカメラは焦点距離が35mm換算29mmと言われているが、短焦点である。これにコンバージョンレンズを加えることで、画角のバリエーションができる。
レンズはどれもかなり大きめだが、画質はそれほど良くない。特に周辺部の解像度落ちはかなり気になるところだ。ネジ穴にピッタリ合うので、きちんと固定できるところはメリットだが、画質を求めるのであれば、別途光学メーカー製のクリップレンズを使ったほうが良好な結果が得られるだろう。
特に12x望遠レンズはかなり前方へ向かって張り出すため、三脚穴周辺の強度が問題になる。iPad Pro 9.7型用iOgrapherでは、底部の三脚穴そのものは金属製なので強度があるのだが、そこを支えるのが言わばプラ板1枚なので、三脚に固定しても、iPadを操作しただけで縦方向にビヨンビヨンする。ここはもう少し梁を増やすなどして、剛性を高めるべきだった。
もう一点、欠点を指摘しておきたい。iPad Proをはめ込むと、iPadの電源ボタンが押せなくなってしまうのだ。電源ボタン周りに多少の隙間はあるのだが、指が入るほどでもない。電源のON・OFFには、ドライバーや爪楊枝などの細い棒が必要になる。これは明らかに問題だろう。
安定感はまずまず
続いて、ハンドルがあることで、手持ち撮影でどれぐらい安定するのかをテストしてみた。使用したのは iPhone 6 Plus/6s Plus/7 Plus/8 Plus用で、カメラはiPhone 7 Plusである。
元々iPhone 7 Plusのワイド側カメラは手ぶれ補正が効くので、ノーマル状態とiOgrapher使用時はあまり違いがないように見える。だが実際にはiOgrapherを取り付けることで横方向に長くなるため、水平方向はキープしやすい。短い棒を水平に保つのは難しいが、長い棒を水平に保つのは簡単という理屈だ。
もちろんOsmo Mobileのようなスタビライザーと比較すると、これはこれで次元が別の安定度である。こうしたハードウェアの威力には敵わないが、マイクやビデオライトなどをオールインワン化しても安定して水平が保てるという点に、メリットがある。
もっともシンプルなiOgrapherのメリットは、iPadのような大きなものでも、三脚に固定することで、普通のビデオカメラのようにパンやチルトが使えることだろう。撮影画面も大きいので、絵柄はもちろん、フォーカスの確認もしやすい。
今回は動画撮影に「FiLMiC Pro」(Filmic Pro Mobile Video)というアプリを使用したが、これは露出やホワイトバランス、フォーカスをすべてマニュアルで調整できる。こうした業務レベルのアプリを使用する際には、大きな画面で確認できたほうがいい。
今回この組み合わせで撮影してみたが、改めてiPadやiPhoneのカメラの威力を再確認できた。
総論
iPadは近年次第に狭額縁となり、持つ部分が少なくなってきている。iPhoneのようにエッジ部分だけを指で挟んで持つということができないサイズゆえに、そもそもiPadをカメラとして使うという発想はなかったが、取っ手が付くだけで文字通りハンドリングが大きく変わる。カメラ性能としてはiPhoneと変わらず、モニター画面が大きいため、スタジオカメラのようなオペレーションとなるのはおもしろかった。
一方iPhone用のリグとしては、ハンディ撮影用の道具としては一つの選択肢となるだろう。リグ側にマイクやライトなどを常設しておき、撮影時にはiPhoneをパチッとはめ込めば本格撮影が可能になる。展示会や製品発表会の動画レポートなどでは重宝するのではないだろうか。
セルフィー撮影としても、カメラ位置から離れたところに片手で持てるハンドルがあるため、誤ってカメラに指が入り込むといった事故も少ない。セルフィーを撮るような層からするといささかゴツすぎるかもしれないが、白やオフホワイトといったカラーバリエーションがあれば、女子ウケするかもしれない。
非常に単純な製品だが、スマホ・タブレットアクセサリとしてはケースともまたちがう、これまでありそうでなかったジャンルであることは間違いない。スマホ・タブレットアクセサリが飽和状態で行き詰まりを見せる中、今後はこうした製品が数多く現われるかもしれない。
iOgrapher for 9.7インチ iPad Pro | iOgrapher for iPhone 6 Plus/6s Plus/7 Plus |
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