小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第830回
こだわりレンズに4K手ぶれ補正、“初”てんこ盛り、キヤノン4K/60pカムコーダ「GX10」
2017年11月29日 08:00
キヤノンのビデオカメラ復活
動画の世界も昨今はすっかりスマホとデジタル一眼に押され、いわゆるカムコーダなるジャンルはもはや皆さんの記憶の中でもかなり隅っこに追いやられているのではないだろうか。
もちろん各社とも4K対応製品はあるが、大抵は4K/30p止まりで、コンシューマ機で60pが撮れるカムコーダーはソニー「FDR-AX1」、パナソニック「HC-X1000」、GoPro「HERO 6」などごく一部に限られる。4K放送は60pがデフォルトなのに、値頃感のあるカメラでは60pが撮れないという時代が長く続いてきた。
だがそうしたジレンマにようやく終止符が打たれそうだ。キヤノンが11月から発売を開始したiVIS「GX10」は、定価でも30万円を切るカムコーダながら4K/60p記録を実現した、意欲作である。
販売はキヤノンオンラインショップ限定で、価格は248,000円。基本仕様が同じ業務用機「XF400/405」は一般店舗でも販売されており、それぞれ355,800円、400,000円となっている。
今回はGX10とXF405をお借りしているが、コンシューマ機のGX10を中心にレビューをお送りする。画質的にはXF405も同じである。
4K/60P世代に突入したカムコーダ、GX10を早速試してみよう。
内容的には業務用機相当
まずボディだが、ハンディタイプのカメラとしては、かなり大型である。キヤノン機はレンズにまったく妥協を許さないので、どうしても4Kカメラとなればレンズが大型化する。
だが今回、本体を大きく見せているのは、主にグリップ部だ。前方吸気、後方排気のファンが内蔵されており、この部分にDIGIC DV 6が2基、格納されている。この2つのエンジンで、4K/60p撮影を実現しているというわけだ。
重量は1,355gで、HDのカムコーダから比べればかなりずっしりする。片手でのホールドもできなくはないが、基本的は左手はリング部に沿えて撮影するカメラだ。
まずレンズだが、35mm換算で約25.5~382.5mmの、光学15倍ズームレンズ。F2.8~4.5で、絞りは9枚羽根となっている。昨年から発売されている4K/30pのカムコーダ「XC10」は8枚羽根だったが、奇数羽根は回折光が拡散するため、光芒が鋭い星形にならず、柔らかく拡がるという特徴がある。敢えての搭載、ということだろう。
なお4Kモードでは、画質劣化を抑えて2倍に拡大できる「デジタルテレコン」も使える。ただし録画中にテレコンをONにすることはできず、一度録画を止めてから切り換える必要がある。
今回はNDフィルターもターレット式のものが搭載されている。濃度は1/4, 1/16, 1/64の3枚だ。
センサーは総画素数1,340万画素、有効画素数829万画素の1型CMOSセンサーだが、同社iVISおよびXFシリーズでは初の「デュアルピクセルCMOSセンサー」となっている。これにより、EOSシリーズ並みの高速なAFを実現する。
レンズフードはレンズ保護のためのフタ付きで、横のレバーで開閉する。従来キヤノン機のフタは上に跳ね上げる構造だったが、それはレンズ下にAF用のセンサーがあったからだ。今回はデュアルピクセルCMOSセンサー搭載で別途AFセンサーが不要になったため、下に倒れる構造となった。
また今回手ぶれ補正は、光学式と電子式を組み合わせた「ダイナミックモード」を4K記録時にも可能にしている。従来のカムコーダでは、4Kモードでは画像処理エンジンの処理が間に合わないため、光学補正しかできないものが多かった。
コンシューマ機において、4Kでの電子補正は、GoPro HERO 6が4K/30p撮影時に初めて対応したが、4K/60pで電子補正までできるのは、筆者が知る限りGX10が初めてのはずである。
撮影モードは以下のようになっている。
解像度 | フレームレート | ビットレート |
3840×2160 | 59.94p/29.97p/23.98p | 150Mbps |
1920×1080 | 59.94p/29.97p/23.98p | 35Mbps/17Mbps |
1280×720 | 59.94p/29.97p | 8Mbps/4Mbps |
記録フォーマットはMP4で、カラーサンプリングは全モード4:2:0/8 bitだ。HDMI出力端子からも4K/60p出力が可能で、解像度やフレームレートによってカラーサンプリングが変わる。外部レコーダを使えば、さらに高画質で記録できる仕様となっている。
解像度 | フレームレート | HDMI出力 |
3840×2160 | 59.94p | 4:2:0/8bit |
29.97p/23.98p | 4:2:2/8bit | |
1920×1080 | 59.94p | 4:2:2/8bit *外部記録専用設定時 4:2:2/10bit |
液晶モニターは156万画素の3.5型タッチパネル液晶で、フォーカスポイントの指定やメニューのスワイプなどが可能になっている。ビューファインダも156万画素相当で、0.24型、視野率100%となっている。
後部にメニューボタンとジョイスティックがある。バッテリを挟んで反対側にリモート、イヤホン、DC端子がある。
ズームレバーはシーソー式で、スピードはバリアブルほか、固定速で16段階にセットできる。
グリップ部上部にSDカードスロットが2基あり、リレー記録やデュアル記録にも対応する。その下側には、HDMI出力、USB端子、マイク入力がある。
最後にXFシリーズとの違いだが、大きな違いはハンドルユニットの有無だ。ハンドルにはXLR入力が2系統あり、LPCM記録モードにすれば、4chのオーディオ収録が可能になる。
このハンドルユニットは、GX10には装着できない。固定用のネジ穴が空いてないだけでなく、後部のシューガードが干渉するので、物理的に入らない。XF400と405の違いは、3G-SDI端子の有無だ。この端子から4K出力はできず、1080/60p止まりとなる。
味のあるWide DRガンマ
では早速撮影してみよう。本機の映像的なポイントは、Wide DRガンマの搭載である。これはスタンダードガンマよりも高輝度に強く、800%のダイナミックレンジに対応するという。XA35に搭載されていたWide DRガンマは600%だったが、それよりも拡張された。
ただ、HDRというわけではなく、あくまでもBT.709準拠である。つまり100%までのカーブをもっと寝かしてマージンを稼ぎ、そのぶんを高輝度に割り当てたカーブとなる。
このため、高輝度部分の階調には強いが、暗部から中間輝度は全体的に暗めとなる。比較してみると、スタンダードガンマはいわゆるテレビ的なパッとした派手さがあるのに対し、Wide DRはシネマ的なしっとり感がある。このあたりは好みが分かれるところだろう。
Wide DRは白飛びしにくいので、逆光のハイコントラストなシーンが魅力的だ。なお今回のサンプルは、すべてWide DRで撮影している。
AFは十分に速く、画面タッチで確実にフォーカスが撮れるのはありがたい。AFスピードは3段階で選択できるが、一番遅くしてもかなり速いと感じた。
マニュアルフォーカス時は、三角のマーカーの離れ具合により、今前ピンなのか後ピンなのかが表示され、フォーカスリングを回していって合焦するタイミングもわかる。これはなかなかユニークだ。
1型センサーという事で絵作りが心配されるところだが、15倍ズームがあるので、テレ端はそれなりにちゃんとボケる。
NDは撮影中も変更できるが、ターレット式なので間にターレットフレームが入る。また動作音も入るので、タイミングを見計らっての切り換えが必要だ。
NDの動作を記録するためにマニュアルモードにしたのだが、Wide DRモードの時はゲインが9dBより下げられなかった。スタンダードガンマ時の最低値は0dBである。高ダイナミックレンジのために増感が必須なのかもしれないが、増感しておきながらNDで下げるというのも、なんだかもったいない気がする。
5軸手ぶれ補正の威力もテストしてみた。ワイド端での歩行だが、光学補正のみのスタンダードに比べると、ダイナミックモードの補正力はかなり高い。4K/60p撮影での手ぶれ補正では、今のところ最強だろう。
なお「Powered IS」はそもそもテレ側での補正機能なので、ワイド端では誤動作が目立つ。Powered ISは液晶横のボタンで簡単に入切できるので、テレ端でのテンポラリ的な使い方に向いている。
強力なハイスピード撮影
センサーを高速読み出しすることにより、ハイスピード撮影も可能だ。ただし撮影事の画素数とフレームレートで、スピードが必然的に決まってくる。
解像度 | フレームレート | スピード |
3840×2160 | 59.94p | 等倍のみ |
29.97p | 0.5倍 | |
23.98p | 0.8倍 | |
1920×1080 | 59.94p | 等倍のみ |
29.97p | 0.25、0.5倍 | |
23.98p | 0.2、0.4、0.8倍 | |
1280×720 | 59.94p | 等倍のみ |
29.97p | 0.5倍 |
4Kにおいては最高で0.5倍速にしかならないものの、ハイスピード撮影が可能だ。29.97pよりも23.98pのほうがよりスローで撮影できそうなものだが、なぜかここは逆になっている。
最もハイスピードなのは、フルHD 23.98p撮影時の0.2倍である。このモードで撮影したのが以下のサンプルだ。撮影時は曇天で光量がなかったが、ハイスピードの割にはS/Nは悪くない。
総論
4K/60pカムコーダは、4Kの黎明期とも言える2013年~15年頃に大型のフラッグシップ機が出たものの、それ以降はデジカメも含め、あまり製品がないのが実情である。力技では可能なのだろうが、センサーとプロセッサーの発熱や電力消費から、スマートな形に収めるという課題がクリアできなかったのかもしれない。
そうこうしているうちに、コンシューマでの4Kは30pがスタンダードな状況になってしまい、それだったらデジタル一眼でいいか、という流れでなかなかカムコーダが出なかった。
キヤノンとしては、CINEMA EOSシリーズで映画業界には食い込んだが、テレビ業界には弱い。そこで4Kテレビ放送を足がかりに、取材用小型カメラという位置づけで「XF400/405」を投入した。GX10はそれに引っぱられる格好で登場したコンシューマ機であり、その点ではあまり素人っぽいお楽しみ機能は皆無のカメラである。
取材カメラとしては、インタビューマイクなど別途ワイヤードのマイクが必要になるため、どうしてもXLR入力のついたハンドルユニットが必須になる。またハンドルユニットには、録画ボタンやズームレバーが別に付いており、ローアングル撮影にも便利という利点がある。赤外線撮影が可能なのも、XFだけだ。
ただXF400とGX10は価格差が10万円以上あり、少しでも安く買いたいコンシューマユーザーは、必然的にGX10狙いという事になるだろう。今のところキヤノンオンラインショップの直販のみで、量販店では販売されてないのだが、そのオンラインショップでも想定以上に売れているのか、執筆時点では納期未定となっている。
この需要を、久々の新製品投入による一時的なものとみるか、それともみんなが60pに到達するまで“待ち”だったのか判断が難しいところだが、コンシューマでも4K/60pのカムコーダ需要はそれなりにあるということが証明された。
ようやくテレビフォーマットに追いついたことで、もう一度カムコーダが盛り返すのか。それともデジカメの牙城は堅いのか。デジカメトップシェアのキヤノンとしても、悩みどころだろう。