小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第833回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

iPhone Xのカメラとディスプレイを試す。iPhone 8 Plusとの違いは!?

iPhone Xはゲームチェンジャーか

 今さらながら、という感じもしないではないが、今回はiPhone XとiPhone 8 Plusにどれぐらい違いがあるのかをテーマに、筆を進めていきたい。

iPhone X

 これまでiPhoneは、6以降、4.7型のナンバーのみモデルと、5.5型のナンバー + Plusモデルの2モデル展開を行なっている。この秋に導入された新モデルが、8と8 Plusだ。加えて今年は、iPhone発売10周年を記念したアニバーサリーモデルとして、iPhone Xが登場した。

 字面的にはiPhone「エックス」と読む人も多そうだが、「テン」である。AppleはMac OS以降、10をローマ数字のXと表記し、世代の変わり目を強調している。

 iPhone XはディスプレイにOLED(有機EL)を採用し、表面にボタンが無い全面ディスプレイというスタイルになっている。これが今後のiPhoneの姿なのか、それとも10周年を記念したこのモデルだけなのかは今のところ判然としないが、ホームボタンの廃止により操作方法にも変化が見られるところだ。

 加えて指紋認証ではなく、ユーザーの顔で認証を行なう「Face ID」を採用するなど、意欲的なモデルとなっている。ただし価格がApple Store直販で112,800円(64GBモデル)とiPhone史上最高値のモデルでもあり、躊躇している人も多いようだ。

 iPhone 8/8 Plusで十分、いやいやXでないと、など色々な意見が聞かれるが、要するにお金があればXだが、iPhone 8 Plusの89,800円に対して、112,800円に見合うほどの差があるのか逡巡するところだろう。

 そこで今回は、最も目立つ部分であるカメラとディスプレイの性能を比較してみた。今後の購入の参考になればと思う。

iPhone XとiPhone 8 Plus

小さいが大きい?

 そもそもiPhone 8/8 Plusは、すでに10月にレビューしている。この時はiPhone 8 Plusを中心に、7 Plusとの差を確認した。

 一方iPhone Xは、この連載では初めて扱うが、すでにレビューもWebに沢山出ており、細かいスペックは説明するまでもないだろう。ここでは今回比較のポイントとなる要素のみをまとめておく。

モデル名iPhone 8 PlusiPhone X
サイズ158.4×78.1×7.5mm143.6×70.9×7.7mm
重量202g174g
ディスプレイ5.5型液晶5.8型OLED
解像度1,920×1,080/401ppi2,436×1,125/458ppi
コントラスト1,300:11,000,000:1
色域P3P3
広角F1.8F1.8
望遠F2.8F2.4
フロントF2.2F2.2
(TrueDepth)

 本体サイズは8 Plusのほうが一回り大きい。一方ディスプレイサイズを比べると、iPhone Xの5.8型の方が若干大きいように見える。ただ実際にはiPhone Xのディスプレイは19:9と縦方向に長いため、対角線で測れば長いというだけのことである。確かに縦は長いが、横幅は8 Plusのほうが広い。

iPhone Xのほうが横幅がなく、持ちやすい

 カメラ性能としては、メインカメラの広角は同スペックだが、望遠側はF2.4と、iPhone Xのほうが若干明るくなっている。焦点距離も両方を比較撮影してみたが、同じだと考えていいだろう。

カメラの実装の仕方が異なる
2台のiPhoneで同時撮影
iPhone 8 Plus
静止画:Wide
iPhone 8 Plus
静止画:Tele
iPhone 8 Plus
動画:Wide
iPhone 8 Plus
動画:Tele
iPhone X
静止画:Wide
iPhone X
静止画:Tele
iPhone X
動画:Wide
iPhone X
動画:Tele

 動画撮影時のズーム動作は、Wideカメラ側では等倍から3倍のデジタルズーム、Tele側カメラでも等倍から3倍のデジタルズームとなる。Tele側の焦点距離はWide側の2倍なので、iPhone上の表記としてはWideカメラの等倍を基準として、2倍から6倍となる。このあたりはiPhone 8 Plusの挙動と同じだ。

動画撮影中、ズーム動作はデジタルズームのみとなる

 スロー性能も両方のカメラで比較してみたが、ホワイトバランスが若干異なるだけで、仕上がりとしては変わらなかった。サンプル動画内のx1という表記はWide側カメラ、x2はTele側カメラという意味である。

240p撮影によるスロー
Slow.mov(79.58MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 一方手ぶれ補正に関しては、iPhone XのみTele側にも光学手ぶれ補正が入っている。WideとTele両方に手ぶれ補正が入っているのは、iPhoneシリーズの中では今のところXだけだ。

手ぶれ補正の比較
stab.mov(57.66MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 比較してみると、確かにTele側でも手ぶれ補正が効いているのがわかる。4K/60pでWideとTele両方で手ぶれ補正が効くわけだから、存在としては際立っている。ただ、昨今のビデオカメラ並みに補正がものすごく効くかというと、そうでもない。限られた容積の中に入っているレンズでは、シフト幅にも限界があるのだろう。

 今のところ補正は光学のみだが、将来的に電子補正も組み合わされるようになると、ビデオカメラ並みの補正力となるだろう。ただ、本当に補正したければ、iPhoneをはじめとするスマートフォン向けに廉価なスタビライザーも沢山あるので、今すぐでも強力な補正が得られる。

 Tele側カメラのもう一つのポイントは、iPhone Xのほうが若干明るいレンズだということである。ナイトシーンや室内で比較してみたが、若干iPhone Xのほうが明るい感じはするものの、それほど明確な差は出なかった。これぐらいのレンズの差は、感度を上げることで追いついてしまう。S/Nで見ればiPhone Xのほうが有利なことは間違いないが、実用上ではそれほど大きなアドバンテージとは言えない。

夜間撮影でテスト
Night.mov(55.46MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

大きく変わったフロントカメラ

 昨今スマートフォンで注目されるカメラ性能は、もっぱら“セルフィーでどれだけ盛れるか”であろう。Androidではメインよりもフロントカメラの性能が上回るモデルも出てきた。また撮影アプリの「ビューティモード」は、中国メーカーを中心に開発にしのぎを削る状況にある。

 そうしたセルフィーの達人に言わせれば、画素数やレンズの質、あるいは標準で提供されるビューティモード有無からすれば、iPhoneのフロントカメラは「ホントにヒドい」という評価になる。

 女子高校生の間では、iPhoneの利用率が69%にも上るというデータもあるが、女子高生にとってはまだビューティモードは必要ではないという事なのかもしれない。じゃあ誰が必要としているのかという話をこれ以上深掘りすると刺客がやってきそうなので、やめておく。

 まあそんなわけで、iPhoneはセルフィーをSNSに載せるようなタイプのユーザーからは、まるで信用されていないのだが、iPhone Xのカメラは別方向に進化している。

 iPhone Xのフロントカメラ部には、顔の立体情報を得るためのドットプロジェクタや赤外線カメラなどが仕込まれている。これらの組み合わせが「TrueDepthカメラ」と呼ばれる一種のシステムを形成し、Face IDといった機能へと繋がっている。

 FaceIDによるロック解除は、非常にスマートだ。高速に認証されるので、まるでロックをかけていないかのような操作性が実現する。

 アプリもFaceID対応で、使い方が変わる。例えばAmazon プライムビデオでは、子供が不適切なコンテンツ視聴しないようPINコードを設定できるが、これもFace IDで解除できるため、コードが盗み見られて解除されてしまうと言うことも起こらないだろう。

 一方で、iPhoneを机に置いた状態で、ちょっと調べ物したいといった時には、いちいちiPhoneを起こして顔に向けないと認証解除されない。もちろん暗証番号を入力しても解除できるのだが、それを盗み見られないためのFace IDだろう。こうした、「ちょっと使いたいだけ」のことを考えると、指紋認証も捨てがたい。

 このTrueDepthカメラシステムは、顔の輪郭や立体情報を抽出できるため、1つのカメラで撮影した1枚の画像内から、人物と背景を分離することが可能だ。つまり、これまでPlusのデュアルカメラでしかできなかった「ポートレートモード」がフロントカメラでも使えるようになる。

 つまり、セルフィーでありながら、背景をぼかしたポートレートが撮影できるようになるわけだ。背景までの距離はさほどないが、見事にボケている。顔はあまりいじらず、背景をいじるという部分は、お国柄の違いとも言える。

iPhone Xのフロントカメラで使える「ポートレート」

 このTrueDepthカメラは、他のアプリにも影響を与えるはずだ。現時点で最もその可能性を示唆しているのは、Apple純正の「Clips」だろう。

 元々は簡単なメッセージ動画を制作するためのアプリだが、iPhone Xに対してのみ、「シーン」という新機能が使えるようになった。これはフロントカメラで撮影する際に、顔だけを残して背景は全然別のグラフィックスに差し替えて撮影できる。

背景だけを差し替えて撮影できるClips
IMG_0046.mov(7.61MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 現時点ではブレードランナー風、スターウォーズ風など12種類の背景が用意されている。顔の方も派手にエフェクトがかかる。ここまでエフェクトがかけられるのなら、ビューティモードも用意すればいいのにと思うのだが、そこがセンスの違いということかもしれない。

ブレードランナー風

新ディスプレイのメリット・デメリット

 iPhone Xの誰にでも恩恵のある機能としては、ディスプレイのHDR化がある。コントラスト比1,000,000:1もあれば、十分HDRディスプレイと言えるだろう。

HDRとして十分なコントラスト比を持つOLED搭載

 実際にいくつか映画やドラマコンテンツを視聴してみたが、特にHDRコンテンツでなくても、ダイナミックレンジの広さは感じられる。特にナイトシーンが多いドラマなは、優れた暗部の階調表現のおかげで、液晶ディスプレイにありがちな「輝度を上げないと何をやってるのかよく見えない」ような事にはならなかった。

 また字幕の文字がかなりハイコントラストで表現されるため、画面から浮き出したように見える。馴染んでしまって読みづらいより、ずっと良好だ。

 一方で、これまであまり言及がないようだが、iPhone XのOLEDは視野角が狭い。一般的にOLEDは液晶よりも視野角が広いと言われているが、iPhone Xの場合、少し角度を付けてディスプレイを見ると、緑が被ってくる。

 もちろん、安い液晶のように輝度が反転してしまうわけではないが、正確な色が分からなくなるのは、撮影時にはちょっと困る。例えばローアングルやハイアングルの際には、ディスプレイを真正面から見られないことになるが、その際に色味が正確に分からないという事が起こる。

 また複数人でiPhone Xを覗き込んでYouTubeの動画を見るといった時には、真正面に居る人以外は正確な色味で見られないことになり、印象や面白さといったコンテンツのユーザー体験にも影響を与える可能性がある。

総論

 新しもの好きの筆者が現在まで個人的にiPhone Xを購入しなかったのは、供給が安定するまで待とうと思っていたらいつの間にか忘れてたという事もある。今回改めて触ってみて、確かに今後はこうなるという一つのモデルを示そうとしている事がよく分かった。

 OLEDによる映画やドラマ視聴の体験は、素晴らしいものがある。まさにディスプレイはこうあるべきだ。ただ、正直動画コンテンツを楽しむには、画面サイズが小さいので、もったいない。今後、iPadあたりでOLEDが採用されるなら、ぜひそちらのほうを購入したいものである。

 新しくなったフロントカメラにも、可能性を感じる。Face IDは双子を見分けられないといった難点もあるようで、双子の方にはお気の毒だが、多くの人にはあまり問題ないだろう。筆者はよく帽子を被るが、帽子の有無ぐらいならFace IDは問題なく動作する。

 ホームボタンがない事で、新しいUIにならざるを得なかった部分があるが、個人的には「それ以外やりようがない」UIに設計されており、特に戸惑うことはなかった。

 唯一、アプリスイッチのやり方が、「下からスワイプして真ん中あたりでしばらく待つ」という方法になっており、これだけは調べないと分からなかったぐらいである。アプリスイッチはよく使う機能だと思うので、ちょっとした待ち時間が発生するやり方は、あまり向いていないんじゃないかと思うが、じゃあ他にやりようがあるのかといえば、まあ、ないんである。

 個人的には納得いく機能満載ではあるのだが、やはりネックは価格だろう。10万円出すなら、他のAndroid高級機も面白そうだ。ただそうは言っても、これだけ注目を集めたモデルである。iPhone Xをきっかけに、スマホのOLED化は「当然の進化」として一気に進むだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。