小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第834回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

Electric Zooma! 2017年総集編、左右分離にシアターバー! オーディオ関係大充実の1年

毎年恒例振り返り企画

 さて今年もまたこの原稿を書く時期がやってきた。これだけ長いこと連載をやってると、この書き出し部分も含め昨年のコピペでいけるんじゃないかとも思うが、やっぱり毎年真面目にまとめをやってるわけである。クリスマスも終わり、皆さんも年の瀬に向けてお忙しいところかとは思うが、大掃除の合間の息抜きとしてお楽しみ頂ければと思う。

 毎年連載で取り上げたネタから、今年のトレンドを探っていこうという本企画だが、そもそも本連載で取り上げる製品はどうやって決まっているかをお伝えした事がなかったように思う。基本的には、製品発表のニュースの中から比較的ビューが良かったものを筆者担当の編集・山崎氏が複数ピックアップし、その中から筆者が選ぶ、というスタイルになっている。もちろん製品の貸し出し時期などの制約は受けるが、基本的には読者の関心が高いであろう製品を実際に使ってみて、その感想や評価などをお伝えするという流れだ。

 そんなわけで、1年のトレンドはそれほど外していないチョイスとなっているはずだ。今年取り上げた製品をジャンル別に分類すると、カメラ×8、オーディオ×13、スマートフォン×7、撮影・制作補助ガジェット×6、レコーダ×4、ドローン×3、ノウハウ×2となっている。特集やショーレポートは除いている。

 今年の特徴は、なんと言ってもオーディオ関係が爆発したところだ。特にイヤホン・ヘッドホンだけでも8回、取り上げた製品数は20にも上る。またソニーとボーズのサウンドバーを取り上げた記事は、カメラ記事を押しのけて本連載の中でトップビューを獲得するなど、オーディオ市場の手堅い盛り上がりを感じさせた。例年、オーディオ系の記事が少なくバランスが悪かったのだが、オーディオ記事がカメラを上回ったのは今年が初めてのことで、いかに今年急速にオーディオ市場が盛り上がったかがわかる。

 加えてカメラにも少し関わるところだが、スマートフォンもかなりの数を取り上げた。特に今年は、メインカメラではなくフロントカメラの性能向上に注目が集まった年でもあった。では今年もジャンル別に、トレンドを振り返ってみよう。

動画カメラ篇

 今年の動画撮影のトレンドは、コンシューマでもハイエンドカメラを中心に、ようやく4K/60p撮影の芽が出てきたところだろう。4Kテレビは元々放送が60pで規定されているところから、とっくに60pの準備ができている。だが撮影の方は4K/30p止まりで、なかなか60p対応できなかった。

 そんな中、早々に対応を成し遂げたのがパナソニックの「GH5」で、さすがの横綱相撲である。加えて対応したのがアクションカメラの老舗「GoPro HERO6 Black」で、こちらもさすがのスピード感であった。加えてキヤノンが久々のカムコーダのリリースで60p対応するなど、来年は中級機、エントリー機をどこまで4K/60pに寄せていくのかが注目ポイントとなりそうだ。

パナソニックの「GH5」
「GoPro HERO6 Black」

動画カメラ“台風の目” プロも注目、4K/60pの世界をパナソニック「GH5」で撮る

見た目同じでも違いはデカい! 手ブレ補正超進化 4K/60p対応「GoPro HERO6 Black」

こだわりレンズに4K手ぶれ補正、“初”てんこ盛り、キヤノン4K/60pカムコーダ「GX10」

 一方カメラメーカーとして非常に人気の高いソニーが、4K/60pに出遅れている。「RX0」のような「尖った」カメラをリリース、満を持して登場のカムコーダ「FDR-AX700」は、HDRのHLG対応ということでコンシューマ初となったが、60p撮影には対応しなかった。

ソニー「RX0」
ソニー「FDR-AX700」

現代のスパイカメラ?! 超小型なソニー「RX0」の謎に迫る

民生機初! 4K/HDRで撮影可能なカムコーダ、ソニー「FDR-AX700」

 正直、デジタルカメラが30p止まりなのはまだ理解できる。レンズやセンサーといった絵作りの特徴から、シネマ的なコマが少ない動画に「演出として」向かう点に無理がないからだ。だがテレビシステムとの親和性が重視されるカムコーダがいつまでも30pで、納得できる人は少ないだろう。

 一方でHDR撮影に関しては、プロ機ベースの機能をコンシューマに降ろしてきたことで業界初となったが、見たり編集するワークフローが確立しておらず、時期尚早感が強い。来年どれぐらいHDR対応テレビ、ディスプレイが普及するかがポイントとなるだろう。

 変わり種ということでは、「Insta360 One」の化けっぷりには驚いた。正直初号機のInsta360 nanoはただのiPhoneガジェットに過ぎなかったが、Oneではスタンドアロンでバレット撮影が可能になるなど、ソフトウェア・パワーを見せつける結果となった。

 Instra360はInterBEEでもかなりいい位置にブースを構えており、若手プロクリエイターを中心に賑わいを見せていた。コンテンツ制作においても、ワンポイントで光る映像ギアとして注目されていきそうだ。

「Insta360 One」
InterBEE 2017にも出展、注目を集めた

グルグル回してバレットタイム。大化けした360度カメラ、Insta360 Oneがすごい!

オーディオ篇

 冒頭でも触れたところだが、今年はオーディオ関係の製品を数多く取り上げた。その要因としては、やはり左右セパレート型のBluetoothイヤフォンが注目を集めた点が大きい。これまではベンチャー製品が中心だったが、Appleが認知度を高め、加えてソニー、ボーズの参入により、拡大が見込める市場としてお墨付きをもらった格好だ。

AppleのAirPods
ソニーの「WF-1000X」

そろそろキテる!? EARINからAirPodsまで、完全分離型イヤフォン4種を試す

春だ! ジョギングだ! 左右完全分離型でも落ちない? スポーツBluetoothイヤフォンを試す

ソニーからも登場した完全分離型イヤフォン、動き合わせてNC制御「WF-1000X」

左右分離Bluetoothイヤフォン新時代! ボーズとNuForceの注目機を試す

 一方でこの手のイヤホンは、左右の音切れ問題をどのように解決するかがポイントになる。この技術に関してはNFMI(近距離磁気誘導)が注目されているが、これが最適解なのか、それとも従来方式で対応策があるのか、技術開発の行方が注目される。

 また今年は、次世代コーデック起動の年でもあった。「Oreo」ことAndroid Oで、aptX HDとLDACが新しくサポートされ、今後の普及に期待がかかるところだ。プレーヤーであるスマートフォン側はSoCが対応しているかに依存するため、多くの機器が出回るのは来年以降になるだろう。

 その一方で、これまで堅調であったBluetoothスピーカーに、若干の息切れ感を感じてきたのも事実だ。新コーデック対応にも期待がかかるところだが、すでに飽和状態のところに、今年後半のスマートスピーカー登場で、一気にコンサバ商品に転落してしまった感がある。

5月に取り上げた各社のBluetoothスピーカー

360度再生からイルミネーションまで! ソニーとボーズの新Bluetoothスピーカーを聴く

 スマートスピーカーも、オーディオ製品として扱っていいのかもしれないが、現在はまだ利用体験に重点が置かれており、音質の違いや音の広がりといった点で語られるに至っておらず、今年は取り上げなかった。来年はサードパーティ製品も増えるだろうから、ワンポイント360度タイプの小型スピーカーが、一つのジャンルを形成するかもしれない。

 スピーカーネタとしてアクセス数が高かったのが、テレビスピーカー関連の記事だ。私事だが先日「コストコ」に行ったら、ボーズのサウンドバーが山積みで売られていて驚いた。外資系ならではなのかもしれないが、サウンドバーがいつの間にかキャズムを超えて、説明不要の商品になっていた。

下からボーズの「Solo 5 TV sound system、ソニー「HT-MT300」

サウンドバー1本でダイニングが音楽空間、ビームサラウンドで映画も。ボーズ SoundTouch 300

ソニー VS ボーズ、3万円台のサウンドバーでTVの音はどこまで良くなる!?

スマートフォン篇

 撮影機器としてのスマートフォンは、多くの人の生活を変えたことは間違いない。そのサイズや薄さ故に、カメラとしては非常に制限が多いわけだが、それを強力なプロセッサパワーで補い、さらには通常のカメラではできないレベルの加工まで可能にした。

 スマホの中でも特にiPhoneとXperiaは日本におけるツートップで、iPhone 8 PlusとXperia XZ Premiumの両記事はよく読まれた。これらはもはや内容よりも、その名前を冠するだけで参照が多くなる。

Xperia XZ Premium

これがiPhone 8 Plusの実力か! 生まれ変わった動画と写真、そしてコーデック

スマホレベルを超えたカメラ、960fpsスロー/4K HDR「Xperia XZ Premium」

 今後のスマホカメラの方向性としては、やはりインカメラのセルフィー対応がポイントになることだろう。読者諸氏からすれば、オジサンの肌がツルツルになるという読んでもしょうがない記事が上がる事になるが、なんとか対策を考えたい。

iPhone XとiPhone 8 Plus

Leicaダブルレンズがスマホに! 自撮りしないオジサンでもHUAWEI「P10 Plus」はうれしいのか
iPhone Xのカメラとディスプレイを試す。iPhone 8 Plusとの違いは!?

 AV機器として見れば、スマホは再生機としての側面もある。ハイレゾ対応やHDRディスプレイなど、視聴体験を変える機器が登場してきたのは面白いところだ。一方ARもかなり期待される技術だが、現時点ではどれぐらいの伸びしろがあるのかよくわからない。そこはやはり差別化要因として1社ががんばってもブームは作れず、業界全体が相乗りできるようなキラーコンテンツが必要なのだろう。

VRグラスのケースもセットになったASUS「Zenfone AR」

“未来に生きてる”感。現実を拡張するスマートフォンASUS「Zenfone AR」

 スマホ搭載の小型プロジェクタで大きく見るというのは、かつてフロントプロジェクタ全盛時代に多くの企業が夢見た理想だが、徐々にそれが形になってきている。一体型と別体型、どちらがいいかと言えば最終的には一体型だろうが、別体型でも現時点での最適解を早めに提示しないと、中途半端なブームでは陳腐化も早い。個人的には、スマホ向けSXRDは、ソニーにとって裏面照射CMOSと並ぶ稼ぎ頭になるのではないかと思う。

投写中の「Xperia Touch」

デジカメやプロジェクタをスマホに合体! 全ニーズ対応Motorola「Moto Z」

次世代情報ステーション? プロジェクタを搭載した「Xperia Touch」が実現する世界

総論

 今年はAV機器の中心軸が、スマホに移った年だったと言える。左右セパレート型イヤホンも、基本的にはスマホガジェットだ。スマートフォンの撮影補助ガジェットも多く取り上げ、人気を博した。

 もちろんカメラはカメラでまだまだやることがあり、高級路線へ逃げるという戦略は有効だろう。その一方でレコーダはすでに差別化が難しくなっており、来年12月にスタートするBS 4K実用放送開始でどれぐらい盛り返せるのか、4K/8K放送録画可能な録画用Blu-rayの注目度も合わせて、見ていく必要があるだろう。

 ドローンは今だ進化し続けている分野ではあるが、コンシューマ用途は航空法改正の影響が大きく、申請が必要なクラスのドローンはあまり注目されなくなった。一方で200g以下のオートパイロット機は注目度が高く、これも一種のセルフィーガジェットという捉え方なら、まだまだ芽はありといったところだろうか。

 さて今年も色々面白い体験をさせてもらった1年だったが、本連載は今年、開始から17年目で無事800回を迎えた。一方で書き手も連載開始当初から17歳年を取っているわけで、個人的な興味関心も色々変わる。そんな中、永らくお付き合いいただいて感謝している。

 そんなところで今年のElectric Zooma!はこの辺でお開きである。年明けはCESには行かず、日本でお留守番となった。手薄になった日本の情報をお届けできればと思っている。それでは皆さんよいお年を。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。