小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第840回
なるほどそういうことか!“空間キャプチャ”がスゴイ「GoPro Fusion」
2018年2月14日 08:00
VRにこだわらない360度カメラ
そもそも360度カメラといえば、リコーの初代THETAの発売が2013年。その後Kodak「SP360」、「Insta360 Nano」、カシオ「EX-FR200」、ニコン「Keymission 360」などと続く。このほかにも、日本国内には入ってきていないベンチャー製品もかなりある。だがこのあたりまでは、全天球画像を視聴者が自由にぐるぐる回してみられるという、AR的な使い方であった。
潮目が変わってきたのは、昨年の「Insta360 ONE」からだろう。撮影後のトラッキングや、ぐるぐる振り回して自分を中心としたバレットタイム動画が撮影できるなど、従来の360度カメラにはない可能性を広げてきた。
そんな中で、GoProからも360度カメラが出るというニュースには、期待した人は多かっただろう。GoPro初となる360度カメラ「Fusion」は、すでに昨年末から、米国では販売が始まっている。国内発売が長らく待たれていたところではあるが、現在すでにGoProの海外サイトにおいて、日本からでも購入可能だ。現時点では、2~3日で発送可能となっている。公式サイトでの価格は、88,000円(税込)。国内正規販売店での発売時期や価格は未定だが、4月頃となる見込みで、その頃に一般量販店でも買えるようになるだろう。
今回は一般発売に先駆けて、このFusionをお借りすることができた。最大5.2K/30fpsで撮影できるというこのカメラの実力を、早速テストしてみよう。
モノとしてはGoProテイスト
まずデザインだが、幅74mm、高さ75mm、厚さ39mmのはんぺん型とでも言おうか。前面背面それぞれにレンズを配置し、ステッチングによって全天球撮影を可能にするカメラである。
ボタン類は少なく、電源/モードボタンと録画ボタンの2つのみだ。本体でのメニュー操作もこの2つのボタンで行なう。GoProユーザーにはお馴染みのインターフェースだろうが、慣れないと難しく感じるかもしれない。ただ、詳細な設定は専用スマホアプリで行なえるので、本体操作の必要に迫られることは少ないだろう。
電源/モードボタンの上には、USB Type-C端子がある。バッテリおよびSDカードスロットは反対側にある。本機の大きな特徴は、記録用にmicroSDカードが2枚必要ということだ。カメラユニットそれぞれを、独立したメモリーカードに記録するというのは珍しい。
上部にある3つの穴は、マイクだ。3点で360度の立体的な集音を可能にしている。底部にはGoProアクセサリを取り付けるためのマウントがある。このマウントは着脱可能になっている。
撮影モードは、「ビデオ」「写真」「夜間写真」「連写」「タイムラプスビデオ」「タイムラプスフォト」「ナイトタイムラプス」の7つがある。アプリではこれらのモードに並列にアクセスできるが、本体メニューでは写真類とタイムラプス類は階層メニューの中にあるので、多少探しにくいかもしれない。
もっとも、メインとなるのはやはりビデオ撮影だろう。ビデオの撮影スペックとしては、以下のようになっている。
モード | 解像度 | フレームレート |
5.2K | 4,992×2,496 | 30fps |
3K | 3,000×1,504 | 60fps |
なお、普通のGoProと同じく、本体のみで水深5mまでの防水機能を備えている。
製品パッケージには、本体、バッテリのほかに、専用ケース、専用グリップ、ヘルメットマウント2種、USB-Cケーブルが同梱される。
専用のFusionグリップは、そのままだとただの棒に見えるが、3段に伸ばすことができ、最長で57cmとなる。またグリップ部が3つ又に開くようになっており、簡易三脚としても利用できる。
簡単に撮影、簡単にシェア
では早速撮影である。とは言っても、要するに全天球が撮れるだけなので、アングルもなにもない。単にグリップに取り付けて録画ボタンを押すだけである。
従来のGoProと同じように、ボイスコマンドにも対応するため、「GoProビデオスタート」と唱えるだけで、撮影が開始される。さらに節電のための「クイックキャプチャー」も使える。これは本体電源がOFFでも、録画ボタンを1回押すと自動的に電源が入り、5.2Kでの動画撮影ができるというものだ。もう一回押すと録画が停止し、自動的に電源が切れる。
撮影中は、カメラとスマホをWi-Fi接続し、専用アプリ「GoPro」でモニターできる。ただタイムラプス撮影中だけは、バッテリ節約のためか、スマホからリアルタイムの画像を見ることができない。
撮影が完了した映像は、当然まだカメラのmicroSDカード内にあるわけだが、GoProアプリからWi-Fi経由で画像をリアルタイムプレビューできる。この時、スマートフォンをぐるぐる動かして、自由なアングルで見ることができる。
この状態では、360度画像のままでトリミングして、YouTubeとFacebookにアップロードすることも可能だ。この場合は、いったんスマホにクリップを転送したのち、アップロードのプロセスに入る。
Wi-Fiによるカメラからスマホへのクリップ転送は、それなりに時間がかかる。実際に測ってみたところ、1.55GB、2分17秒の動画を転送するのに、およそ6分かかった。一応カメラとスマホだけで、現場から動画のアップロードは可能だが、ある程度の作業時間は見越しておいた方がいいだろう。
ステッチングは、カメラからある程度の距離があれば問題なく繋がる。ただし1m程度まで近づくと、ステッチングのズレがわかる。またフレアによる白飛び具合が異なるような場合もステッチングラインがわかるが、これはある程度仕方がないところだろう。
本機には手ブレ補正機能もあるので、アクションのある撮影には比較的強いと言えるだろう。ただCMOSによるローリングシャッター歪みの影響もあり、細かい振動を受ける場合は、雲などの遠景がプルプルしてしまう。
撮ったあとが面白い
いったんクリップをスマホにダウンロードしてしまえば、360度動画そのものだけでなく、他の編集もできるようになる。もっとも興味深いのは、「オーバーキャプチャ」だろう。これは360度動画を再生しながら、スマホを上下左右に動かして好きなアングルを切り取って別動画にできる機能だ。
実は同様の機能は、Insta360 Oneにもあった。「自由編集」というのがそれだ。加えてInsta360 Oneでは、被写体の一部をオートトラッキングして追いかける機能まであるので、機能的にはInsta360 Oneのほうが上である。
ただし、こちらの方は、切り取っている間はずっと録画ボタンを押しつづけていないといけないため、ズーム動作はその押しっぱなしの録画ボタンを上下に動かすという、割とトリッキーな操作を強いられる。
一方GoProアプリのオーバーキャプチャは、録画ボタンがトグル式になっているため、ズームもピンチイン・アウトでできる。スマホのお作法どおりの手順でコントロールができるわけだ。
編集ツールとしては、Windows/Mac用の「Fusion Studio」も提供されている。ソフトウェアを起動してパソコンとカメラをUSB-Cケーブルで接続すると、カメラ内からプレビュー画像が転送される。
スマホアプリでは、アングルはスマホを動かす事で決める事ができたが、Fusion Studioでは画面をマウスで動かす事になる。スマホほど自由なアングル移動ができないが、スマホアプリにはない強力なカラーグレーディングや、より強力なスタビライザーが使えるのがポイントだ。加えて書き出しフォーマットも選択できるので、ビジネス用途のサブツールとしても使えるだろう。
今回はテストしていないが、Adobe Premiere ProとAfterEffects用のプラグインもある。編集画面内で360度映像からの切り出しが行なえたり、VRヘッドセットを使って切り出しアングルを決められたりできるようだ。
総論
今さらGoProが360度カメラ? という疑問もあるだろうが、基本的にこのカメラは従来のAR素材を撮影するためのデバイスとは設計思想が違うようだ。
例えば従来型のGoProでスポーツシーンを撮影する場合、アングルがある程度限られるため、どの向きに取り付けるかを迷うことになる。前がいいのか横がいいのか、あるいは後ろ向きがいいのか。手持ちで撮影するなら、その時々に応じてカメラを振ればいいが、固定してしまう際は、撮影前にある種の決断を迫られるわけだ。
だが360度全方位撮影しておけば、“あとからゆっくりアングルを選んで切り出せるよね”というのがFusionの基本的なコンセプトである。つまり撮影ではなく、“空間キャプチャ”だ。数々の一発勝負を撮影してきたGoProならではの、合理的なアクションカメラなのだと言える。
ただ、従来GoProが得意としてきた激しいスポーツなどに使用すると、レンズ破損の可能性は従来機とは比較にならないほど高まる。平たい面にレンズが出っ張っているので、派手にクラッシュしたりするとまず無事では済まないだろう。
このためGoProでは、壊れても2年間、最大2回までの交換に応じるGoPro Careを推奨している。15,559円の追加になるが、これは入っておいた方がいいだろう。
一発勝負での撮影をする人にも、保険として1台Fusionを回しておくというのは、いいアイデアかもしれない。