小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第822回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

グルグル回してバレットタイム。大化けした360度カメラ、Insta360 Oneがすごい!

360度カメラの行く末

 ごく一部のユーザーからは熱狂的に支持されているのが、360度カメラである。2013年に発売された初代リコー「THETA」は、2つのレンズを小型筐体にまとめ、ボタン1発で全天球撮影できるという、画期的な製品であった。本格的に認知されるには、2015年発売の「THETA S」まで待たねばならなかったが、その頃にはKodakも参戦。さらにNikon、CASIOといったメーカーも加わり、2015~16年頃はかなり活況を呈したものだった。

Insta360 One

 iPhoneに直結して360度撮影ができるInsta360 Nanoも、そうしたブームに乗って登場した製品で、すぐiPhoneに転送してSNSにアップできること、価格もそこそこ安いこともあって、ガジェット好きの人たちを取り込むことに成功した。ただ、360度カメラとしてメジャーなポジションは、やはりリコー「THETA」というのは動かない線であった。

 ところがこの秋に投入された「Insta360 One」は、本体センサーとアプリによる後処理で、信じられない映像を作り出すことに成功、一躍360度カメラのメインストリームに躍り出そうな勢いだ。ハコスコの直販サイトでの価格は42,999円(税込)だ。

 まさに“大化け”したInsta360 Oneを、早速試してみよう。

ボディは横長に

 以前のInsta360 Nanoは、iPhoneにアゴを引っ掛けるようなスタイルであった。一方今回のInsta360 Oneは、Nanoに比べて厚みも増し、筒状のボディとなった。Lightning端子直結という部分は変わらないが、iPhoneに上乗せするようなスタイルである。

筒状のボディとなった、Insta360 One
iPhoneに上乗せする格好で使用する

 Nanoのように引っ掛けるタイプでは、iPhoneのケースが邪魔で装着できない事もあったが、今回のようなスタイルではiPhoneにケースを付けていても支障なく使えそうなので、大きな変更点と言えるだろう。

 前面・背面の少しズレた位置にレンズを1つずつ配置という構造はそのままで、スペック的には4K時代に合わせた格好となっている。

レンズは210度が裏表に1つずつ

 レンズは210度/F2.2で、シャッタースピードやISO感度はアプリで調整できる。撮影可能な映像は、静止画が6,912×3,456の7K、動画が3,840×1,920/30fpsの4K、スローモーションが2,048×512/120fpsとなっている。静止画や動画に関しては、RAW/LOG収録も可能。6軸の手ぶれ補正も内蔵している。

 本体底部には、格納型のLightning端子がある。また充電用のMicroUSB端子、リセット穴もある。連続動作時間は、フル充電でおよそ70分。

本体底部に格納式のLightning端子がある

 レンズに近い側面にはスピーカー、反対側には三脚穴とMicroSDカードスロットがある。iPhoneと接続時はiPhoneのアプリ内に直接画像が記録されるが、本体には内蔵メモリーがないため、スタンドアロンで撮影する場合には、MicroSDカードが必要となる

てっぺんはスピーカー穴
反対側は三脚穴とメモリーカードスロット

 天面の小さな穴はマイクだ。電源ボタンは、シャッターや録画ボタンと兼用となっている。

目立たないマイク穴

 またレンズ保護用として、筒状のケースが付属している。またケースを上下逆さまにして本体を挿入すれば、カメラを垂直に立てておけるスタンドとしても利用できる。

レンズ保護用のケースが付属
ケースの反対側を使って1脚代わりにできる

 なおカメラの設定変更や画像読み取りの専用アプリとして、「Insta360 ONE」が必要だ。起動すると、通常のアプリとは上下が逆になっているが、これはカメラをiPhoneの底部に挿すと、iPhoneを上下逆さまに持たざるを得ないところに起因している。

専用アプリ「Insta360 ONE」

iPhoneとの合わせ技

 では順に機能を見てみよう。iPhoneと接続した状態では、アプリでモニターしながら撮影するというのが基本となる。この時使える撮影モードは、静止画、動画、360度ライブ、アニメーションライブの4つだ。

 静止画と動画撮影では、美顔フィルターが3段階で使用できる。ただ、昨今のスマホカメラアプリのように、極端に補正するわけでもなく、多少白く飛ぶかなという程度である。また顔だけでなく、周囲全ても影響を受けるので、効果の掛かり具合を確認しながら選んだ方がいいだろう。

撮影時にフィルターが使える

 フィルターも9種類あり、それぞれに特徴があるが、ほとんどがカラートーンとコントラストを調整するタイプのものだ。これらの効果は、撮影後でも設定する事ができる。むしろ撮影後にゆっくり効果を選んだほうが無難だろう。

フィルターは撮影後でも設定できる

 撮影後のみの機能としては、静止画のみ「ステッカー」機能が使える。これは特定の部分をマスクするための機能で、他人が写り込んだ場合に顔を隠すのに使うものだろう。

「ステッカー」でプライバシーを保護

 静止画の書き出しは、魚眼、透視、リトルプラネットの3パターンが用意されている。

 動画に関しては、編集機能が面白い。360度撮影した動画の中から特定のアングルを切り出すFreeCapture機能を持つが、ここに色々と仕掛けがある。

動画では「自由編集」が面白い

 画面右下の「自由編集」というボタンをタップすると、編集モードに入る。このとき画像は、iPhoneのジャイロセンサーを使ったARモードになっているので、360度撮影した中のどの部分を切り出したいのか、実際にスマホを空中で動かして決める事になる。編集時は、360度ぐるぐる回転する椅子などに座ってやるといいだろう。

VR表示を見ながら動画に書き出し。ズームもできる

 画面下の白いスライダーは、動画の中のどの時間を切り出すか、頭出しを行なうためのものだ。右の赤いボタンを押し続けると、動画が再生され、押しつづけている間が切り出される。つまり赤いボタンを押しながら、見せたい部分にスマホを向けることで、自由な空間を切り出すことができるわけだ。

 さらに面白いのは、この録画ボタンを上下にスライドさせると、映像のパース感を調整できるところである。例えば最初アップで入ってズームアウトするとか、画角が自由に調整できるのだ。

 時間的に進めながら、ジャイロで画角を決めながら、加えてズームもしながら、ということで忙しいといえば忙しいが、普通ビデオカメラによる撮影とはそういうものなので、よくよく考えればそれほど難しくはない。やってることは、「空間のダビング」に近い。ただ実際にその現場にいないのに、そこにいるかのように空間が再現できるところが面白い。

画角を自由に決められるので、ダイナミックな表現が可能
VID_863.mp4(42.40MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 もう一つ面白い機能が、「Smart Track」だ。これは編集の補助機能とも言えるが、特定の範囲、例えば顔などを選択しておけば、アプリが自動的にこれを追尾してくれるというものだ。特定の人を追いかけるときには、自分でスマホを動かして追いかけなくていいので、フリーで編集するよりも難易度は下がる。

追従範囲を設定するだけで、自動的にアングルが追尾する
Smart Trackによる自動顔追従
VID_886.mp4(45.29MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 そのほか、動画の変換機能としては、ハコスコのような2眼スコープでVR的に視聴できるよう、2画面への書き出し機能もある。

VRスコープ向けに2画面書き出し機能も

 ライブ配信機能である360度ライブとアニメーションライブは、ほぼ同じ機能だ。違いは、360度映像のコントロールをどっちが握るかである。360度ライブは、撮影者が配信時に全天球の中から見せたい映像を切り出しながら放送する。一方アニメーションライブの場合は、配信時はリトルプラネット状態で配信し、視聴者が自分で見たいところを自由に切り出すというスタイルだ。

ライブ配信準備中の画面
360度ライブ配信のサンプル
アニメーションライブの配信サンプル

 配信先は、Facebook、YouTube、Periscope、Weiboとなっているが、AdobeのライブストリーミングプロトコルであるRTMPにも対応するようだ。従ってRTMP対応のサーバに対しても配信できるものと思われる。今回はYouTubeに対してテスト配信してみた。解像度、フレームレート、ビットレートは配信開始前に選択できるので、通信状況に合わせて選択する。

単体動作とバレットタイム

 続いて単体での撮影機能も見ておこう。シャッターボタンは、電源ボタンで代用する。1回押すと静止画、2回押すと動画撮影だ。3回押した時の動作は、アプリの設定画面で、選択することができる。割り当て可能な動作は、タイムラプス、タイマー撮影、バレットタイム、インターバル撮影の4つだ。

3回クリックの動作を事前に設定しておく

 また単体撮影ではあるものの、iPhoneとBluetooth接続できる距離であれば、iPhoneからのリモート撮影もできる。カメラを固定して、撮影者自身が写らないように隠れて撮影したい時もあるだろう。撮影時には、画面上でモニターできないが、撮影後の静止画はサムネイル解像度で転送されるので、一応確認はできる。

Bluetoothを使ったリモート撮影も可能
撮影した画像はサムネイルで確認できる

 本機でもっとも注目度の高い機能が、「バレットタイム」だ。基本的にはスローモーション撮影機能なのだが、紐を付けてぐるぐる振り回して撮影すると、中心に向かってグルッと回るスローモーション映像を作ってくれるという、不思議機能である。

 製品には三脚穴にねじ込むための金具と、紐が付属する。既に発売された製品にはオレンジ色の組紐が付属していたようだが、今回ハコスコよりお借りしたパッケージでは、組紐ではなくテグスに変更されていた。

バレットタイム撮影用の付属品。紐はテグスに変更されたようだ

 単に1本の紐にくっつけて振り回すだけなので、当然本体もZ軸方向にぐるぐる回転する。したがって映像自体も、上下がぐるぐる回転している映像になると思いがちだ。だが出来上がった映像は、ちゃんと上方向を確保しており、さらに回転の中心を向くように自動的に切り出されている。またテグスが写り込んでいるはずだが、その部分はステッチングにより消去されている。これはなかなかのアイデアだ。

バレットタイムで撮影
VID_545.mp4(88.47MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 撮影者が必ず写り込むので、一種のセルフィーだと言える。またスローモーションなので、その一瞬を引き延ばしたパーティショット的な感覚で楽しめる機能だ。振り回す範囲が必要なので、そこそこ広い場所でしか使えないが、屋外でのレジャーでは楽しい映像が撮れるだろう。

 注意点としては、120fpsで撮影するので、かなり光量のある場所で撮影する必要があることだ。また紐がテグスに変更されたため、指でぐるぐる回していると摩擦でかなり痛い。指サックなどを指に装着してから回すのがいいだろう。

 撮影された映像は、アプリ内で範囲指定して別動画に書き出すことができる。また描き出した動画は、SNSやメッセージサービスで共有できるほか、iPhoneの「写真」にも書き出すことができる。

編集後の動画は多くのサービスに向けて発信できる

 世の中的には“インスタ映え”する写真が求められているところだが、バレットタイムはそれ以上にリア充アピール映像としてのインパクトがある。

総論

 Facebookでは早くから360度写真や動画、そしてネット中継などに対応し、実際にそういうコンテンツを見る事も多い。知り合いの飲み会の360度写真などをぐるぐる回していると、その場に参加したかのような気分になれる。

 そうした報告的な用途としては、360度写真は1つの方法論として確立し始めたようにも思うが、動画コンテンツとなると、なかなか全周囲写ってOKな環境もなく、またトークなどは周囲が写る意義があまりないなど、表現手法として方法論が確立されていない一面もあるように見受けられる。

 恐らく視聴者が自由に見回せるというVR的体験は、もっと体験としてガッツリしたイベント的なものなら納得だが、ちょこっと見る程度のものが一番面倒くさいんである。電車の中でそういうFacebookの投稿を見つけたからといって、スマホ持ってぐるぐる回るわけにもいかないのだ。

 そんな中、バレットタイムは新しい表現手法として、アート方向に引き延ばしていける可能性を秘めている。やり方がシンプルであまりバリエーションがないようにも見えるが、そうした縛りがあった方が、工夫のしがいがあるというものだ。

 本体の質感も上がり、単体動作も可能になったことで、360度カメラとしては、ポストTHETAの座に一躍上り詰めた感がある。特にスポーツフィールド撮影手法としては、GoProに次ぐ表現を手に入れたカメラとして、注目されるのではないだろうか。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。