小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第841回
4K、8Kも快適編集!? 完全プロ仕様となった「iMac Pro」の実力
2018年2月21日 08:00
映像のプロとiMac
2017年6月のWWDCにて、iMacシリーズのフラッグシップとなる「iMac Pro」が発表された。Intel Xeon Wの8コアから18コアまでのラインナップがあり、同時にメモリやストレージサイズもカスタマイズできる。スタンダード構成でも558,800円、最高では1,460,800円となる。17年末から順次販売が開始されたが、18コアモデルの発売は18年2月にずれ込んだようだ。
これまでデスクトップ型Macの最高峰はMac Proであったが、これは2013年の発売であり、もはや力不足の感は否めない。その点でもおよそ5年ぶりとなるプロ向けモデルは、注目を集めている。
パソコン歴が長い方は、iMacと言えばジョブスがAppleに戻ってきて最初にヒットさせた、ボンダイブルーのディスプレイ一体型Macを思い出すだろう。1998年の事である。その後、派手な5色展開となり、半透明パソコンで一大ムーブメントを作った。液晶ディスプレイ一体型になったのは2002年のiMac G4からで、2006年にIntelベースとなり、以降次第に薄く、大型化しながら現在まで続いている。
ディスプレイ一体型というと、初心者モデルのように思えるかもしれないが、映像の専門学校等では2003年頃から一括導入されたりしていた。現在もチームで動く合成やCG会社での導入は多い。仕様が同じなので、ディスプレイのキャリブレーションが一致させやすいからだ。2014年に5Kモデルが出て以降は、映像編集を主とするポストプロダクション等での導入も進んだ。
そんな流れの中で、Proモデルが登場したわけだ。今回は4K・8Kの映像編集用途を中心にテストしてみたい。
カラーコーディネートされたボディ
すでに述べたように、iMac ProはCPUのタイプ、メモリー、ストレージ、グラフィックスエンジンがカスタマイズできるため、かなり幅広いスペックとなる。一方で「標準構成」と言われるスペックは、以下のようになっている。今回はこのマシンをお借りしている。
スペック一覧 | |
CPU | 3.2GHz 8コアIntel Xeon W (Turbo Boost時最大4.2GHz) |
メモリ | 32GB 2,666MHz DDR4 ECC |
SSD | 1TB |
GPU | Radeon Pro Vega 56 8GB |
Net | 10Gb Ethernet/IEEE 802.11ac Wi-Fi |
ポート | Thunderbolt 3×4、USB3.0×4 |
ディスプレイ | 5,120×2,880 27型 Retina 5K P3 500nit |
カラーは落ち着いたスペースグレイで、MacBookProのスペースグレイと同じ色。キーボードやマウスも同じカラーだ。マウスの代わりにMagic Trackpad 2も選べる。なおこの色のキーボード、マウス、トラックパッドは単体発売しておらず、iMac Proと同時でなければ購入できない。USB-Lightningケーブルもスペースグレイのものが付属するなど、徹底している。
ディスプレイの背後にアーキテクチャすべてを背負っており、肉厚のアルミ脚部で支えられている。電源は脚部の穴から通すようになっており、他にアクセサリを繋がなければ、ケーブルは電源だけである。
Thunderbolt 3とUSB3.0端子の脇にはSDカードスロットとイヤフォンジャックがある。背面なので抜き差しはしづらいが、デザインを考えるとここしかないという事だろう。
iMac Proのポイントは、強力なプロセッサとGPUである。これによってVRのツールもストレスなく動かせることができるようになった。これまでVRのプラットフォームはほぼWindows PCだったが、Macでの道もようやく開けてきた。
各アプリでのベンチマークは、公式サイトに記載されている。ただし対象が18コアか10コアのiMac Proとなっており、標準構成でどれぐらいのパフォーマンスなのかは気になるところである。
ベンチマークソフト「Geekbench 4」で計測した結果、以下のようになった。同じ8コアのMac Proの約1.33倍といったところである。現時点で8コアのMac Proは398,800円なので、価格割合で行けば妥当な比率だとも言えるが、Mac Proも鋭意開発中という噂も聞こえてきているところから、今のMac Proを選ぶ意義はあまりない。
ストレージに関しては、これもプロ用ベンチマークとしては定番のBlackMagic「Disk Speed Test」で計測した。
あいにくテスト項目は2Kまでしかないが、10bit YUV 4:2:2を余裕で扱えるパフォーマンスとなっている。昨今の映像編集としては、やはり4Kや8Kが扱えるパフォーマンスなのかが気になるところである。
4K編集は快適
4K編集は、コンシューマカメラを考えても昨年までは4K/30pが主流であったが、今年になってからは4K/60p、あるいは4K/HDRを編集する可能性が出てきた。HDRは、具体的にはHLG(ハイブリッドログガンマ)で、放送でHDRと言えば、これ以外には考えられない。
まず最初に4K/30p/HLG編集の例を見ていこう。素材は本レビューで撮影した、ソニー「FDR-AX700」と、パナソニック「GH5S」で撮影したものを使用している。
FinalCut Pro X(以下FCPX)は、iMac Proの発売タイミングに合わせて、HLG対応のアップデートが行なわれた。素材の扱いとしては、10bitファイルになっただけで従来どおりだが、色域と輝度の選択が必要となる。
FCPXの場合、色域の設定は「ライブラリ」で、輝度の設定は「プロジェクト」で行なう。ただこのままでは、編集中のプレビュー画面は高輝度部分がクリップした状態だ。
これはソフトウェアのプレビュー画面表示自体がHDR化されていないからである。加えてiMac Proと言えどもディスプレイは500nitしかなく、HDRディスプレイではない。したがって擬似的にHDRガンマをSDRに変換しなければならない。環境設定の「HDRをRaw値として表示」にチェックを入れると、表示上のガンマ変換が行なわれる。
撮影してそのままのMP4ファイルだが、編集レスポンスとしては特に最適化(ProRes422変換)することなく、ネイティブで快適に扱う事ができる。ただ、実際にプロコンテンツを制作するとなると、やはり編集中の画面はHDR表示で見たいところだ。
こうなると、Thunderbolt 3端子から何らかの形でHLG出力を得ることが必要になる。現時点でHDR出力に変換できるインターフェースとして動作確認が取れているものとしては、AJAの「Io 4K Plus」がある。もちろんプロ向けの製品であり、各種I/Oとしては十分ではあるのだが、価格が318,000円となる。
プロ用周辺機器と考えればそれほど高くはないが、少なくともHDMI2.0aの出力ができれば、一般のHDR対応テレビを使ったモニタリングが可能になる。もう少し手軽な価格のインターフェース登場に期待したいところだ。Macの周辺機器としては、ThunderboltからHDMIの変換機は沢山あるが、HDRに対応するHDMI2.0aあるいは2.0bの変換機はまだ市場にないようである。
4K/60pの編集も試してみた。手元の素材では、「GoPro Karma」で撮影した空撮の映像がある。
同じ4Kでも60pともなれば負荷が非常に高く、従来のマシンではなかなかリアルタイム再生が難しいところだったが、iMac Proではストレスなく60pでの再生が可能だ。これもネイティブファイルのままである。感覚的には、MacBook ProでHD動画を編集した時と遜色ないレスポンスである。
現状のバージョン10.4では、強力なカラーグレーディングが内包されたのがポイントだ。カラーグレーディングを行なうと、再生が開始されるまで3秒ほど待たされるが、一度再生を始めれば引っかかる事なく再生できる。
ちなみに1分の4K/30p HLG作品をCompressorでProRes QTに変換するのにかかった時間は、1分19秒であった。テロップも何もないカット編集ではあるが、ネイティブファイルの書き出しがこの速度で終わるのは、かなり高速と言える。
8K編集は条件次第
一方で8Kはどうだろうか。現状では8Kが撮影できるコンシューマ機はなく、現時点ではプロ業務でしかあり得ない事になるが、50万円台のマシンでどれぐらいできるのか気になるところである。
そこで今回は、「RED WEAPON 8K S35」で撮影した8K/60pのREDCODE RAWファイルを用意した。REDCODE RAWをFinalCutPro Xで扱うには、「RED APPLE WORKFLOW INSTALLER」でコーデックとプラグインをインストールする必要がある。
これにより、R3Dファイルをネイティブで扱えるようになる。今回SDR、Log収録双方のファイルを読み込んでみたが、確かにネイティブファイルのままで編集は可能なものの、リアルタイム再生ができるのは数秒のみで、あとはコマ落ちで再生される。
一方これらのファイルを最適化(ProRes 422変換)すれば、コマ落ちもなく快適に編集する事ができた。最適化は20秒程度のクリップで2分程度なので、ちょっと別のことをしてるうちに終わる程度である。ネイティブ編集にこだわらなければ、この程度のコストで8K/60pが編集できるのは、プロユーザーにとっても恩恵は大きい。
ただファイルサイズが4倍ぐらいになるので、1TBの内蔵ストレージだけで長尺の編集が可能かと言われれば、それは難しいだろう。SSDの高速な外部ストレージは必須という事になる。
ちなみに8K/60p SDRの1分作品をCompressor出力するのに、3分13秒であった。ProRes HQからProRes HQの出力ではあるが、8K/60pがこの速度なら、現時点では十分だろう。
一方映画やCMなどでは、素材交換フォーマットとしてDPXを用いることがある。DPXとは静止画の連番ファイルで、一般的には10bitのCineon Logで映像を記録する。本格的なカラーグレーディングに対応できるのが特徴だが、ファイルサイズが非常に大きく、扱うのはなかなか厄介だ。
8Kテレビを既に発売するなど、8Kに力を入れているシャープからDPX 8Kのサンプル映像もお借りしたが、DPX 1枚のサイズが132MBもあり、60pともなれば3分の映像で3TBを優に超えるサイズとなる。当然そのままでは内部SSDにはコピーできない。
そもそもFCPXはDPX直接のインポートをサポートしておらず、外部のツールを使ってQuicktime形式に変換する必要がある。Apple純正としては、エンコーダのCompressorがDPX連番ファイルの変換に対応している。ProRes 422 HQあたりに変換するのが一般的だろうとは思うが、定速なHDD相手での変換では、3分のクリップでも5時間半ほどかかる。ただ筆者が試してみたところ途中でエラーが出て完遂できなかった。HDD側の速度のせいかもしれない。
DPXが直接扱える変換・グレーディングツールとしては、BlackMagic Designの「DaVinci Resolve」が無償で使えるツールとして最高峰だと思うが、残念ながら無料版では8Kの出力をサポートしないようだ。有償版のDaVinci Resolve Studioは最高で16Kまでサポートしている。
最後にVR編集についても少し触れておきたい。2017年12月のアップデートで、FCPXでも360度VRビデオ編集をサポートした。HDR対応と同じく、プロジェクト設定でビデオフォーマットを360度に設定すると、360度VR映像の編集が可能になる。今回はGoPro Fusionで撮影したサイドバイサイドの8K映像を取り込んでみたが、サブ表示で切り出し画面が確認できるなど、VR用HMDがなくても困らないようにはなっている。加えて編集しながらフィニッシュの状況を確認できるよう、ヘッドマウントディスプレイの接続もサポートしている。
総論
150万円近い最高スペックなら、ほぼなんでもできることはわかっているのだが、価格的に約1/3の標準構成でどこまでできるのかは、プロユーザーのみならず気になるところだろう。
結論からすれば、モニター込みのオールインワンPCでありながら、ProRes 422に変換すれば8K編集もストレスなく可能だ。もちろん、カラーグレーディングや合成、テロップなどを入れていけばそれだけ負荷は高まり、レンダリング時間もそれに比例して伸びるのはやむを得ない。とは言え、50万円台のマシンで8K/60p素材整理やカット編がバリバリやれるのは、ポストプロダクションだけでなく大学の研究室、専門学校などでも重宝されるだろう。
一つ課題があるとすれば、iMac Proの中だけですべて閉じていれば「編集はできる」とは言えるが、4K/HDRや8Kをピクセルバイピクセルで外部ディスプレイに出力して確認したいとなると、そのインターフェースをどうするかが、当面悩みの種となりそうだ。
とは言え、今こうして実機が出てきて、実際にちゃんと作業できるということがわかったからには、サードパーティの動きもiMac Proをターゲットに、活発になることは十分に考えられる。
このマシンの可能性がどこまであるのか、今後はユーザー間の情報交換で盛り上げていって欲しい。