小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第962回
巣ごもりのストレス解消! どこでもドラム「Freedrum」を振る
2020年11月18日 08:30
ドラマーに朗報!
巣ごもり需要として、電子楽器の売上が伸びている。特に電子ピアノは、子供の頃に習ったままという人が約2,000万人はいるのではないかと推測されており、潜在的な需要は大きいと言われている。
ギターもじゃないか、と思われるかもしれないが、ギターは弾ける人なら1本ぐらいは持っているものだろう。使わない時はしまっておけるので場所を取らないからだ。一方ピアノは使ってない時も片付けられないので、そこそこ場所を取る。いくら電子ピアノとはいえ、買うにはそこそこのモチベーションが必要になるのである。
ピアノ以上に場所を取るのがドラムだ。元々生ドラムは場所どころか音量が調整できないので、自宅で練習できる人は少数派だろう。そこで電子ドラムの出番だ。ロック系の楽器なら一通りなんでもできる筆者も、2014年にローランドの「TD-11K」というモデルを購入した。
埼玉で一軒家暮らしの時は思いっきり練習できたのだが、ここ宮崎のマンション暮らしでは振動が下の人に迷惑ではないかということ、また展開する場所もないということで、いつか展開できる日を夢見てずっと押し入れに入ったままだ。
そんなときに見つけたのが、クラウドファンディングサービス「GREEN FUNDING」で募集していた「Freedrum」である。センサーをスティックに付けて、エアドラムなのに本当に音が出せるというデバイスである。早期購入でコンプリートキットが29,200円(税込)だというので、さっそく支援することに。
支援したのが5月、すっかり忘れかけていた11月頭に、筆者宅へ到着した。送り元がなぜかクラウドファンディングサイト「きびだんご」からになっていたが、GREEN FUNDINGが下請けだったのかプロジェクトが譲渡されたのか、そのへんの事情はよくわからないが、とりあえずモノは届いたのでよしとしたい。
どこでもエアドラム「Freedrum」をさっそく試してみよう。
センサーとアプリだけでドラムを実現
届いたセットはシンプルだ。同形のセンサー4つとスティック、あとは固定するためのゴムバンド、充電用ケーブルである。細かい説明書などはなく、セッティングやチュートリアルはサイトを見ながらやっていくスタイルである。なおスティックとセンサー2つのスターターキットもあるが、やはり足もないと面白くないので、経験者ならコンプリートキット一択かなと思う。
センサーは長さ約8cmの長方体で、中央やや下にマルチカラーLED付きのボタンが1つある。底部にはUSBの充電端子がある。まずは4つ全部をフル充電したのち、ファームアップ専用アプリ「Sensorware」でアップデートを確認する。ただこのアプリ、ちゃんとアップデートしてもさらにアップデートをかけるとアラートもなしに上書きしにいくので、せめてバージョンチェックぐらいはして欲しいところである。
ファームアップが完了したら、付属のゴムベルトを使ってスティックに装着、足にも同様に装着する。演奏用アプリケーションは「Freedrum」という別アプリになる。アプリはiOSとAndroidにあるが、最初Android(Pixel 4a 5G)で試したところ、スマートフォンのヘッドフォン端子から音声出力できなかった。スマホのスピーカーでしか聴けないのでは物足りない。
初代iPad Proで試したところ、こちらではヘッドホン出力ができた。Bluetoothイヤフォンで聴くのもいいが、レイテンシーがあるとプレイに支障が出る可能性もあるので、やはりアナログ端子付きの機器で使いたいところである。
まずFreedrumアプリの左上にある設定から、Connectionsを選んでセンサーを接続していく。この時点では、4つのセンサーはまだ区別ができない。
接続できたらSensor Configurationに移り、センサーを動かしてみる。すると動いたセンサーは左側に赤いマークが出る。これで、表示上のどれがどのセンサーなのかがわかる。スティックのセンサーにはStickにチェック、足に付けたセンサーにはFootにチェックを付けると設定は完了だ。
次に、ドラムセットの構築である。Freedrumのセットは、下側のレイヤーと上側のレイヤーの2層に分かれている。下側にはスネアやハイハット、タム類を、上のレイヤーにはシンバル類をアサインすると、本物のドラムセットとだいたい同じ配置になる。ドラムのパーツとしては以下のとおり。
- HIHAT Tokai
- SNARE Tokai
- HI TOM Tokai
- MID TOM Tokai
- LOW TOM Tokai
- RIDE Tokai
- ICE BELL Tokai
- CHINA Tokai
- SPLASH Tokai
- SNARE Maple
- LOW TOM Maple
- HI TOM Maple
パーツのほとんどに「Tokai」の表記があるが、日本の楽器メーカー「TOKAI(東海楽器)」と何か関係があるのか、現時点では不明である。
右側にあるのが、各パッドのレベルと定位を決めるノブだ。ドラムパーツの位置と同じ定位にすると、リアリティが増す。またリバーブもあるので、生音ではなく音卓を通った後のようなサウンドを楽しむこともできる。
思ったより繊細なプレイ
多くの人が気になっているのは、どうやって実際のプレイと発音を組み合わせているのか、という部分だろう。Freedrumの場合、まずプレイする前に体の前でスティックを揃え、センサーボタンを1回押してやる必要がある。これにより、押した位置が「センター」にセットされる。
本物のドラムセットの場合、スネアドラムは足の間にあるので、だいたいそこがセンターになる。タムはスネアから上にあるのが普通だ。だがFreedrumでは、下のレイヤーが完全に横並びなので、スネアと同じ面にタム類が並ぶことになる。タムを多く並べると、そのぶんスネアの位置が左に押されてセンターに来なくなる。
スネアを無理矢理センターに配置させるためには、センター位置のセットを少し右寄りにしてやる必要がある。もちろん、それはスネアだけがセンターに来るわけでなく、ドラムセット全体が右寄りにセットされることになるので、そのつもりで叩く必要がある。あるいはスネアをセンターにするために、下のレイヤーはハイハットとスネア、ロータムの3つにしておくという手もある。
センサーは、平行位置で振ると下のレイヤー、上に傾けて振ると上のレイヤーの音が鳴る。また左右の位置は、センターにセットしたところからどれぐらいの角度なのかで決まる。センサーを左右にゆっくり振ると、LEDの色が変わる。その色に該当するところの音が鳴る、というわけだ。
つまりモーションセンサーによってスティックを振って止めたタイミングを検知、ジャイロセンサーで高さと方向を検知することで、どの音を発音するかを決めるというわけだ。シンプルなセンサーでも、検知によってかなり正確なアクションが読み取れることは、すでに任天堂 Wiiリモコンで実績があるところだ。
足のセンサーは、かかとを付けて足を上に上げて下ろす、いわゆる「踏み込む」アクションを検知して、バスドラムを鳴らす。足のセンサーは両方同じ反応になるようなので、左右の足で同じ踏み込むアクションをすると、2バスになる。
左足のセンサーは、つま先を付けてかかとのほうを上げるとハイハットオープンになるそうだが、筆者の環境ではちゃんと反応する角度が見つからない。ハイハットオープンは、スティックをひねってセンサーを横に傾けて振ることでもオープンの音になるので、それでカバーできる。もともと本物のドラムでもハイハットのオープンは足のタイミングが難しいので、無理に足のセンサーでやるより、手首をひねる方が確実と言えば確実である。
実際に演奏してみて感じるのは、空中で振って止めると音が出るのだが、何も物理物にぶつけずにピタリとスティックを止めるのはなかなか難しい。そもそも本物のドラムではそのようなアクションは不要なので、これがリアルドラムの練習として使えるのかは微妙なところだ。特にスネアはリズムの要なので、空中で止めるよりスティックをふとももに当てるなど、なにかに当てて止めるほうがリズムは取れるだろう。
個人的に難しいのはタム回しだ。下のレイヤーはスティックを平行かやや下向きに振らないと鳴らないので、本物のタムよりもずいぶん低い位置を叩くことになる。スティックにちょっと角度が付くと、上レイヤーのシンバルを叩いてしまうことになるので、なかなかうまく演奏できない。
キックも本物とは微妙に違う。本物のキックペダルは、足首よりも膝を下ろす感じで踏むものだ。そういうアクションでも音が鳴らないわけではないが、かなり小さい。踏み込むときちんとなるのだが、実際のドラムではシンコペーションを打つときぐらいしか足首は使わないのではないだろうか。長時間の演奏では足首に疲れが出る。
細かい違いを言い出せばキリがないのだが、ほぼ無音でドラムが演奏できると言う魅力は大きい。本物とは別のものとして練習すれば、かなり普通に演奏できるようになるように思える。
総論
センサーを横にひねると別の音が出るというのは、なかなか面白い発想だ。今はハイハットとスネアしか対応していないようだが、他の音色も自由にアサインできるようになれば、ドラムの代わりというよりも別の楽器としての可能性も出てくるだろう。
可能性という事で言えば、ハードウェア的には簡単なセンサーながら、複数の音源を鳴り分ける手法は、他の製品にも色々応用できそうだ。本製品はGaragebandとも互換性があり、Freedrumの演奏情報をガレージバンドに録音することもできる。録音されるのはMIDIデータなので、あとで違うドラムセット音源で再生することもできる。
ただ、シンプルな仕組みでやっていることもあり、演奏しているうちにだんだんセンター位置がずれていったりする事がある。コツとしては、あまり力まずに軽く振る程度がいいようだ。あまり強く振ると、慣性でセンサーがクルッと反対向きになったりする。そうなると音がならなくなるので、本当のエアドラムになってしまう。
既成の曲に合わせて演奏するのもよし、ストイックにリズムを刻むのもよし。本機のポイントは、座るところさえあればどこでもドラムが叩けるという事だろう。物理的に太鼓の反動を使うダブルストロークやロールなどは演奏できないが、家庭内で静かにドラムが楽しめるのは、電子ドラムでもできなかった領域だ。
楽器もフィジカルなものから、バーチャルなものへ転換していく第一歩なのかもしれない。