小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1110回
カメラもスマホもOK! 縦横対応、AI追従中型ジンバル「Feiyu SCORP Mini 2」
2024年1月25日 08:00
広く認知されたジンバル
モーターを使って3軸でカメラを安定させるスタビライザーとして、ジンバルはプロ業界ではもはや当たり前になっている。昔のハンディ撮影は肩に担ぐために安定していたが、現在カメラが小型化して肩まで届かないため、ジンバルを使って安定性を稼ぐのがスタンダード……とまではいかないが、珍しくない光景となった。
コンシューマ用としても、スマートフォン用ジンバルなどが一時期人気を博した時期もあったが、本格的にジンバルカメラの良さが再認識されたのは、DJI Osmo Pocket 3の大ヒットがあったからだろう。10月25日に発売された同製品は、昨年11月のBCN売上調査ビデオカメラ部門で「Osmo Pocket 3 クリエイターコンボ」が1位、「Osmo Pocket 3単品」が2位という快挙を成し遂げている。
一方で撮影のほうはデジタルカメラやアクションカメラ、スマートフォンなど非常に多様化しており、どれもジンバル撮影したいというニーズは強い。それぞれに専用のジンバルもあるが、それらを1台でカバーできるジンバルが登場した。
「Feiyu SCORP Mini 2」は、今年1月からGreen Foundingにてクラウドファンディングが開始されており、執筆時点ではすでに目標額に到達している。22% OFFとなる早割スタンダードパックでは4万円を切る価格となっており、中型ジンバルとしてはかなり安い。
配送予定は今年3月末からということだが、一足先にレビュー機をお送りいただいている。オールマイティに使えるのがウリというこのジンバルを、早速試してみよう。
グリップ付きのユニークな形状
本機は本格ジンバルを多数輩出するFeiyuとしては小型のモデルだ。小型とはいってもスマホ用ジンバルなどはもっと小型なので、一般的には中型という認識になるだろう。
カラーバリエーションとしてはブラックとホワイトがある。一般にはガラスからの写り込みを嫌ってブラックしかないのが普通だが、ホワイトモデルの存在はかなりコンシューマを意識しているものと思われる。
デジタルカメラが乗せられるクラスのジンバルには、シングルハンドル型とデュアルハンドル型がある。デュアルハンドル型はカメラを挟んで両側にハンドルがある。一方シングルハンドル型は垂直に1本のグリップがあるのみで、それを片手、または両手で持つのが基本になる。
一方本機は、垂直のグリップハンドルから後ろにハンドルが突き出すという格好で、縦方向のデュアルハンドルとなっている。またハンドルの先端に操作部やタッチ式メニューディスプレイがあり、操作系がグッと手前に突き出している格好だ。
製品には多数の固定用治具が同梱されており、一眼レフ、ミラーレス、コンパクトデジカメ、アクションカメラ、スマートフォンに対応する。要するにバランスを取るためのアームの可変範囲が広いので、ペイロード1.2kgまでの三脚ネジ穴付きのカメラなら何でも乗るし、スマホも付属クランプにはまる範囲なら何でも乗せられるわけである。
左手側にダイヤルがあり、パン、チルト、ロールをマニュアルで操作できる。3モードの切替は、ダイヤル手前の丸ボタンだ。
カメラは横向きだけでなく、縦向きでも装着できる。L字型の固定具の先にもう1つ固定具があり、2つ使うと横向きに、L字型を使わなければそのまま縦向きにできるという構造だ。
一方、ジンバル側でも、カメラを縦向きに回転させて対応する「縦撮り」モードがある。ただ回転軸の都合からカメラが真上を向くので、撮影時はジンバルを水平に構える必要がある。
正面にはUSB-Cポートが2つある。下側がカメラコントロールおよびUSB給電用で、上側が拡張ポートとなっている。現時点では、このポートの使い方はマニュアルにも記載がない。
その上には、対人センサーがある。ここに向かってジェスチャーすることでシャッターを切ったり、顔認識して自動追従するといったAI機能が使える。通常顔認識できるのはカメラ側だが、本機の場合はジンバル側に追従用センサーがあるので、カメラとジンバルが繋がっていない状態でもジンバルだけで追従できるのがミソだ。
パッケージとしては、各種治具を同梱した「スタンダードパック」と、さらに専用キャリングケース、小型LEDライト、カーボン製延長ロッドを同梱した「コンプリートパック」がある。
多彩なコントロール
ジンバルはカメラと接続することで、より多彩な機能を発揮するようになる。逆の言い方をすれば、ジンバルに乗っているカメラは手では触れなくなるので、遠隔でコントロールするしかなくなるわけである。
本機もジンバルとカメラを接続することで、絞りやシャッタースピードの変更、録画の開始や停止といった機能が使えるようだ。今回はソニー「ZV-E10」とUSBでPC接続を試みたが、カメラ側は相手をPC接続として認識しているものの、ジンバル側が認識しなかった。今後ファームアップなどで対応するのかもしれない。
一方ジンバルにはBluetooth接続機能があり、これと「ZV-E10」とは接続できた。絞りなどのコントロールはできないが、動画撮影のスタートストップはジンバル側でできる。なおPC接続モードでジンバルとUSB接続していると、ジンバル側からカメラへ給電できる。
ジンバルは、手持ちでも安定した撮影ができるというのがウリだ。本機ではジンバルモードの切替で横撮り、縦撮りに対応できるが、スタビライズの精度はどちらも変わりない。
ジンバルによるスタビライズは当たり前にできるとして、それ以外にジンバル側で提供されている特殊シーン撮影機能がいくつかある。
モード | 機能 |
タイムラプス | モーションラプス、静的タイムラプス、ハイパーラプス |
自動回転 | 左に1回転、右に1回転、左回転を続ける、右回転を続ける |
パノラマ撮影 | 9マスパノラマ、180度、カスタマイズ |
縦撮り | カメラが縦向きになる |
セルフィー | カメラが180度回転 |
トラックビデオ | 指定ポイント間を繋ぐように回転 |
このうちタイムラプス、パノラマ撮影はジンバル側のシャッターコマンドをカメラ側が受け取らなければならないので、USB接続が必須となる。Bluetooth接続では、写真撮影のシャッターが連動しなかった。一方動画モード、例えばトラックビデオなどは、Bluetooth接続で動画撮影スタートまでジンバル側で自動制御できた。
また単純なパンであっても、ダイヤルを使う事で滑らかに撮影できる。また「トラックビデオ」を使えば、ポジションを決めた数点を繋ぎながら、何度でも同じアクションを撮影してくれる。
縦撮りとセルフィーはカメラ角度が変わるだけなので、もともと撮影機能とは連動する必要はない。なおセルフィーモードは、トリガーレバーを3回押しても動作する。
またジンバルのコントロールは、スマホとBluetooth接続してアプリ「Feiyu Scope」を使うことで、遠隔で操作できる。ジンバルは固定して一定の動作をさせる場合に便利だろう。
基本的にはスマホ単体とできることは同じだが、スマホのジャイロセンサーを使って、スマホの傾きでジンバル操作もできる。スマホを水平にした状態が正面なので、スマホカメラを向けている感覚とはちょっと違ってちょっと変な感じもするが、ジョイスティック操作に代わる柔軟な操作が可能だ。
ジンバル連動撮影
一方、スマートフォンで撮影する場合は、USB接続が動作するので、ジンバル連動機能が使える。この場合は、専用カメラアプリ「Feiyu ON」を使用する。機能をジンバル側で選び、細かい設定はスマホ側でやるという格好になる。スマホ連動のときは、タイムラプスは「モーションラプス」のみになる。静止画のパノラマ撮影では、スマートフォン側で実装されている機能の方が多い。
モード | 機能 |
360度パノラマ | 横方向に1回転してパノラマ撮影 |
180度パノラマ | 横方向に180度回転してパノラマ撮影 |
超広角 | 3×3で広角撮影 |
自由なパノラマ | 横方向にジンバルを操作して自由な範囲でパノラマ撮影 |
快速パノラマ | 2×2で広角撮影 |
ライトレールモード | 残像が残せる |
重畳画像 | 多重露光撮影 |
SuperPanorama | 横方向に5枚撮影してステッチング |
連動撮影としては、ジェスチャーでカメラを操作するAI機能が面白い。OKポーズを見せる事で、ジンバルが自動トラッキングを行なう。ただ、カメラがどのように捉えているかは、ある意味カメラのレンズ次第だ。なるべく広角のカメラで撮影し、あとからトリミングで画角を調整した方がいいだろう。
静止画では、手のひらを広げてみせると、セルフタイマーでシャッターが切れる。上記のパノラマ系撮影と併用できるので、広い絵でセルフィー撮影ができる。またジンバルトラッキングと組み合わせれば、1箇所に設定したカメラから様々な方向で写真が撮影できる。いわゆるレイヤーさんなどは、人に負担をかけず1人で思う存分いろんな撮影できるので、便利かもしれない。
また両手でLマークを作ると、カスタムフレーミング機能が使えるとあるが、いくらジェスチャーしても認識されなかったので、どういう動作になるのか不明だ。まだ実装されていないのかもしれない。
総論
ジンバルの機能としては、ちょうど1年前にご紹介した「DJI RS 3 MINI」と、価格帯や扱えるカメラのクラスは同じぐらいである。カメラを縦横に付けられるのも同じだ。
ただ、Feiyu SCORP Mini 2は、スマホのような軽いカメラも付けられることや、ジンバル内にAIとセンサーを搭載してトラッキングやジェスチャーコントロールに対応するなど、カメラと連動ができなくてもジンバル単体でできる事が多い。
また構造上のメリットとしてハンドルが2本あるので、ローアングルからハイアングルまで、様々な持ち方ができる。また付け替えなしで縦撮りにも変更することができるので、縦撮り横撮り両方を撮影する場合には重宝するだろう。
一方ペイロードは「DJI RS 3 MINI」のほうが上で、こちらは2kgまで載せられる。また本体重量も850gなので、軽量な割にはパワーがあるジンバルだ。
Feiyu SCORP Mini 2は、現時点では機能的にまだちゃんと動かないところもあるが、クラウドファンディングの早割ならかなり安く購入できる。1.2kgまでなら何でも乗るし、縦横の切替も一発だ。潰しが利くという点では、意外にありそうでなかったジンバル、と言えるだろう。