小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1064回
Ronin史上最小ジンバル「DJI RS 3 MINI」。手が届く“プロ機”
2023年1月25日 08:00
手が届く「プロ機」
デジタルカメラが搭載できるジンバルとして、シングルハンドルのモデルが登場したのは、2014年前後だったろうと思われる。当時は1式10万円ぐらいが相場で、プロでもおおいに注目されていたが、使いどころが限られるとして、多くの場合はレンタル会社から借りて使っていたものだった。
そんな中、DJIがドローンで培ったジンバル技術を使い、カメラ付きジンバル「DJI OSMO」を発売した。ここからスマホ用ジンバルや、超小型カメラのDJI Pocketなどを次々と製品化。“ジンバル”は幅広い層に認知された。
一方プロフェッショナル向けとして、DJIはRoninシリーズを早くから展開してきた。ハイエンドのRonin 2は映画撮影などで使われる大型機だが、ワンハンドルモデルを多数展開しており、現行モデルだけでもRonin-SC、RS 2、RSC 2、RS 3、RS 3 Proと5モデルもある。
従来機はフルサイズ機の積載が耐えられるよう、積載量が2~4.5kgとなっているが、どうしてもジンバル自体の重量も重くなる。一方昨今では、ライトな撮影ではAPS-Cやマイクロフォーサーズのようなフルサイズ以下のカメラも多用されるようになり、ジンバルも小型・軽量化が求められているところだ。
DJIではこうしたニーズに対応する新モデル「RS 3 MINI」を1月10日に発表。公式サイトではすでに1月26日より発送として、販売が始まっている。価格は本体のみで51,480円、DJI Micを同梱したクリエイターコンボが101,200円となっている。
RS 3 Proと比較して体積比で半分、重量も半分になり、軽量なカメラを操作感良く使用できる。今回はいち早く実機をお借りすることができた。縦撮りにも対応できるDJIの最新ジンバルを、さっそくテストしてみよう。
スマホジンバル並みの手軽さ
Roninシリーズとしては最小・最軽量となる本機だが、重量に関しては多少説明が必要だろう。ミラーレス向けのシングルハンドジンバルは、チルト方向のモーターからL字型のアームが伸びており、カメラはL字の下辺部に乗っかる格好で固定される。
RS 3 MINIも構造としては同じだが、カメラの縦撮りに対応するため、このL字型の下辺が取り外せるようになっている。そののち、残ったL字の縦辺にカメラマウントを取り付けることで、カメラを縦型に固定できるという仕組みだ。
したがって横向き撮影の場合はL字下辺のアーム部が付くので、総重量850g。縦向き撮影の場合はこのアームが1本少なくなるので、総重量795gというわけである。オプションパーツを追加して縦撮りに対応するのではなく、逆にパーツを外して対応するというのが、なるほど知恵を使ったなと感心する。
ジンバルとしての積載量は、0.4~2kg。軽いレンズを使えば、フルサイズミラーレスも搭載可能だ。可動範囲は、パン 360度、チルト -110度~ +210度、 ロール -95度 ~ +240度となる。バッテリーは固定内蔵で、動作時間は約10時間。充電時間は約2時間半となっている。
背面には1.4インチのタッチスクリーンがあり、設定操作の大半は本体だけで可能だ。画面を上から下にスワイプするとBluetoothペアリングやジンバルの設定画面、下から上にスワイプするとジョイスティックやダイヤルの設定画面にアクセスできる。
ジンバル操作はジョイスティック、録画ボタンのほか、3つの設定を切り替えるMボタンを備えている。前方にはセンターリセットなどで使えるトリガーボタンと、フォーカス、ISO、絞り、シャッタースピードが調整できるホイールがある。
ジンバルからカメラをコントロールするには、ジンバルとカメラを何らかの方法で接続する必要がある。これにはBluetoothと有線(USB-TypeC)の2種類の方法が選択できる。それぞれでできることが違っているので、用途に応じて選択することになる。
パラメータ | Bluetooth | USB |
シャッター | ○ | ○ |
REC | ○ | ○ |
AFトリガー | ○ | ○ |
MF | × | ○ |
Zoom | ○ | × |
絞り | × | ○ |
シャッタースピード | × | ○ |
ISO | × | ○ |
大まかにはUSBのほうができることが多いが、ズームはBluetoothでしかできない。ただこのズームもソニー「ZV-E10」でテストしたところ、かなりカクカクにしかズームできなかった。回転角をどれぐらいの頻度でやり取りできるかの問題かと思うが、接続するカメラによる部分も大きいのかもしれない。
バランス調整などの際にはジンバルを固定する必要があるため、製品には三脚兼用の延長グリップも付属している。小型ゆえにグリップ部が短いので、両手持ちすることも考えれば、もうずっと付けっぱなしでもいいだろう。
通常撮影と遜色ない縦撮り
縦撮りの機構をもう少し詳しく見ておこう。今回のRS 3 MINIでは、カメラマウント部が二重構造になっている。カメラの着脱はカメラ直下のシューを縦方向に抜くわけだが、縦撮りに変更する場合は、1段目をくっつけたまま、2段目のシューを横方向に抜く。その後、L字型の底部のアームを外し、L字の縦線に2段目のシューを差し込むという段取りである。
2段目のシューを外すんですよ、という目印として、2段目の固定レバーだけ赤になっている。久しぶりに使うとどこを外すのか忘れてしまっていることも多いので、こうした細かい配慮はありがたい。
どちらの撮り方でもきちんとバランス調整すれば、3軸ジンバルであることには変わりない。今回は「パンフォロー(水平維持)」モードでテストしてみたが、ジンバルとしての補正力などには、違いは見られなかった。昨今はスマートフォン用コンテンツとして縦撮り動画の制作も珍しくなくなってきており、動画カメラを縦に固定する方法が強く求められているところだ。RS 3 MINIは小型・軽量というより、むしろこの縦撮り固定機能が一番のウリになるのではないだろうか。
一方で弱点もある。縦撮りに設定すると、モニター横出し型カメラの場合、セルフィー撮影時にモニターを開く事ができない。今回はたまたま装着していたNDフィルターに顔が綺麗に反射していたので、それを頼りに撮影した。縦でセルフィー撮りしたい方は、何かこうしたレンズフィルターを使う自撮り方法を開拓する必要がありそうだ。
多彩なコントロールも可能
RS 3 MINIは設定アプリとして、スマホ用の「DJI Ronin」アプリが対応する。バランステストやモーターチューンといった機能が使えるわけだが、「作成」機能としてジンバルを自動で動かす機能も提供されている。
これを利用するには、ジンバルとカメラをUSB接続し、カメラ側はUSBからのコントロールを受け付けるように設定する必要がある。今回はZV-E10を使用したが、カメラ設定の「ネットワーク1」-「PCリモート機能」で「PCリモート」を「入」に、「PCリモート接続方式」を「USB」に設定する。「USBケーブルを認識できません」というアラートが出ているが、問題なく使用できる。恐らくUSB接続先が何らかのステータスを返さないとアラートが消えないのだろうが、動作はする。
「作成」機能では、6つの機能をサポートしている。「仮想ジョイスティック」は、スマホ画面上のジョイスティックでジンバルを操作できる機能だ。手が届かない場所にジンバルを固定した際に使用できるが、撮影画面が手元のスマホで確認できるわけではないので、そこは別途カメラ側の機能に頼るしかない。
「Force Mobile」も、カメラリモート機能の一種だ。こちらはジョイスティックではなく、スマートフォンのジャイロセンサーを使ってジンバルをコントロールできる。ジョイスティックよりも直感的に操作できるほか、上下左右だけでなくローテーション方向のコントロールも同時にできるのがポイントだろう。
「パノラマ」は、ジンバルを自動的に動かしてパノラマ写真のソースを撮影してくれる機能だ。レンズの焦点距離を設定すると、撮影範囲に応じて必要な枚数を算出してくれる。ただパノラマのステッチングまでやってくれるわけではないので、それは別途Photoshop等で行なう必要がある。
タイムラプスは、ジンバルを低速で動かしてタイムラプス撮影する機能だ。カメラ自身では動画ファイルに対してタイムラプス撮影できる機能を持っているケースもあるが、こちらは静止画の連番を撮影する事になる。
「トラック」は、一定時間のうちに特定のアングルへ回転するようにプログラムできる機能だ。何度も同じテイクを撮影するのに便利である。
ゲームコントローラは、ゲーム機のコントローラを使ってジンバルを操作する機能だが、手元にゲームコントローラがないので今回はテストしていない。
こうした機能は、いわゆるスマホジンバルでは実装されてきたが、普通のカメラに対しても同じような機能が使えるのは助かるケースが多いだろう。
総論
RS 3シリーズの中では最も小型で、低価格なのが本機である。搭載重量は下がったが、2kgまでと考えれば、多くのカメラは乗るだろう。ただ望遠レンズは長玉になるほど重くなるのと、ズームすると重量バランスが変わっていくため、2kg以内でもモーターが耐えられない場合も出てくる。この場合は、もっと大型のジンバルを選択する事になる。
本機は重量が1kg以下なので、軽いカメラを乗せて機動力を活かす使い方にメリットがある。APS-Cやマイクロフォーサーズはレンズも軽量なので、より活用範囲が広いはずだ。
もう1つのメリットは、言うまでもなくオプションなしで縦撮りに対応した事である。構造上、モニター横出しのカメラはセルフィー撮りができないという弱点はあるが、コンパクトデジカメ系でモニターを上に跳ね上げるタイプであれば、セルフィー撮りも可能だ。
RS 3やRS 3 Proではサイズ的にも価格的にも無理というユーザーには、ちょうどいい選択肢が登場した事になる。価格が5万円を切れば大注目だったのだが、この円安の中ではいたしかたないところである。
いずれにしてもカメラジンバルは、カメラアクセサリの中では価格的にこなれており、かつ撮影バリエーションが大きく拡がるガジェットだ。デジタルカメラで動画撮影する人は、なにか1つは持っておいて損はないだろう。