小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1100回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

小さな積み上げ大きな成長、DJI「Osmo Pocket 3」

3年ぶりの新モデル「DJI Osmo Pocket 3」

3年ぶりのPocket

国内で買えるドローンとしてはもはやDJI一択の感があるが、小型カメラの分野でもActionシリーズが完成度を高めており、大きくシェアを伸ばしているところだ。一方でジンバル付き小型カメラというジャンルを切り開いたのもまたDJIである。

2018年に初代「Osmo Pocket」、2020年に「DJI Pocket 2」、そして今年10月25日、「DJI Osmo Pocket 3」の発売となった。

初代、2世代目とも、スマホとダイレクト接続することで多くの機能が使えるカメラだったが、3では回転式の大型ディスプレイを備え、スタンドアロン色を強めたモデルとなっている。

価格は本体にUSBケーブルなどがセットになった「Osmo Pocket 3」が74,800円、トランスミッターやウィンドスクリーン、バッテリーハンドルなど多くのアクセサリーがセットになった「Osmo Pocket 3 クリエイターコンボ」が96,800円となっている。

今回はクリエイターコンボをお借りできた。毎年大量の新作をリリースして来るDJIの、3年ぶりの新作をテストしてみよう。

縦撮りにも対応したカメラ部

まずカメラ本体だが、電源オフ時はシンプルなスティック状で、ジンバルはマグネットで軽く固定される。レンズは支柱部向きで格納されるので、運搬時にレンズがむき出しになることはない。

電源オフ時はジンバルが格納される

カメラ起動は、録画ボタンを長押しするほか、ディスプレイ部を90度ローテーションさせることで起動するよう設定できる。この場合、ディスプレイ部を元に戻すことで電源オフにも設定できる。元に戻してもすぐに電源が切れるわけではなく、2秒などの待機時間が設定できるため、縦撮りのためにディスプレイを縦にする場合でも対応できる。

ディスプレイを回転させると起動
左側にMicroSDカードスロット
ジョイスティックが標準装備となった
底部にUSB-C端子

従来機ではディスプレイも細長いボディ内に埋まっていたので非常に小さく、小さい被写体だと確認が難しかった。だが今回は2インチ・566×314ドットのディスプレイとなったので、本体ディスプレイのみで構図まで確認できる。

刷新されたカメラ部は、1インチCMOSセンサーを搭載。ISO感度は50~6400で、低照度モード時のみ50~16000となる。画素数は公開されていないが、静止画で3,840×2,160(16:9)と3,072×3,072(1:1)が撮影できることから、少なくとも3,840×3,072(5:4)の画素数を持つ。アスペクト比から考えると、恐らく4,096×3,072(4:3)が撮影できるサイズのセンサーが内蔵されているものと推測される。

1インチセンサー搭載のカメラ部

レンズスペックとしては、焦点距離20mm(35mm換算)・F2.0の単焦点広角レンズで、最短撮影距離は20cm。さらにクリエイターコンボには、マグネットで装着できる広角レンズ、いわゆる「ワイコン」が付属する。

マグネットでくっつく広角レンズ

撮影モードは「写真」「パノラマ」「動画」「低照度」「スローモーション」「モーションラプス」の6つ。

「モーションラプス」内には、「ハイパーラプス」「タイムラプス」「モーションラプス」の3モードが格納されている。スマホアプリ「DJI MIMO」と連携する使うと、「ライブ配信」モードも使用できる。「動画」での撮影モードは以下の通り。

モードアスペクト比解像度フレームレートデジタルズーム
4K16:93,840×2,16024、25、30、
48、50、60
2倍
2.7K16:92,688×1,5123倍
1080p16:91,920×1,0804倍
3K1:13,072×3,0722倍
2160p1:12,160×2,1603倍
1080p1:11,080×1,0804倍
3K9:161,728×3,0722倍
2.7K9:161,512×2,6883倍
1080p9:161,080×1,9204倍
4K60pでの標準画角
デジタルズーム2倍
付属ワイコン使用時

付属の「Osmo Pocket 3 ハンドル」は、短いボディを延長するデバイスで、本体底部のUSBポートに接続し、両サイドのツメでロックされる。背面ボタンを押すとツメが開き、ロック解除されるという仕組みだ。底部には三脚用ネジ穴がある。またUSB-Cポートが前面にあるため、三脚に実装したまま充電もできる。

左が「Osmo Pocket 3 ハンドル」、右が「Osmo Pocket 3 バッテリーハンドル」

「Osmo Pocket 3 バッテリーハンドル」は、構造的には上記ハンドルと同じだが、内部に拡張バッテリーを内蔵している。これを装着時は、バッテリーハンドルから先に電力が消費され、なくなるとカメラ側バッテリーが消費される。同じく底部に三脚穴、前方にUSB-Cポートがある。

バッテリーハンドルを装着すると、三脚に立てられる

「DJI Mic 2 トランスミッター」は、フロントパネルがスケルトン仕様になったワイヤレスマイク。レシーバはカメラ側に内蔵されており、ペアリング済みなのですぐに使用できる。単体のDJI Micはスケルトン仕様ではないので、この付属品が初のスケルトンタイプとなる。ウインドスクリーンも付属する。

スケルトン仕様のDJI Mic 2 トランスミッター
ウィンドスクリーンも装着できる

本体操作だけで完結できる

まず動画の撮影から見ていこう。ジンバル動作モードとしては、水平維持のみ行なう「フォロー」、水平・上下角を維持する「チルトロック」、動き全般をフォローする「FPV」の3つがある。またジンバルの追従性についても、低速、デフォルト、高速の3モードがある。用途に合わせてこれらを組み合わせ、撮影することになる。

今回からジョイスティックが標準装備となったが、この動きは若干特殊だ。左右に倒すとジンバルが左右に動くが、「動画」と「写真」の2モードだけはデジタルズームが使える関係で、ジョイスティックの上下がデジタルズーム操作となる。それ以外のモードでは、ジョイスティックの上下がジンバルの上下となる。

このため、上下角で動かしたい場合は本体ごと傾ける必要があるが、「チルトロック」だと上下角が動かないので、それ以外のモードに切り替える必要がある。以前より頻繁にジンバル動作モードを切り替えることになりそうだ。ジョイスティックで滑らかにズームできるのはメリットがある一方で、デジタルズームは使わないという人にとっては上下動作でジンバルを動かしたかったという声もあるだろう。

今回は先にサンプルをご覧いただくが、スロー・低照度モードを除いて、すべて4K60pで撮影している。全カット手持ちでの撮影だ。前半海のショットはノーマル撮影、森のシーンはD-Log M撮影、夜のシーンは「低照度」で撮影している。

4Kで撮影した動画サンプル

歩きのシーンは多少上下に揺れる歩行感があるものの、映像的には見苦しさはない。一方フィックスの安定度はかなり高く、広めの構図では三脚に付けているのと遜色ない安定度である。

D-Log M撮影では、ディスプレイ表示にLUTが当てられないため、撮影時がちょっと見えづらい。すでに公式サイトではPocket 3用のLUTが提供されており、今回はこれでRec.709へ変換している。あいにく曇天であったため低コントラストではあるが、ポテンシャルはお分かり頂けるのではないかと思う。

カラーモードではD-Log Mも選択できる

「低照度」では、4Kで撮影できるものの、フレームレートは最高30pとなる。またカラーモードでHLGやD-Log Mは使えず、ノーマルモードのみとなる。現場は足もとも見えない程度の暗闇だが、SN的にはまずまず、と言ったところ。人物撮影では、小型LEDライト1灯あればかなり良好に撮影できるだろう。

「動画」モードでは撮影ファンクションとして、「自動顔認識」「ダイナミックフレーミング」「スピンショット」が使える。

顔認識して自動で追いかける「自動顔認識」

「自動顔認識」は音声テストのパートで使用しているので、そちらをご覧いただきたい。「ダイナミックフレーミング」は、フォーカスポイントを9つのエリアから選んで設定できる機能。メインの被写体が偏っており、奥行きが抜けているようなショットの際には役に立つ。センサーが1インチなので、それなりに背景もボケるため、導入されたのだろう。

フォーカススポットが指定できる「ダイナミックフレーミング」
ダイナミックフレーミングで撮影

「スピンショット」は、ジョイスティックのセンター押しでジンバルがZ軸回転する機能だ。90度と180度の2パターンが選択できる。

90度と180度で回転できる「スピンショット」
「スピンショット」で撮影したサンプル

旧モデルではスマートフォンと直結する事が前提だったので、スマホアプリ上でしか使えない機能も多かったが、今回はそうした縛りもなく、多くの機能が本体だけで利用できる。ディスプレイを大型化したことで、UI的にも完全スタンドアロン機になった、という事だろう。

多彩な撮影をサポート

Pocket 3の特徴としては、縦撮りのサポートがある。Pocket 2の2020年頃はまだそれほど縦撮りを意識した作りにはなっていなかったが、もはやスマホ動画の主戦場は「縦」という事だろう。

2022年発売のドローン「DJI Mini 3 Pro」では、ジンバルを使ってカメラを縦方向に90度回転し、ドローンながら縦撮りをサポートした。一方Pocket 3の縦撮りは、カメラは水平を維持したまま、左右クロップで縦撮りをサポートする。従って縦の最高解像度は4Kではなく、3Kとなる。

今回はディスプレイが回転できるので、縦撮りの場合はディスプレイも縦にすることで、大きく確認できるのがポイントだ。

縦撮りでのサンプル

なお、縦で4K撮影したい場合は、多少強引だが本体ごと横倒しにするという方法で撮影できる。ジンバルモードで「自動回転」というのがあり、カメラを横倒しにすると、ジンバルが垂直方向で自動固定される。

「自動回転」モードでの動作

スロー撮影では、4K120p撮影をサポート。30p再生で4倍スローとなる。画質も解像度も保ったままで、なまじフルサイズセンサーよりも良好な画質を叩き出している。これでジンバルによる安定撮影までできるわけだから、スロー撮影機としてもかなりのポテンシャルが見込める。

4Kでのスロー撮影

「モーションラプス」は、いわゆるコマ撮りをしながらジンバルを動かしていく撮影方法だが、単純な右旋回、左旋回だけでなく、最高4点までポイントを決めてそこを経由する格好でコマ撮りできるようになった。スマホアプリのサポートなしで、本体のみで設定できるところも強みだ。

最高4点までウェイポイントが指定できる「モーションラプス」(画像は3点指定時)
「モーションラプス」で3点を設定して撮影

Vlogでの利用を想定し、音声収録もかなり大きく進化したポイントだ。マイクは本体に4箇所あり、指向性が「前方」「前方&後方」「全方向」に変えられる。対面での撮影に特化した「前方&後方」は、周囲がうるさい展示会などでのインタビューや取材などにかなり使いやすいだろう。一方セルフィで撮影する場合は、ディスプレイ面を見ながら撮影するはずなので、「後方」モードもあるとなお良かった。

3つのマイクモードをテスト

音声収録のもう1つのポイントは、ワイヤレスマイクである。2020年のPocket 2にもワイヤレスマイクが付属していたが、これを強化して2021年には「DJI Mic」として単品販売された。DJI Micは伝送距離が250mもあり、コンシューマ機の中ではずば抜けているが、Pocket 3のマイクはどうだろうか。

ワイヤレスマイクの伝送距離をテスト

実験したところ、80mまでは伝送確認できたが、100mでは集音されなかった。だがそこは良くしたもので、ワイヤレスマイクとペアリングした状態でカメラを録画すると、マイク内でも独自に音声録音がスタートしている。ワイヤレスで伝送できなければ、マイク内の音声を取りだして使えばいいだけの話である。音声収録に関しては、アクションカムはもちろん、Vlog系のデジタルカメラと同等か、それ以上のクオリティで集音できる。

総論

Vlogや縦動画の台頭により、DJI Pocketもバージョン3では時代に合わせた対応が行なわれた。ただそれは急に方針変更したわけではなく、多くの機能はこれまでのDJI製品で培われた技術によるものだ。

縦撮りのノウハウは「DJI Mini 3 Pro」から、バッテリーモジュール拡張のアイデアは「DJI Action 2」から、モーションラプスのノウハウはスマホジンバル「Osmo Mobile」の技術を持ち込んだものだろう。また、なんちゃってHDRを卒業し、D-Log M撮影をサポートした点も新しい。

音声収録機能も大幅に向上し、本体だけでも風切り低減して指向性も変えられるほか、クリエイターコンボではワイヤレスマイクも付属する。なおワイヤレスマイクは最大2台まで接続できるようだが、今後ワイヤレスマイク単品の発売があるのかはまだ未定である。

派手なアクションを撮影するようなものではなく、落ち着いてトークを撮るといった用途にちょうどいいカメラが登場した。まさにスマホでは代用できないポジションにあるカメラである。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。