小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1114回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

省スペースで手軽に2カメ配信! クリエイティブ「Project Watcher」

デュアルカメラシステム「Creative Project Watcher」

マルチカメラ当然の時代へ

コロナ禍に急速な普及を見せたウェビナーやリモート会議といった手法は、すでに当たり前のように使われるようになり、実際に会える場合でもオンラインかオフラインかが選べるようになってきている。筆者は東京から遠く離れて暮らしているので、多くのミーティングがオンラインになったことは非常にありがたく感じているところだ。

製品の説明などもオンラインで対応して頂くケースが多いわけだが、説明者のカメラとPPT資料、そして実機と、3ソースぐらいを扱うケースも出てきた。カメラとPC画面はミーティングソフトで切り替えられるが、カメラ2台を切り替えるのはなかなか大変で、WEBカメラ2台の切替なんてどうやればできるのかわからないというビジネスマンも多い事だろう。

そんなニーズに答える製品が、Creativeの「Project Watcher」である。コンシューマというよりは法人を意識しているようで、公式サイトでは法人向けに評価機貸出サービスも実施している。

簡単なリモコン操作だけで、リモート会議やウェビナーで2カメが使えるようになるというこの製品、価格は公式サイトで47,800円となっている。どんな製品なのか、早速使ってみよう。

基本はWEBカメラ

Project Watcherの中身は、カメラ01と02で構成される。01の方が若干大型で、こちら側がある意味親機になる。

製品には2台のカメラが同梱

まず01カメラのほうから見ていこう。ソニー製の4K CMOSセンサーを搭載しており、等倍、1.3倍、1.5倍、2倍のプリセットズームを備える。画角は35mm換算で22mm~45mmという事になる。絞りはF2.4で固定。

01カメラ正面

そのほか無指向性のMEMSマイクを搭載している。こちらが話者を撮影するカメラという事になる。ここまでは普通のWEBカメラだが、背面にはPC接続用のUSB-C端子のほか、カメラ02を接続するためにもう1つ端子が付いている。

背面に2つの端子
01をスルーする形で02へ接続

カメラ02側のスペックとしては、センサーは同等で、レンズは2.75倍までのバリアブル光学ズームレンズが搭載されている。画角は35mm換算で20mm~55mm。こちらはカメラ前1cmまでのマクロ撮影にも対応する、いわゆる手元やブツ撮り用のカメラとなる。

02カメラは光学ズームレンズを搭載

02カメラの映像はカメラ01に送られ、中でプロセッシングされて1本のWEBカメラとして出力される。言うなればカメラ01の中にスイッチャーが入っているようなものである。スイッチング機能は、付属のリモコンで操作できる。リモコン受光部はカメラ01側にある。各カメラはレンズの上部に小型のタリーランプがあり、オンラインになっているカメラ側が光るようになっている。

映像出力としては、最大解像度は4Kだが、4Kが受けられるかは使用するソフトやPCの性能による。また2つのカメラ映像を同時に使用する場合は、フルHD出力となる。フレームレートは30fpsだ。

専用ソフトなどは特になく、一般的なWEBカメラ同様、USB Video ClassおよびUSB Audio Classで動作する。ZoomやOBS Studioなどのリモート会議用ソフトウェアなら、カメラとマイクの入力を選択するだけでそのまま利用できる。

操作はリモコンのみ

そのほか付属品としては、PC接続用USB-Cケーブル、カメラ同士を繋ぐリンクケーブル、台座付きカメラスタンド、フレキシブルアーム、USB-C to Aの変換アダプタがある。

簡単に2画面合成できる

では実際に使ってみよう。今回はM2版MacBook ProにUSB接続し、Zoomのカメラおよびマイクという形で使ってみた。一般にリモート会議でよくある設定というわけである。

01で人物、02で手元を撮影

まずカメラ01の人物用カメラだが、明るさを3段階で設定できる。今回は外光が強かったので、カーテンを閉めて正面からLED照明を2灯使っているが、標準設定ではかなり暗い。恐らく晴天の屋外を標準に設定しているのかもしれない。室内撮影では2段目か3段目ぐらいでいいようだ。

明るさの切替は3段階

フォーカスは特になく、おそらくパンフォーカスだと思われるが、F2.4の割には被写界深度が深く、背景までほぼ全域が写る。センサーサイズが1/2.8インチと小さいからだろう。

カメラは4段階でズームできるが、デジタルズームである。したがって2倍となればそれなりに画質は荒れてくるが、人物側の画質の荒れはそれほど気にならない。ズームなしの等倍では画角が88度あるので、1mほど離れれば3人ぐらいはギリギリ写る画角となる。マイクも内蔵されているので、あまり遠くから狙うわけにも行かない。

画角はプリセットで4段階

内蔵マイクはレンズ上の小穴だが、感度は悪くない。ただMEMSマイクなので、ダイナミックマイクよりは音質は劣る。まあコミュニケーションには問題ないだろう。マイク入力レベルがオートで調整されるZoomなどでは特に設定はないが、OBS Studioなどのように入力ゲインの調整が必要なソフトでは、+12dBほどのブーストが必要だった。出力は小さいようだ。

カメラ02のほうにも明るさ設定があり、同じく3段階で調整できる。光学ズームにより2倍まで寄れるが、ズーム中はフォーカスがズレるので、ズーム動作そのものを見せるというよりは、いい具合に画角が調整できると思った方がいいだろう。光学ズームが落ち着くとAFによりフォーカスが合うが、マクロなどフォーカスが合いにくい場合は、リモコンにAFボタンで再調整するという流れだ。

カメラ02も明るさが3段階で調整可能

また180度画面をひっくり返すボタンもある。例えば正面から手元を上から写している場合、映像的には上下逆に写る。それを補正する機能だ。

カメラを切り替えるには、リモコンの01と02のボタンを押す。また2つのカメラを合成する「デュアルカメラモード」も使用できる。PinPボタンを押すと、2つの映像がPinPで表される。入れ替えボタンを押せば、親画面と小画面を逆にできる。小画面のサイズは2段階で、位置は8箇所のプリセットから選択できる。

そのほか、2画面分割モードもある。初期設定はそれぞれが16:9のままで左右の振り分けとなるが、もう一度ボタンを押すと、画面一杯まで拡大される。これはデジタル拡大ではなく、元々のサイズになったというだけだ。むしろデフォルトの左右振り分け画面が縮小処理されているわけである。

PinP表示もできる
2画面表示もある

これらの画面の状態は、3つのプリセットボタンに記憶できる。プリセットしたい状態の画面を作ったら、記憶させたいボタンを長押しするとプリセットされる。画面の明るさやズーム倍率なども記憶されるので、あとから明るさなどを調整した場合は、もう一度ボタンに覚えさせる必要がある。

実際にこれで収録してみたが、セッティングは普通にWEBカメラを1つ繋ぐのと変わらないので、非常に楽である。ただ明るさが3段階である意味固定なので、微妙な調整というのはわりとままならない感じではある。

Zoomで使用してみた例

画質的には、レンズは違うもののセンサーが同じなので、どちらのカメラも同じ画質である。ホワイトバランスの設定はなく、オートではあるのだが、同じ照明下で撮影すれば大きく色がズレることもない。

何か手元のものを説明する際には、手間要らずである。あるいはホワイトボードのような説明書きを見せたいという場合にも便利だ。ジンバル付きカメラで、見せたい方向に回転するみたいなWEBカメラもあるが、2カメ同時に見せられるというのはシンプルでわかりやすいソリューションである。

また両カメラともかなりワイドなので、1箇所に数人集まって、向かい合って座っているみたいなケースでも、それぞれにカメラを向ければ多くの人が同時に顔を見せる事ができる。マイクは無指向性なので、後ろからでも普通に集音できる。これもジンバルカメラにはできなかった方法である。

前後の同時撮影も可能

総論

Project Watcherという、およそWEBカメラとは思えないネーミングの製品だが、スイッチャーなどのハードウェア不要で2カメのコントロールを可能にした、ユニークな製品である。

とにかく2台繋いであとはリモコンで操作するだけなので、結線が少なく、セットアップは圧倒的に早い。カメラの固定方法さえ覚えれば、こうしたものが苦手な人でもすぐ使えるというのがメリットだ。

カメラとしては若干暗めにチューニングしてあるのが気になるところだが、明るいオフィスや会議室で使用するなら支障はないだろう。画質的には、ノートPC内蔵カメラと同じぐらいかと思う。

ただカメラ02のほうには光学ズームもあり、AFもあるので、小さいブツ撮りなどもできるのがメリットだ。組み込みデバイスやチップのプレゼンをしたいみたいな場合でも、指先に乗るぐらいのものまで撮影できるのは強い。

おそらくB2Bを意識した製品なのだろうが、価格が意外に安いのも特徴だ。付属のスタンドはパンやチルトなどの動きができないので、簡易ビデオ三脚みたいなものと併用した方が使い勝手がいいかもしれない。

これまでリモートプレゼンで、1台のカメラでなんとか工夫して人も物もと頑張ってきた人は、こうした製品を使ってみると仕事も楽になるだろう。カメラに詳しくない人達のためのカメラ、と言えそうだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。